2018/03/14 のログ
■ガラッゾ > ――さて困った、と……口には決して出さないが、眉間に寄せた皺が折角指先で解れたのに更に深く刻んでしまう事になり、ローブのフードから垣間見せている口元が明確に困惑の色を乗せた笑みの形になってしまう。
女のしゃぶりつきたくなる程に美味そうな言葉が美味なる鳴声ではなく、酷く困惑をさせる言葉を紡ぎ、その言葉一つ一つが正直理解の範疇を超えている。
法外な契約を押し付け契約で縛る事もある。
召喚される一族には契約の穴をつき主従を狂わせる者もいるが、まさか相手から売り込みに来るとは想定外だ。
長く生きれば稀に近しいモノもいるが、それは技術や何かを盗みたい、学びたい人間である事が多く、だがそれに視線の先の女が該当するようには思えない……。
さてはて、簡素な灰色のローブと言う果皮に包まれた柔肉が酷く美味そうな女ではあるが答えはどうすべきか、困惑を載せた眼の先に見えたその白魚の如き手が指が魔獣の革の敷物を切り取り、契約書か何かを即興で生み出そうとしている。
「……断ル。アンタの提案は酷ク魅力的ダシ、アンタの肉は美味ソウダ。だが契約は互イニ利が無きゃなラん、が正直アンタの考エガ読めナイ。オレ達の鍛冶の知識ガホシイのか、それとも隠しモッテル財宝に興味ガあるノカ?」
拒絶、理由は今嗄れ声で言葉にした通りだ。
召喚した一族なら未だしも、野良として街に巣食う者として、契約を結ぶに当って今一理解出来ず、互いの利が少なくとも相手にとってのメリットが見えてこない事には信用できないと。
それも醜悪な存在の己に身を預けると言うのが正しく理解出来ない最大のポイントである。
右手で己のフードを剥ぎ取ると共に薄暗い路地の中で不思議な提案を述べる女の茶色い瞳に己の醜悪な相貌を曝け出し、コレでも契約を結びたいのかと大きな溜息を吐き出した。
■レフェーリア > 余計に困らせてしまった様で、普段の相手達からしてみれば何を言っているのかも分からないとは彼女自身も分かる所であるが。そのフードの中身を見た途端、叫びながら逃げ出す者も居るだろうが、
彼女は至って納得したかの様な表情を浮かべたままその場から逃げようともせずに、切り取った皮に指先からぷつり、と流れ始めた血によって何かしらの文字を書き綴り始めている。
「……私はこうして…今も多分、人の身ではありますけど、貴方の様な者と時々身体を重ねて、精力を取り込まないと、いつしか収まりが着かなくなってしまうんです…ですから、技術でも財宝でもなく、貴方…達との関係の方が」
一般的な人間とは掛け離れた言葉のまま、逸脱した理由を述べながら、財宝や技術ではない、契約に応じた相手と、相手達との淫猥な交わりこそが一番であるのだと言葉にして告げる。
召喚したなら何時でも呼び出せ、今の様に野良の者を含めて蔓延っている……そんな相手達こそがちょうど良いのだと語りながら、醜悪で矮小な、妖精に対して契約書となった魔物皮を差し出してしまった。
「ですから……」
レフェーリア、彼女自身の名前と拇印が相手程でも無いが、指で書き綴った分汚らしく仕上がった血で書き記され、押されている。
……契約書の代わりとして彼女が書き記したのは、たったのそれだけだった。如何なる契約を結ぶのかどうかすらも、全てを相手に預け任せる様な無謀な行為。
人生を全て棒に振るう事から、相手が望めば命まで握られてしまっても何もおかしくはない中で、彼女はただ貪欲そうな、人とは離れた色をその瞳に宿し、相手に差し出した契約書を離さない。受け容れられないならばそれまでながら、一度でも興味を抱かれては…
■ガラッゾ > 大小サイズの違う歯車がカチと噛み合う。
それで契約、それが契約かと己が蓄えた技でも知でも財産でも無ければ欲しいのは精気であると、そう言う事かと酷く納得がいく、いくのだがそうなればそうなるとで、不都合が生まれる。
それを口にする前に濁った視線の先で生まれ出た「契約書」を一瞥すると値千金のその契約書から眼を逸らし、良く見据えれば見える女の貪欲そうな色は浮かぶ瞳に視線を重ね、今度はハッキリと大きく溜息を吐き出す。
「……アーアーアー、美味シイ誘いデハあるガ、矢張り断ル。身売り切り売り出来るホド精力は溢れチャいネェしな……ダガ……。」
言葉を一度切る、誘いを断るのと同じくスッパリと切ると魔獣皮を使った契約書に対して触れる事無く、ローブの内袋に手を突っ込むと、中から作品とはまた違う所々錆び付いた金属の指輪を取り出すと、その指輪をぎゅと女のローブから零れそうな胸元の谷間に押し込んで、後は荷物をまとめ始める。
「……オレじゃ力ニなれ無いガ、コレを使エバオマエさんデモ兄弟をあっちカラ引き摺りダセルかもな。余程ホシクナッタら、試しテ見るとイイゾ。アンタは魔法にも通ジテそうダシナ……。」
と反論されるよりも先に、一部が欠けた皮の敷物を皮袋見たいに作品を包み込んだ後、肩に担ぐと歩き出し路地からするりと姿を消して……。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からガラッゾさんが去りました。
■レフェーリア > あっけなく切ってしまったのは、本能によるものなのかもしれないが。それでも明確に断られ、その上で機会を与えられたのならば、と胸元に押し込まれた指輪を見遣る。
錆が際立つ売り物にはならなさそうな印象ながら、仄かに感じ取れるのは間違い無く魔力であり、言葉を信じるのならば、何時でも呼び出せる手段が手渡された。
「……ええ、ありがとうございます」
さっさと去って行った相手の背に言葉が通じたかどうかも分からないが、せめてもの感謝を告げ、
手の中に抱いていた皮は青い炎に包まれて炭屑と化し、彼女が去っていった後に吹き上げた風に運ばれ、綺麗に消えていった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からレフェーリアさんが去りました。