2020/06/19 のログ
■番号215642 > (しばらくの後。少年が、うつらうつらとしかけていたその時)
『ちゃんと前見て歩いてろ!』
(平民街には珍しい怒声。人混みの中でぶつかったのは、強面の男と腰の曲がった年老いた女性。倒れたのは勿論女性の方。ぶつかった拍子に女性のもっている紙袋からは幾つかの食料品が零れ、地面に散らばる)
「ごはん!」
(反射的に走り出した少年。数メートルを駆けて、その場にたどり着くと、地面に落ちている細長いパンとリンゴを拾い上げるばかりか、老女の懐に手を差し入れ、小銭の入った巾着をつかみ取る)
『おい、その餓鬼捕まえろ!』
(周囲の人が老女に駆け寄る前に、一仕事を果たした奴隷にも怒声が飛ぶ。雑踏の中を無理矢理走っているから、人とぶつかりそうになるのを繰り返しながらも。走る走る走る)
「クソっ…」
(運が良ければ、平民街でも誰も追いかけてこないのに。今日はお人好しな人が追いかけてくる。瞬発力には自信があるが、体力のなさも相まって持久戦になれば時間の問題だ)
■番号215642 > (人が多いところを走っていたのでは埒があかない。急に向きを変えて、裏路地へ入り込むことに成功すれば、そこからは入り組んだ道を幾度も曲がれば、逃げ切るのは難しくない。)
「はッ……はッ…」
(それでも路地の塀に背中を預けてへたり込み。肩を上下させて呼吸を整える。栄養の不足している彼には十分すぎるほどの運動だった。しばらくしてようやく、手にしているパンを口に運ぶ。固めのパンの表面を歯で食いちぎるとあっという間に半分以上食べ進めてしまう)
「いっぱいだ!」
(ほんの数枚の硬貨だが、老婆からかすめ取った巾着の中を見て、目を輝かせて口角を上げた。人から盗んだ罪悪感なんて微塵もなく。そこにはここから数日食事に困らない喜びがあふれ出る。巾着をズボンのポケットに大切そうにしまって)
「うまい…」
(パンを半分残したまま。リンゴを食べ始める。水分の少ないパンを食べた後の果汁は少年の喉を潤し。生き返るような心地だ。あっという間にリンゴを食べ尽くしてしまうと)
「おいしかった」
(一人呟いて、名残惜しそうに唇の周りに着いた果汁を舌でなめとった。手についた果汁にも舌を這わせて。すっかり綺麗に果汁をなめとった両手で残りのパンを大切に握りしめると、そのまま人目を気にして、裏路地を選んでは貧民街の方へと消えていく。)
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」から番号215642さんが去りました。