2019/06/11 のログ
モリィ > そんなわけで、少女は衛兵としての役目を果たすべく今日も正義を執行して回る。
 迷惑な酔っぱらいを見れば多少強引にでも水を飲ませて家まで引っ張っていき、スリを見かければ大柄な容姿とは裏腹に軍隊従事者らしく俊敏に走って取り押さえる。
 痴話喧嘩らしい口論を見かければ割って入って無理やり仲裁し、不審者を見かければ追いかけ職務質問をかける。
 何処からどう見ても衛兵の鑑のような行動であろう。惜しむらくは柔軟性皆無で情状酌量なんてものを知らないくらいだろうか。
「今日も問題が山積みですね……しかしこれを一つ一つ解決すればきっと王都はよい街になるはずです! 先輩たちがあてにならない以上、私ががんばらないと!」

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にジュンさんが現れました。
ジュン > 先程から忙しなく働く少女を眺めている青年が一人

「まーよく頑張ってるねぇ」

何をするでもなくベンチに座ってじーっと様子を眺めて
頑張ってるなあと視線が少女を追いかけている

モリィ > 見られている。視線に気づいて、その元を辿ればいかにも不審な黒服の男性。
 こんな時間にただベンチに座っているというのもいかにも怪しい。もしかすると下見中の空き巣やスリ、強盗の類かも知れない。そう思えば、衛兵である自分を警戒して見つめているというのも納得が行くものだ。
 すっと小さく息を吸って、それからいかにも衛兵らしく威厳をアピールするように肩をいからせながら彼に近づいて。
「あなた、こんな時間に何をしてるんです? 誰かと待ち合わせ、というわけでもないようですけど。見るからに不審なのでちょっと身分を検めさせてもらってもいいですか?」
 この物言いである。

ジュン > こちらに近づいてくる
それに気が付くと自分が警戒されているなど露知らず脳天気に手を軽く上げ

「やぁ、頑張ってるね…え?身分?」

と、拍子抜けた声で返してしまう

「あー…身分、身分ねえーっと一応冒険者なんだけど…これでどう?」

がさごそと服を漁って取り出したのは冒険者ギルドの証明書
名前や年齢性別などの必要な情報は書かれており
一応は本物であるようだが…

モリィ > 「ふーん……冒険者、ですか」
 身分証は本物のようだ。が、冒険者身分がならず者でない証拠にはなるまい。少女の追求はなおも続く。
「それで、こんな夜更けに町中で何をするでもなく座って衛兵を観察している理由はなんです?」
 やましいことがあるんじゃないですか、と分厚い眼鏡のレンズ越しに、そばかすの浮かぶ顔を寄せて見上げるように睨みつける。
 端から不審者と決めつけて掛かっている振る舞いだが、少女にとってそれが仕事である、という認識故に疑うことに疑念はない。
「正直に話してください、計画だけで実行はまだならまだ罪は軽いですよ?」

ジュン > 「んー困ったなぁ…」

弱った様子で頬を掻く

「まあ確かに観察…と言ったらそうだけど
ただ可愛い衛兵の子が頑張ってるなあって見てただけなんだって」

実際そうとしか言いようがない
これで信じてもらえなかったらどうしようかとは考えながらも視線はまっすぐ返す

モリィ > 「…………本当ですか?」
 じっと目を合わせてみれば、嘘は言っていないような気はする。
 これで彼が嘘つきで、明日の王都を騒がせる犯罪者だったならば、その時は自らの首を賭けて捕らえるまでだ。そういうことにして、ひとまずの追求は此処までとすることに決めた。
「いいでしょう、信じます。可愛い……というお世辞以外は。他の衛兵はどうか知りませんけど、私はそういうお世辞ではノセられませんからね!」
 びし、と至近距離で人差し指を突きつけ、眉間に皺を寄せて言い放つ。
 そんな狂犬めいた衛兵の職質に恐れをなしたのか面倒事に巻き込まれたくないだけなのか、周囲の民は我関せずと逃げるように離れていく。

ジュン > 「本当本当」

じっと目を合わせながらそう返す、やはり嘘を言っているようには見えない
そこで信じるとの言葉にほっと一安心しつつも

「信じてもらえたようで何より…別に可愛いってお世辞じゃないんだけどな…ととと」

指を突きつけられれば両手を上げながら少し体をのけぞらせ

「取り敢えずこれで無事解放ってことでいいんだよね衛兵さん…あー名前聞いてもいい?」
少しにっとした笑みでそんなことを尋ねる

モリィ > 「……来ましたね公務員の所属と官姓名を聞き出すやつ。言っておきますが、上に訴えたところで無駄だと思いますよ、あの人達やる気ありませんから」
 同じ衛兵隊員として悲しいですけど、と渋面を作りながら呟く。
 無実なのに職質を受けたと彼がクレームを申し入れたとしても、いつものように上司は面倒がって動くまい、と我が職場ながら自浄能力のなさを嘆くばかり。
 実際には汚職を許すまじと日夜眦を吊り上げて身内を監視している少女が居なくなるのであれば、上司たちは喜び勇んでクレーム対応に勤しむだろうがそれは少女の知らぬところ。
「王都衛兵隊、モリィ・フランです。一応あっちの富裕地区との境にある屯所が職場ですよ。私の勤務態度についてのご意見ご苦情はそちらへどうぞ?」
 突きつけた人差し指を下ろし、名を明かすと一連のやりとりでずれた眼鏡を直す。

ジュン > 「そういうんじゃないんだけど、単なる興味…苦労してるんだねぇ」

彼女の呟きに同情しつつ

「モリィちゃんね、うんうん良い名前だ、覚えたよ
…別にクレーム入れるためじゃないよ?うん」

一応念を押すように付け加えて

「ま、余計なお世話かもだけど頑張り過ぎな様にね…とそろそろ宿に戻ってもいいかな?」

モリィ > 「ええどうぞ、こちらの用は終わりです……と。念の為確認ですが、宿というのはどちらに?」
 この長身の男性を好き好んで狙う不審者も居ないだろうが、どうも頼りなく見える彼を一人で返すのも忍びないような気がする。
 どうせこの時間ならば先輩一同は屯所を閉めて飲みにでも繰り出しているだろうし、場所次第ではこのまま直帰を兼ねて送ってもいいかと考えた。
 無実の民を疑ってかかった罪滅ぼし、というわけでは無いけれど。
「もういい時間ですしね、変質者はさておいても物取りや強盗が出ないとも限りません。あなた冒険者にしてはなんだか気が抜けたように見えますし、私も帰るついでに送りますよ?」

ジュン > 「宿ならこのまままっすぐ行った普通のとこだよ」
これも職質の一環かと思い素直に応えると
それに帰ってきた言葉に少々驚きつつ

「んーわざわざそんな…でもま、可愛いことちょっとでも一緒に居られると思えば
折角だしお世話になっておこうかな
…俺そんな風に見えてるの…」

若干冗談めかしながらも提案を受け送って貰うことにする
ただ、自身の評価にはほんの少しショックを受けたようだった

モリィ > 「仮にあなたが犯罪者だったとしても殺人犯や凶悪犯罪者には見えませんね。いいところで空き巣、せいぜい下着泥棒とか」
 例えが何故か犯罪者なのは職業病だろうか。つまるところ、日常的に生命のやり取りをするような世界の住人には見えない、もう少し親しみやすいこちら側の人間としか思えない、という旨を少女流の物言いで伝えたいのだ。
「ここで知り合ったのも何かの縁ですから。シェンヤン風に言うとなんですっけ。裾擦り合う? まあいいです。あと、可愛いと言うのはもっとああいう子を指して言うものですよ、眼鏡買ったらどうですか? オススメの店を紹介しましょうか?」
 道すがら行き交う人々に声をかけて呼び込みをしている若い、それこそ100人に80人は可愛らしいと評するであろう娼婦を指し示して言う。
 それに比べれば少女は無駄に背が高く、肉付きもやや良すぎるほど。顔はそばかすがうっすらと浮き、分厚い眼鏡が目元を隠している。髪色も瞳も地味な色合いで、容姿に誇るところはほとんど無い。
 女性的な可愛らしさはもとより、マスコット的な可愛らしさすら無いでしょうに、と苦笑してみせた。
 

ジュン > 「あはは…そこまで悪く見えないと受け取っておくよ」
評価には苦笑いしつつ意図をなんとなく察し

「そうそう確かそんな感じ…んーまあ確かにああいう子も可愛いんだけど
モリィちゃんにもまた違った可愛さっていうか…まあ俺には可愛く見えるんだって
あと目はいい方だから眼鏡は大丈夫だし」
刺された娼婦に少し目を向けつつも、視線をモリィに戻したと思えばすっと顔を覗き込んだりしつつ

モリィ > 「もうずいぶん失礼は重ねたと思うので遠慮なく言いますけど、美的センスが変わってるとか言われたことはありませんか?」
 目が良くてなお可愛い可愛いと褒めそやされれば、流石に頬に僅かに照れの色が差す。
「まあでも爬虫類や水棲の魔物の類を可愛いとか言って飼う人も居ると聞きますしね、そういう趣味の人も世界に一人くらいはいるかも知れませんが……」
 覗き込まれれば、歩行の邪魔ですと切り捨てながら顔をそむける。
 間違いなく頬が熱い。慣れない世辞に少し動転しているのだろう。そんな顔を市民に見せる訳にはいくまい。

ジュン > 「いや、そんなことはないけれど…ない筈…」

流石に面と向かって言われたことはない陰ではどうだか知らないが
邪魔になると言われれば素直に引く、ただ

「もしかしてちょっと照れてる?」
目がいいというのも嘘ではなかったようで
暗いというのにそういう変化にも目敏く反応する

モリィ > 「照れてません」
 きっぱりと言い切る。
「照れません。お世辞で動じるようでは衛兵失格でしょう?」
 言い切る割には眼鏡を直す頻度が高い上に、顔は背けっぱなしである。
 見られていたとも知らず、強情に照れていないと繰り返す少女は、一言発するごとに墓穴を掘っているようなものだ。

ジュン > 「ふー…ん?」

明らかに訝しむ様な声
しかしそれ以上は追及しなかった丁度目的地に着いたからだ

「っと、ここだここ、送ってくれてありがとうね」
無事たどり着いたことに礼を言う

モリィ > 「いえ、これも衛兵の仕事のうちですから」
 着いた、ということで立ち止まり向き直る。
 朱が差した顔もみるみる衛兵らしく引き締まり、ぴしりと踵の揃った敬礼で挨拶を送って
「お疲れ様でした、良い夜を。怪しまれるような行動は程々になさってくださいね、本当に……!」
 彼を送ったことで本日の仕事は終了。一日の疲れを解すように眼鏡を外して目頭を揉み、くっと伸びをする。
 と、制服に包まれた上からでもわかるほど大きな胸がたぽんと揺れた。
「それではお休みなさい。今後も何かあればすぐ衛兵屯所に通報してくださいね」
 さて私も帰るか、とあくびをひとつ。

ジュン > 「うんありがとう、気を付けるよ…おぉ…」
たぽんと揺れる胸に目が奪われ声が漏れる

「っとそれじゃモリィちゃんも気を付けて
今度は職質じゃなくてお話がしたいねそれじゃあお休み」

モリィ > 「はいはい、お話は非番の日にでも」
 彼の視線に気づくこともなく、眼鏡をかけ直して踵を返して夜の王都に消えてゆく。
 帰り道でまたも小さな諍いに首を突っ込んで煙たがられたのだが、それはまた別のお話――

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からモリィさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からジュンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にモリィさんが現れました。
モリィ > 今日も今日とて王都の治安を守るのが衛兵の仕事である。
 周囲の同僚や先輩たちにやる気が無かったとしても、それは自分もやらない理由にはならないだろう。
 むしろ同僚がアテにならない分自分がしっかりせねば、と思えば気合も入ろうというもの。今日は珍しく胸甲とガントレットも引っ張り出したフル装備で夜の平民地区を警邏中だ。
 やる気十分とは言え、つい今しがた少年を脅して親の財布から金を抜き取らせていた悪ガキ数人をしょっぴいたばかりなのでここらで一息入れるとしよう。
「……といっても、衛兵が堂々と何処かに座って休むのもあまり良くありませんよね。私はあのぐうたらな先輩方とは違うんです。衛兵隊のイメージアップに務めなければ」
 仕方がないので酒場で水筒によく冷えた水を買い、道の端に避けて一口含む。
 今日も概ね平和といって良いだろう。多少の軽犯罪が起こる有様が平和というのも複雑な気持ちになるが。

モリィ > 「どうしたらこの国はもっと良くなるんでしょうね……」
 いっそのこと犯罪者は罪の大小問わず根こそぎ牢屋に放り込むべきでは、と過激な発想に至っては首を横に振ってその思考を隅に追いやる。
 そう出来たらどれだけ素晴らしいだろうか、と思わなくもないが流石に一人でやるのは現実的ではないだろう。せめて最低でも同じ志を持つ人が数十人は居てくれないと。
「はー……私のやっていること、無意味だなんて思いはしませんがこうも治安が良くならないのは無力感を覚えますね……」
 頬が赤らみ、普段ならこぼさないような愚痴がスルスルと唇の間から流れ出る。
 冷水を飲んでも飲んでも体が冷えるどころかかっと熱くなるような気すらする。
 ――気のせいだろう、きっと。自分に言い聞かせながら水筒の中身をもう一口。
「ぷはぁ、もう一頑張りしないとですね……」
 ふらりと街道に歩み出て、警邏活動に戻っていく少女。
 その背後で酒場の店主がもしかして注文を聞き間違えたかと首を捻っているが、彼が視線を向けた頃には衛兵隊の制服を纏う少女は雑踏に紛れていた。

モリィ > 「もーーーーっ!! 皆決まりは守ってくれないと逮捕しますよ!!」
 夜の街に響く衛兵少女の叫び。
 道行く人々が何事かとぎょっとした顔で距離を取って少女を見れば、当の少女は熱っぽい息を吐きながら赤ら顔をかくかくと揺らしている。
 酔っぱらいの戯言か、と周りが納得して各々の用事に戻っていくのと反比例して、視線を浴びたことで夜の町中で叫ぶという失態を自覚して青くなる少女。
「…………わ、私いま何を……いけませんいけません、衛兵たるもの非常時でもないのにこんな時間に大声を出すなんて……!」
 そういえばさっきからやけに頭がぼーっとする気がする。働きすぎで体調を崩したのだろうか。ひとまず喉を潤すべく、水筒の中身をもう一口。ひっく。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にギュンター・ホーレルヴァッハさんが現れました。
ギュンター・ホーレルヴァッハ > 商人ギルドで開かれていた会合の帰り道。
馬車を利用しても良かったのだが、平民と言葉を交わし、生活の様を直に見るのも貴族の務めと、徒歩で富裕地区までの帰路についていた。
尤も、そうでもしなければ馬車の中にまで押しかけて来そうなギルドの有力者達を煙に巻くための言い訳でもあったのだが――

「……また、随分と賑やかな事だ。いや、活気があると言うべきか」

夜の帳が下りても未だ賑やかな街を眺めながら歩いていれば、思っていたより近い所から少女の叫び声が耳を打った。
最初は威勢の良い町娘でもいるのだろうと、何の気なしに視線を向ける。しかし、其処に佇んでいたのはやたらと気合の入った装備を身に纏う衛兵。
人々の視線から察するに、先程の叫び声は彼女のもので間違いないのだろう。

「……威勢が良いのは構わないが、市民を脅かしてはいけないな。仕事熱心なのは喜ばしい事ではあるがね」

特段責めるべき様な事でも無いし、気合が入っているのは寧ろ褒め称えるべき事なのだろう。だからこそ、彼女に近づいて忠告を兼ねた言葉を投げかける。
随分と背の高い衛兵もいたものだな、と彼女を見上げながら思って居たり。

モリィ > 「……はい?」
 声を掛けられ振り返れば、見るからに高級そうな装束を纏った見目麗しい……少女? いや、男物の服装に足運びからして少年だろうか。
 些か回転の鈍った頭でも、その格好がただの平民や豪商ではないと理解できる。
 となれば貴族か王族だろうか。護衛も無く――いや、私ごとき平の衛兵に気取られるようではやんごとなき方々の護衛として失格だとか、そういう隠密の者がいるのかも知れないが――見る限りでは一人で、馬車も使わず歩いているようだ。
 怪しい、と思ってしまうのは職業病だろう。政争や陰謀劇で法に触れる者が多い印象の強い貴族階級だが、そうでない方々も少ないながらに居るはずだ。そういう方は衛兵にとって守るべき存在であるし、仮に目の前の彼がいかにも想像通りのそういう貴族だったとしても確たる証拠もなしに疑ってかかる訳にはいかない。
 下手をすれば物理で首が飛びかねないわけだし。
 ――とここまでを硬直したまま脳内で考え、それから慌てて姿勢を正して敬礼を送る。
 ふらつく足元で若干よろめきながらも、衛兵の規範と言っていいほど整った敬礼を捧げて。
「失礼いたしました。……失礼ながら高貴な身分の方とお見受けしますが、お一人で平民地区に?」
 治安に関わる問題でもある。彼がまっさらホワイトだとしても、貴族は狙われやすい。陰謀絡みはもとよりカネ目当てや、見目麗しい彼を直接欲した衝動的な犯罪が発生しないとも限らない。
 未然にその芽を摘む努力をするのが衛兵だろう。――気づけば酔いはすっと引いていた。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 幾分怪しげな足取りに僅かに怪訝そうな瞳を向けるが、疲れているのだろうと直ぐに疑念の色は払拭する。
現に、此方へ向ける敬礼は見事と言って良い程に整っていた。付け焼刃では無く、普段から真面目に業務に取り組んでいるのだろうと推察すれば、穏やかな表情を浮かべて口を開く。

「そう畏まる事は無い。楽にすると良い。
…いや、所用を済ませるまでは付き人も居たのだがな。偶には街を一人で散策したくなったので、こうしてのんびりと市井見学と言ったところだ」

彼女の告げる疑問は最も過ぎる程明快なもの。明らかに上流階級ですと言わんばかりの身形をした己が一人でのほほんと歩いていれば、そんな疑問を持つ事は当然だろう。
だからこそ、特に気を悪くした様子もなく淡々と言葉を返して頷く。彼女から見れば、世間知らずの貴族が鴨が葱を背負っている状態でうろついている様に見えるだろうかと内心苦笑しつつ。

「……ふむ。名は知らぬが、貴様の姿形は見覚えがあるな。私の覚え違いでなければ、最近王城の警備に当たっている衛兵…の様な気がするのだが。王城警備をこなしつつ、こうして夜警に励むとは感心な事だ」

己より背の高い女性の衛兵ともなれば、視界に映る度に印象に残ってしまう。流石に顔や名前を知る訳では無かったが、生真面目な風貌の長身の女衛兵、となれば記憶を掘り起こすまでも無く、該当する兵士の姿が思い浮かんだ。
素直に彼女の仕事ぶりに感心している、という様な口調で言葉を繋げながら、しげしげと彼女の様子を観察している事だろう。

モリィ > 「はっ、光栄です! 王都衛兵隊所属、モリィ・フランと申します!」
 王城警備は望んだ職務ではないといえど、その仕事ぶりを評価されて嫌な気持ちにはならない。
 楽にせよと言われてそのとおりに姿勢を崩すわけにも行かないが、先輩方のように少しでも媚を売ろうと姿勢を正し続けるのも違うような気がして、少しだけ肩の力を抜いて。
「市井の暮らしを見て頂けるのは、まだ上が平民を見捨てていないという証になると思います。できれば見聞きしたことは政に映して頂ければ……あっ、出過ぎた発言でした。一介の衛兵ごときが、申し訳ありません」
 頭を深く下げて詫びる。やはり今日はやけに口の滑りがいい。靄がかった頭はいくらかスッキリしたが、要らぬ言葉はいつもより滑らかに唇から這い出していく。

「しかしお一人ですか。その、恥ずかしながら平民地区は治安も良好とは言えません。せめて富裕地区にお戻りになるまで、私がお供してもよろしいでしょうか?」
 同僚のように貴族に取り入る、だとか名前を売って便宜を図ってもらう、などという考えを持たずに純粋な好意と治安維持への情熱を以て提案する。

ギュンター・ホーレルヴァッハ > 「うむ。与えられた仕事に熱意を持ち、その熱意を守るべき民に向ける貴様の名は、並み居る貴族よりも覚えるに値するものだ。
モリィ・フラン。貴様の名を耳に出来た事を、喜ばしく思おう」

小さく頷きながら、彼女の名前を口にして穏やかに微笑む。国を支配する立場に立つ己からすれば、彼女の様に職務に忠実な衛兵というのは何人居ても困る事は無い。
僅かに肩の力を抜いた彼女を満足げな様子で眺めつつ、次いで彼女が告げた言葉を聞けば静かに口を開く。

「……いや、貴様……ああ、すまない。フランが謝る事は無い。頭を上げると良い。…寧ろ、それは市井の者が抱く共通の願いであろう。それを全て叶えるとは約束出来ぬが、皆が富み、皆がより良く暮らせる為に、彼等から傾聴した事は活かすつもりだ」

首を垂れる彼女に僅かに苦笑いを零しつつ、気にする事は無いと言わんばかりの口調で声をかける。
実際、特権階級である王族とはいえ、民からの支持が無ければ立ちいくものではない。王族、貴族としての権利は、天から与えられたものではないと理解している貴族が、果たして何人いることかと内心溜息を吐き出した。

「…む?確かに治安が良好と言い難い事は十分に理解しているが、此れでも魔術には自信があってな。多少の荒事ならば……」

と、彼女の仕事を増やす訳にはと断りの言葉を告げようとするが、彼女の言葉が純粋に己の身を案じている事を理解すれば少し考え込む様に言葉を止める。

「…いや、そうだな。職務熱心な衛兵殿に控えて貰えれば、雑事を気にせずに帰路につけるというものだ。すまないが、フランの申し出に甘えるとしよう」

その熱意と好意に水を差す事は野暮か、とクスリと笑みを浮かべて彼女の言葉に頷いた。

「……では、道中名無しの貴族でいる訳にもいかぬな。私はギュンター・メルヒオール・フォン・ホーレルヴァッハ。此の国の王族の地位を頂くホーレルヴァッハ家の長子。
長い名故、好きに呼んでも構わぬ。無駄な敬称は時間の無駄であるしな。……何なら、ギュンターと呼び捨てにしても構わぬぞ?」

長ったらしい名前を告げた後、悪戯を告げる子供の様な笑みと共に緩やかな動きで彼女を見上げ、その暗緑色の瞳に視線を向けた。