2018/11/30 のログ
ジェネット > 兜を膝に抱えて、フォークで人参グラッセを突き刺して口に放り込む。
人参本来の甘みが活きて、マスターの腕の良さが伺える。
美味い。また人参喰いにこよう……

「むぐっ。……いえ、あまり」

隣の席に陣取ったアマーリエ殿に見てわかるほど動揺しながら、チキンを頬張ってエールで流し込む。
人化を解くことの出来ない、狭い上に亜人をあまりよく思っていなさそうな娼婦相手では息抜きもいまひとつ。
これで"どちらも付いている"娼婦であれば、もう片方で発散出来ただろうが、そういうわけでもなく不完全燃焼なのだ。

「…………というか、アマーリエ師団長殿はどうしてこんなところにいらっしゃるので?」

師団長殿、と強調してささやかな意趣返し。
お偉い軍人閣下がなんでまたこんな酒場にいるのだろう、という単純な興味も含めて問う。

アマーリエ > そう。店の見た目と来客の層は如何にもな癖に料理はそうではないのが、タチが悪い。
この雑然さを利用して、後ろ暗い取引等に勤しむ類も居るが、自衛を弁えた真っ当な客もある。
故にリピーターの類も居るだろう。昔も含め、自分もその一人である。
乱交パーティなぞやらかしかけた知り合いも居て、店の主に大目玉を喰らったが良くも悪くもいい思いであった。

「そう。……いい男や女でも引っかけれなかったのかしら。ま、そんな時もあるわよ」

とやかくは聞くまい。
男だろうと女だろうと、芳しくないコトがあれば独りで酒を呑みたい夜だってあるだろう。
ただ、その中身は少なからず余り大っぴらにしたくない事柄であろう。
動揺振りを愉しみながら、微笑む表情はどこか優しい。

「ン? 散歩よ。散歩。気分転換という奴。
 私は今の身分になる前は冒険者をしてたの。ここらの店はその時に知ったのよ」

意趣返しめいた言葉に、あらと少しばかり困ったような風情で周囲を憚るように見遣ろう。
然るべき書類等や発表等を辿り、紐づけられる情報通が居れば自分の現在の身分を知り得るものは居るだろう。
一先ず、大騒ぎになっていないに内心でホッとしながら、グラスを傾ける。

ジェネット > ぐびぐびとエールで美味い肉を味わい、そして大好物の人参に舌鼓を打つ。
趣味の方は散々でも、飯が美味いのでプラスマイナスゼロというところだろうか。

「…………まあ、そんなところです。いい女でしたら今引っ掛けられそうですがね」

酒が回って気が大きくなって、へらりと軽薄に笑いながら隣の美人将軍を見る。
うん、綺麗な人だ。羨ましいくらいに。
肌も髪も、馬の体毛に至るまで黒っぽい地味ーな私とは大違い。
生まれ変わったら金髪に白い肌、白い体毛の白馬の人馬になりたい。民族的にそんなの居るかはわからないが、夢見るくらいは自由だろう。
そんな風にじーっと隣の美女の食事姿を眺めて、ほうっと溜息を吐きながら耳を傾ける。

「なるほど、古馴染みですか。人間というのは偉くなればそれ相応の店に入り浸って過去の馴染みは簡単に切り捨てると思っていました。
 貴女は本当にこう、偉い人間族の嫌味というのが無くて好感が持てるなあ」

アマーリエ > 「いい女? ……――ありがと。
 私も独り呑みせずに済んでよかったわ。
 それとね。別に隠し事は抜きで良いわよ? 戦場の働きぶりと素行不良以外は評定には入れないし」

褒められるのは、いやな事ではない。
実際には単なる女ではないけれども、悪く言われるよりもよく言われる方が気持ちとしては良い。
仕事柄、今も昔も独りで飲み食いすることはある。
職場で食事を運んでくる侍従? あれは勘定には入れない。
何処ぞの逸話かは知らないが、楽団に演奏させながら飲み食いするのも以下同文だ。

「気晴らしがしたかったのよ。
 性根はこっち向きよ、きっと。……面倒臭いのは嫌いなのよ。せめて呑むなら気兼ねなく呑みたいわ」

高級貴族の御用達の店は仕事柄、家系柄の付き合いで幾つか覚えはある。
しかし、青春時代と云うべき時分を武者修行のための遊行で過ごしたのはやはり大きい。
何より必要であるとはいえ、脂ぎった貴族たちの会食に嫌々出て、ボロを出してしまうリスクは避けたかった。
仕えるべき王以外に遠慮はしないが、少しは自重せよとも副長からの進言もある。
直ぐに空にしたグラスを店員に差し出せば、おかわりを貰う。

ジェネット > 「私はまさか知り合いに会うとは思わず肝を冷やしましたがね。
 ……はは、それはありがたい。……ええ、まあ。人様に言うような趣味ではありませんので」

隠し事は抜きでいい、と言われても、じゃあ言います。娼館通いが趣味です、雄馬として。
なんて上司にする話ではない。曖昧に笑って誤魔化し、人参をもぐもぐ。
まあ、趣味の話は出来ずとも上司と親睦を深める機会かと思えば悪くはないか。

「…………わかる気がします。
 私も草原の自由な気風が懐かしい時がありますし。
 望んで王国に来たんですが、どうしてもね……」

閣下も偉い人なりに苦労があるのだなあ、大変そうだと少しだけ他人事のように想う。
あるいは、背中を捧げる騎士がそういう位の高い相手ならばいつか私も他人事でなくなるのかもしれないが。
気づけば空になった皿をフォークが叩き、とりあえず閣下に倣って人参とエールの追加を注文。

アマーリエ > 「本拠に詰めなきゃいけないなんて契約事項は用意してない以上、あり得ることよ。
 
 ――ふぅん。
 それ、言葉の裏で言うなら他人サマに大っぴらに言えない趣味ってことね……って、冗談よ冗談」

娼館通い位別に問題ない。抱くなら、女陰を穿つ方が好み――ともあっさり言うには少々由縁が足りない。
しかし、その濁し方はどうだろうか。
指先にバケットについた油が見えれば、それをぱくっと唇で含んで拭いつつ思考を回そう。
一瞬、さらにからかうような人の悪い笑みを垣間見せて、からからと笑って注ぎ直した赤い酒を味わう。

「儘ならないわね。……偶に帰りたくなっちゃう?」

自分だけではなく、他者にも相応の思い煩うことはあるだろう。
身分然り、出自然りだ。辺境伯の出であるが、一時期放蕩の如く冒険者をしていたとなればよく見られないこともある。
まだ残っているサラダの皿を突きつつ、追加注文を行う姿を横目にして問おう。
帰る分については、きっと故郷のものも迎えることかもしれないが、そうもいかない出自だろうか。

ジェネット > 「ご、合法の趣味ですとも! この話は此処までにしましょう、食事しながらする話でも無いでしょうし」

悪い笑みに慌てて訂正を入れる。
これ以上突っ込まれればなし崩しに吐かされそうだ。
差し出されたフライパンから追加の人参を皿で受け止め、口へ運ぶ。

「そうですね……いえ、帰っても昔のような生き方はきっと出来ません。
 王国の暮らしを知ってしまったし、何より草原を出るときに大父の気遣いを蹴って来ましたし」

一廉の戦士として女ながらに帝国辺境を荒らし回った身、成人の時には弟妹の何人かと退役間近の老戦士、
それと何人かの父の妾を分け与えられて独立するか、それか内地の大部族の長に嫁ぐか――氏族の妾子としては破格の将来を提示された。
……が、それを蹴って王国を目指した。
今更夢破れたので出戻りました、は通用すまい。
仮に受け入れられたとしても、南の小部族に嫁いで王国との細い交易路を守る役割につけられるくらいが関の山だろう。

「なので、帰りたいとはあまり。広い草原を全力で駆け回りたいとか、そういう欲求程度ですよ」

アマーリエ > 「ふふ、御免なさいね。あなた、面白いからついつい口が乗っちゃったわ」

何となく――見えてきた気がする。
絞られてきた要件を脳裏で並べて、ふふーんと目を細めて面白そうに口元を綻ばせる。
そういう趣味でも構うまい。傭兵として求める面としては、最低限依頼すべき用を満たす実力と礼を弁えているかだ。
実力はあっても、礼を弁えていないものは能力だけはあっても正直、肉壁にしかできない。
戦闘前の打ち合わせであからさまに、使えないという雰囲気を出していれば用途を絞って駒とするしかないのだから。

「でしょうね。……えっと。吐いた唾は呑めない、だったかしらそれ。
 後は自分で身を立てるか、嗚呼、前に言っていた相応しい主を見つけられるか、ね」

確か、前にそう言っていた記憶がある。
サラダを食べ終えて、一息しながら直近の記憶を漁ろう。
傭兵として一層身を立てるよりも、どちらかと言えばそちらの方が何よりも優先事項であることだろう。そう思う。
己の場合は生まれとしては長子である以上、どうだろうか。
必然でもあり、出奔するのは尊敬していた父親に背くことにもなる。其れは誇りとして選びたくはない。

「現状、大きな戦の動きはないわ。うちの本拠中心の範囲で善ければ、走り回っても差支えはない頃合いね」

ジェネット > 「ぬぅぅ」

どちらかと言うと戦士寄りで気安い人とはいえ、さすがは王国の高官。
油断も隙もない人だ、と歯噛みしながら――あ、噛みしめると人参さらに甘くて美味しい。
それはそれとして、なんだか趣味を見透かされた気もするのが落ち着かない。
特に説教に入る気配もないということは、黙認してもらえているということでいいのだろうか。

「そういう言い回しもあるようですね。出た以上は戻れないので、未練はありません。
 自分で身を立てるよりは、信頼できる良い騎士を背に乗せたいものです。本当に、こればかりは」

騎竜を見せてもらうついでに騎兵にもいいのがいませんか、なんて言って見るだけ言ってみて。

「おや、それは嬉しい。ついでに軍馬連中を鍛えるのもいいですね、場所代の代わりということで」

生まれつき馬と高い精度で意思疎通ができる人馬族であれば、軍馬をより短期間で仕上げたり、より高度な訓練を施すこともできる。
走るついでに教導しますよ、と提案してエールを一気飲み。

アマーリエ > 「……今度付き合わせなさいな?」

面白そうだから、と。冗談ついでにそう宣ってみよう。
性向と性分の関係上、予想通りで相違なければ何故己が咎め立てする理由があるだろう。
美味しそうな子でも居れば、己も抱いてみるのも欲求解消としては悪いことではない。
もとより、戦場の倣いとしても何の問題はない。下手な街娼を捕まえて悪い病気を得るのではない限り、だ。

「シェンヤンの方には、ひっくり返した盆だか器の水は戻せないとも言ったかしらね。
 居ない訳じゃないけど、何処までご希望に沿えるかどうかは見てみないことには私も保証できないわよ?

 一応、前に出した許可については……うちの本拠の食堂への出入りについても有効よ。
 朝夕の食事の時間の前後とかに眺めてもいいかもしれないわね。
 嗚呼、ぐったりした騎士が居たら、そっとしておいてあげて。飛翔訓練で力尽きていると思うから」

居ない訳ではない。
もとより、竜に追従できる騎兵となれば他の師団の手練れにもおのずと負けぬ騎手ともなろう。そう信じている。
馬を見るよりも騎手を見るとなれば、それは食事時を見る方が機会としては良いだろう。
ただ、その際の注意点として一つだけ、空中で吐いてしまう程の過酷な訓練中の騎士はせめて、そっとしてあげて欲しいと。

「――あ、面白いわね。帰ったら提言しておいてあげる。多分、採用されるわ」

まだ、仕込み中の軍馬が数頭いただろう。
自軍の軍議を経て教練役の騎士にも話を通しておけば、取り計らえるだろう。
その際の手間賃も報酬として出せる。兵士もそうだが、良き馬とはこれもまた貴重なものだ。
己も酒を呑み干し、ほっと満足げに一息。

 

ジェネット > 「…………ええー」

ものすごく嫌そうにうなずく。
閣下を誘うとなれば、紹介できるのはあそこのあの子達だが……
なんとなくそれは嫌だ。独占したいわけではないが、知り合いがお気に入りの娼婦を買うのは妙な抵抗感がある。
"今度"までに閣下に紹介しても問題なく、かつ自分の本命でないところを開拓しないとなあ。財布に痛いことだ、としかめ面。

「ははは、閣下クラスの騎士……なんてワガママはいいませんとも。
 騎馬を慈しみ、一心同体となって戦場を駆ける心意気があればひとまずは及第点というところです」

なるほど、見て回る機会をもらえるのはありがたい。
気の合う者が居れば、誘ってみるのもいいかもしれない。
――問題があるとすれば、流石に恩ある閣下の部下を一介の傭兵が引き抜くわけにはいかない。
もし閣下の部下から騎手を選ぶなら、私自身が閣下の下に付く決意をしないといけないということか。

「それは何より。先のタナールの奪還戦のように、皆が私のように最速で敵陣に突破できるよう教導してみせましょう。
 騎竜だけでなく騎馬も精強な部隊ともなれば、機動力に長けた無二の戦力に成るのではないですかね」

軍事、戦略の何たるかは戦士の考えるところではないが、統率の取れている速力を持った集団が戦で脅威となるのは
草原の氏族として帝国軍と戦ったときに自ら示したところでもあるし、自らの身をもって味わったこともある。
人間の速度に限界がある以上は、それを補う軍馬が精強であれば大きな戦力となるだろう。

アマーリエ > 「……――なに、その顔? 或いはあなたでも、かな。気持ちよさそう」

ぇー、と己も言いたくなる。勿論、冗談であることを弁えた上だが。
不承不承を通り越して、思いっきり嫌そうな仕草に頬杖を突きながら柳眉を顰め、問うてみようか。
その気があれば逆に向こうを己が抱くのもアリではあるだろうが、強要はするまい。
趣味としては分かるにしても、やっぱり何にしても金がかかる遊びでもあり趣味でもある。

「自惚れなんて好きじゃないけど、私と並べるとなると、うん。……手練れ中の手練れよねぇ。
 もしうちの隊で見つけるつもりなら、その時は考えておいて頂戴な。
 腕の立つ者の種族なんて正直どうでもいいけど、ちゃんと色々諮っておくのが決まりだから」

引き抜きをしたいとなると、釘を刺しておきたい。
おかねばならないのは立場上止むを得ないのが、辛い処である。
騎手のそれこそ嫁として来るのであれば兎も角、だ。
自分のものとしたいとなると、引き換えとしてどうすべきか。釣り合いを取れる措置と落としどころが必要だ。

「そうね。馬も竜もまだまだ揃えたいけど、数は少ない分だけ練度は限りなく上げたいのは正直な所よ。
 兵馬も金も限りがあるもの。天地に比類なしなんて難しいけど、力を貸してくれると嬉しいわね。」

精強な騎兵は竜騎士の添え物としてだけではなく、即時投入できる己が師団の主軸の一つである。
竜騎士は強力である分、数が限られる。特殊ではなくとも、重騎兵も揃えて強力であればあるほど良い。
懐から取り出す懐中時計の蓋を取り出し、時刻を確かめれば上着のポケットを漁る。
取り出す硬貨は向こうの分の勘定だ。依頼する仕事の前払いも兼ねて置いておくとしよう。
 

ジェネット > 「私……ですか?」

物好きな人だ、と笑うが本気であればやぶさかでもない。
お気に入りを紹介しないで済むし、代金も浮く。何より、自分自身この人は嫌いではないようだし。
あとは身体の相性次第ではあるけれど、条件としては悪くはないかもしれない。
人参の最後の一欠片を頬張って、咀嚼しながらどうだろうと吟味して。

「はは、その時は是非声を掛けてください。雄としてでも雌としてでもお付き合いしますよ」

頷いておく。合わなければそれきり、傭兵と将軍の関係に戻るだけでいいのだ。
合えば何度も抱かれるのも悪くないし、損のない提案だろう。

「……ええ、考えておきます」

自由な傭兵としての生活を捨て、軍に入る。
あるいは適正無しとして首を切られる可能性も無いではないが。
何にせよ、十師団で騎手を選べば相応の将来を覚悟せねばなるまい。
――将来有望な騎兵、かつ人馬を恐れぬ気性で、欲を言えば嫁ないし婿……我ながら高望みしすぎるとこうなるのだなあ、と遠い目。

「閣下にはいろいろと恩がありますし、そこはご安心を。
 何、草原の民は恩も恨みも忘れませんからね。
 貴女への個人的な恩返しとして受け取ってください」

閣下がこちら分まで支払おうとするのを押し留めて、自分の分は自分で支払う。
個人的な思いつき、恩返しなのだ。代価を貰って仕事にするのは違う、と首を横に振って。

「帰りますか、閣下。どうです、師団に帰るなら乗っていきませんか」

馬の尻尾をふわりと揺らして、人目のないところで人化を解けば帰りの足くらいにはなりますよ、と。

アマーリエ > 「ん、あなた。――有難う。今度、付き合ってくれると嬉しいわ」

あ、私が雄の方になるけど、と。
そう言い足しつつ、愉しそうに眼を細めて笑おう。
相性云々については実際に致してみないと分からないけれども、其れは置いといても雇用・被雇用者の間柄は継続したい。
少なくとも、個人的な心情としてはそう思う。そう見込める程のものを向こうには見出している。

「腕利きを引き抜かれると、ね。編成上まだまだ辛いのよ。
 円満に抜けてくれる分には止めようがないし、祝い金位は出してあげるけどね。

 ……そういう事なら仕方ないわね。
 でも、働いてくれる以上は謝礼は出すわ。そうじゃないと副長たちが五月蠅いのよ」

竜騎兵として取り立てるは難しくとも、騎兵隊として取り立てる、取り込むのは選択肢としては考えられる。
勿論それは雇用者としての考えとしてだ。だが、向こうにとっては確認するまでもなく悩ましい処だろう。
上手く見つかれば善し。他に見つかるとなると――その時はその時。
見つかればいいというのは女としては思う事柄だが、支払を持とうとしたところを留める姿に困ったように笑う。
今の支払いは、それでいい。
しかし、隊全体の総意としては別途改めて働きに応じた謝礼は出そう。その点は汲んで欲しいと。

「明日が早いから、ね。……喜んで乗らせてもらうわ。是非、乗せて頂戴な」

興味あったのよねと。手を鳴らして目を輝かせ、素直に頼もう。
相互に支払いなど終われば、店の外に出よう。
途中、着替えのために屋敷やら寄れば、本拠まで頼んだか。どんな乗り心地か否か――興味がある。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2/夜の酒場町」からジェネットさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2/夜の酒場町」からアマーリエさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にミンティさんが現れました。
ミンティ > 週末の夜。やってくる休日を堪能するために集まった行商人が、暗くなってからも露店を開き続けている広場。昼間ほどの活気はないけれど、それでもまだあちらこちらから最後に一儲けしようと人を呼ぶ声が聞こえてくる。
並ぶ露店を回って楽しそうな人の波に、ほとんど埋もれるように歩く。なにか掘り出し物がないかと思ったあては外れてしまったけれど、異国の品物は見ているだけで楽しかった。
同じ商人としては買い物もしないで見て回っているだけなのは、すこし気まずいけれど。

軽業を披露する芸人を囲む輪から上がる歓声を背にして、今は革職人から直に買いつけてきたという靴を見せてもらっているところ。
自分の靴に目を向けて、小さな溜息がこぼれた。見るからに傷んでいるわけじゃないけど、すっかりくたびれてしまっている。並んでいる品物のような艶も薄れてしまっていて、すこし寂しい気持ちになった。
とはいっても普段の履物としては、まだまだ活躍できそうなもの。見た目が多少悪くなったくらいで買い換えるのも贅沢に思えてしまう。

「……あの、それはおいくらになりますか」

一番手頃な値段に見えたものを指差して店主に問いかける。返ってきた値段を聞いて財布を確認、そしてまた溜息をこぼした。

ミンティ > 不当な値段を提示されたりはしていない。けれど即決するのも躊躇してしまう金額。財布の中のお金は足りていても、やっぱり今の靴をもうすこし履いていた方がいいんじゃないかと考える。
そうやって悩みながら、視線はちらちら別のものを見ていた。
きれいな赤い靴。染められた色も形も装飾も、どれも可愛らしくて目を惹かれる。
最初に値段を聞いたものより高価なのは確かめるまでもない。
それに可愛い靴を買ったところで自分に似合うか不安だったし、あわせられる服があるかも考えなくてはいけない。
今のような服装で足元だけよくしたって、きっと浮いてしまうだろう。それでは靴に申し訳ない気がして。

「……あの…………それ、その靴を…、……試しに…………」

いつもなら黙って諦めているところ。しかし今日は違って、おそるおそる店主に尋ねる。
試しに履いてみてもいいですかと言い終えるまで何度も口をぱくつかせて、挙動不審になってしまったけれど。
最後はぼそぼそと小声で聞き取りづらかったに違いない。それでも店主が笑って赤い靴を差し出してもらえて。

売り物だから土をつけないように言われて渡されたボロ布を地面に敷いて、その上で片足ずつ履き替えてみる。
すっと吸いこまれるような履き心地。軽くて、だけど耐久性もありそうな、しっかりとした感触。見た目以上に良品だったと気づいて胸が高鳴る。