2018/01/21 のログ
ルシアン > お酒が入っているとはいえ、声をかけるなんてことを良くできたなと自分でも思う。だけど、それだけこの歌い手の歌が心に響いたという事なのだろう。ほろ酔いの所為か若干顔に赤みがさしていた利するのだけど、それでも嬉しそうに笑顔になれば、引いてもらった椅子へと腰を下ろして。

「はい。お邪魔にならない程度で構いませんから。……ええと、此処ではよく歌われてるんです?」

先ほどまでの歌と違い、随分控えめでどこか抑えたような調子の声。こっちもつられて、少しだけ声のトーンは控え気味。それでも酒場の喧騒には消されず、歌い手にはきちんと聞こえる程度だろうけれど。一つ、質問をしてみてから手にしたカップを口に運ぶ。甘めでさっぱりした果実酒でのどを潤して。

「素敵な歌でした。あんまり、音楽に縁は無いんですが…それでも、すごいなって。何処かの劇場や楽団の歌い手さんですか…?」

エディス > 「…… ぃぃ 、ぇ ……、…――― わたくし …… その、所謂流し …… のようなもの … でして ……
 ―――― 此処で歌わせてもらったのは …… 今日が、 初めてなのです ……」


なので、特にこの店でのみ歌っている訳ではない、とどこか申し訳無さそうに女は眉尻を下げた。
今日だって、事前なく頼み込んで偶然歌わせて貰えただけだ。
そんな風に色んな酒場を練り歩き、そうして歌い、一夜を過ごす女の常。

隣で彼が何事かを喋ると、ふわりと芳醇な馨がして。
アルコールに混じる、甘い果実の匂い。男が手に持つカップを一瞥しては、直ぐに彼へと視線を戻すと。

「……… 、 っ …… ぁ ……… ぁ、ありがとう … ござい 、ます ……」

素敵な歌、と褒められて、ぽっと小さな灯火が灯るように女の頬が仄かに赤らんだ。
心からの賛辞だと分かるから、色んな客から何回も聞いている感想とはいえ、毎回気恥ずかしい想いがして貌が熱くなってしまう。
叶う事なら、グラスを持った冷たい手を頬に当てて熱を冷ましたかったが、グラスを握り込む事で何とかその衝動を抑え。
賛辞を当然と捉えず、種として当然だと自負もせず、女もまた心からの感謝を男に述べた。

「…… いえ、 … 生憎と、何処にも属して … いなくて ……、―――
 ただ、昔から …… 歌うのが 、好きで ――― 逆に、歌う事しか能が …… ないので …」

人魚なんです―――とは、到底言えなかった。
中には謂わずとも悟る者も居る。彼は敏いのか疎いのか、女には分からないけれど。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」にエディスさんが現れました。
ルシアン > 「流しの…?そっか、それじゃあ僕も運が良かったって事だ。この辺りは知らない訳じゃないけど、この店は今日初めてで…そこにこんな歌だもの」

この店の専属の歌姫だったら、これを聞くために此処の常連になろうかな、なんて考える。その位の歌の出来、だったように感じた青年。こちらとしては率直な感想なのだけど、それへの反応が何処か可愛らしくて、ついくすくすと楽しげに微笑みつつ女性の顔を見てしまう。
ふと視線の先に気が付いて、カップの残りをぐっと煽るとカウンター奥のバーテンダーへ同じものをもう一つ注文する。冷たい果実の酒の、琥珀色の液体が入った瓶が1つと新しいグラスが出されてきて。

「もし良かったら、一口どう?度数は低いから、喉にもそんなに影響はしないと思うけど…それでもやっぱり歌唄いさんにお酒はダメ、かな」

飲みやすいものではあるけれど、と誘ってはみる。もし承諾があれば新しいグラスにそれを注いで差し出そうと。自分の分も注げば、もう一口。

「好きな事が出来て、それで生きて行けるなんて、素敵だと思うよ?…歌うしか能がない、とか言っちゃだめです。僕みたいに、歌なんかさっぱりな奴だっているんですよー?」

謙遜でなく、この女性の素直な気持ちなのだろうけど。少しだけ渋い顔になりつつ、若干お説教めいた言葉を一つ。そんな事を言った後にすぐ、またのんびりした表情に戻るわけではあるのだけど。

エディス > 「―――…、…… ぇ …… 、 ぁ ………」

徐に、差し出されたグラスに女は軽く目を丸くする。
―――別に、美味しそう、とか、飲みたい、とか、そんな目を向けていたわけじゃあ、ない。
けれど彼には、己が物欲しそうに見えただろうか、と瞬時に湧き上がる羞恥と同時に、
屹度そう謂った意図ではなく、単純に己を労ってくれたのだろう、と即座に考えを改め。

ちらりと一度、バーテンダーへと窺い見れば、小さく頷く仕草を見止めて、
遠慮がちではあるが、女はそぅと空のグラスを手に取った。

「……… ぁ … りがとう …… ござい 、ます …… ぁの、では ……―――― ひとくち、だけ ……」

グラスを傾け、彼に少量をお酌してもらい、男の方のグラスに軽く当てては、ゆっくりと果実酒を口に含んだ。
途端に鼻に抜ける、酒精と果実の匂い。舌粘膜に染み渡る甘苦い味蕾に、く、と白い喉を隆起させ。
―――は、と息を吐けば、少し熱くなった頬を冷ますように、片掌で触れた。
美味しい、と一言、惚けたような女の声は、仄かな色香を含んでいたかもしれない。

「…… わたくし 、には …… 歌よりも、大事なものが …… あって ――――…、………
 歌は、その間の …… 羽休めのようなものでも … あります ……
 …そこに、たまたま ……… 偶然来られたお客様方が…お聞き下さって ……… 
 こうして賛辞を貰える 、だけで …… 嬉しい の … 」

こんな風に、貌に火がつくくらいに―――今となっては、酒精のせいとも限らないが。
輝きの弱い露草色の眸が、気恥ずかしそうに伏せられた。

ルシアン > お酒の席であるわけで、良い感じに酔って気分も良くなれば、近くの飲み仲間と奢り奢られは普通の事。
ごく普通に差し出したグラスに、女性がそんな葛藤をしているとはつゆ知らず。
それでも、受け取ってもらえれば嬉しそうに破顔して。キン、と小さな音とともにグラスを合わせる。
一緒にそれを軽く煽れば小さく息を付く。

「あはは…気に入ってもらえたなら嬉しい。どこの酒場でもある安酒だけど、飲み易くて気に入ってるんだ。せっかく酒場に居るんだし、お仕事が終わったら頼んでみるのも良いかもね?」

お酒はあまり強い方というわけでもないのだろうか。女性の様子を伺うと、それでもお気に召した様子でほっと一息。
改めて様子を見れば、ほんのり朱が指した表情に吸い込まれるように魅入られそうになり、慌ててそっと目をそらしてしまったり。
少し落ち着こうと、カップの中身をもう一口。

「良いものが良いって言われるのは当然の事だよ。貴女の歌は、それに十分値するってだけさ。
…さっきなんか、面白かったよ?あなたが歌ってる間はここの皆、手が止まって聞き入ってるんだ。
で、歌の切れ目でお酒が進んでみんな注文するものだから店員もてんてこまいの大慌て。あんな光景、あんまり無いよ」

軽く冗談めかした調子で笑い声と共に。酔った客の対応としては上等な部類だろう。
照れ屋らしい歌姫さんの様子に自身の気も少し緩んできたか、若干砕けた調子の口調になりつつ。

「僕はルシアン。もし良かったら、名前を聞かせて貰っても?歌姫さん」

エディス > 流石に煽るように飲む事は出来ないし、仕事中と謂うこともあって、女の一口の量は少なかっただろう。
それでも仄かに酔ったような気がするのは、場に酔ったか、空気に酔ったか。
酒に弱いか強いかは、人魚から人間として生きるようになって、まだまだ日が浅いから、実際のところは分からないが。
何にせよ、悪い気分は―――しない。

「…… そぅ 、ですね ……。――― 果実酒 … くらい、でしたら ……
 とても、飲みやすい ――― ですし …」

仕事が終わったら、自分へのご褒美に一杯。頼んでみるのも良いかもしれない、と口許を綻ばせて、
先ほどよりは大分打ち解けた微笑みを、青年へと向ける。
客というより、気さくに友に語りかけるような雰囲気が、彼には在る。
男の話に、まぁ、と鈴の音を転がすように笑い。ちびりともう一口だけ、果実酒を口に含みながら。

「――――…… ルシアン …… さま。 … 良い …… お名前 、ですね …。
 わたくし … 、は ……、… ――― エディス 、と ………」

申します、と小さく頭を下げた。
そも、声を掛けられた時点で名乗るべきだった、と己が配慮の無さを密かに悔いつつ、
今宵言葉を交わした青年の名を、頭の中で反芻する。
水のように、歌のように。染み込んで、忘れないようにする為に。

そうこうしている内に、女の休息時間は終わったらしく。
バーテンダーに目で促されているのに気付くと、女はその場から席を立つ。

「…… ルシアン 、さま …―――。 … わたくし、またステージに行かねば … なりません  、ので。
 ――――… これは …… せめて 、もの ……… お礼 … 、です ……」

―――――それは、女の気まぐれか、仄かに酔った勢いか。
グラスに触れる時のように繊細に、そぅと屈むようにして男の相貌へと貌を寄せると、青年のその唇に、触れるだけのキスを、一つ。
彼が拒まなければの話ではあるが―――褒められただけで頬を赤らめる女の、それは普段考えもつかない大胆な行動だった。

ルシアン > 「エディスさん…うん、覚えた。よろしくね?」

自分の名を歌姫に呼んでもらえれば、満足そうな嬉しそうな笑み。
お酒の助けもあったことは否めない、のだけれど…それを抜きにしても、このはにかみ屋な歌い手さんに親しみを感じて。
教えてもらった名を繰り返し、しっかり覚えておこうと。

店の方から歌姫を呼ぶような雰囲気があればそれを察する。
少し引き留めすぎたかな、と若干気まずそうにするけれど。

「うん。それじゃあ…頑張って。僕もこのエディスさんの歌を聞かせて貰ってから帰ろうかな。
 お礼なん、て……っ!?」

ひらり、と手を振って見送ろうとする、のだけれど。不意打ちのように、頬に触れるとても柔らかな―――
びっくりして、次いで慌てたように目をぱちぱちして歌姫を見て。触れられた頬が熱い。真っ赤になってしまったのは、お酒の所為だけではない様子。

「え、ええと……今度また、歌を聞かせてもらえるかな?もっとエディスさんとも、お話してみたい、し…ね」
ステージへ向かう所へ、しどろもどろになりつつ、そんな言葉をかけた

エディス > 唇で感じた感触は柔らかく、少しだけ甘く、そうして少しだけ熱かった。
ちゅ、と音を立てて直ぐに唇は離れ、長い睫毛を翳らせて彼を窺い見れば、自分が今何をされたか
分かっていないような、分かっているのに頭が追いついていないような、そんな面差し。

「―――――………、…… は … ぃ …
 ……… また …… 何処かでわたくしを、お見掛けしました 、ら ……」

是非またお声掛け下さい、と甘く誘うように囁いて貌を離す。
そうして、改めて深々と一礼すると。
カウンターにグラスを返し、女は青年に背を向けてステージへと向かうだろう。
歌い始める曲は変わらず静かで、けれどどこか内に熱を孕んだような、しっとりとした歌声が、
暫く店内に流れていたとか―――――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からエディスさんが去りました。
ルシアン > 酒場に響いてくる歌声に、また客たちが聞き入る時間がゆっくりと流れていく。
その片隅で青年も、また一緒にその歌声を楽しんで。
もうしばらく、とても「お酒の美味しい」時間を楽しむことができたはず、で―――

ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からルシアンさんが去りました。