2016/07/14 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 花屋『アイリス』」にフレデリカさんが現れました。
フレデリカ > 王都マグメール平民地区の一角。そこには小さな花屋があり、いつも店先には色とりどりの美しい花が並んでいる。
むせ返るような花の香り満ちたこの店の奥で、一人の少女が鋏を片手にぼんやりと遠くを見つめていた。この花屋の看板娘、フレデリカである。
現在老夫婦が花の仕入れで留守にしており、彼女が店番を任されていた。この時間はお客が誰一人も訪れず、暇を持て余したフレデリカは、まだ手入れのされていないピンクの薔薇の手入れをしていた。棘や葉を鋏で切り、美しく見栄えがするように整える。いつも慣れている筈の作業なのに、今日はあまり進まなかった。

「いたっ……!」

気を抜いていたのか、うっかり薔薇の棘を人差し指に刺してしまった。浮かぶ血を眺め、フレデリカは深く溜息を吐いた。もう仕事も身に入らなかった。

「ダメだ……。あの人のことばかり考えちゃう……」

ことり、と机の上に鋏を置き、手にしたピンクの薔薇を眺める。

フレデリカ > 初めて誰かに恋をした。自分にとって恋なんて、小説の中でしか見たことのない幻想だったのに。いざ自分が恋をしてみると、何もかもが身に入らなくなってしまった。仕事もろくに出来ないなんて、かなりの重症だわ。フレデリカは自嘲気味に笑った。

「このままじゃいけない……気分でも変えなきゃ。歌でも歌って、今は他のことを考えないようにしないと」

そう言って、フレデリカは良く口ずさんでいる童謡を歌い出す。幼児が歌うような歌でも、彼女が歌えばたちまち美しい歌に変わってしまう。唇から可愛らしい歌声が溢れ、小さな花屋の店内に響き渡った。

「……男の子って何でできてる?
ぼろきれやカタツムリ
子犬の尻尾
そんなものでできてるよ

女の子って何でできてる?
砂糖やスパイス
すてきなことがら
そんなものでできてるよ……」

楽しそうに歌う瞬間、様々なことを忘れられる。童謡を口ずさみながら、フレデリカは薔薇の手入れを手際よく進めていった。
……店の入り口からは、楽しそうな彼女の歌声が聞こえてくるだろう。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 花屋『アイリス』」にヴァイパーさんが現れました。
ヴァイパー > ふらふらと何気なく街中を歩いていると、耳に僅かながらに歌声が届く。
女というより、少女といった高く心地よい音色の声はこの男の興味を誘うのに十分で、一人で立ち寄ることもない花屋へとたどり着いていく。

「…ん? ここにいないとなると」

店先に歌声の主が見当たらない、けれど音は近くなっている。
ならば店の奥か? と思いながら、遠慮無く店の中へと立ち入れば、道中の花に目を留めることもなく、ただ奥を目指す。
砂糖にスパイスに素敵なこと、甘ったるいフレーズの歌に似合うような愛らしい少女の姿に笑みを深めつつ、歌の終わりに言葉を挟む。

「いいねぇ…砂糖にスパイスか」

茶化すような言葉を紡ぎつつ笑みを浮かべると、手入れのされた薔薇へと視線を落とす。
棘のある花は扱いが面倒と聞くが、綺麗な仕上がりのバラを見やれば、お上手と言いたげに口笛を鳴らしつつ、軽くあたりを見渡す。

フレデリカ > 夢中になって歌を歌っていたからか、来客にまるで気が付かなかった。
背後から言葉を掛けられ、慌てて振り返る。そこには小綺麗な身なりを整えた男が笑いながら立っていた。いつの間に、と驚きながらも、急いで椅子から立ち上がり会釈をする。

「い、いらっしゃいませ! すみません、歌うのに夢中で気が付かなくて……」

申し訳なさそうに眉を下げ、手に持っていた鋏を机の上に置き、薔薇は近くの花瓶へと挿す。そしてまた男の方へ向き直り、にこりと朗らかな笑みを浮かべた。

「何をお探しですか? 生憎今はお花の種類が少ないのですが、希望のものがあればすぐお持ちしますよ。花束の作成も行っているので、大切な方へのプレゼントにぜひ!」

ヴァイパー > 慌てふためく様子に楽しそうに微笑みながら、ひっそりと彼女の容姿を検めていき、手が届くなら楽しめそうだと心の中でほくそ笑む。

「いやいや、可愛い歌声に『俺も和んでた』ところだから…何だか恋の『悩みでもある』のかなって思いながら、聞いてたぐらいだし」

他愛もない言葉で返事をしているが、貼り付けた笑みからこぼれた声には、言霊の力が込めていた。
自分は和んでいて、気を悪くしていない。
君に悩みがあるのは分かる。
お近づきと探りを兼ねて、そこを強調しながら語りかける。

「いや…歌声につられてきただけなんだ、ごめんね。花の種類…… 『少ないって何かあったのかな?』」

草花に詳しくはないが、言われてみれば種類が少ないような気がする。
品数が少ないというのは、付け入る足がかりになりそうだと企み笑みを心の中だけで浮かべ、変わらず人当たりのいい笑みを見せていた。
その理由を抑えるために、しっかりと問いかけの声に言霊を込めて、見えぬ力で誘導を促していく。

ご案内:「王都マグメール 平民地区 花屋『アイリス』」にフレデリカさんが現れました。
フレデリカ > 「あ、ありがとうございます。恋の悩み……そうですね、少し、あるんですが」

歌声に和んだという言葉と、恋の悩みがあるのかという問いに、頬を赤らめて恥ずかしがりながら頷く。違和感なくその言葉を飲み込めているのは、目の前の男の術の影響であった。それに気付くことなく、次の問いかけにも素直に答える。

「……花の種類が少ないのは、最近花の仕入れが出来ていないからです。最近、戦争があちこちが起こっているから、花の生産地が荒れて、花が手に入りにくくなって……。お客さんも少なくなっちゃって、家計が少し苦しくなってるんです。だからわたし、街に出て花を売ったりしてお金を稼いでるんです。恩人であるおじいちゃんとおばあちゃんに、少しでも恩返ししてあげたくて……」