2021/02/09 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2/図書館」に影時さんが現れました。
■影時 > ――冒険者であろうとも、そして忍者であろうとも。
此れから赴かんと欲する場所を知らずして、向かおうとすることは叶わない。
それは明かりもなく、盲目のままであるということと全く同義だ。
狙いもつけずに弓を撃って、ろくに的に当たる訳がないのと同じように、まずは狙いをつけるための算段が必要である。
まずは、そう。情報だ。
「偶に使う場所とはいえ、こういう風に使うとは思ってもなかったなあ」
……と。どこが慨嘆めいた響きを伴って、嘯く姿が一つ、ある。
夜の平民街区、所々に灯る街灯が宿す鬼火めいた明かりを受けて立つのは、上背のある男の姿だ。
その姿は普段着として着慣れた羽織袴とは違う。
茶色い長ズボンにブーツ、白い短衣に枯草色の着古した風情のコートといういでたちだ。
流れ者も多い冒険者となれば、主な街着として選んでいる装いも決して皆無ではないが、場所が場所だ。
所有物の中で諸事情により、手元に置いておきたい太刀を背負い紐付きの布包みに入れて携え、背にする建物を確かめる。
煉瓦造りの基礎に白い漆喰を塗った佇まいの大きな建物だ。学院や王城の規模には劣るが、市井に開かれた図書館である。
小さな貸本屋の類を上回る威容は、収蔵物を外に持ち出さないという前提で揃えられた書物の閲覧が許されている。
故に様々な調べものをしたい冒険者達には少なくない需要がある。
もっとも、浮浪者など身なりが整っていないものは門前払いを喰らう。そうでなくては安心して利用ができない。
そろそろ来るだろうか。左肩に担いだ布包みの太刀と肩下げの鞄の位置を直し、待ち人が至るのを待つ。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2/図書館」にフォンティーンさんが現れました。
■フォンティーン > 遠く空の月の具合を眺めて時を推し計る――
凡そ目的の時刻より少し早く着く見込みだが、先に待つと云った人物より先に着く事は恐らく無いだろう。
時の流転は往々にしてそうして巧く巡る物だから。
その少し早く着く見込みは無論、人工の建具の見分けが如何にもつかない森人の
感性に合わせた物だからこの街の住民であれば早く着きすぎて困る見込みでもあった。
「へいみんちくの――…」
字は読めるし地図も多少は読める。
其れが規則正しい立体に押し込められて仕舞うと如何も駄目だ。
中途簡単な地図を見て貰い口頭で行き先を指示して貰う為に、
気の好さそうである程度暇を見ていそうな露店商人2、3名に話しかけた結果、
携帯用の器に入れられた飲み物を片手に妙に余裕な風体で現れて仕舞う事になる。
「としょかん――…まっすぐいってさんぼんめひだり。
まっすぐいってさんぼんめの…どっちだ。」
呪文の様に平坦な声音で呟きつつ、風除けがあるという想定故
髪型だけ読書や書物探しの邪魔にならぬ程度に編んだ姿で人を探す。
探す――のだが、
以前目にした姿が相当に独自性のある姿であったものだから、
あと一つ言い訳をすると、夜分暗い店の中だった。
人の顔容をそう具に認められる筈がない。
――通り過ぎた。何なら質実な造りをした建物に目を奪われて普通に。
通り過ぎた後で視界の端に見覚えのある長物から二面思考で情報を洗い、
「あ」と気づいた様子で振り返ると小走りに数歩戻った。
癖の付いた髪が揺れる。
「――トキ、君な。其の恰好気付かないぞ。」
呼び名は聞いた時より多少の省略を以て呼び。
■影時 > ようは、街歩きに慣れて、なおかつ、調べものをするという習慣が強くあるかどうか。
結局のところ其れが問われるかもしれない。
冒険者ギルドで信用を勝ち取るまで、どんなに容易い仕事であったとしても選り好みせずに遣った。
それはなぜかと言えば、市井の状況を依頼という大義名分を以てよく知るためだ。
二階、三階建てなどの背の高い建物と建物を飛び移っているだけでは、知れもしない。
今いる場所の世間、世相を知るには同じ目の高さでなければ、見推してしまうものは多い。
何処ぞの何やらに潜入して、調べものをするよりは合法的に、余計な危険を避ける意味でも図書館というのは有意義だった。
故郷の大名や貴族等、個人レベルで保有しているものはあっても、斯様な開かれたものは中々ない。
少々気がかりなのは……。
「……あいつ、迷わず来れるのかね。駆け出しの風情にゃ見えなかったが……」
件の待ち人の様子だ。先日観た限りの立ち振る舞いは、イロハを知らない風情ではなかったが、街歩きはどうだろうか。
胸の前で腕組みつつ、周囲を見遣っていれば、――あ。
「……――通り過ぎちまったよ」
覚えのある風情の姿が己を見咎める以前の段階で、通り過ぎてしまった。
口元を「あ」の形に開いたまま数瞬考え、呼び止めに行こうかとしたところでようやく気付いたか。
布包みとはいえ、長さのあるものを肩の動きで揺らしつつ、響く其の名に目を瞬かせ。
「そーゆー呼び方、か。新鮮だなァ。……普段着のままだと偶に面倒があるんでな。合流できてよかったよ」
どうやら、呼び方は今ので落ち着いたらしい。まぁ良いがと頷き、会釈を一つ。
早速だが往くかと建物の扉の方に顎をしゃくり、歩き出そうか。
■フォンティーン > 一時万事集約すべき点の為にあるのだろう人物に対し、
此方大して籠るか決まった場所を行き来する程度にしか街に馴染まぬ身。
一度は盛大に目の前を横切っておきながら、相手の身に着けた装束の所為にした形で、
それでも暫くの格闘が終わり、目的地に着き、目当ての相手を見つける事が出来たなら大団円。
ほっとした感情の通りに面が緩む。否、未だ零地点に立った所だが。
一瞬マイナス側へと振った所だが。
振り返れば直ぐに視線が合う辺り、顔が強張った。
通り過ぎた所を見られていた確率が相当高い。
「……ん?嗚呼、書くには普通に書けるのだけどな。
何度か練習してみたが如何も一文字目から二文字目の所で伸びて仕舞う。
許可を取る前に呼んで仕舞ったが、許可をねだるつもりで来た。」
この順序が逆転した感じ、先日知り合った時を思い出して気まずく頸を傾ぎ。
今日の衣服の方が余程この街には馴染むのだろうがと、上から下まで具に眺め、
「普段着、普段着な。確かに普段は彼方だろうな。今日の姿だと、得物が本体のようだ。
……連れて来て貰えば良かったと、3回位思った。」
微妙な口を至極真顔で紡ぎつつ数歩走って距離を詰めると、隣に並んで歩きだし。
建物の中に踏み込む前に、つと吸い口を吸って冷えた果汁を腹に収めて仕舞った。
■影時 > 成る程。やはり活動、行動の範囲等もあるか。人間、どうにもこうにも己が知見の範囲でしか判断が難しい。
その場限りの仲間ということであれば、即席の徒党を組んで動くということはある。
弟子を伴っての活動で有れば、その動く範囲や傾向などをよくよく見る、見て監督するという機会は多い。
だが、斯様にして活動するということになるのであれば、また違った感慨を得ることができる。
向こうが振り返れば視線が合う。そして、何やら向こうの顔が強張ったように見える。
一瞬とはいえ見落とした、通り過ぎた事に気づかれているかどうかという処か。
残念ながら、と言わんばかりに肩を竦め、言外に想像通りであるということを態度で示そうか。
「ま、書くだけならな。呼ぶとなると……どうにもこうにも面倒、みてぇだ。俺の名前とは、な。
良いさ。其れが面倒が無ェってなら、其れで良い。
俺が嫌がるなら、それでも押し通すってツラしてンぞ?」
的外れな呼び方ではない。一応とはいえ、己が名の音の前半分の音は残している。嫌な響きの音ではない。
それにその口ぶりであれば、仮に己が嫌がったとしても通しそうな気がしなくもない。
そうなれば、善しと許可を出す方がきっと角は立つまい。
そのように思いつつ、向こうの言葉に改めて己が姿を見返そう。周囲に埋没することを狙い過ぎたか、と。
「こっちの得物だけはどうしても手元から離すワケにはいかなくてな。
次、逢引でもするなら善処する。同じ場所なら、二度も三度も迷うまい。ン?」
その飲み物も旨そうだなと啜る果汁めいた匂いに零しつつ、先導しよう。
扉を押し開き、進む。その先にあるのは静かな空間だ。
平民街区にあるのにはやや不釣り合いな華美ではなくとも、細工が凝らされた内装とはただの建物という感想を抱かせない。
屑籠は向こうにある、と入り口の隅に置かれた甕を示し、受付に用向きと利用者を告げる。
何度も利用していれば、閲覧手続きは直ぐに終わる。利用者の証となる割符を受け取り、奥に進もう。
その奥に聳える背の高い扉のノブを見れば、差込口が見える。其処に割符を差し込めば魔法仕掛けの扉が静かに開く。
■フォンティーン > このケースは余り有益な参考には為らないだろうが――局地的には当て嵌まるとだけ。
先日の一度で不安を持たせた事を聞けば、そちらの方が気づきとしては効果が大きかったかも。
視線と表情の攻防。如何に言い訳をしようとも、
知人を見逃した事は全面的に己の非だと理解しているからの強張り。
肩の語る結果には微かに眉根を歪めて謝罪の色を帯びた。
「其れも此方の綴りでなら、だ。元々は違う書き様があるのだろう?
面倒…と云うよりな。言い間違えたり本来の響きとは離れた言い方をしてしまったりな。
そういうのと、どちらが君に近しいのだろうと思う。
心外だな。――君が嫌な事をするものか。 偶にしか。」
至極明快な言葉を捉えて些細かもしれない違和感を語る。
小さな差異。隣を見て力強く否定を口にするものの、語尾に小さく例外を付けた。偶にはする。
「今の姿を見ていると、周囲に馴染むと結ばれることが『通常』ではないのだなと理解できる。
あと、今日の――は、己を消したいのかなという気もするな。…こんな場所でも、か?」
名前を呼ぶ代わりに視線で相手を指し示すと、改めて強調される得物へと視線を移し、
続く言葉には根拠無くうなずく事もできずに賢明なる無言を貫いて。
一口と少し分だけ、残る所で吸うのを止めると味見と相手へと押し付けた。
慣れた、――慣れて見せる一連の所作を背後から見遣り、学ばせて貰いつつ、
跡に続けば開けた扉の先に書架の杜。規則正しく聳え立つ本の塔に壁一面の文字の羅列。
古書独特の香りが、開けた新しい空気と入れ替わるべく押し寄せ、背後へと消えていった。
「これは――」
凄いな、と。陳腐な感想は口の中で。束の間地理も言語も頭から抜けて見惚れ。
■影時 > 謝罪めいた色を帯びだす顔(かんばせ)を認めれば、気にするなと顔を横に振る。
結果として、それ以上のことはなく合流は叶ったのだ。
己が独りだけで為すのは難しいと分かっていれば、余計にである。
「そりゃァな。書きようは大きく違うぞ。音を綴る文字じゃなく、意を書く文字なんでな。
だが、あれだ。何て音を詠みゃいいのか分からん音の羅列よりは、まだマシだと思うぞ。うん、マシだ。
偶に、な。……ま、偶にか。今のうちじゃ気にし過ぎても仕方ねぇか」
文字の概念と恐らくは成り立ちも違うだろう。そういうものについては言語学者や神学者の類に任せよう。
その手の調べものや古書を紐解くのは嫌いではないにしても、本題から離れてしまう。
文の遣り取りは幾つか交わしたが、偶にと言える程の何やらとはよく考えるまでもなく、まだ良く知らないのだ。
余程のことがなければ、目くじらは立てる必要は覚えない。
酒を呑んで忘れるような頭ではないが、続く言葉に、ああ、と頷いて。
「昔の生業の御蔭でな。こんな処でも――だ。胡乱がられる余所者丸出しの見目よりは、楽でいい」
普段着の組み合わせは太刀を入手してからであるが、表道具があれば敢えて奇を衒うことで本業から目を逸らす狙いがある。
いざ戦場に立つ、フィールドワークに出るならば袖を通す装いを普段着にしていては、色々と差し障りがある。
忍びなるものの概念がどれだけ流布、浸透していているかは分からないが、余分な注目というのは心理的に厭う。
押し付けられる風情の呑み物を受け取り、首を傾げて一口を啜り終えよう。
思ったより悪くはない。携行用の容器の色などから売り場を察しつつ、ご馳走様と屑籠に代わりに投じておこう。
「……――取り敢えず、地図、古地図帳の書架はこっちか」
何せ、本は水気を厭うからだ。開いた扉の向こうに進めば、直ぐに見えてくる大樹めいた書架の連なり。
それは神殿の天井を支える柱の連なりのようにも見えるかもしれない。
外に出せない、出さない前提で稀覯本めいた代物さえ混じっている。だが、いずれも市井に出してもよいと判じられた結果だが。
どうやら、圧倒されるものはあったらさしい。
見惚れるような有様の様相に笑って、こっちだと案内板を一瞥しては目的のエリアへと導こう。
其処には閲覧用の大机も並べられている。この時間となれば、使用者はほとんどいないらしい。
強い静寂の中、男の足音は――響かない。まるで影の如く至って、携えてきた鞄を降ろそう。先に渡しておくものがあるからだ。