2015/12/21 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/黒猫のあくび亭」にヴァイルさんが現れました。
■ヴァイル > ティルヒア動乱終結の報は、ただちに王都にも届き
この酒場においてもその話題でもちきりとなっていた。
ヴァイルはひとりカウンター席に座り、くるくるとフォークを回転させて、
用意されたイカスミのパスタを絡めとっていく。
「……神の奇跡、ね」
終焉の光景を形容した言葉のひとつがそれであった。
もちろん魔族としては受け入れ難い現象である。
その場に立ち会っていたわけではないからたいして信じてもいない。
■ヴァイル > 神的な存在が降臨して邪を払い、迷える魂を救った。
そんな与太話とも思える伝聞を一笑に付すことができないのは、
証言の多さ、そして……
魔族《夜歩く者》であるヴァイル・グロットにも
その瞬間に形容しがたい感覚が走っていたことにあった。
「……《無の世界帝国》からの干渉の指示がなかったことは、
このことを予見していたためか?」
無表情に小さくつぶやいてみるが、答えの出るはずもない。
パスタを口に運ぶ。
……顔をしかめて、傍にあった牛乳のグラスを傾けパスタの皿に注ぐ。
近くの客がうぇっという顔をしていたが、構うことはなかった。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/黒猫のあくび亭」にチェシャさんが現れました。
■チェシャ > にゅ、とヴァイルの席の下から夜色の毛並みの猫の手が突き出る。
隣の席に座った猫が懸命にイカスミパスタへ悪戯を仕掛けようと手を伸ばしていたが
相手がパスタの上にミルクをどばどば流し込み始めるとその手を引っ込めて
おえーという相手を非難するような視線で見上げた。
■ヴァイル > 「チェシャじゃないか。
何度も同じ手には引っかからんぞ、たわけめ」
夜色の猫に気づき、陰のあった表情がぱっと上機嫌なものに変わる。
責めるような視線をひらひらと振った手の甲で跳ね返し、
平然とした様子で白く染まったパスタをうまそうに口に運ぶ。
「煮干しいるか? 全然減らなくて困っていたんだよ」
にぃと口元を歪め、見覚えのある煮干しの瓶詰めを取り出して蓋を開け、
一匹をつまんで鼻先に近づける。
瓶の中身は少しは減っているようだが、ヴァイルの言葉通りまだまだ残っている。
■チェシャ > 「なんでイカスミにミルク混ぜてんだよ。きもい、やめろ。
イカスミのパスタ神に申し訳ないとか思わないのかお前」
げんなりした調子でヴァイルが口に運ぶさまを見ながら前足を戻して
ゆらゆらとしっぽを振りながら席の上にきちんと座りなおした。
煮干しが差し出されれば鼻先がひくひくと動くが手ずからは食べたがらない様子で
そこのカウンターに置けとばかりにとんとんと前足をつついた。
「なんで減らないものをそんなたくさん用意したんだよ。馬鹿だろお前」
呆れた様に溜息をにゃふっと吐く。
■ヴァイル > 「おいおい、おれの硝子のような繊細な心を徒にひっかいてくれるな。
マグメールから神は去ったし、パスタにも神はいないよ。
おれの食い物をどう扱おうが、どうこう言われる筋合いはないぜ」
ゆうゆうとした返事。もちろん傷ついている様子はまったく見られない。
チェシャの指図にしたがってカウンターに煮干を置き、
更にその上からざらざらと雑に瓶を傾け煮干しの山を作る。
それでもまだ煮干しは残っているようだった。
「いや、一匹だけ買うのは逆に面倒だろ。
チェシャがもっと喜んで貪ってくれれば、何も問題はなかったんだが。
つまりきさまのせいだから、責任取ってちゃんと食うように」
パスタもそこそこに、威圧感の薄い人懐こい笑みを浮かべて
チェシャが煮干しを食べるのを今か今かと待ち構えるように見下ろしている。
■チェシャ > 「んじゃあ空飛ぶスパゲッティモンスター教に罰として火あぶりにされるな。
だいたいなんでお前はいつもミルクばっかり飲んでいるんだよ。
本当に乳離れできていない奴なのか?」
積み上げられた煮干しの山を睥睨するとふんと鼻を鳴らして
すこしばかり前足でつかみ出すとそのままぽりぽりと齧りはじめる。
うまい、煮干しは海の恵みがもたらした嗜好品。
「僕はそんなに食べないんだよ。特に今の体じゃ人間ほどには入らないんだから。
お前がやたらと大雑把に買ってくるのが悪いんだ。人の責任にするな」
ぽりぽりと咀嚼の合間に悪態をつく。
■ヴァイル > 「なんだその胡散臭い響きの宗教。
乳と血って、ほら、似てるだろ。チチとチ」
明らかに真面目に答えるつもりはないと知れる様子。
卓に片肘をついてにこにこと、煮干しを囓るのを見守っていた。
「ま、なんだかんだ言ってこうしてチェシャは食べてくれるし、
長い目で見りゃ悪い買い物ではなかったと思うぜ。
煮干し以外に食いたいものがあるなら買ってやるよ。
ふうん、燃費がいいんだな、その身体。
ならずっと猫でいるがいいさ。
人の支配する浮世、きさまには棲みにくかろう?」
たくさん食わないと大きくなれないぞ、などと余計なことも言いつつ。
■チェシャ > 「さぁ……?っていうかただの駄洒落で好き好んでそればっか食べているのかよ。
呆れた。お前そういうダサいことするやつなのか……」
頭までもりもりと齧りつく。だが横でにこにことしているヴァイルの顔がやたら気になって
だんだんと腹までたってきてしまった。
ひとつ反り返った煮干しを前足で器用にとらえるとぺんとその額めがけて一つ飛ばしてやった。
「別にお前に何か施される理由がないからいいよ。気持ち悪い。
……猫でできることと人でないと出来ないことがあるからな。
使い分けているだけでどっちかにずっとなるっていうのは理にかなっていない。
それだけだよ」
うるさい、お前は母親か何かかといいながらもう一匹つまみ始める。
■ヴァイル > 「いまさらきさまに呆れられたからって、おれの心が動くことはないよ」
などと機嫌良さそうに返事をしたところで、油断しきった顔の額に
ぺしりと綺麗に煮干しが命中した。
思わず額を手で押さえる。チェシャに晒す二度目の不覚であった。
「おれには母親のことはわからん。
しかし意外だな。チェシャはもっと仕方なく生きているように見えていたよ。
おれの思っているよりかは器用みたいだ」
食い物を粗末にするなよ、などとつぶやいて
額に飛ばされた煮干しを手に取り、グラスのミルクに浸し、ひょいと自分の口に放り込む。
「……ひょっとしてチェシャがいつも機嫌悪そうなのはそれが理由だったのかね?
説明するのもバカバカしいから、あえて口にはしなかったんだが」
はあ、とため息。今度呆れたのはヴァイルの側だった。
猫の愚かさを楽しむにも限界がある、と言った風。
「好きなやつの喜ぶ顔が見たいっていうのは、そんなに気色悪いことか?」
そう言うと、まるで拗ねたようにカウンターに向き直り、
ミルクに浸かったパスタを再び食し始めた。