2016/07/28 のログ
ご案内:「王都平民地区の酒場」にセリオンさんが現れました。
セリオン > 酒場の一角で、女が酒を飲んでいた。
修道服だ。
酒場には似合わない姿なのだが、女自身の姿もまた、修道服に似合わない。
慎ましくフードで髪を隠したりはせず、自らの金髪を誇るように堂々と晒し、
腰に、武骨なベルトで吊るすのは、これも武骨な武器が二組。
血錆も目立つ二丁斧。
対照的に、傷は有るが磨き抜かれた二振りのメイス。

「同じものを……」

静かに、遠慮がちな言葉だった。だのに酒場の店主は、身を跳ねさせるように震えながら、グラスに酒を注ぐ。

「ありがとう」

代価をグラスと交換した女は、くうと一息にその酒を飲み乾すと、カウンターに肘を置き、後方を見た。
娼婦や、踊り子が、今宵の客を待ち集まっている一角を見て――
女は、笑った。

ご案内:「王都平民地区の酒場」にシャルロットさんが現れました。
セリオン > 女は、酒を飲んでいる。
ペースは遅い。暫く酒場の光景を眺めて、時折、一杯ごとに代価を払って酒を求め、それを一息で飲み乾す。するとまた暫く、酒場の光景を楽しむのだ。
混雑する時間帯だというのに、両隣とも二つずつ、女の隣は空席になっている。
それは、この女が見せびらかすように吊るした武器が為か、それとも人格が故か――

「店主さん、店主さん」

女は、また静かに店主を呼び寄せる。

「あそこの娼婦たちで、一番頑丈に出来ているのは、〝どれ〟ですか?」

店主がまた、小さく身震いした。

シャルロット > と、酒場の2F――通常、娼婦たちの『仕事場』として使われる階から、
ローブを目深にかぶった人物が下りてきた。ゆったりとした布地で隠されている物の、
微かに浮き出た体つきからさっするに、恐らく女だ。

その女は共に降りてきた娼婦に去り際、情事の代金としてはかなり多めの金貨を、
人目を気にしながら渡しながら、何やら耳打ちすると、そそくさと店からでていく……。
どうやら、店の横の路地に入って行ったようで、店の窓から微かにその様子がうかがえた。

セリオン > 酒を飲みながら、酒場を眺める。普段と何も変わらぬ行為だ。
だがその中に、何か一つ、異物が紛れ込んだことに気付く。
長身の女性。
自身の姿をローブで隠し、人目を気にして店を出る――

「……おや、おや」

その時には、セリオンは立ち上がっていた。
一杯ごとに代価を払うのは、この為だ。いつ、何が起ころうと動けるように。
向かったのは、店の入り口ではなく、窓。
たった今、路地へ向かっていった影を追い、窓を開け放つと、似非修道女は路地裏へ飛び出し――

着地の瞬間、既に左手は、腰のメイスを掴んでいた。
慈悲深い聖母の如き笑みが、路地裏に顕現した。

シャルロット > 窓から飛び出したセリオンの瞳にうつったのは、先ほどの人物の後ろ姿。
路地裏に入り、安心したのかフードは外され、腰までもある艶やかな赤紫色の長髪が
路地裏を吹き抜ける温い風になびいていた。

――この日、シャルロット・タールハイムはとある情報を求め、平民地区の酒場を訪れていた。
その情報とは、彼女の政敵たる貴族の醜聞。この酒場の娼婦に、その貴族が熱をあげていると聞いて、
何か、情報が得られないかと自ら足を運んだ次第だったのだ。

「これではまだ、証拠がたりないな……あの女め、なかなか口が堅い。」

ゆっくりと、歩を進めながら娼婦から聞きだした情報を羊皮紙にまとめつつ、
それを読み返すシャルロット。集中するあまり、その後ろ姿はあまりにも無防備で……。

セリオン > 足音を殺し、獲物の背後に迫る。
獲物はどうにも、この路地裏や、酒場の娼婦とは縁の遠そうな姿をしていた。
まず、髪が違う。
髪は獲物の暮らしで、その質を変える。髪が美しい、即ち、餓えてはいないということだ。

良い。
舌なめずりをしながら、相手の背後から羊皮紙を覗き込もうとする――
が、相手も長身であり、肩越しに見るのが、上手く行かない。
じれったく感じたセリオンは、

「もし、すいません」

と、メイスを高々と振り上げて、今にも打ち下ろさんとする姿勢を取りながら、極めて穏やかに、シャルロットに呼び掛けた。

シャルロット > 「っ……。」

集中していたがゆえに、背後に人が来ていた事に気づかなかったのか。
『獲物』は驚いたように、短く声をあげとっさに胸元へと羊皮紙を滑り込ませて隠しながら、振り向いた。
そこでセリオンが目にしたのは、貧民ではありえないほどキメ細かく整った白い肌と、ややシェンヤンか東の遊牧民系の血が入った、
切れ長の細い瞳。唇は薄く、前髪は綺麗にそろえられている。

――上玉だ。

「えっ……? あ――!」

そして、獲物はあなたの振り上げたメイスを見て何が起こったのか、分からない、という風だったが……。
それでもとっさに、身を捻り逃げ出そうとするそぶりを見せた。もう何もかも、遅いというのに。

セリオン > 「ほう……!」

良い――予想以上に。それが、率直な想いだった。
狩場にそぐわぬほどに上等の獲物が、無防備に顔を晒す。
この国の、自分は美人であると主張するような美人達に比べれば、やや主張の薄い顔立ちだが、それが自然の美となっている。
飾り立てられた造花ではなく、野に咲く花の中に、一つ抜きんでた変種の、艶やかな華だ。
金で求めれば、どれ程の金額をせびられることか。

――ぶんっ。

セリオンの持つメイスは、小さな弧を描いて素早く、鋭く、シャルロットの右大腿へ、骨を折ってしまわない程度の力で振り落とされた。
大腿の骨は、うっかり折ってしまえば、元のように〝直らない〟ことが多いと、経験則で知っているからだ。
それでも、肉を金属が強かに打てば、内出血もしよう。痛みに力も抜け、体を支えることもできなくなるだろう。
そうなることを、当たるか当たらぬかを見極める前に、既に当て込んで、セリオンは動いていた。

「……どこかで会いましたか? 見覚えのある顔ですが」

会ったことは無い筈だ――少なくとも、互いが互いを認識するような形では。
遠目に見た程度の記憶が、セリオンの脳裏に過ぎるが、まだ名を思い出すまでは至らぬまま――
素手の右手を、シャルロットの頬へ、打つでなく、掴むでなく、そっと触れさせようとしていた。

シャルロット > ――メシャッ!!!

「うあ゛ぁッ……!!! あぁッ……! あ、あぁあぁう……!!!」

まるで小鳥の羽を手折るような――、粗野で、それでいてどこか慈愛を含んだ凶撃が、
逃げようと身を捻ったシャルロットの太ももをしたたかに打ち据える。シャルロットは、
痛みに呻きながら、その場にうつぶせに倒れ、打たれた腿を押さえながらその場で悶えた。

しかし、セリオンの手にもたらされた手ごたえが確かならば骨折までは至っていないはずだ。

「あぐ、ァッ……はぁーっ、はぁーっ、あ、貴女ッ……なにを――ッ……。」

痛みをこらえながら、どうにか仰向けになり、
涙目でセリオンを見やるシャルロット。その頬に、いつくしむ様に右手が触れる。

セリオン > 打撃音は、快楽だった。
獲物が痛みに呻き倒れ伏す、一連の音は、全て快楽を煽る媚薬のようなもの。
涙を浮かべた目が見上げて来る。微笑みを浮かべたまま、セリオンは言った。

「貴女が美しくて良かった。醜ければ、その顔を潰していましたから」

平然と嘯いて、セリオンは、シャルロットの頬から手を滑らせた。
頬から顎、顎から喉、喉から胸――胸まで届いた手が、蛇の如き敏捷さで、胸元へ隠した羊皮紙を探り当てようとする。
もし羊皮紙を引きだせたのなら、セリオンは敢えて声に出し、その記述を読むだろう。
相手がことさら隠そうとした秘密を土足で踏みにじるのが、楽しくて仕方がないという具合に。

一方で左手は、振るった凶器を既に元の場所へ、ベルトの鎖へと戻していた。
その手が伸びる先は――自らが打ち据えた、シャルロットの右大腿。

だが不思議と、その手が触れたとして、痛みは感じない筈だ。
そればかりか、湯に浸かるような暖かさに混じり、痛みが和らぐような感覚が――?

シャルロット > 「……ジャン=ドラン卿の手の者か……!」

シャルロットは、セリオンを『自身が情報を探ろうとしていた政敵の刺客』だと判断したようで。

「残念だったな、私を探っても何も出てこないぞ。
 それとも、このままここで私を始末するか? やってみろ、私が死んだ時の手筈は整っている。
 ここで私を殺すのは、サラマンダーを炉に放り込むような物だ――。」

くっ、くっ、と挑発的な笑みを浮かべるシャルロット。
胸元へと隠した羊皮紙は確かにあったが、どうやら暗号を用いて記述されているようで、
『イーストクロス通り13-1』だとか『林檎一籠、銀貨10枚』だとか……一見、ただとりとめのないことを
書きとめているようにしか見えない。

「っ……!」

左手が、破れたローブから覗く太ももに触れると、シャルロットは一瞬、反射的に身をびくりと震わせた。
厚手の黒いタイツを身に着けているようでそれは破れていないが、皮膚が裂けたのか上等な生地に赤黒い血がにじんでいる。

「な、なにを……して……。」

最初は、何をされているかわからないという風だったシャルロットだったが……。

「あ……。 あぅ……ぅ……?」

痛みが引いていく感覚。そして自身の内部――。
体の芯から発せられるようなじんじんとした熱さに戸惑いを覚えて。

ご案内:「王都平民地区の酒場」からシャルロットさんが去りました。
ご案内:「王都平民地区の酒場」からセリオンさんが去りました。