2018/12/26 のログ
■紅月 > 「さぁて、次のオイシイを探しますか!
…オヤジさん、後でまた来ていい?」
最後の一口を頬張れば、横の窓から半身を出して喧騒を眺める酒場の店主に一言断りを入れて立ち上がる。
彼はカラカラと愉快げに笑うと『好きにすればいい』なんて、後ろ手に軽く手を振りながら食器を下げに店内へと引っ込んでしまった。
そんな後ろ姿に「行ってきます」なんて小さく呟けば、再び喧騒の中へ。
「何がいっかなぁ…串焼きはいつも買い食いしてるし、揚げ物もなぁ」
しゃらりと簪を鳴らし、高く結い上げた紅の髪を揺らめかせ…キョロキョロとせわしなく屋台を眺める。
味の濃いものを食べると酒が欲しくなるのは食習慣のせいだろうか…今日の飲酒は散歩の後と決めていた故、ツマミ系統は後回しにして別のものを探そうと気が向くままに歩を進める。
■紅月 > 「ピザにローストポーク、キッシュもいいなぁ。
…あっ、このクッキーかわいい」
あっちにフラフラ、こっちにフラフラ…やがて吸い寄せられるように立ち寄ったのは、甘味通りにあるお菓子屋さんの出張ワゴン。
飯より甘味とまでは言わないが、甘いものは別腹…ついついつられてしまうのは仕方の無い事なのだ。
しかも冬至祭限定のキュートなデザインとなれば…うむ、可愛いは正義である。
「これと、これと…こっちのはジンジャーとスノーボールなんだ?
ふふっ、それじゃあコッチのも1つずつと……あぁ、ソレは今食べるから…」
幾つかチョコとクッキーの小袋を見繕い、家人ならぬ家竜や家妖精達にお土産を購入。
たまには名店のお菓子も悪くなかろ、なんて楽しげに微笑んで店員に手を振る。
■紅月 > そうして…やがてまた、喧騒の中へ融けてゆく。
…その日、とある酒場にて一見の女が飲み比べ勝負を挑まれ、常連の男共をバタバタと酔わせ潰したらしい。
が、それはまた別のお話。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/冬至祭」から紅月さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 どこかの通り」にアルブムさんが現れました。
■アルブム > 冬のある日、王都の何処かの通り。
空は快晴、陽はさんさんと照りながら昇りつつも、未だ天頂には達せず。風は冷たく、冬本番が近いことを予感させる。
それでもここは王都のなかでは治安の良い地区であり、住居も店も多い。
目の前には公園もあり、そこかしこでちびっ子たちが元気に走り回っている。汗をかき、白い息を撒き、寒さなど知らぬかのよう。
もちろん、一歩でも大通りから外れて暗がりの裏路地に入れば、トラブルの種はいくらでも転がっている。
公園で遊び回る子供たちもその事は親に言い含められて重々承知。王都とはそういう場所。
そんな、公園を眼前に捉え小さな路地を背にしたような角地のレンガ造りの住居の壁に、ひとつの小さな人影が背をもたれさせていた。
彼の手には陶器製のマグカップ。ほかほかと湯気を立て、熱い液体が入っていることを物語る。
「……ああ、よかったです。大好物のレモネード、今日は売り切れ直前でギリギリ買えました」
誰にともなく呟く。その声は楽しげに歌うよう。見た目は少年のようだが、声色は甲高く、声変わりを感じさせない。
ニコニコと目を細め、カップの中の液体から放たれる柑橘の香りを鼻いっぱいに吸い込む。
少し口を付けて、すぐ離す。そして、ふぅふぅ、と頬を膨らませて息を吹き込む。
熱いのは苦手なようだ。喉を潤すのはもう少しおあずけ。
■アルブム > 公園を駆け回ってはギャアギャアと喚き散らす子供たち。
アルブムもそんな彼らとそう変わりない、児童と呼んで差し支えない背丈である。顔のつくりも幼い。
だが、彼は大人ではないにせよ、すでに自立したひとりの人である。引率者もなく、ただ一人で王都にやってきた旅人なのだ。
どこか異国情緒を感じさせる不可思議な着衣と。
そして、傍らの壁に立てかけられた、アルブムの身長を頭1つ分ほど上回る巨大な木の杖の存在。
これらが、彼を王都にいる多くの子供たちと、印象を明確に異なるものとしている。
……まぁ、とはいえ、やはり大人でもないわけで。
「…んふふっ、あまぁい♪」
カップを桜色の唇に運び、充分にぬるくなったレモネードを一口すすると、少年はとろけるような笑顔を浮かべた。
「今日のレモネード、いつもよりハチミツが強い気がします。ちょっとだけ舌触りもトロッとしてるような。
いつもと変わらない店なのに、どうしたんでしょう…?」
幸せに満ちた顔のまま、アルブムはふと浮かんだ疑問を口に出す。やはり、語る相手はいない。
通行人に問いかけるわけでもなく、まるですぐ目の前にいる知己に語るかのように、はきはきと言葉を紡いでいる。
その様子だけ見れば、せん妄でも患ったキチ……病人に見えなくもないだろうが。
「……え? 昨日ぼくが良いことをしたから? えへっ、そうでしょうか…? 何かしたかなぁ~?」
3呼吸ほどして、また何かを楽しげに語る少年。
その所作は楽しげなれど、見る人が見れば危なっかしさすら感じられる雰囲気であろう。
それとおそらく、レモネードが甘いのは売り切れ間近(=容器の底の方)を買ったので蜜が沈殿していたためだ。
■アルブム > ぴゅう。路地を強い寒風が駆け抜ける。街路樹を揺らし、裏路地の入り口で口笛めいた風鳴りが響く。
「ひゃっ…!」
突然渦巻いた冷気の襲来に、アルブムは猫めいて甲高い悲鳴を漏らす。
股下10cm程度までを隠していた丈の長いポンチョが、風に煽られてふわりと舞い上がる。飲み物を手にしたアルブムは裾を抑えそこねる。
ポンチョの下は、つやっとしたタイツ。よく見られるロングスパッツ等と違い、ヘソから上までも一続きの布地で作られている。
実のところ、足先から両手の先までを覆い尽くす完全な全身タイツなのだ。
そして、巻き上がった上着の裾からは、ほのかに膨らんだ股間すらも露わになる。
陰嚢の球形だけでなく、小さな突起の存在すら浮き彫りである。
長く髪を伸ばし、愛らしい高音の声を放つ彼が、正しく男性であることを物語る造形である。
膨らみが露わとなった瞬間を見据えた通行人はいただろうか。いたとして、さして有り難い見世物でもなかろうが。
風が通りを駆け抜けて暫くは、さすがに子供たちも駆ける脚を止め、肩をすくめる。寒さに悲鳴を上げる者も数人。
しかしアルブムはマグカップを両手で支えたまま、舞い上がったポンチョも重力で整えられるままに任せ、なおも微笑を浮かべている。
「……やっぱり、王都の冬は過ごしやすいですねぇ。コーキの村はもう雪が積もってる頃でしょうか」
故郷の厳しい冬を思い浮かべれば、この程度の寒風はどうってことない。
寒冷地で開発された特別なタイツを履いていればこそ、でもあるが。
■アルブム > 「ん、ちゅ……ずちゅ……ぷは。もう飲んじゃいました」
もう、と言う割にはかなり長い時間をかけて、マグカップ1杯のレモネードを飲み干したアルブム。
コップの底に溜まったとびっきりに甘い蜜と果汁のドロドロを啜るように口に運ぶと、しばしそれを舌で転がす。
「よしっ。朝ごはんのあとの甘いものも美味しかったし、今日も一日がんばりましょうっ! なにかを!
……とその前に、コップを洗わなきゃですね。《かみさま》、お水をください」
空になった容器を指に掛けたまま、またしても中空に向けて何かを宣うアルブム。
答えるものはやはり居ないが、しかし。空のコップの中に、まるで湧き出るように液体が満ちてきているのが見えるだろうか?
アルブムはそれをくるくると振って渦を作り、そしてすぐそばの植え込みへと捨ててしまう。
何らかの方法で水を創り出し、それでレモネードの糖分を洗い流したのだ。
強く振って水気を切ると、それをベルトポーチの中に仕舞い込み、そして壁に掛けていた木の杖を手に取る。
「さてとっ! 今日はどこで何をしましょうか、《かみさま》?」
朗らかに声を上げながら、アルブムは意気揚々とした足取りで、街の中心へと向かって行ったのであった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 どこかの通り」からアルブムさんが去りました。