2020/06/21 のログ
ご案内:「王都マグメール平民地区 裏通り」にアントワーヌさんが現れました。
アントワーヌ > 休日の昼下がり、人目を忍んで逢瀬を重ねるカップル向けの連れ込み宿や、
大っぴらには出来ない性癖、嗜好を満足させる為の、特殊な店が軒を連ねる裏通り。
恐らくは王侯貴族がこっそり遊びに来ることも珍しくない界隈なのだろう、
但し、己が此の界隈を訪ねるのは、正真正銘、此れが初めてだった。
――――否、自発的に訪ねたのでは無く、半ば強引に連れて来られたのだ。

其れでも、噎せ返るような白粉の香りに包まれて、酒食に興じる程度なら兎も角。
何やら怪しげな香を焚き始め、女性たちの様子が明らかに変わってくれば、
―――――とても、留まれる筈が無かった。

「……ああ、全く、………腐ってる、昼日中から、っ………」

視界が潤んで翳みかかる、頭がぐらぐらと煮えているようだ。
吐息に籠もる熱も、きっとあの香の所為だろう。
女性の身体に、そして理性に作用するものなのだろうあの香りが、
己にも悍ましい影響を齎しているのが解る。
ふらつく身体を何とか動かして、問題の店からは少し離れたけれど、
空き家と思しき家屋の軒下に身を寄せ、両腕で己が身を抱き締めて俯き、
深く眉根を寄せ、ぎりりと奥歯を噛み締める。
昼間だからと言って、うっかり友人たちに押し切られた己の迂闊さを悔いながら、
香の影響が薄らぐのを、息を潜めるようにして待つ心算で。

ご案内:「王都マグメール平民地区 裏通り」にメレクさんが現れました。
メレク > 平民地区の中でも性的産業に関連する店が軒を連ねる裏通り。
恰幅の好い、と言えば、聞こえがいいが、要するにただの肥満体の男が、
一軒の大店から足を踏み出すと見送りの店員達を片手で遮りながら路地を歩き始める。

この界隈の店の顧客となるに相応しい特殊な性癖を有している男ではあるが、
生憎とこの場に訪れた用件は客としてではなくビジネスの話。
貴族だけではなく奴隷商の顔を持つ彼にして見れば、この界隈の店は優良顧客である。
何しろ、他人に言えない性癖を満たす為に、何をしても文句を言わない奴隷は付き物である。

「ふふっ、奴隷の需要が高まるのは経済が廻っている証拠ですなぁ。実に結構。」

奴隷商の元締めでもある彼がわざわざ足を運んだのは大きな商談があったからで、
その結果が上手くまとまったあたり、世の中の腐敗は益々進んでいる事だろう。
愉快そうに口端を弛め、でっぷりとした腹を擦りながら路地を歩ければ、
少し離れた一軒家の軒先に、見知った存在の顔を見付けて、双眸を細め、ゆっくりと足取りを其方に向けた。

「おやおや、このような場所で奇遇ですなぁ、ジェラード伯爵。
 今日はあの従者も連れず、お忍びでお遊びですかな?」

周囲を見廻して相手の従者の姿が見当たらない事を見て取れば、
何やら気分悪そうに身を抱き抱える青年貴族へと一礼しつつ声を掛けた。

アントワーヌ > 普通、此の界隈を歩く貴族たちは、見知った顔に行き会っても挨拶などしない。
自らの特殊な性癖を暴露するに等しい、謂わば自殺行為とも呼べるものになるからだ。
然し、――――例外というものは、どんな場にも存在する。

近づいて来る足音、そして、己の名を呼ぶ男の声。
小さく肩を震わせて息を詰め、ぎこちない動きで俯いていた顔を持ち上げて、
声を掛けてきた人物の顔を認めるや、僅かばかり眉間の影が濃く、深くなり。

「――――貴殿、こそ、……一体、此処で、何を、
 ……ああ、もしかして、お仕事でお越しなの、ですか?」

声を絞り出すだけでも辛い、けれども此の男が、手放しに頼れる相手で無いことは知っている。
同時に、此の男の『仕事』についても――――意識して口角を上げ、薄笑みのようなものを貼り付けて。

「何方に、しても、……此の界隈で、妄りに家名を口になさる、のは、
 無粋な真似、というもの、でしょう。
 どうぞ、見なかったことに、して、……お捨て置き、下さい」

其れがマナーであろう、と、告げる間にも呼吸が乱れる。
頬の赤みも不自然であろうし、今にも倒れてしまいそうにも見えるかも知れないが。
相手の用事が仕事であれ、趣味であれ、早く立ち去って貰いたい一心で、
必死に思考を巡らせながら。

メレク > 「えぇ、正に正に。流石は英明なる伯爵ですなぁ。
 当家で扱いのある奴隷を卸す商談をまとめてきたところです」

自身の正体が明かされる事に、曲がりなりにも貴族の一員である筈の彼は全くの無頓着だ。
見目麗しい相手とは違い、大半の相手に嫌悪感を抱かせるような容貌の持ち主。
悪評に晒されるのは慣れ親しんでおり、彼がこの界隈の店の客であっても何ら不思議に思う者はおるまい。
更に加えて言うならば、彼自身は風評被害に晒される事を何処か楽しむ節がある。

「おお、これはこれは失礼しました。お会いできた喜びについつい勇んでしまいましてな。
 しかし、……いや、どうやら、御気分が優れない様子ですな。
 そのような貴方を捨て置くなど、このメレクに出来よう筈もありますまい」

微笑みを表情に浮かべながらも、頬を赤らめて発情するかのように呼吸を乱す相手。
媚薬の類でも男娼か娼婦かに盛られたのだろうか、と、この界隈では、さして珍しくない状況を
脳裏の端にて描きながら、立ち去れと告げる相手の言葉とは裏腹に距離を詰めるように近付き。
両手を伸ばせば、その節くれ立った武骨な指で、相手の肩を掴もうとする。

アントワーヌ > 男が平然として見えるのは、此処へ来た用件が『仕事』であるからだろうか。
或いは、持って生まれた性根の為せる業なのかも知れないが。
何れにせよ、理性を保ち、平静を装って会話を続けるのも限界に近く、
だからこそ少しばかり毒を吐いてでも、男を遠ざけようとしているのだが。

「其れは、……おめでとう、ございま、す。
 ―――――いえ、どう、か……何でも、ありません、から、
 どうぞ、お気になさ、ら……ず、――――――ひ、っっ……!」

立ち去れ、消えろ、と声を荒げるだけの余力も無く、握り締めたステッキを振るうことも出来ず。
伸びて来た両手に双肩を捉えられた瞬間、目に見えて大きく身体を震わせ、
短くも、酷く上擦った声を洩らしてしまった。
慌てて口許を左手で押さえ、右手にしたステッキを振るおうとするも、
腰から下の力が抜けて、其の場に膝をついてしまいそうになる。
男を見上げる双眸には、明らかに、眼前の男に対する、女としての本能的な恐怖が滲んでいた。

「は、……離、し―――――……」

離して下さい、と訴えることすら、もう覚束無い有り様で。

メレク > 「ははっ、恐れ入りますなぁ。
 水臭いですぞ。申し上げたではありませぬか、お困りの際には微力ながら力を貸す、と。」

男性にしては線が細くて華奢な肩を両手で掴めば、瞬間、全身が痙攣する。
そうして、耳朶を打つのは甘く鼻に掛かったような上擦り声。
その場に崩れ落ちそうになる相手の身体を咄嗟に抱き留めると、
立ち込める相手の体臭と、衣服に沁み込んだ媚薬の香に鼻を鳴らした。

「ふふっ、此間は逃がしてしまいましたからなぁ。今日はそうは行きませぬぞ。
 邪魔な従者も居ない。……貴方の秘密を暴かせて頂きましょう。」

最早、この状況下にて秘密もへったくれもない彼女の抱える素性。
確かな確信を抱きつつ、耳元にて囁くように告げれば、
女の肩を抱くように身を寄せて、腰に片手を這わしながら、周囲を見廻す。
丁度、相手が休んでいた民家が空き家である事を悟ると口端を弛めながら扉を開き、
埃臭い家屋の中へと“彼女”の身を連れ込もうとして――――。

アントワーヌ > 「け、……結構、で――――――――ッは、離し、……!」

いっそ此の場に倒れ伏して、意識すら手放してしまえれば良かった。
愛しい相手どころか、何方かと言えば厭うている男の腕に抱き込まれて、
其れでも媚毒に侵された身体はぞくぞくと震え、悍ましい熱を溜め込み続ける。
過日とは何もかもが異なる、誰を呼んでも助けなど来ない。
男の腕を振り解く暇も、抱擁から逃れる術も無い儘に、
埃じみた空気の澱む空き家の中へ連れ込まれてしまうことになり―――――。

ご案内:「王都マグメール平民地区 裏通り」からメレクさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール平民地区 裏通り」からアントワーヌさんが去りました。