2020/03/27 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にティアフェルさんが現れました。
ティアフェル >  ――パラパラと降り出した雨がすぐにサァ――と勢いを増して街を濡らしていく。慌てて閉店している店の軒先に走り込んで、雨空を見上げ。両肩を抱くようにして小さく身震いし、

「――やみそうにないなぁ……」

 嘆息混じりに呟いた。
 そこは賑わう大通りのひとつ、悪天候ではあるが人通りもそこそこあり、行き交う人々はきちんと傘を準備して差して歩いていたり、ひとつの傘に仲良く二人だったり、なんなら三人でぎゅうぎゅうに入っていたり、諦めてダッシュしていたり、濡れて行こうと決め込んでびしょ濡れになりながら悠然と行き過ぎていたり……それぞれだ。
 そのどれでもなく、雨宿りコースを選んだけれど、このまま雨がやまないのなら、ダッシュか歩くか、雨に濡れるのを覚悟しなくてはならないだろう。

「……あーぁ……誰か親切なイケメンか美人のおねーさんか……そっと傘を差し掛けてくれたりしないかしらぁー……」

 試しに独り言の素振りで、聞えよがしにアピールしてみる。
 物好き……もとい心ある通行人よ、出でよ。

ティアフェル > 「………………」

 浅ましいアピールをして、期待した眼差しできょろきょろと通りをガン見しながら、しばし待つ。

「………………」

 待つ。

「…………………………」

 待ちくたびれ。

「……んな都合のいいこともないかぁ……」

 ふう……と青息吐息で頬を掻き。せめて自分がしっとりと雨の似合う目の覚めるような美女であれば……事情は変わっていたかも知れない。
 そんな僻みっぽいことを考え、ちぇー。と足元の小石を蹴って勝手にやさぐれ。

「―――ん……?」

 その時、同じ軒先に走り込んでくる影に気づき、目を瞬いてそちらを向いた。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にアルヴィンさんが現れました。
アルヴィン > まさかに、これほどに天気が急変するとは思いもよらなかった。
青いマントは、魔獣の皮革を魔法で強化したものだ。撥水性も高く、フードを被れば多少の雨などは苦にもならぬ。問題は鎧であった。治安のあまりよくないマグメールの都の世情というものをよく知った騎士は、ちょっとした外出でもあまり軍装を解かなくなった。
軍靴が石畳に雨水を踏みしめ、マントに雨を弾かせて。
騎士もまた、雨宿りと見かけた店の軒先の下へと走り込んだのだった。
参ったと、マントの雨滴を弾こうとして。騎士は、先客に気づいて静かにひとつ、会釈を送る。
「急な雨に、難儀をしている。少しばかり、軒先お借りさせていただきたいが…」
この屋の持ち主ではあるまい。が、雨宿りの相席ということには変わるまい。騎士は、そう告げた後にゆっくりと、フードを払い雨を弾くマントを外してゆく。

ティアフェル >  雨から逃げるように隣に走り込んできた騎士に顔を向かせて、会釈をされれば反射的にぺこり、と頭を下げて。
 ご丁寧に許可を求められれば、微苦笑気味にふるり、と首を振って。

「――ああ、全然全然、いーのよ。お互い立場は一緒。
 ……急に降り出すんだから、参っちゃうよね」

 ここにいるなという権利などないし、そんな気もない。それどころか、少し詰めて彼の分のスペースを空けて。せめて雨宿り中、暇潰しの話し相手にでもなってくれればラッキーだと、とりあえず気さくに笑いかけて。

「今日はお仕事なの? この国の騎士様……とはまたちょっと違う感じだけど……」

アルヴィン > 脱いだマントを、雨宿りの相席となった娘に飛沫のかからぬようにと振って雨水を払い、鎧や武具が濡れていないかを確かめつつ、騎士は手向けられた言葉に笑みをみせた。
「ご配慮、痛み入る。ああ、参った。雨具の支度など、このマントの他にはしていなかったものだから…」
武具が濡れてしまったかもしれぬ、と。唇をへの字に曲げて自らの軍装を見下ろすさまは、急に悪戯小僧のような稚気をこの騎士にもたらしてみせ…。
そして、騎士もまた降りやむ気配を見せぬ雨の夜空を見上げると、深く大きく息をついた。
「…遍歴の身だ。この街には先日、辿り着いたばかりで…」
なので、仕事と言えばギルドでの依頼を請け負うばかり。騎士とは名ばかりの売剣稼業だ、などと。騎士は娘に笑って見せる。
「貴女こそ、もう夜も更けた。女性の身にての一人歩きとは、何が急ぎの大事でも…?」
そう、問い返す言葉には、少なからず気遣いの色があり…。

ティアフェル > 「いいええ、ご丁寧にどうもー。
 いやー……偉いね。わたしなーんにも持ってないよ、ノーガードだよ。濡れるしか選択肢ない現状よ」

 雨を払う様子を見ながら、こっちは雨具なんてひとつも持っていないと苦笑して、武器を濡らして唇を曲げる表情にくす、と肩を揺らし。

「そーなんだ、道理でなんだか雰囲気違うと思った。別の国の騎士様なの?」

 ふむ、と小首を傾げて質問を重ね、笑い掛けられると自然に笑みを返して。

「えっとね。仕事が終わってごはん食べて、帰るかーって歩いてたら……このザマよ。くっそ。帰るまでちょっとは待ってくれればいーのに」

 身勝手なことをぶちぶちボヤきつつ、途切れない冷たい雫に、くしゅっ、と小さくくしゃみをして洟を啜り。

アルヴィン > 「必需品は、肌身から離さぬようになった。草臥しが常の遍歴の騎士ならではの貧乏性ということだろうな」
そう言いつつ、騎士は笑う。そして、雨滴を払ったそのマントを、そのまま娘へと着せ掛けんとして差し出したのだ。
「春もまだ、浅い。春の夜の雨は、お身体を冷やす。さ…」
お召しあれ、と。さも当然のように騎士は告げた。
淑女にマントを着せ掛ける騎士、というような仰々しさはない。ただ、雨宿りの行きあいに、ちょっとした心遣いで差し出された。そんな何気ない仕草のことだった。
そして…。
「…どうも、おれの知る士道というものと、この国の士道は随分と掛け違えているようだ。それはようやくわかってきたな」
そう、苦笑めいて告げた後に。もし娘が受け取らぬなら、マントを広げその肩へと掛けんとし…。

ティアフェル > 「んー…? どっか決まったところに逗留してないの? いろいろ持って移動するのって大変だね」

 のんびりを小首を傾げながら尋ねていると、不意に差し出された雨除けのマントに、目を丸くして。

「え、あ。や、そんな…つもりじゃなかったんだけど……ありがと。お言葉に甘えましてお借りします。――口調もそうだけど、ガッチガチに騎士様だね、あなたは」

 紳士的な対応だ。感心したように、少々擽った気に表情を綻ばせながらお借りすると肩に掛けて。「あー、結構暖かいー」とほのぼの目を細くした。

「っはは、うん、確かにそーかも。騎士にもいろいろ居るから……ああ、でもちゃんと立派な騎士様だってここにもちゃーんといるよ。あなたほど絵に描いたようなタイプは……少ないかも知れないけどね」

 士道、なんて言葉をそもそも久方振りに耳にした。この口調よ……と感心半ば、気後れ半ばで耳にしながら。

アルヴィン > まとったマントはふぅわりと、娘へと革と鉄、軍装ならではの匂いというものを僅かに届けてしまうかもしれない。皮革製でありながら、あまり重くないのは、女性の身にも楽であろう。それが故に、騎士は娘に差し出してみせたのだろうか。
「…実は、今まさに定宿を探している」
問われた言葉に騎士は、困ったようにそう告げて。ぽりぽりと口許をかいてみせた。
曰く、酒場を兼ねた大きな宿に今泊っているのだが。どこかに気心の知れて長期滞在をゆるしてくれそうな宿であったり、家主となってくれる者はいないかと、ここ二日ばかりは王都の街路と街区を覚えるついでに歩き回っていたのだという。
娘にとって、騎士のその振舞態度は、随分と大時代なものに見えるのだろうか。けれど騎士にしてみれば、それが長きに亘って師から仕込まれた“騎士たるべき姿”であるのだから、こればかりは仕方ない。三つ子の魂なんとやら、である。

ティアフェル >  独特の匂いがしたが、見た目よりずっと軽くて風を通さなくって、肩に掛けているとあったかい。裾がさすがに長くてもう少し長かったら下についてしまっていたかも知れない。

「あっはー。ほんとに最近来たんだね。落ち着き先がないと疲れるっしょ。ギルドで紹介してくれたりもするけど……今は冒険者ギルドとかに登録してるの?」

 困ったような表情に若干肩を揺らして、それは大変だ、と肯いた。荷物を置いておける場所がないと滞在中不自由だろうと察して。
 紹介できそうな物件も心当たりはないが、紹介してくれそうな場所ならばある、と小首を傾げた。

アルヴィン > 「それはもう、早速に」
そして昨夜はこの地での初めての依頼もこなしてきたと、騎士は告げる。だから、懐には困っていないし、家賃も前払いして当座は困らないのだがなあ、と。雨の夜空を見上げてまた、困ったように口許を掻くのだ。
「馬は今、ギルドの厩に預けてある。旅暮らしゆえ、荷物などはあまり持ってはいないし、嵩の張るものは宿に置いてきたのだ」
野宿の際の毛布だとか。小鍋のような炊事道具。けれどそれも、バックパックや鞍袋に精々収まる程度だという。
「…ともあれ。まずはこの街での知己を増やすことの方が先決…であるのかもしれんなあ。
朋輩がいないでは、酒も食事も美味くはない」
真面目腐って、騎士は舞い落ちる雨滴を見ながらそんな呑気なことをのたまい。

ティアフェル > 「あー、じゃあギルドで相談してもいいかも知れないよ?
 もう一仕事こなしてて充分貢献できる人なら融通してくれると思うし」

 今日の夜空のように曇ったその表情を見てやはり少々微苦笑して。馬がいるんだ、騎士だもんあーとしみじみ考え。じゃあ厩もついている物件が必要なんだな、と思えば騎士は大変……そんな風な感想を抱き。

「へー。荷物そんなんでいんだ。随分旅慣れてるんだね。
 あー。なるほど。そんならわたしで良ければ友達になろう? わたし、ティアフェル。ヒーラーなの。冒険者だから、クエストの際も怪我の際も声かけてくれれば役に立てることもあると思うよ」

 人畜無害というか、人畜友好な感じの騎士で大体同年代くらいに見えたのでいたって気安く、にこ、と親し気に笑いかけて片手を差し出した。

アルヴィン > 「なるほど。この街のギルドはそのような斡旋までしてくれるのか。それは知らなかった」
ならば、依頼ももっとこなさねばなるまいなあ、と。騎士はのんびりとそう告げる。
見ている分にはまったく動じていたとは思えないが、手向けられた助言のおかげで随分と、気心が安んじられたという様子。
「旅暮らしには、なるべく荷物を減らすのがよいと、おれの師が言うておられたが…」
そのくせ、酒だけは切らさないお人であったなあ、と。騎士はその師とやらを思い出したのか、やれやれとそれはそれは深く溜息をつく。液体が最も嵩が張って重い荷物だというのは自明の理だ。
「…よろしく、見知りおかれたい、ティアフェル殿。おれはアルヴィン、アルヴィン・アルヴァーハードという」
ここより遠く、海を渡った大陸の出だと騎士は告げて。叶うならば是非に、ギルドの依頼を受ける際はお声かけいただければ幸いだ、と笑ってみせて…。

ティアフェル > 「多分ね、仕事を斡旋するばっかじゃなくって相談事も多少は聞いてくれるし。ただ、いかにも『使えねー』奴には冷たいだろうけど、あなたなら大丈夫だよ」

 この時期だから物件の移動もあるだろうし、何とかなるかもしれない、と保証はできないが一応の助言として口にして。

「まったくその通りだとは思うよ。……男子は最低限で済むからいーよ」

 旅でも日常でも最低限が多いのが女子というもの。物入りな生活を思わず省みて遠い目で雨に閉ざされた街の揺らめく灯りをみた。
 酒好きな師匠と真面目一徹の弟子…彼の言葉にそんな絵が浮かんで思わず忍び笑いを零した。

「ティアでいーよ。アルヴィン? やー……最近前衛さんと縁があるから、まったく困らなくって助かるよ……今日も一人前衛ゲット」

 後衛職。クエストに依っては前衛と組まないと受けられないことも多々。しかし、今日も頼れそうな人と知り合ってしまった。こいつは助かると腕組みにしてしみじみ浸り。

アルヴィン > ギルドが実力至上主義であるのは、この街に限ったことではない。それが故に、能力のない者につらく当たるのも是非のないことだ。何故ならば、引いてはそれがその者自身のためでもある。冒険は、失敗すれば死すら待つ。不向きな者は、それだけ死の顎の間近いところに無自覚に立っている、ということなのだ。
「…女性の苦労は、あいにくとおれにはわからぬのだが…」
生真面目に、そんな相槌を打った後に。騎士もまた、ゆったりと柔い笑みをその口許に刷いてゆく。
「では…ティア殿、いや、ティ、ア…?
 その、これからよろしく頼み入りたい」
これまでは、ギルドの依頼も一人でこなしてばかりであったから。頼りになる仲間がいることは実にありがたいことだなあ、と。相変わらずの雨の夜空を見上げつつ。騎士は天気とは裏腹に晴れ晴れとのたもうた。

ティアフェル > 「騎士でしょ、多少分からないと今後の出世に響くよ。女子は苦労してんだよ」

 判らぬで済ませぬ。ぴ、と人差し指を向けてもっともらしく口にした。騎士なんだから分かっとけという、無茶な物言い。分かっている方がいいこともあるだろうが、決して必須でないだろうに、騎士だったら全世界の乙女の為に必死だと堂々と云い放った。

「んー。気楽にいこー。友達でしょ?
 はい、こちらこそどうぞよろしくー」

 そういえばさっきさらっとスルーされていた手。握手って風習ないんかな……と思いながらも、しつこくびし、と差し出して、にこにこにこ、とことさら笑って見せる……折れない女。

アルヴィン > 騎士の瞳が思わず寄り目になったのは、その突き付けられた人差し指の先端に、まじまじ見入ってしまったからだ。
やはりまた、困ったように。騎士は口許をぽりぽりと掻いてから、幽か頬を染めてぎこちなく頷いてみせたのだった。
「ど、努力する…」
努力して、果たして何とかなるだろうかなあ、と。騎士はその胸の裡で零していた。なんとなればこの騎士の遍歴は、ただただ剣と武芸の武者修行に費やされてきた。
乙女の憧れる騎士とは、それはそれは程遠い騎士像を理想としてきたものなのだ。
「う、うむ…よろしく」
そして、差し出された手を取ったのだけれど。
その先を、娘は予測していたろうか。
手と手は確かに触れ合った。けれど、差し出したその手の甲にそっと、騎士が瞳閉じてくちづけん、とすることまでは、果たして…?

ティアフェル >  寄り目になったので、面白いので指先を試しにその目の前で左右へ揺らして一周させてみた、ついてくると面白いなー。と。

「おう、しかと頼むよ騎士さんよ。今後深層の令嬢やら高貴な姫君やらの身辺警護が控えてるかも知れないのに――女子のこと分かんない、じゃ即クビだからね?」

 実際そんな事情なのかどうかなんてまったく知らない平民だが。自信満々で云い切った。武芸に秀で礼節さえわきまえとけば済むなんて甘い考えは捨てろと。

「うむうむ、友情友情青春青春――って、ひゃっ……」

 手を差し出すと、シェイクハンドの構えだったが、取られた手はそのまま手の甲に唇が触れて、予測すべきだったのだろうが、しとらず。驚いたように目を丸めて。それから、少々気恥ずかし気に目線を泳がせてぽつりと呟いた。

「現役騎士様でしたね……」

アルヴィン > 一瞬、騎士の蒼い瞳は娘の意図したイタズラ心が図に当たったかのように動きかけるが。流石に視線を操られるなど、武の道を志す者としては言語道断。慌ててぱちくりと瞬きをして、娘のイタズラは遂行まではされなかった。…半ばまでは、成功していたのだけれど。
「無論、この身は遍歴の身とはいえ、騎士だ。
 …ご無礼、だったろうか…?」
まだ、二人の手指は触れ合ったままだ。
まん丸に見開かれた瞳、その表情が愛らしいな、と。今度は騎士が柔く微笑む番だ。
春の夜の柔らくなりゆく雨の中、翠玉のような瞳が泳ぐのを、騎士の蒼い瞳がイタズラっぽく見つめている…。

ティアフェル >  ちぇ、と途中で指の動きをトレースしてくれなくなった目線に、不服そうな一音が零れた。ぱた、と神経通ってるようなアホ毛が感情に連動して跳ねた。

「でしたねー。わたしの知ってる元、とは云え騎士様とはずいぶん違うもので、ちょっとびっくりしたけど……。
 無礼ではないない。――でも、わたしは淑女ってかただの跳ねっかえりのアルヴィンの友達だから―――握手。ね?」

 まだ手がそのままなので、取られている指先を動かして、握る形にして縦に振ろうと。
 いたずらな目に気づくと、からかってんのか、と少々むくれ気味に半目を向けたが。

アルヴィン > 「ティアの良く知るお方がどのような騎士かは知らぬが…ご無礼でなかったのならば幸いだ」
このおれも、あのようにいかにも騎士らしいことをするのは久しぶりで、少々緊張していたのだ、などと。まったくそれらしくもないことをさらりと言ってみせる始末。
娘が試みたままに、二人の掌はしっかりと握りあわされ、友情を確かめるべき握手として交わされる。
その握手の最中、半目にジト…と向けられる翡翠の色の瞳に騎士は、ありありとにっこり微笑んで見せたのだ。
「跳ねっ返り…というには、随分と可愛らしいな、ティア。もちろん、ただただ着飾って壁の花になっているような淑女だなどとは思っておらぬ。
 おれのような無粋な騎士の友人になってくれるのだ、冒険で助けてくれるような、そんな頼もしい友を得たのだと、きちんと弁えているさ」
そう、微笑みつつも真面目に騎士は答えてみせて。

ティアフェル > 「アルヴィンみたいなお堅いタイプじゃ、全ッ然ないねー。
 っふふ。びっくりはしたけどだいじょぶだよ。わたしも女の子扱い何てあんまされないからね」

 緊張していたようには見えなかったのだが、とおかしげに肩を揺らした。道に入ったものだったと、がし、と握手を交わしてはゆるゆると離し。それから、とってつけたような笑顔に、むぅ、と食えないものを見るように眉根を寄せた。

「やはは、かわいーだなんて……どうもどうも。さすが騎士様、お口も上手。
弟達からはゴリラ呼ばわりなガサツさよ。
 無粋とは思わんけど……うん、背中を預けられる友達として、いざって時にはカチ込んでくんで。ガンガン頼っていーよ」

 血の気の多い発言とともに拳をぐと握って。

アルヴィン > 「お堅い…だろうかなあ?」
これでも、武者修行の旅の途次、随分と色々あった身としては、その表現はややも想像が難かった。が、女色に現を抜かしていない、という意味であらば少なくとも正鵠を射ている。
この騎士の遍歴は、やはり随分と無粋で武骨で荒っぽいものであったのだから。
とまれ。騎士は娘の言葉に、さも不思議そうにぱちくりと、その蒼い瞳を瞬かせた。
「…ゴリラ?ティアが…?」
それはなんとも、腑に落ちぬ。そんなことをぽつりと騎士は呟いたが、続けられた言葉には、さすがに苦笑ありありと口許に刷かれゆく。
「…後衛がそのように前線に出てはならぬだろう?
 尤も、ティアに不甲斐ないと思われてしまっては、後ろから安穏として見てばかりもいられぬのかな?」
これは責任重大だ、前衛としての責務を全うせねば、お役を取られかねないな、と。騎士はさも楽し気に笑ってみせ。

ティアフェル > 「自覚なしか……驚く」

 醸し出している空気がもう堅いし口調も堅い。頭も堅そうに思える、バリ堅とみていたが。本人無自覚な様子に遠目になった。

「なんならボス猿ですが? しょーがないのよ、弟達が野猿なもんで」

 弟のせいにする。天然素材のゴリラだったかも知れない可能性は考えない。やれやれ…と肩を竦めてボヤき。

「わたし雑魚くらいなら捌けるもん。後衛だって、ヒーラーだって、できることをやればいいんだから、できることがあるなら後ろにばっかりいる必要ないって人だっているのよ。
 前衛が頼んないからってばっかじゃなくってわたしはわたしにできることをやりたいの」

 ただただ凶暴なだけだが、見くびらないでちょーだいと云わんばかりにずい、と一歩前に出て腰に手を当てて仁王立ちした。ヒーラーとしては扱いづらさNO1を誇る性格難。

アルヴィン > 呆れられていることに、これまた騎士は気づいていない。こんなところもまた、この騎士は随分と野暮天だ。
けれど、野暮天は野暮天なりに、冒険であったり剣術であったり、そういった荒事に関してはやはり一家言があるらしい。ふむ、と娘の言葉に興ありげに相槌を打つと、まじまじとその仁王立ちを見つめるのだった。
「確かにそれは、一理あるな。できることがあるならばすればよい、か…。なるほど」
そのまま、騎士は何やら思い巡らせているらしい。
どうやら、冒険…というか、戦いの際の布陣において、後衛がずんどこ前衛に出てきては、雑魚程度とはいえ敵を蹂躙してゆく図とはどんなものか…それを想像しているようなのだが…やがて。
「…すまぬティア。…やはりおれにはあまりその布陣は思いが至らん」
…と、大真面目な顔で告げたのだった。

ティアフェル >  呆れてまではいないが、素直に驚いたのは確か。鈍い人かも、という評価もプラスされた。

「そーよ、前衛だって手一杯の時はバックアタックに対応しきれないっしょ。
 後衛が殴るしかないじゃないよ。できないよりできた方がぜーったいイイ」

 できることをするのは悪くないはずだ、とどこまでも強気の主張。しかし陣形クラッシャーは、前衛たる感想に向かって、深々と溜息を吐き出してこめかみに指を当てて首を振り。

「っふ…残念だ……。君とは冒険を共にするのは難しいようだね……」

 何キャラなのか、愁いを帯びた流し目を作って無駄に気取りを織り交ぜてのたまった。

アルヴィン > 「…そもそも、純粋たる後衛は、布陣中央にいるべきだと思うが…」
後方からの不意打ちには、やはり前衛職があたるべきだ。理想はやはり、どんな小規模のパーティであろうと、三段構えが望ましい。が…。
「とはいえ、できないよりはできたほうが絶対にいい、か…。
 ティアのその言葉は…おれは好きだな」
なんとも感慨深げに。騎士はそう呟くように口にした。そして、妙に愁いを帯びた流し目を、騎士は真正面から見つめてにっこりと微笑んだのだ。
「なるほどな。冒険を共にするのは難しいと言われるのは寂しいが…ティアがどのような後衛を務めるのか。面白いものが見せてもらえそうで、おれはとても興味があるな」
そう、騎士は告げたのだ。
堅物で野暮天でにぶちんであるらしいが。
どうやら少なくとも、武芸戦術冒険において。この騎士は随分と頭が柔らかい。

ティアフェル > 「わたしとアルヴィンだけとしたら、前と後ろしかないじゃないよ」

 二人以上だとできる話かも知れないが、一緒に行こうとなると前衛が叩けないパターンもあるだろうと、断固としての主張。
 そして、できないよりは、という意見は肯定してもらうと満足げに腕を組んで首肯した「でっしょ」とアホ毛を揺らして。
 芝居がかった流し目を正面から捉えられると、ぱたり、と目を丸くして一度瞬き。
「――っふぉっふぉっふぉ。今まで見たことのないよーな、斬新な後衛を見せてやる。趣味は雑魚イジメ・ティアフェル19歳ヒーラーの美技を」

 かなり、盛った。真面目を絵にかいて額に入れたようなこの人が真に受けたらどうしよう…そんな懸念はカケラもなく、ただただ、ノリだけで――フいた。 

アルヴィン > 「それは興味深いな。遥か遠い国には、癒しの術を極めながら、体術にも優れる修行僧がいるという。ティアの極めた武芸もそのようなものなのだろうな」
これは楽しみだ、と。騎士はまっすぐに娘を見つめてにこにこと笑う。
娘がそれはもう、盛大に吹いて大きく大きく膨らませたそれを…この騎士はあろうことかまるっと肯定してみせて、楽しみだ、早く御目にかかりたいものだ、などとのたもうたのだ。
「雑魚イジメ…などと謙遜であろう、ティア?どのような敵に対して、貴女のその、前衛並みの手腕は発揮されるのだろう?」
ミノタウロスか?オウガだろうか?それともまさか、レッサーディーモンくらいは…などと。騎士はきらきらと楽し気に、瞳輝かせて聞いてくる。
これは相当に武芸談議が好きなクチだと、娘も乗せてしまってはマズい手合いに吹いてしまったということを、そろそろ気づける頃合いか…。

ティアフェル > 「それは……モンク? わたし、やってることモンクだったんか……考えたことなかった。――ま、ともかく雑魚くらいなら全然こっち流しちゃってよ。大物となると丸投げしますけど」

 大盛りに盛ったあと、現実的なラインを口にした。なんでもかんでも間に受けちゃうな、気を付けよう、適度に冗談であることを主張しよう、と決めて。ぽり…と頬を掻き。

「あー。あのね、ティアの取り扱いに関してはですね。いち、この細腕で武器はスタッフであることを踏まえ、叩ける敵の範囲でお任せすること。に、犬系のモンスター、むしろ犬は、何がなんでも全部請負いこっちに流さないこと。こっちに送ったらティア即死します。さん、冗談好きなので――そんなキラッキラの眼で期待してこないよーに!」

 無邪気ささえ感じるような表情へ向けて注意がてらの突っ込み、その上、てい、っと軽くその金髪の頭頂に手刀をゆるぅく入れようか。

アルヴィン > 「…違ったのか?」
これはまた、盛大に勘違いをしてしまっただろうか、などと。騎士もまた困ったように口許をかく。その仕草だけであればこれまた随分と呑気なものだ。そして、娘が語る自らの『取扱諸注意』なるものに、ふんふん、と真面目腐って聞き耳を立て…ついでに、その金色の髪に娘のつっこみとも言うべき手刀を受けた後。
「…いぬ、というのは…?」
どういうことだろう、と。これまた大真面目に騎士は問う。小動物はなんでもぐりぐりと可愛がりそうなのに、犬だけは苦手ということだろうかと、やはりそんなことを確認してくるあたり、この騎士は真面目だった。

ティアフェル > 「ハイそーですよー」

 違うに決まってんだろ、と無碍に。何でも信じるなぁ。これじゃこれまで何べん詐欺に遭ったんだろう。ある意味危なっかしいな……と変に心配した様な眼差しを注いで、ぬるい手刀を緩やかに引いて。

「犬は犬よ、もちろん狼も駄目だから! 覚えておいて、わたしと一緒に行動するとなったら――犬がでたら問答無用で盾にされると!」

 犬ー!と泣き叫びながら手近な人を盾にしようとする性質がございます、という一番大事な取り扱い諸注意。
 力強くそれはそれは一押しした。ぴ、と人差し指をアホ毛を立てて。

アルヴィン > 「なるほど」
人間、誰にでも不得手というものはあるものだからなあ、と。騎士は何に感心したのかはともかく、感心したかのように頷いた。
「わかった。ヘルハウンドであろうがダイアウルフであろうが、犬が出たならおれが引き受けよう」
任せておいてくれ、と騎士は、突き付けられた指と跳ねた髪の毛の前で、大真面目に頷いてみせたのだ。
「おれが苦手なのは…きっと魔法にせよ弓にせよ、きっと遠間の戦い…だろうなあ」
娘の弱点を聞いたからには、自分の苦手とするものも伝えておかねばなるまい。きっと真面目なこの騎士は、そんなことを思ったに違いない。
剣と盾、敵と至近で斬り結びあう、そういう闘いが本領の騎士は、やはり遠間に徹されるのは面白くない。
こんなことを真面目にのたまうあたりやはり、この騎士は随分と無粋で野暮天だった。