2023/07/14 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にリカさんが現れました。
■リカ > 早番で出ていた仕事を終え、賄い代わりにパンを貰って、
まだホクホクと温かい紙袋を抱え、ギルドの建物を後にしたのは数分前。
エプロンを外し、シャツとショートパンツの軽装でサンダルを軽やかに鳴らし、
通い慣れた近道を使って歩き出した―――の、だが。
早足で一ブロック、立ち止まって振り返り、今度は少しゆっくりめに。
急に歩調を速め、いつもとは違う角を曲がり―――次のブロックで元の道に戻り、また一ブロック。
息を弾ませ、蟀谷に汗の粒を浮かばせながら、奇妙な手順を踏んでいるのには理由がある。
パンの入った紙袋を、無意識にぐっと抱き締めながら、
「……やっぱり、……誰か、ついてきてる?」
足音が聞こえる、背中に誰かの視線を感じる。
賑わう街中であればまだしも、この辺りはもう、この時間には静かなものだ。
帰り道で誰かと擦れ違うことも珍しいのに、偶然、たまたま、
同じ方向へ歩く誰かが居るなんてことは、ちょっと考えられない。
ちら、と肩越しに振り返った視界に、それらしき影は見えないけれど、
街明かりも乏しいこの界隈では、何もかもが闇に紛れているから無理もない。
このまま駆け足で家に駆け込むか、それとも撒くことを考えるべきか。
あるいは振り返って、大声のひとつも出してやるべきか。
逡巡しながら歩く足取りは、自然、ひどく緩やかになっていた。
それこそ、偶然方向が同じだけの相手が居るのなら、追いつき、追い越したくなるほどに。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にカジャさんが現れました。
■カジャ > ――呪詛の塊、不浄が形をなしたモノ、或いは……強大な力を有した何かの眷属、それらの欠片が形をなしたモノ。
それが『何』であるか多々討論が繰り返されているが、それが何かは今だ解らず冒険者ギルドには常に捕獲依頼が張り出されている。
そんなバケモノは今宵はあまりに酷い飢えを感じ、捕縛や討伐の危険を顧みず獲物を探して王都をさ迷い歩いていた。
喰らいたいのは肉と負の感情。
人間かミレーかそれとも魔族か吸血鬼か、今はそれも問わず、人であればその肉から負の感情を抉り出し、啜り力を得ようとそれ以上に新たな世代のカジャを生み出す為の苗床を欲して歩く、歩き続ける。
その姿は王都に幾らでもいる野良犬の姿。
気高き狼などではない薄汚れた黒色の体毛の雑種の犬。
ただし右眼は落ち窪み代わりに左眼だけが爛々と赤く輝き、それだけがそれが普通の存在で無い事を見る者に違和感を与える。
そして嗅覚が鋭敏となる野良犬の姿をとった事が幸いしてか、平民地区の通りに漂う数多の香りの中から望み欲した香りを一つ嗅ぎ取り、その匂いを追う為に夜空に向けて鼻先をむけスンスンと二度ほど鼻孔を鳴らして匂いを嗅ぎ取った後に――それは駆けた。
そうして、今宵の獲物たる女の後をついて歩いている。
かち、かち、かち、と路面の硬い石か石畳みかを爪先で引っ掻きながら歩き、追い回して、追い回して、追い回して、湧きあがる衝動を堪えて堪えて、それでも堪えきれぬ分は口端から唾液として滴らせて、獲物に迫る。
灯りが乏しい路地であれば黒い体毛は闇に溶け込み。
人と同じ目線で探すなら闇に溶けこんだ毛並みはその視線を誤魔化し、じわり、じわりと獲物に迫る獣はそうして距離を詰める。
――…その距離が野良犬の姿をとったカジャにとって『良い距離』となったらなら、女が悲鳴を上げる前に駆け出してどこか人のいる場所に逃げ込もうとする前に、獣は駆けて、女の背中に向けて飛び掛り、鋭い爪の生えた前足を使い女の両肩を押して体重をかけることで地面に引き摺り倒そうとする。
■リカ > その身に遠く、淫魔の血を宿しているとは言え。
もともと王都に生まれ王都で育った、本人の認識は飽くまでも、単なる人間の娘である。
街で暮らしている限り、魔族や魔物、闇に属するものたちとは、ほとんど縁も無く――――
そういえば働いているギルドの掲示板に、そうしたものの捕獲依頼が、結構な高額報酬を約束されて、
今朝もいくつか貼り出されていた、のは知っているけれど。
まさか、自ら遭遇することになるとは、今日まで夢にも思わなかった。
知らない、経験していない、どころか想像してみたこともない。
だから―――――初手から見誤ってしまったのだろう。
『かれら』が、ひとのかたちをしているとは限らない。
『かれら』が、目に見えるとは限らない。
そして、何より。
『かれら』にひとたび狙われたなら、非力な女の抵抗も、逃げ足も、
きっと何の役にも立たないことを、本当の意味では知らなかった。
いつまで悩んでいても仕方ない、とにかく先へ進もうと、
前を向き、足を踏み出したその瞬間。
背後に迫る、軽やかな足音を聞いた気がして―――――振り返るより、早く。
「ひ、っ―――――――――…!?」
双肩に食い込む鋭い爪、圧し掛かってくる何かの重み。
悲鳴を上げる間さえなく、女はその場へ倒れ伏した。
咄嗟に出来たことといえば、顔から地面にぶつからないよう、
両手を先につくことぐらいで。
哀れ、組み敷かれた『獲物』と化してしまった女の命運を握るのは、
首尾よく捕獲を果たした、闇色の獣ということに――――――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からカジャさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からリカさんが去りました。