2016/07/29 のログ
ご案内:「王都平民地区の酒場」にセリオンさんが現れました。
セリオン > 「結局は、ここへ落ち着くのですよね」

と、女は独り言を零した。
少し目先を変えて、どこかへ出向こうという気持ちは有ったのだ。
その為、貧民街を歩き回っては身売りする少女達を値踏みもしたし、富裕地区のいかがわしい店を覗いてみたりもした。
が、貧民街では獲物がみすぼらしいし、富裕地区で諍いを起こすと、逃げ隠れするのが面倒だ。
結局のところ、慣れ親しんだ酒場へ辿り着くのである。

今夜はまだ、一杯も飲んでいない。
男を、或いは女を煽るように、腰を振りたてる踊り子達を眺め、媚態で色目を使う娼婦達を眺め、
さて今宵は〝どれ〟をどうしてやろうかと、微笑みの裏側で舌を出しているのだ。

相変わらず、隣には誰も座りたがらない。
そういう客だと知られている程度には常連であるらしい。

セリオン > 酒場の二階は、安宿になっている。
酒場で娼婦を買い、そのまま連れ込み、一夜を共にするという仕組みである。
よくよく耳を澄ませば、天井の更に上、重い物体が動く音――

「淫猥ですねぇ」

女は修道服を着たまま、それが好ましいことであるかのように微笑んだ。

セリオン > 酒場の喧噪に浸っていると、不意に心が昂り始める。
女はカウンターを離れ、壁際に並ぶ娼婦達の方へと足を向けた。

「さて……〝どれ〟にしましょうか」

娼婦を呼ぶ時、誰とは言わないのだ。それがこの女の根である。
然し、人格はどうあれ、金払いの良い客ではある。
非合法な手段で稼いだ金ならば、人並み以上に――散財したとて、また稼げばよいのだ、と。
懐で、じゃら、と貨幣が音を鳴らす。耳聡い娼婦が、それで目を輝かせる。

どれにしようか。
どれが頑丈だろうか。

女は、微笑むように細めた目で、娼婦達を含めた、酒場の全てを見渡した。

セリオン > 獲物をどれにしようかと、見渡していて――だが、中々答えが定まらない。
普段であれば、どれにしよう、あれにしようと、割と直ぐに決まるのではあるが。
女は、自分が、さして気が乗っていないのではないかと気付く。

「……昨日の彼女に比べると、やはり見劣りしますね」

昨夜、貴族の女を襲った。
場末の娼婦とは比べ物にもならない、美しい顔、美しい髪、美しい体……
常に贅沢品ばかり食う訳ではないが、昨日の今日では、安物に食指が動かぬのだ。

そうと気付いた女は、懐の金を全て、麻の袋に詰め込んで、カウンターの上に投げ出すと――

「奪い合いなさい。最後まで服を着ていられたものに、これを上げますよ」

と、娼婦達を唆した。
大金――少なくとも、娼婦一人を、一月ばかりは買えるほどの大金である。
たちまち始まった掴み合い、服の奪い合いを、女は笑いながら眺めていた。

セリオン > 娼婦同士の掴み合いが佳境を迎え、まともな服を着ているものが殆ど居なくなった頃。
女は、カウンターの上の金をそのままに立ち上がり、静かに酒場を出て行く。
この後、残された金を巡っての争いが加速するのかも知れないが、女は既に、そのことに興味は無い。

馳走を喰いたいのだ。
安物の娼婦などでなく、美しく、淫らな、市井の華を。

――とは言うものの、今宵は完全な文無し。明日の朝食ばかりか、今夜を過ごす宿代さえ無い。

ならば、まずそれを稼ごうか。
路地裏に踏み込んだ女の両手には、眩く輝く金属のメイスが、それぞれに握られていた。

ご案内:「王都平民地区の酒場」からセリオンさんが去りました。