2020/11/06 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にタピオカさんが現れました。
■タピオカ > 【継続待機となります】
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」に弾正さんが現れました。
■タピオカ > 「旅路が壁なんて!ひどく苦労したみたいだね。
続いていく道こそが旅だとは思わない?
道連れに居た人はどんな人だったのかな。どうやら、単なる友達や同僚っていう感じには聞こえないけど……。
……案外、お兄さんの許嫁だったり?」
彼の物言いから詳細は読めないし、そもそも彼の口は語っていない。
一行の詩にいくつもの年月や交友、軒下で酌み交わす酒や静かに寝静まる夕暮れが含まれている。
短い返事のうちに様々な光景が頭をかすめて語尾を上げ。
「それじゃあ、……自由の意味をよく知るまで外の世界を見てきたんだね。
でも……過去形なんだね?
今はそれほど自由じゃないのかな。……自分の脚で酒場を選ぶほどの自由、以外は」
相手の翡翠色が酒場には存在しえない遠景を望むのを見て、ふっと微笑む。
故郷の生活と重なる情景があったからだ。
けれど、自由が過去だったらしき形跡を言葉尻でとらえて。軽く首を傾げ。
「うん。そうだね。大きくて独特の文化のある。
少し前までシェンヤンから王都へたくさんのお嫁さんが来てたね。王城のまわりはずっと華やかで、富裕区は毎晩ほどパーティだったなあ。
――僕の故郷の高原は良いところだよ。お日様と共に暮す場所!人が手を入れる前の自然がずっと残ってる。戦争の火種からは離れてるし。
ひとりになって、自分がほんとは何がやりたいかわからない時にでも行くといいよ。
その逆に!……夜空の下で宴会がしたいなら、僕の一族が歓迎する!客人としてね!」
シェンヤンが王都への静かで平和的な無血入城を試みた降嫁騒ぎは半年ほど前か。
その頃相手が既に滞在していたかどうか。さておき。
自分の故郷の話となると、思い入れもあって弾む。
もし賑やかな出迎えが必要なら、と自分の一族に一報を入れて歓迎する用意もあると笑みかけ。
「律、……うーん。……難しい言葉だね。
その意味が……整える、ならす……。土をならすの、ならす、ね。……多すぎるものと少なすぎるもののバランスをとるってことなら……。
弾正は欲で行動することで、その。……いろんなでこぼこをきれいに並べ替えてるんじゃないかな……」
遊牧民出の冒険者は脳内で緊急会議を開いた。
剣と笛と踊り、他には自然の中で寝食を得る方法については専門家であっても
書物や学とは無縁だったのだ。数少ない有識者と言葉の断片をつなぎ合わせて、律の意味を解こうと試み。
「浄土……?首を跳ばされた……?
……そう。……そっか。……弾正は一度死んで、幸せの野に渡ったんだね。
でも、戻ってきた!おかえり!
そっかー。……だから、冬の夜に人が頭を上げてると刈り取っちゃうっていう、翡翠色のオーロラみたいな瞳をしてるんだね」
人は死ぬものだ。死んだら蘇りという概念からも切り離される。
しかし、そんな概念の外にも何かしら概念はある事は知っている。一度首をはねられた相手だって、そんな概念のどこかから現れたのだろう。
それがどれほどの価値があり、どれほどの奇跡であるか知らないが、死んだ事のある人とお話できるのは面白い事だ。
やがてカウンター上に乗せられた宝刀へ視界は好奇をもってじっと注がれる。
ジョッキや皿が載せられ続けて磨かれた木製のカウンターは、美術館の展示台となった。
「血を吸うよりも、見る人に希望を与えるような剣だね……!
――聞こえがいい……?ふふ!それって、どういう意味?
与えられたってことかな……。……弾正が成敗した極悪美術商が命のかわりに差し出した一品だったりして。
……それとも。弾正がかつて仕えた、正義に燃える集団の……。解散前の、リーダーから受け取った、忘れ形見?」
これほどの一品なら、彼と同様にくぐり抜けてきたものは多いだろう。
悪党や、あるいは善人の首を撥ねるにしては気高く見える剣の由来を、
絵本の続きをせがむ幼子のように瞳輝かせて浮かべる推測ふたつほど。
ひとつは俗世的に、もうひとつは戯曲的に。
■弾正 >
憤慨の言葉と見た。
余りにも自分に掛ける感情とは無縁の言葉にふ、と僅かに笑みが零れた。
「耳朶に響く音色は、随分と透き通っているな。
高原の草木を揺らし、木洩れ日を浴びて風情を運ぶそよ風だ。
……純心だなぁ、タピオカ。否、嫌いではないよ。まさに、風の民に相応しき心根だとも。」
彼女の奏でる声音とは、まさにそうだ。
或いは深くまで理解していないか、しようとしないか、見えないか。
ともすれば、弾正にとって其れは些事である。
翡翠の双眸が清流に任せるように、タピオカの眼へと向けられた。
"興味"。細い眸子は確かにその色を感じさせる。
然るに、其れは恐らく相手も同じ。
己に興味を持っているからこそ、根掘り葉掘りとじゃれてくる。
此の猫可愛がりは嫌いでは無く、弾正もまた相互理解を好む。
故に──────……。
「純一無雑、か……。」
まさにそうだ、と零した。
置かれた宝刀を一瞥すれば、僅かに口角が釣り上がる。
「殺した。」
喧騒の中で、其の声音は確かに聞こえるだろう。
翡翠の視線が、漆の鞘に落とされる。
「是はね、とある寺に飾られた名の在る宝刀。此の美しさに惹かれてね……。
持ち主に譲ってくれ、と言ったのだが……私は気が短くてね。殺して奪った。」
然もありなん、と弾正は語る。
友人に語り掛けるように、酒の肴程度の気軽さで、"悪意"が漏れていく。
其れは他でもない、己を"邪悪"と理解した上での言葉。
「此の刃だけでは無い。私は、私の世界でね。多くの物を"欲した"。
物、宝、人……数えきれない物を手中に収めた。"私なりのやり方"でね……。」
己の首元に、静かに触れる。
「失望したかね?生憎、君が思うような人間では無いのだ。
言っただろう?私も大層悪人であり、律とは程遠い人間だ、と。
……首を跳ばされるには、充分過ぎる理由があったのだよ。」
成すべきを成し、最後の最期で挫かれた。
其れを悪だと知り、あらゆる悪逆を己の欲界で贅に浸り尽くした。
"正義"を語るので在れば、其れは紛れもなく、己を殺した人物なのは間違いないだろう。
さて、とゆるりと視線がタピオカへと向けられる。
「タピオカ。私を如何見るのかな、君は?正義を執るに相応しきと今一度言えるのか……。
私の前に悉く立ちふさがった壁を、今一度"酷い"と言い切れるのかね?」
其処に居座るのは"底の見えぬ根闇"で在ろう。
然れど、始終の声音に悪意は無く、是も純粋な質問に他ならず。
即ち、弾正にとって"他愛ない問答"で在る。
少女は、目の前の男を如何様に見るか……────。
■タピオカ > 「そう言ってもらえて、……そうとってもらえて嬉しいな。
弾正は、この酒場に来る前は通りで詩でも売ってたの?
それとも……王立学校の司書でもしてた?
言葉遣いがとてもきれい」
ものを言っても表現しても、額縁におさまった絵みたいな。
色彩も体裁も整った言い回し。
そんな言い回しが歌うように自分を表現し、一介の田舎者を良くとってくれるのなら。
自然と青緑の瞳は細められるのだ。
台詞の源泉探ろうと、小首を傾げてみせ。
それはさて、では宝刀のほうはどうだろう。
どのような出自と手に手渡りがあって今は彼の腰にあったのか。
何やら物を思うか、それとも記憶の中を探り
それらのうちの何を見せようかと思案する気配。
寝物語をせがむ子供の顔で次の言葉を待ち。
「うん、そっか。
――っ、あははっ……!
そうなんだ。弾正は集めるのが大好きなんだね!」
殺した、とギロチンが落ちるように重い言葉の刃が落ちる。
遊牧民はその意味の残忍さとは真逆に、にこりと笑って頷く。
――そして、殺して奪ったと耳にすると笑い声すら弾ませ。
「そういう自分の欲に正直な人は好きだな。
欲って悪いものじゃないもの。それを叶えるのに、誰かを殺しちゃうぐらいの勢いはあると思うよ。
僕は弾正よりもあさはかだと思うけど……、本当の悪人は、自分のこと大悪人って言わない。
それに……、ふふふ……!首をはねられても潔いんだね!」
文明社会の基準でいえば彼は悪人だし、殺人者だし、強奪の罪で首をはねられるのも当然だろう。
でも、それが何だというのだろう?
生きて死ぬだけの、死体を持ち歩くちっぽけな魂が自分のしたいことに人生費やしたところで誰が責められよう。
むしろ曲者こそが、曲がり湾曲なきまっすぐな道を歩んでいるのではないだろうか。
「うん、律っていうのとは違う人だっていうのはわかったよ。
そこは勘違いしてたし、正義顔は似合わないと思った。
でも、弾正のそのやりかたはかっこいい。
それにー……。弾正の前に何か壁があるの?僕から見た弾正には壁は見えないよ。
一度死の壁はくぐり抜けた。生きてるものにとって、それ以上の壁ってあるの?」
多くの人が見えないものに両手両足しがみつかせて、
実体の無いこだわりのために苦労するように。
立ちふさがった壁という存在への認知を酷いと一蹴する。
己の欲で道徳に縛られない。人生の荒れ野を、逞しく満足させながら行く様に拍手でも贈りたい心地で翡翠、見上げ。
■弾正 >
「…………是は是は。いやはや、意外とも言うべきか。
多少は脅かす腹心算だったのだがね……君の強かさは、私の予を越えてくれるな。結構結構。」
是には目を丸くせざるを得なかった。
間違いなく、己の負けであろうよ。
如何やら思うより彼女は肝が据わっている。そう感じざるを得ない。
或いは、俯瞰的か。思えば、此の大陸と言うべきか。
斜陽の国では、この様な心持でなければ冒険者など出来よう筈も無い。
否、愉快だ。弾正は、堪え切れなかった。
「くっ……は、ははは……!」
低い笑い声が、喧騒に混じる。
実に、実に愉快だった。
「久方ぶりだな、斯様に笑ったのは……嗚呼、済まないね。
私が些か、君の事を侮っていた……いやはや、末恐ろしいとは此の事だな。」
未だ笑い種は腹底に根付いている。
とりあえず落ち着かせるように酒を煽り、小さく一息。
未だ肩は揺れている。余程、弾正は気に入ったようだ。
「そうさな、君の言う通りだ。私は元来より、人一倍強欲でね。
満たされぬ渇望を満たす為に、如何なる物でも収めんとしたさ。
……私の音色が心地良いので在れば、其の一環だ。」
ゆるりと視線を向け、双眸が細まる。
「確かに私は浅はかだ。斯様に、我慢弱い男だよ。
然れど、"獣"には慣れなくてね……学ぶ悦びを知っている。
文化、作法、言葉。己の国もかくも、此の"世界"でもね……。」
物欲のみ成らず、あらゆる欲を知っている。
故に、学ぶべき事を学び、嗜むべくして修める。
元々此の言葉も母国の物を、此方側に合わせたものだ。
カウンターに置かれた宝刀を手に取り、静かに腰へと差した。
ことり、と鉄と木の触れ合う音が僅かに空気に波紋を残す。
「然るに、だ。私の目の前に在る壁とすれば……そうだな。"心残りだ"。」
思い浮かべるように語り、懐かしむように首を撫でる。
刀傷の疼きを治めるような仕草にも見えるだろう。
「私の首を刎ねた男……。"雷神"、"天災"と誹られた英雄。
かつて、私の娘の許婚でも在り、隣人足り得る男では在ったが……彼は、私とは正反対の男でね、」
溜息交じりに、肩を竦める。
「実に、欠かれた男だったよ。全てを捨ててまで、私を討った。
敗れた者として、無様でいては失礼だからね。故に、憂いも覚えると言うもの。」
ある種の責務だ。全てを賭け、挑みし者。
そして、己は其れに敗れて死んだ。後悔は無い。
しかし、父として、人として、悪として、道を憂い、潔しとするだろう。
其れが、敗者である己の役割。弁える事を、弾正は知っている。
「……が、斯様な男を好むと言うかね。君は。
私が言うのも何だが……少しは審美眼を鍛え給えよ……。
私を宴にも呼んでしまったら、集落は焼け野原になってしまうかもしれないよ?」
何処となく、其の声音には呆れの色が含まれていた。
■タピオカ > 人のなす事は、人の自由だ。
ここで彼を非難する1手も、ここで彼を賛美する1手も。
そして相手が、自分の笑気に腹を立てる可能性もあった。
そして幸いなことに、自分と同じように笑い声をたてるとその影響は2乗になって。
カウンターの上でくすくす肩揺らすだけだったのが、軽く背を折り曲げるほどの。
そして胸を細く反らす笑い声になって。
酒精をあおる彼にあわせ、そして欲求のために人を殺めるその気概を称えるように。
ホットミルクの入った自分のグラスを小さく胸の前に掲げてから口つける。喉が潤う。
「集める事が趣味な人は、集めてもまた集めたくなるらしいね。
食べても食べても欲しくなる魔法のプリンみたいに。
いつか見てみたいな。……人の命よりも弾正にとって価値が重かった、コレクション。
――こんな事言ったら殺されちゃうかな?あは!」
蒐集家の道を歩んだことはない。
ただ、そういう人種は王都に来てから何度か見かける機会があった。
ずらりと邸宅の壁に並べられた、年代別の時計だとか。
どれも超一品、手入れも欠かされていないグレートソードだとか。
人間の手が2本しか無い事を忘れたように、あるいは2つしか目が無い事を忘れたように、
人の時間が一日に24時間しか無い事を忘れたように、ただ綺麗に並べられている。
人斬りにまで至った相手の収集品は、どんな輝きがあるだろう。あるいは背徳的な鈍い光が伴っているだろう。
興味をひかれつつ、蒐集家のルールにはもしかしたら「目にしたものは殺す」が含まれているかもしれない。
そんな事を戯れまじりに告げ、笑い。
「うん、なるほど。
弾正のなかでは、暴力の前に知恵があるんだね。
集めるものに、かたちがあるかどうかはこだわらないんだ。
弾正は、単なる博物館でも図書館でもないんだね。
……今晩は、僕の肌の色っていう新しい学びを……、提供できてたら良いかな!」
気ままな犯行には裏打ちがあるのだろう。
それ相応の。
利己的でありながらも、広く学びを忘れない姿勢も粋だ。奪った宝刀が似合う。
戯れが再び。
もしかしたら自分の隣を選んでくれたのは、このあたりでは珍しい肌の色のせいかもしれない。
新しい学びの機会を、もしかしたら与える事ができているのかもしれない。そんな戯れ寄りの希望。
「ああ、そっか……。それは壁らしい壁だね。
悪いことをして、娘さんのお婿さんに殺されたんだね。
そこにもやもやが残るってことは……。……そのお婿さんと、ずっと仲良くしたかったのかな。
コレクターしながらも、自分の家族にギスギスしたものを残したくなかったのかな。
……もしかして。弾正は手加減してわざとその英雄さんに殺された、とか」
ようやくしっくりときた、壁という表現に頷いた。
そこに心残りや憂いが含まれるとしたら、いくつか考えつく原因を浮かべる。
預言者が故郷では歓迎されないように、我道を行く蒐集家は家族に理解されなかったか。
だとしても件の英雄の行動は、当然でもある。
彼は自称悪人で、確かに悪行はした。
しかし、それらの人間関係はうまく噛み合わないとしては歯がゆすぎる。
何かしらの憂いの元をそのあたりに見出すが、さて。
「あは!大人しい田舎者たちばかりだと思った?
もし弾正が僕の故郷を焼こうとするのなら僕の一族が黙ってないよ。
客人でも容赦なく、蛭の詰まった木樽に手足を縛られて放り込んじゃうから。
背骨が曲がるまで、座る事も立つ事もできない狭い木の檻に閉じ込めちゃうかも。
お好みなら、人を食べちゃう蟻塚の中に一ヶ月ほど埋められてくると良いよ!」
呆れの色に、にっ、と子供の笑みを浮かべる。
それは子供らしい残酷さすら、引き連れていた。
自分に剣技を叩き込んだ一族はもちろん、自分よりも剣技にも体術にも、荒々しさにも長けている。
彼のふるまいは自由だけれど、それが自分たちに向けられたら容赦しないのも自由だ。
一族自慢の処刑方法を指折り数えてみせ。
「もちろん、弾正が邪な事をかんがえなければ盛大に歓迎するよ!
羊肉、馬肉、強いお酒に、乳粥、ヨーグルト!」
■弾正 >
「…………」
差し詰め其れは、まさしく風で在ろう。
草木を凪ぐ一風。そよ風。
成る程、"自由"とはよくぞ言ったものだ。
だが、恐らく是は怖いもの知らずも含まれている。
物を知らぬ草原の少女。無知故の大胆不敵。
「……ふ」
否、大変愉快だ。
「然り。満たされぬからこそ手を伸ばす。
今際迄、満たされる事は無かったがね……。いやはや、考え過ぎだとも。
其処迄器量が狭い男に見えるかね?見ようも奪うも、君の自由だ。
無論、奪うようで在れば……私も相応の報いを受けさせる心算だがね?」
故に、弾正もまた風通しは良いと豪語する。
己の蒐集物を如何様にでもすると良い。
己が欲望に従うように、其れが在るべき姿と信じている。
故に、其れを咎めようとはしない。唯、行動には相応の責任が伴うのみだ。
何気なく翳した手は、枯れ木のような指先にぼう、と僅かに火が灯った。
喧騒に揺れる、小さな小さな灯だ。
「未だ、此の世界でも満たされず、満足はいかないようなものだが……。
其れでも良ければ、何時でも見に来ると良い。広い草原よりは、狭き場所だがね。」
気風とは程遠い、静寂と冷ややかさが其処に在る。
何時でも案内しよう。欲望の在り所を。
灯に静かに息を吹きかければ、瞬く間に消えてしまった。
「暴力も知恵も、私にとっては手段に過ぎないのだがね。
まぁ、何方も悪いとも言わないさ。此れもまた、学びの一つ。」
在るものにとっては其れは力にも成り得る。
だが、弾正にとっては其れは手段だ。
恐らく、勇者や学者とは相いれぬ。男は何時でも、欲望に忠実だった。
少女の続く言葉は、まさに透き通っていて、時折来る言葉に弾正は苦笑いを隠し切れない。
いやいや、と首を振り、漆の髪はざんばらに揺れた。
「全力だったとも。あらゆる策謀、知恵、武力を以て挑んだ。
そして、悉く其れを彼は蹴散らした。其れだけの話。
……確かに、私は興味は無かったが……此の世界で言えば、一介の"将軍"では在ったからね。」
よもや、身内だから加減したなどと言われるのは心外だ。
治める者で在る以上、立場を顧みる事はせずとも、其処に一切の妥協は無い。
加減とは程遠い位置に属する者だとも。唯、其れをあれが上回っていた。
……まさに、"天災"だった。あれ程の力を以てして生まれ、誰も理解者はおらなんだ。
否、恐らく己だけだろう。果たして、かの"天災"が如何なる末路を辿ったかなど、想像に容易い。
笑い、嗤い、何処となく淀んだ翡翠も、この時ばかりは憂いを帯びていた。
「是は是は……随分と懐かしい響きだ……。
私も得てした行いでは在るが……まぁ、私もこう見えて"大人しく"なったものでね。
敗れた以上、浄土とは程遠い此の国で棄て損ねた生命だ。
私を破った彼に倣い、相応には大人しくしているとも。」
其れが今の、弾正也。
燃え尽きた灰は、未だ冷め遣らぬ。
徐に伸ばした手が、少女の頬へと向かっていく。
拒否しなければ触れるだろう。焔の如き暖かき体温を帯びた指先が。
「是非とも、お邪魔させて頂こう。君達の暮らしにも、興味が有る。
タピオカ、君自身にもだ。……はて、珍しい色とは思わないが……そうだな。」
「君も大層、麗しく思うとも。」
其の瞳と眩い心根によく似合う。
まさに、風に似合いし褐色だと。