2018/10/12 のログ
ご案内:「平民地区:大通り」にチヅルさんが現れました。
チヅル > 日の傾いた平民地区、その大通りを歩く。
ぼんやりと、無表情のようにも見える顔には深い隅が目を飾る。

――寝不足である。

チャラになった仕事、そのついでにと遊んでみれば思いの他盛り上がってしまい、気が付けば朝日は高く昇った後。

「ふぁ、眠ぅ……」

実を言えばつい先刻まで眠りこけていたのだが、それでも寝足りないようでその表情は酷く虚ろ。
ゆらゆらと幽鬼のような足取りで大通りを歩き、目的の店――異国の冒険者向きの雑貨を扱う商店へたどり着き、その中へ消える。


数分後。

目当てのものを見つけたのか、眠たげな表情はそのまま満足げに店を出る人影。
さて後は寝るか飯かと未だぼんやりした頭でふわふわと、適当に歩く――

ご案内:「平民地区:大通り」に影時さんが現れました。
影時 > 夕餉時には程良い頃合いだ。
如何に鍛えていても腹が減る。如何に瞑想していても腹が減る。生きていれば当然のことだ。
生憎と霞を喰って事足りるような生態ではない。
止むを得ない時は木の根を齧ってでも生き延びることもできるが、平時となれば少しはマシなものを喰らいたいと思うのは当然だ。
宿場町や酒場町で得体のしれないものを喰ってぶらつくコト程、不審極まりないことはないのだから。

「――……ッ、あー、喰った喰った。やはり金があるってのは、イイことよなァ」

そんな言葉を嘯きながら、酒場から出よう。
腕慣らしに細々とした仕事を請け負うことはあるが、今はある商人の娘に技を伝える家庭教師めいた仕事で食い繋いでいる。
満腹ではないが、程々に満ち足りた様相で顔を綻ばせながら、さて、何処に行こうか。
それを考える。情報収集も兼ねて他の酒場をはしごするか。それとも、影に紛れて後ろ暗い仕事の伝手を辿りに行くか。
腰に差した刀を揺らし、纏う装束の裾を靡かせて、ぶらりと歩き出す中でふと――、一瞬、微かな直感のようなものが騒ぐ。

「……ン? おぅぃ、お前さん。大丈夫か?」

何か、ぼんやりとした風情の影が視界の隅を横切った覚えに足を止める。
見間違いではあるまい。胡乱な様子でもあれば、声をかけるのは当世の習いのようなものであろう。
ただ、それだけではない。まるで同類と遭ったような。そんな微かな、言葉にし難い勘のようなものが、己にそうさせる。

チヅル > 「ん・・・? 貴方は・・・」

声が聞こえた。
振り向けば時折濁る視界、その中に映る巨漢。
纏う衣装はどこか懐かしい“故郷”、そして“忍”のそれか。
同類、という言葉が脳裏をよぎる。
しかし顔に覚えがない、知っているような知らないような――

「……大丈夫、だと思うよ。話しかけられて少し目が覚めた」

一拍置いて、少し調子のずれた返答がでた。
ゆっくりと、徐々に覚醒する意識。晴れる視界。

「……貴方は、もしかして――ううん、何でもない。
どこかで見たような気がしたんだけど。
心配してくれてありがとう」

途中言いかけて止める。
同業者ですか、などと聞けるはずがない。

心配故にか声をかけられたことに感謝を述べつつ、軽く頭を下げる。

影時 > 背丈としては、故郷だけではなくこの国の街中でも目立つと言えば目立つだろう。
よく鍛えられた武芸者としての其れではあるが、不思議とどこか目立たない所作はこの場に居るものの共通項かもしれない。
気配を殺す、気配を抑えることに熟達したものの其れだ。
故に己の方もまた、声をかけ、呼び止めながら観察をする。
記憶にない――、とは思う。だが、さりとて捨て置く由縁としては少々薄い。

「そうかい、なら良いんだがな。最近急に風が変わったからなァ」

少なくとも、薄着で居るのは寒気を覚えることもある風が最近吹くようになってきた。
仕事着はカムフラージュもかねて隙なく着込む類のものであるが、市井に紛れることを思うとよく考えなければならない。
女性として考えるとどこか上背のある、しかし、男として考えると細さが際立つ。そんな印象の風情の姿を見遣りつつ。

「礼には及ばんよ。ちぃと気になったモンでな。
 ……俺もどこかでお前さんみたいなのを見た、ような気がしなくもなくてな。

 ――良けりゃ、何かの縁だ。どこかで飯でもどうかね? ン?」

真逆、なァと。不精髭の目立つ顎を摩りつつ、肩の線を揺らして頭を下げる姿に頷きつつ、そう問うてみよう。
深い理由や由縁等はない。単なる興味本位の提案だ。敵意を交わし合うようなコトが無ければ、特に躊躇う理由はない。

チヅル > ――きょとん、多分今はそんな表情を見せているはず。
何せこのなりだ、好奇の目で見るものは数あれどこうして声をかけ――
食事に誘うものなどそう多くはいない。
ましてや同業者ならば、見てくれからも感じられる違和感に気付きはするはず。
だからか、返答が一拍遅れる。

「……物好きだねぇ。うん、それじゃあご一緒しようかな」

頷いて快諾する。
誰かと食事を共にするのは随分と久しい。二つ返事になったことに少し驚きながら一歩近寄る。距離にしておよそ三歩余り、少し見上げる形になる。

「僕は千鶴、よろしくね。それでどこ行くんだい?」

名を明かし、敵意のないことを示す。
ついでに行き先も尋ねる。

影時 > きょとん、とした風情の様子に、は、と口の端を釣り上げて笑ってみせよう。
その生態がどうであれ、なんであれ、敵ではないのならば、時にこう言った気紛れもアリだろう。
観察するにつれて抱く微か違和感に対し、真逆なと思うものはある。
より間近で氣の流れでも観察できれば、如何なる由縁であるかの察しをつけるくらいはできよう。
だが、其れがなんだ。奇異も酔狂も含めて愉しむのが己なれば。

「――物好きなのさ。それに、独り酒も飽いたンでな」

先程飯は喰らったが、今少し呑み足りないというものはある。
故郷と同じような酒は中々望むべくもない時世だが、それはそれで愉しむ術もある。郷に入ってはなんとやら、だ。
近寄る姿の上背の差を改めて確かめるように見遣り、腰に差した刀の鍔元を軽く叩きつつ破顔一笑。

「おう、千鶴か。俺は影時と云う。宜しくな。……こっちだ。手ごろな酒場が近くにある」

己もまた名乗りを返して、足音を周囲の喧騒に紛れさせながら歩き出そう。
歩幅を考えれば速足にならないように気を付けつつ、向かう先は近場にある食事処兼酒場の一つだ。

少し薄暗い店内だが、シェンヤン等、多国籍入り混じった風情の内装をした手ごろな値段設定の店である。
広い空間に幾つも卓を置くのではなく、ある程度空間を壁で区切った上で椅子と卓を置いた場所は独りで酒を呑むのにも困らない。
店に至れば、奥に位置する二人客向けの対面式の席に案内してもらい、一息つこう。

チヅル > 「影時だね。呼びやすい名だ」

自身と似たような発音の名前にやはり懐かしさを覚える。
男の先導に従い後をつける。

着いた先はどこか見覚えのある店構えの、大衆食堂といった趣か。
ちらと見えた品書き、その値段も手ごろで気軽さを感じる。
中はほんのりと薄暗く、この手の店にしては喧しさを不思議と感じられない。

程なくして席へ案内される。
対面に配置された椅子、それが丸い卓を挟む形。
先に座った男に従い自分も腰を下ろし、自然と向かい合う姿勢。
視界に映る上体だけでも中々の大柄。逞しく鍛えられた腕が、首筋が精悍さを物語る。

卓に腕を預け、指を組む。
しげしげと男を眺めては、よく鍛えられているなぁとぼんやり考えている。

影時 > 「そういう云われ方するのは、初めてだなァ」

悪い気はせんが、と。そう言い添えてくつくつと喉を鳴らす。
向こうの名前と言い、自分自身の名前と言い、この辺りではそうそう聞くまい。
勿論、何事も例外はあるものだ。
この地で得た知り合いは決して多くはないが、知った響きの名を持つものは幾人か覚えがある。

さて、たどり着いた先の店は向こうの感想に違わぬ風情のものだ。
値と贅を尽くした高級店ではなく、街人や冒険者等も足を運びやすい赴きの店の一つである。
量を喰える値段設定だが、騒がしさを覚えないのは落ち着いて食事ができる環境が整っているからだろう。
こういった仕立てを生かして、打ち合わせをしながら食事に勤しむ者も皆無ではない。

「……ぉ。珍しいな。シェンヤン由来とはいえ、麦の酒にはちょっと飽きたからなぁ。丁度良い」

壁際に腰から外した刀を立てかけ、品書きを取って眺め遣ろう。
服の袖から覗く手や首元等、鍛えた筋骨が垣間見える。其処に酒色に溺れても、直ぐに脂に塗れない程の強さがある。

品書きに並ぶのは、麦の発泡酒や蒸留酒の類ばかりではない。
北の帝国産の酒やら調味料を生かした味付けの食事も、幾つか目につく。
昨今騒がしい国だが、食事に罪科はない。丁度良いと一瓶を頼み、摘まみ代わりの揚げ物や野菜の盛り合わせを頼むことにしよう。
そう思い、店員を呼びつけながら、己を眺める姿に「頼むといい」と声をかけ、品書きを差し出す。

チヅル > 差し出された品書きを、「どうも」と言いつつ受け取り、開く。
王都もちろんのこと、帝国料理やその他――近隣の村や海の向こうの料理なども並ぶ。
普段のそれとは違う料理にどれを選ぶか目移りしてしまう。

「・・・・・・驚いた、いろんな国の料理があるんだね」

少しして店員がやって来る。男は料理と酒を注文し、自分はおでんと茶を選ぶ。
先程も男が言っていたように、最近は肌寒く、乾いた風も相まって体が冷えやすい。
火を扱えても、やはり体の内側を温めるのは難しく、そうでなくとも祖国の郷土料理はやはり心が落ち着くものがある。

「僕はお酒苦手だから飲めないけど、いいのがあったのかな」

注文を受けた店員が下がり、再び二人きり。
視線を戻せば覗く手首を、首筋を包む筋肉の鎧。
自身の性別関係なく見蕩れ――或いは憧れる、無骨な機能美。
自身にないものはなかなかどうして眩しく見えるもの、と苦笑を漏らし。
立てかけられた太刀に目が行く。
ぱっと見でも分かる、業物だ。
緻密て、優美な意匠も然ることながら言葉にし辛い“霊気”染みたものを感じるそれは神刀か、妖刀か。

しばらくして、二人分の注文を乗せたトレイをもった給仕が訪れる。
順番に卓へ広げられていく料理と飲料。
全て揃ったところで手を合わせ、「いただきます」と挨拶。
程よく色の染みた大根へ箸を伸ばす。