2015/11/11 のログ
■エレイ > ──その後一通り裏路地を見て回ったが、これといったものには遭遇することは無く、ちぇーとか不満気な声を漏らしながら表通りに戻っていったとか。
ご案内:「王都マグメール 平民地区2」からエレイさんが去りました。
ご案内:「平民地区にある露店市場」にエウレリアさんが現れました。
■エウレリア > 「―――ねぇ、これは一体何ですの?」
小首を傾げて豪奢な金髪を揺らす娘の問いかけに、露店商は救いを求めて困惑の視線を彷徨わせた。
慌てて視線を逃がす同業者達に絶望しつつも、店主は必死の説明を開始する。
使い慣れぬ謙譲語が語尾を震わせ、中年男の頬に冷や汗を伝わせた。
傾き始めた陽の光が、程なく薄暮の茜を宿すであろう時間帯。
夕食の材料を買い求める主婦や、使いに出された給仕達でごった返す市場にあって、エウレリアの存在は酷く浮き上がる物だった。
波打つ髪は腰まである長さにも関わらず、手入れの行き届いた金糸の如き艶やかさを見せ、豊かな白乳の谷間を大胆に露出させた緋色のドレスは、素材からして平民の物とは異なる高級品。
切れ長の紅瞳は瞳孔の小さい酷薄そうな印象の物なれど、すっと通った鼻筋と、薄笑みを浮かべる唇の紅桜色が形作るのは類稀なる美貌。
二の腕から指先までを覆うライトプレート、ドレススカートの裾から覗く黄金の脚甲、そして、しなやかに引き締まった腰から下がる細剣さえも、精緻な装飾と金銀の輝きによって貴族然とした印象を漂わせ、この場におけるエウレリアの異物感を強めていた。
ご案内:「平民地区にある露店市場」にシャロンさんが現れました。
■シャロン > 平民地区、露天市場。夕刻の斜陽が刺す中を、少女は歩いていた。
夕飯の支度時だからか、市場は人でごった返している。どの店も書き入れ時のようだ。
主婦と店主の値切り交渉、細工商の売り口上、実に賑やかなものである。
その中を進む少女は、休憩と見回りを兼ねての道行きだった。
「――さて、今夜は何に致しましょうか。作る気力はないですし」
露天の食事で済ませてしまおうか、と悩みながら、歩く。
その最中、ふと見えた店の店主と目が合う。何やら困ったような視線だ。
どうしたのだろうか、とは思えど、お節介な少女には見捨てることも出来ない。
とは言え様子を見れば、何やら説明をしている。
邪魔をするのも悪くはないが、うまくすれば助け舟が出せるかもしれない。
故に少女はそっと店へと近寄ると、同じく店に興味を持った客のように振るまい、そっとやり取りを覗き込む。
■エウレリア > 身振り手振りを添え、現物を開いて見せつつの説明に、貴族娘は興味深げに首肯を繰り返す。
これは、焼いた豚肉を薄く切った物を、レタスやトマト、玉ねぎのスライスと共にパンに挟み、特性のソースを塗って味付けした庶民の食べ物らしい。
説明を終えた店主が、不安げな視線でエウレリアの美貌を見つめる。
しばしの逡巡。
考え深げに伏せていた長い睫毛を上げ、妙に鋭い紅瞳を店主に向けて、艶やかな唇を開いて―――――不意にその身が翻った。
ドレススカートを膨らませ、金色の波打ち髪で弧を描き、紅色の瞳が遠間からこちらを盗み見る人垣に向けられる。
見開いた双眸の中、小さな瞳孔がやけに不穏な色を灯している。
その目が向くのは、つい先程、人垣の隙間から顔を覗かせた愛らしい少女の方。
戸惑いの声音をあげる店主を置き去りにして伸ばした細脚が、拍車鳴る金属的な足音で石畳を叩きつつ歩を進める。
獲物を見つけた猛禽の如き瞳。
反して嬉しそうに、むしろ狂気すら滲ませた笑み。
「――――そこの貴方。今、このわたくしに殺気を向けまして?」
少女の眼前にて立ち止まり、凛然とした涼声を響かせる。
向ける瞳の先は、少女の蜂蜜色の頭部の上を通り過ぎ、その背後にて短刀の柄を握りしめる貧民の目を射抜く。
■シャロン > (……サンドイッチ、其れも豚肉の。あれは中々美味な奴でしたね)
漂う香ばしい香りを楽しみながら、内心独りごちる。
貴族の生まれだが、騎士としての生活が長いせいか、庶民の生活には慣れ親しんでいる。
故にこうした露天での買い食いは、少女の密かな楽しみだった。
さて、目の前の女性も何やら話がついたようだし、自分も買う準備をしよう。
懐から小さな革袋を取り出した刹那、目の前の女性の身が翻る。
――目が合った。その紅い目は紅玉のような輝きをこちらに向けている。
射抜くような視線を向けたまま、女性はこちらに近づいてくる。
そして目の前、立ち止まると、凛とした声が朗々と告げた。
「……はい?」
自分だろうか?否、彼女に剣を向ける理由はない。
では誰が?――視線を辿ると、その先には別の誰かの姿。
貧民らしい服を纏った何者かに向けられていた。
周囲の人混みが割れる。逃げたと言っても過言ではないだろう。
その流れに乗れなかった少女は、うっかり挟まれてしまう形となった。
殺気を向けたらしい者と、向けられたらしい女性の間に。
■エウレリア > 問いかけるような少女の声音が耳に入っていないように、エウレリアの目は獲物の動きをじっと見つめ続ける。
『ひぃ……っ。』と息を飲む男の声。
そこに最早殺意は無く、怯えの色が滲むのみ。
完全に戦意を失った貧民は逃げ出すことも出来ぬまま、短刀の柄を握りしめたままガタガタと震えていた。
にも関わらず、貴族娘の醸す危険な気配は微塵も緩みはしなかった。
見るものが見たならば、今にも腰の銀剣で男の喉元を貫きかねないと分かるだろう。
人垣が割れる。
立ち尽くした少女を残して場が整う。
恐ろしい程の静けさが、場の空気を張り詰めさせていく。
機せずして一人の少女を挟み、殺戮が行われようとしていた。
取り残された少女が何の動きも見せなければ、程なく、一人の命が奪われる事となるかも知れない。
■シャロン > 殺気が満ちる。後ろに感じるのは怯え。
対する女性は、何処か楽しむような剣呑さが見えた。
――彼は殺されるだろう。予想ではなく確信だ。
貴族の命を狙い、刃すら握っているのだ。言い逃れなど出来まい。
だが、怯え震える男を見捨てることは、少女には出来なかった。
女性が剣を抜き、男の喉元を貫こうとする瞬間。
少女もまた、腰の短剣を抜き、女性の剣を横合いから弾くように振るう。
首の薄皮を切るような軌道に、一閃をずらすことが目的。
死ぬことはないが、その恐怖の極限は味わうべき。それが少女の判断だった。
「――そこまでです。戦意を失っているものに剣を振るうのは、貴族の振る舞いとは思えません」
努めて冷静に、言う。だが、それは暗殺者たる男をかばったように見えてしまうかもしれない
■エウレリア > エウレリアのガントレットが、その金色を霞ませた。
常人の目には映らぬ抜刀が、その銀光を男の喉元に突き立て―――る直前、蛇の如くしなって飛び退いた。
こちらの刺突への『合わせ』。
それに寸前で気付いた女剣士が、互いの刃が打ち合わされる直前に剣を引いて飛び退いたのだ。
一足で3m程の距離を開けたエウレリアのドレススカートが、ふわりと金色の脚甲を覆う。
ようやくにして事態に気付いた観衆が、既に抜かれた二本の白刃に悲鳴を上げて逃げ惑う。
新たな獲物の出現に、エウレリアの狂眼が更なる歓喜を滲ませた。
勇気ある少女の宣言が蜂の巣を突いた様な喧騒の中にもはっきりと響く。
きゅうっと魔物の如く絞られた紅色の瞳孔が、少女の姿を見つめる。
そして―――――
「―――――……あら?」
氷の刃の切っ先を思わせる、ピンと張り詰めていた空気が唐突に解けた。
少女の背後で腰を抜かしていた貧民が、悲鳴を上げて、転げるように逃げていく。
「貴女………可愛らしいわ。」
甲高い鍔鳴りの音と共に、先端を赤熱させた銀の細剣が鞘に収まる。
同時に歩み始めた女剣士の長身が、少女の眼前へと無造作に近づいていく。
■シャロン > "合わせ"を見ぬかれた感覚。どうやら彼女は、貴族であると同時に剣の名手でもあるらしい。
引かれた剣、その先を無意識に追うと、銀剣を腰に差し戻した。
さて、どうなるか――。
逃げゆく観衆。衛兵を呼ばれそうな気配がする。
とは言え彼女をそのままにして一人逃げるわけにもいくまい。
敵意が膨らみ、少女を貫く。汗がにじむ感覚。手練の相手は久しぶりなのだ。
身構え、呼吸を合わせようとした瞬間、急激に空気が緩む。
瞬間、暗殺者たる男は、早々に逃げおおせて行方をくらました。
残された少女は、かけられた言葉に呆然としたまま
「――はい?……あ、えーと、その……」
見上げる。凛とした長身が麗しい。
近寄られても逃げるようなことはしないが、少しばかり居心地悪そうに
「すみません、結果として邪魔してしまいましたね」
理由はどうあれ、あの男を逃がしたのは自分だ。
故に今はただ、頭を下げるのみだった。
■エウレリア > ドレススカートのフリルが薄汚れた石畳を撫でるのにも構わず、女剣士の長身が膝を曲げて少女と視線の位置を合わせた。
小首を傾げながら少女に近付けるエウレリアの顔が、揺れる金髪から甘い華香を漂わせた。
呆然とした顔と、考えのまとまりきっていない声音に女剣士の表情が綻んだ。
「――――邪魔……?」
少女の言葉にきょとんとした表情を浮かべ
「あぁ、先程の無礼な貧民の事ですわね。別に構わなくてよ。ただの暇つぶしでしたし。」
平然と言い放った。
少女が貧民をかばった事に対し、真意を問う様な事もない。
「それよりもわたくし、貴女に興味がありますわ。」
す…と伸ばした手指で彼女の頬を妖しく撫でて、人差し指にてその顎先を持ち上げようとしつつ。
「ねぇ、お名前を教えてくれる?」
にっこりと優しげに微笑み問いかける。
それでも、細めた双眸が蛇を思わせるのは、女剣士の犯してきた罪業の深さ故か。
■シャロン > 「……命を狙った相手を殺すな、と言うのは当事者からすれば耐え難いでしょうから。貴方の気高さに感謝を」
剣を止めてくれたことへの礼とともに、彼女のための祈りを一節。
やがて顔を上げると、綻んだ彼女の表情。美しい、心からそう思う。
暇つぶし、と言われると説教をしたくなるが、今はその時でもないだろう。
そして、自分に興味がある、という言葉には目を丸くする。
言い寄られたのは初めてだ。それも、こんなに直接的に。
頬を朱に染めながらも、その指に逆らうことはしない。
嫌ではないから、問いにも素直に。
「――シャロン。シャロン=アルコットと申します」
どこかときめく感覚を覚えながら、おずおずと微笑みを返してみせる。
■エウレリア > 「……………?」
少女の言葉に、エウレリアはまたしても不思議そうな表情で小首を傾げる事となった。
殺意を向けられる事は、公然と人を斬る機会を与えてもらうことと同意であり、エウレリアにとってはプレゼントにも等しい行為である。
そうした機会を奪われた事に対して憤る事はあっても、先程の様な輩を見逃す行為に気高さ等は必要がないのだ。
眼前の少女は、人殺しの機会をエウレリアから奪ったわけではあるけれど、それ以上に興味を引く美しさを持っている。
女剣士の狂った価値基準からすれば、此度の一件は褒められる様な事は何一つとしてしていないのだった。
「シャロン……と言うのね。ふふ、本当に可愛らしいわ、貴女。」
頬を染め、気恥ずかしげな笑みを浮かべるその様子に、エウレリアの双眸が更に細まる。
最初は冒険者かとも思ったが、胸元に下がる聖印と先ほどの所作を見れば神殿関係者なのだろう。
硬い教義に縛られた彼らの生き方はエウレリアと交わりにくいものなれど、これ程の美しさを持つ少女との出会いを無碍にするつもりはない。
―――なんにせよ、ひとまずは……。
折り曲げていた長躯をすっと伸ばし、振り返る。
あまりの状況に固まって息を呑んでいた露店の主に近づき告げる。
「それ、4つ頂きますわ。お代はこれで足りますわね?」
出来るだけ汚れの少ない紙袋に入れて商品を差し出す店主に、エウレリアは一枚の貨幣を差し出した。
汚れ一つ付着していない大ぶりの金貨。
主に貴族や大商人の間で流通する、スタニウス貨と呼ばれるその貨幣は、1枚で500ゴルド程の価値を持つ。
慌てて釣りを差し出そうとする店主を手で制し、シャロンの元へ戻る。
「付き合いなさいな、シャロン。」
他人に命じることに慣れきった、断られるなどとは考えてもいない一方的な言葉と共に、彼女の細い手首を掴んで歩き出す。
■シャロン > 「もしこれが奇妙だとお思いでしたら、それでも構いません。私が貴女のために祈りたいと思ったのですから」
彼女が自分の物差しを持つのと同じように、少女も自分の価値観の中で彼女への尊敬を示す。
彼女の中がどうあれ、少女からすれば今の行為は気高かったのだ。そこに偽りは見当たらない。
一頻りの祈りは峻厳で熱心なものだったが、それが終わると普通の少女に戻ってしまったようで。
可愛い、という言われ慣れない言葉には、恥ずかしそうに身を縮こませる。
神殿騎士として、ではなく年頃の少女としてのシャロンは、彼女の麗しさに好意を抱く。
それは、恋にも似た思慕のような感覚かもしれないが、未経験ゆえに気づかなかった。
そして、呆けている間に話は進む。大ぶりの硬貨と引き換えに買われた4つのパン。
釣りはいらない、というのがなんとも貴族らしい。少女だったら受け取っている。主に節制のために。
小さな革の袋から金貨を取り出そうとして、やめる。何となく彼女は受け取らない気がしたから。
その代わり、手を引かれると素直にその後を歩く。かけられる声には嬉しそうに、花の咲いたような笑顔を向けて。
「――はい。えーと……すみません、なんとお呼びしたらよろしいでしょう?」
ようやく名を知らないことに気づいた少女は、首を傾げてみせるのだった。
■エウレリア > 「―――ふぅん。そういう物なの。わたくしには良く分かりませんけど、貴女から捧げられる祈りであるなら嫌な気はしませんわね。受け入れてあげますわ。」
ツンと顎を持ち上げた小顔が、高慢にして鷹揚な首肯を敬虔な信徒と思しき少女に向けた。
祈りを捧げる少女を前に、胸の前で腕を組み、傲然と顎を持ち上げたエウレリアの様子は、まるで彼女を虐めているようにも見えたかも知れない。
祈りが終わり、買い物を終えれば、少女の手首をしっとりと柔らかく包み込み、歩き始めるエウレリア。
悠然とした歩調は、傍らの少女にしては少し足早にならざるを得ない速度で遠間の人垣に近づいていく。
慌てて道を開ける彼らの動きを、さも当然の如く受け入れて、無数の注視を受けたまま市場から離れる道を行く。
「わたくしはエウレリア。貴女になら、わたくしの名を呼ぶ誉れも授けましてよ。」
フフンと薄笑みを浮かべて傍らを歩く少女を見下ろし、更なる言葉を紡ぐ。
「―――肉は食べても問題ない、はずでしたわね? 先ほど、貴女の分も買いましたの。わたくしの館で一緒に食べるくらいの時間は作れるでしょう?」
この国において最もメジャーな神の教義。
それすら知らぬと言外に漏らす問いかけを彼女に向けた。
たとえ彼女が肉食を許されていないと言おうと、それ程の時間を作ることが出来ないと言おうと、エウレリアにとってこの後の彼女との時間は決定事項である。
返答次第では力づくさえ辞さぬつもりの、命令じみた質問だった。
紡がれる物語の次の場面が、少女と女剣士の戦いの場となるか、それとも館での穏やかな夕食の時となるか、それは彼女の返答次第。
■シャロン > 「そういうものです。真心で対峙したいというだけですので」
見下されるのも嫌な気はしない。それは少女が彼女を少なからず好いているから。
褒められて嬉しくなる程度には乙女なのだ。それも無防備系の。
引かれる手。包む暖かさはしっとりと滑らかで、無骨さは感じられない。
それでいてあの剣技であるから、驚くこと頻りだった。逆に少女の手は、普通の娘より若干硬い。
剣を振るう日々が長かったから、それもしかたのないことだった。
人垣が別れる様を見ながら、どこぞの聖人のようだと思う。
国を出るときに湖を割り開いたという老聖人、そんなイメージだ。
美しさは言うに及ばず、咲き誇る花である彼女に軍配が上がるか。
名乗られれば、その名を噛みしめるように小さく復唱し、そして。
「エウレリア様、ですね。よろしく、お見知り置きを」
歩きながら頭だけを下げて簡易の礼。次いだ言葉には素直に頷き。
「えぇ、お肉は好きです。これも何かのご縁ですから、喜んで」
剣を交えるのも悪くはないかもしれないが、それは後で訓練に付き合って貰う形でも良い。
今はむしろ、理解を深めるために語り合いたいといった所。ならばと素直にご相伴に預かる。
代わりにお茶を淹れるくらいはするつもり。こうして二人、夕暮れの道を歩いて行く。
その先の話は、また別の機会に詳しく語られることだろう――。