2023/07/09 のログ
ご案内:「王都マグメール にわか雨の平民地区」からクロナさんが去りました。
ティアフェル >  差し出した手を取ってもらえば暖かく小さな手をきゅ、と握って帰路につきながら。

「だかられいぷは要らんて。シメの一言みたいに差し込んで来ないでって」

 ツッコミはいれておく。
 雨の後、水溜まりに街の風景が反射して。しっとりと湿気を含んだ風の吹く夏の午後。踏んで手を繋いでいく帰り道。

ご案内:「王都マグメール にわか雨の平民地区」からティアフェルさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」に影時さんが現れました。
影時 > 冒険者ギルドにおける喧騒は早朝より生じ、昼過ぎに終息する傾向にあるらしい。
勿論、どこもかしこもそう、という断定はできない。
だが、朝一番に張り出される仕事で少しでもいいものを取りたい、と欲は誰しもが同じことだろう。
故に一仕事を終えて、報告しに行く際の時間帯は――ピークタイムを過ぎた頃が一番楽だ。

「討つものは討って掃除して、集めるもの集めて、だ。
 あとは納品するだけ……なンだが」

平民地区の一角に存在する冒険者ギルドの建物、併設された酒場の席にその姿がある。
朝を過ぎ、昼間に差し掛かろうとする中、酒場を見回すと遅めの朝食や昼食に頼もうとする者が増えてくる。
窓際近くのテーブル席を陣取り、軽食と荷物を一緒に広げる男はそのうちの前者である。
“山岳地帯に群生する植物の採取と、群生地に屯する魔物の群れの排除”という依頼を行い、あとは納品を行うのみ。
だが、其れに待ったをかける者がいた。厳密には者ではない。ただの者ではなく、動物である。

「……お前ら、良し悪し判るのかね」

白い着物を着流した男が座すテーブルの上で、小さな姿が赤い木の実を運び、仕訳けてゆく。
その姿は茶と黒の毛並みをした、栗鼠とモモンガの二匹であった。
木皿の上に広げた布の上に盛られた、紅い小粒の木の実を前足で器用に掴み、髭を揺らして匂いを嗅ぐ。
そうして、彼ら?なりの基準で良さそうなものを、別の小さな木皿の上に運んで置いてゆくのだ。
それを眺めつつ、紅茶を満たしたカップを口に運び、二匹の齧歯類の飼い主たる男が零す。

物は確か、食べ物ではない。薬用にも染料にもできる、需要のある植物であった筈だ。
良薬は口に苦しのことわざではないが、食べようとすると苦すぎて食べられるものではない。恐らく。
納品しようとギルドの窓口に運ぶ手前で、何か言いたげにしてきた二匹の意図を試してみれば、この風景が現出した。
彼らには彼らなりのセンスで、良し悪しを見分けられる――らしい。片手で分類された小粒を取り上げ、じっと見る。

影時 > この木の実の品質の良さ、良し悪しは最終的に納品する依頼人であれば分かるだろう。
とは言え、予め良品とそれ以外の分別が出来ていれば、便利であるということは考えるまでもあるまい。
男もいくつかの職能の技を会得し、この国で錬金術も齧る故に物の良し悪しの重要さを理解する。

「……小さな傷はなく、見たところ歪じゃねェがうぅむ」

手に取る赤い小粒を凝視し、見回す。
例えば、虫食いのような傷は見当たらない。そして、よく熟していると思わせるように丸い。そういうことなのだろうか?
カップを置き、選別前と選別対象外のものが混じった山より一粒、空いた手で摘まみ上げる。
そうして、じぃと二者を見比べる。新たに摘まみ上げたものは、仕訳けられたものと比べ、形が悪い気がする。
思わず唸っていれば、テーブルの上から栗鼠が己を見上げ、小さく鳴いてくる。戻して、と言っているかのよう。

「悪い悪い。事が済ンだら、それぞれ胡桃一個で良いか?」

選別後の皿に丸い粒を。少し歪みのある粒はまだ数のある山の中へと戻し、子分と言うべき二匹の毛玉に問う。
作業の手を止め、これまた器用に腕組み考え、了承したとばかりに二匹が鳴く。
そうして作業を再開し出す姿を認めつつ、テーブルの端に置いた布巾で指先を拭い、皿の上に手を伸ばす。
食べかけの肉挟みパンがそこにある。それを掴み、咥えつつ空いた椅子の上に置いた鞄を引き寄せよう。
そこから、如何にも古そうな羊皮紙の巻物を引っ張り出す。テーブルの空きスペースで広げれば、地図らしい地形図が現れる。

影時 > 「……――何の地図だろうかね、こりゃ」

それは今回の仕事で行った魔物討伐の折、亜人型の魔物の所持品から出てきたものだ。
何人かの冒険者を倒したのか、それとも他所で致命傷を負った冒険者の死体から剥ぎ取ったのか。
ともかく、幾つかの経緯と要因を考えられる位、頭目と思しい魔物は装備が整っていた。
ボロボロとは言え、防具やハーネスなどの道具を流用する、使うという発想ができる位、知能は高かったのだろう。
最終的には死骸は燃やし、灰にしたうえで埋めたが、気になったものについては持ち帰った。

年月が古そうに見えるのは、そういった加工の疑いも確かにある。
だが、描かれた地形図は如何にもらしい。何らかの地点を指し示すバツ印もまた然り。
肉挟みパンを咥え、もごもごと齧って飲み干し、紅茶で口の中を漱ぐ。

宝の地図かもしれないし、迷宮の場所を指し示すマップであるかもしれない。
何らかの策略でこのような地図を幾つも作成し、魔物に持たせて撒いている魔族の企みもあるのか?

「大方山脈あたりだろうが……図書館に篭って、地形の照合から始めなきゃなんねぇか、と……、お?」

地図を見られること自体は、別段気にしない。一口乗ってくる者も居れば退屈しないだろう。
そう思っていれば、卓上から鳴き声が響いてくる。
どうやら、栗鼠とモモンガの二匹コンビによる選別作業が満足いくレベルで終わった――らしい。
小皿に乗った赤い実の粒の山を背に、ふふーん、とも言わんばかりの仕草で、黒茶の毛玉が背伸びしてみせる。

ご苦労さん、と労いつつ着物の袖口の袂を漁り、殻付きの胡桃を二個取り出す。
それらを二匹の前に置いてやれば、小躍りするように胡桃の周りを回り、思い思いに抱えて齧りだす。
 

影時 > 「……あ。お前ら、あんまり散らかさねえように食べろな? 後片付けすンのは俺なんだからよう」

云っても仕方がないし、最初から備えておかなかった方が悪い。
硬い殻を齧って割る食べ方を行う場合、当然ながら削り滓が出る。その受け皿を予め用意していれば、掃除の手間が省けた。
しかし、それもなければ当然、テーブルの上に齧歯類の発達した前歯が削った滓が散る。
ペットとも子分ともいえる二匹の顎を鈍らせないよう、殻を割っていない胡桃を用意した自分が悪かったか。
地図を丸め、くしゃくしゃと紙を掻いては、しまったと言わんばかりの顔で吐息を吐く。
酒場の奥のカウンターから向けられる、マスターの視線がちょっと痛い。

言われなくとも片づけるから、と肩を竦め、まずは選別済みの荷物を改めて包み直す。
選別済みの木の実を鞄の中から未使用の袋を取り出し、其処に詰め直す。
それ以外の残りは、テーブルに放り出した布袋に入れる。袋の口を締める際、見やすいように色違いの紐で縛れば間違いはないだろう。
テーブルの上に散った殻の滓は、仕方がない。供されたものがなくなった皿の上には掃き寄せる。
胡桃の殻は鞄の空きポケットに突っ込もう。中身をぎゅっと抱いて、幸せそうな顔で齧る二匹を眺め。

「お前らが食い終わったら、改めて納品に行くぞ」

仕事中、修羅場に入っているときを除き、食事は急かさない。
カップに残った紅茶を啜り、窓から見える空を確かめる。一雨きそうだな、と。そんな予測を立てながら。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/冒険者ギルド」から影時さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にエルビー・カルネテルさんが現れました。
エルビー・カルネテル > 今日の余は美術の課外授業で平民地区の公園にやってきた。
学院の外で何か気になったものを好きに模写すればいいらしい。
余は花や小動物が好きなので公園の花だったり、街中の猫を描こうとした。

が、これがなかなか難しかった。
花はともかく、猫が見ず知らずの余の為にじっと待っていてくれるわけではなくてな。

「ううん…模写と言うのも意外と難しいぞ。」

余はスケッチ帳を持ち、公園のベンチで一休みすることに。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にエリシエールさんが現れました。
エルビー・カルネテル > 公園で寛ぐうちにすっかり休憩モードになってきた余。
当初は座っていたはずのベンチだが、気づけば横になっている。

家では注意されてしまいそうな品のない格好だが、これはこれでいい気分。

「今日は風も涼しくてなんだか気持ちがいいぞ。」

エリシエール > 暖かな日差し。柔らかな風。
じっと動かずに過ごしていればうとうとしてしまうのも仕方がない心地よさ。

公園では野鳥がチュンチュンと鳴き、ちょこちょこと小さな歩幅で地上を歩いており、
花や木々が風を浴び上機嫌に揺らめいている。

「…………♪」

日中で人の気配もそこそこの公園に現れたのは、日傘を差した桃髪の女。
真珠色に艶めくヒールの靴音を小さく鳴らしながら、少年の前を歩いているが、
ベンチで横になっているのを見れば、首をかしげ近づいていく。


「もしもし。そこの若い御方。こちらはベッドではありませんよ?」

柔らかな微笑のまま、そっとしゃがみ込んでベンチで横になる男の子の肩をとんとんと叩く女。
純白のワンピースは神々しさを放っているが、どれだけ薄い生地なのか、素肌が触れた部分は
透明で血色のよい肌をまんま浮き彫りにしてしまう、清楚なようで極めて危ない姿。

当然、女性として成熟した豊かな膨らみを誇る乳房や尻に至っては繊維の薄さが肉付きに負けてスケスケ。

そんな破廉恥な女の姿は、うたた寝さえしてしまいそうな少年にはどのように映るだろうか。

エルビー・カルネテル > ここ最近では珍しい程に心地よい天気だったので、早くも余の意識は薄らいでいた。
瞼がいつも以上に重くなり、というより眠たすぎてそんなことすら気にならないくらい。
小鳥の囀りもなんだか子守歌のようで。

「…おぉ。 余としたことがとんだ粗相を。
声を掛けてもらってすまんな。」

余は数分ほど夢の中に居たであろう。
起こしてくれた親切な女性にまずはお礼を述べた。
ぼやけた視界も次第に鮮明になり、意識も少しずつだが覚醒する。

親切な女性はなんだか目のやり場に困る様な格好だった。
いくら夏といえど、やり過ぎでは?と思ってしまう程に透けた服。
綺麗な体つきはさぞや人の目を集めることだろう。

こんな時、余は意識的に顔へ視線を向ける。
そうすれば意識しすぎることもないはずだ…。

「えっと、エリシエール様か?」

まだ眠気のある余は状況を理解できないでいた。

あまり知られてないかも知れんが、余はこうみえてカルネテルの一族となっていてな。
たまに王城に来ることもあるのだ。
その時、とても綺麗な人だったので印象に残っていた。
もっともあの時はもう少し厚着だった気がするが。

エリシエール > 血生臭く暗雲が立ち込める王国の事情など忘れてしまいそうになる、あまりに恵まれた天気。
日中であろうとも何もかも忘れてまどろみに包まれてしまうのは誰もが頷けることだろう。

「ふふふ……これだけ暖かく優しい日差しの下ならば、致し方ないとも言えるでしょう」

具合が悪い訳ではないようだ。一声かけて、何事もなく起き上がる少年には自らも安心する。
目を覚ます少年の顔を穏やかに見つめたままの女は日傘を差したまましゃがみ、にこやかな表情を
保っていたが不意に己の名を口にする少年には目を丸くする。

「市井にはさほど知られていない身なのですが、よくぞご存知ですね。
 ……卿は学院の生徒のようですが、もしや王城へお越しになられた事がおありでしたか?」

己を知る者はたいてい王国の関係者が大半なのだが、恐らく直に会って話した事はない。
学生という身分もあり、王城にずっといる訳ではなかったのだろう。
整った出で立ちから、王族・貴族階級の学生である事は想像に難くないが。

「その制服……卿も、我々に近しい身分のようですが。
 学院生活は、楽しく過ごせておりますか?……あっという間に過ぎてしまいますので、
 学問はもちろん、悔いの残らぬよう素敵な思い出もたくさん作ってくださいませ」

エルビー・カルネテル > 「そうだな。
今日はここ数日では珍しい位に気持ちよくてな。」

お姉さんは余に優しそうな表情を見せてくれる。
年上の綺麗なお姉さんと言うのはこういう感じだろうか。
見ているだけで気分が良くなってしまう。
…そして、別の感情も芽生えてしまう。

おまけに余が名前を知っていることに驚いたようだ。
それも仕方ない。
余は基本的にカルネテルと言えど王族や王城では隅の方で大人しくしているからな。
理由はその、王城の空気がとても苦手なのだ。

「エリシエール様はご存じないだろうが、余はこう見えて王族の一員でな。
名をエルビー・カルネテルと言う。
今は学院で生徒をしているぞ。」

直接の会話は初めてだが、余は余らしく名を告げた。
多分、得意げな顔をしていたことだろう。

「学院生活は楽しく過ごしているぞ。
王都での暮らしも楽しいな。
それに今日はエリシエール様とも会えたしな。
エリシエール様はよくここにくるのか?」

いつもは王城で政務に当たっているイメージをしていた。
余も向こうほどではないが不思議そうな顔をしてると思う。

エリシエール > まだ幼さを残すが一人前に尊大な口調で語る少年。
その地位に相応しくあろうと努めるようにも、或いは背伸びしているとも見受けられる。
しかし口を開けば、風情を楽しむ至って普通の文化的な少年そのもの。
自然を好む王女もまた、少年の言葉には強く共感して機嫌よく微笑を続ける。

「おやおや……カルネテル王家の御方でしたか。
 我が家が何かと騒がせており、卿らには申し訳ない思いをさせておりますが……。
 ヴァエルフィードを代表し、エルビー殿下には切にお許し願いたく」

改めて少年の名……所属を聞けばどこかばつが悪い様子で冷や汗を浮かべる。
王女はともかく、自身に流れる血・ヴァエルフィード王家はカルネテル王家を特に敵視する存在なのだ。
他の王家と一線を画す王位への執念から何かと血生臭く物騒な家系ゆえに罪悪感さえ感じる。

だが、向こうがその名を口にしているならきっとその辺りも事情は知っているはず。
その上で口を利いてくれるならと、あまり気負うのも止めて少年の楽しい話を聞こうと。

「ふふふ、非常に喜ばしい事でございます。
 ……あらあら、そのような気の利いた言葉まで戴けるとは」

己と会えた などと照れ臭くなる言葉を聞けば、くすくすと笑いながらも満更でもない様子で。
そっと立ち上がれば、少年の隣に遠慮なく腰かけて、男女二人がベンチに並ぶ形となって談話を愉しもうと。


「生憎、王城を離れて市井に散歩へ赴ける事は稀なものでして。
 …………本日は、自分への褒美……とでも申し上げましょうか?」

つまるところ、抜け出して来た訳だ。
にっこりと、どこか茶目っ気を帯びて語る王女エリシエールの実物は存外、奔放であるのかもしれないと
感じさせることだろう。

エルビー・カルネテル > 「ヴァエルフィード…ああ、まあそうだな…。」

余は学院生活の中でもうあまり使わなくなっていた分野の知識を一生懸命思い出していた。
殿下と呼ばれることは全く抵抗がないのだが、カルネテルとヴァエルフィードの家同士の問題とか、
その他色々と王城周りは余の苦手な空気が常に流れている。
余の養父母もそれを知って、余と会う時は城内を避ける程。

余は微妙な表情を浮かべ、一瞬視線が泳ぐ。
よく見ると、エリシエール様もなんだか居心地が悪そうだ。
お互いこんな風になるなんて、他人が見たら笑ってしまいそうだが。

「家同士のことは余とエリシエール様の間では気にすることもなかろう。
余は前から興味があったのだぞ。 美人なのだから当然のことだ。」

殿下、と持ち上げられて余はすっかりそのきになっている。
エリシエール様が座りやすいよう、スケッチブックを両手で抱えて。

「いいではないか。
王城の中にいると気疲れするだろう。
たまには外の空気を吸わないと。」

なんだか子供らしさを感じさせる。
余が知っているエリシエール様とはまた違う一面を見れた様だ。

「所で、喉は渇いてないか?
余はこう見えて魔法が上手でな。
飲みたい物なら大抵用意できると思うぞ。」

エリシエール > 王城内の居心地を悪くさせる要因は枚挙に暇がない。
中でも王位を巡る政争となれば当人にその気がない王族にはウンザリするものだろう。
疲れ果て、または生き残る術がないと悟り王城を離れる王族も数多いと聞く。

自分から切り出していながら、口にすべきではなかったかと後ろめたい迷いもあったが、
しばらくして少年から放たれた言葉には少し驚きながらも、安心したようでにこりと笑う。

「ふふふ……そう仰ってくださると救われる思いでございます。
 ……興味、ですか。まあ、それはそれは」

目を瞑って微笑んで上機嫌そうに微笑む王女から、くすり と声が漏れ出る。
遠慮なく座れば、互いの間を開ける事なく密着寸前の距離感まで縮めて。

「まこと、その通りでございます。エルビー殿下には、心地よい空気をたくさん吸って、
 健やかに過ごしていただきたいものです。……王城の庭園は、心地よい方ですが」

緑が生い茂り、厳かな王城の屋内に比べれば断然、開放感があり心地よい。
……伏魔殿でなければずっとずっと居たい程に。

「おやおや。エルビー殿下は魔法も心得ていらっしゃるとは。
 そうですね……暖かな街並みを歩いたものですので……是非とも。
 卿に甘えさせていただきましょうか♪」

魔術なら己も加護を受けた水の魔法を行使すれば済む話だが、せっかく少年が
気を利かせてくれている。快く応じる王女の声は、どこか高らかだった。

エルビー・カルネテル > 「エリシエール様は美男美女揃いの王族の中でも一際輝いていたからな。
…む。 まあ良いか。」

王族が揃えばどうしても重苦しい話しや剣呑な話題になりかねない。
そう危惧したであろうエリシエール様だったが、余を見て少しは解れた様だ。
隣り合って座ったはいいが、なんだか距離が近い。
初対面の相手なら少し、かなり困る所だった。
が、今は違う。
殿下と呼ばれて気が大きくなった余は、エリシエール様に腕を伸ばした。
そのまま肩を掴んで抱き寄せようとする。
多分、多少ぎこちないと思うが。

「王城の庭園は確かに綺麗だが、余が行っていい場所かどうかちょっと迷うな。
エリシエール様も元気に過ごしてくれると余は嬉しいぞ。」

余も行った事がある庭園だが、油断すると余が王族であると知る人間に声を掛けられることがある。
たいてい碌なことにならんので余の足は遠のき勝ちだ。

「そうだろう、そうだろう。
余の魔法を見せてやろう。」

…多分、エリシエール様も独自の魔法でなんらかの対策ができる気がする。
余ほどとなると、人を見てると分かる時があるのだ。
今のエリシエール様はなんていうか、子供を褒める時の大人の雰囲気が出ている。

だが、褒められたら気分がいいのが余だ。
得意げに胸を張ると、片手で魔法を使う。
すると、エリシエール様の手元には冷えたシャンパンの入ったグラスが。
余の手元には冷えたリンゴジュース。
どちらも余の屋敷で使用人たちが用意したものである。

エリシエール > 「まあ……エルビー殿下はお上手でございますね。……学院で、学ばれたのですか?」

己の美貌には一定の自負こそあったが、改めてうら若い少年に此処まで称賛されると気恥ずかしい。
だが、それに勝る嬉しさが口角の上がりよう、眉の動きへ顕著に表れていた。
他の王侯貴族が聞けばどのように思うか。
若干強張った手つきで己に腕を伸ばす少年には無抵抗で抱かれ、その手が肩を掴んだならば
自らそっと少年に身を寄せ、極薄のワンピースでやや透けた乳房をわざとらしく当ててみよう。

「ふふふ……嬉しいお言葉。
 エルビー殿下のお優しい心遣いに、私は一層……元気になれたと感じております」

少年に身を寄せながら微笑む王女は柔らかな肩を脱力させ、決してそれがお世辞でない事を表している。
うっかり目を閉じれば、うたた寝をしてしまいそうな程に心地よい日差し……そして少年の温もり。
ゆえに、青い瞳はじっと少年に向けて開かれたまま少年の魔術の腕前を見せてもらうことに。

どこからともなく現れたのは、美しいグラスの中で透明感を残す薄い黄色の液体。
……シャンパンだ。よく冷えて、グラスの形状も相まって高貴さを際立たせる。
かたや少年は似たような色だが恐らく、酒ではない何か。

「真昼から、このような施しを得られるとは……エルビー殿下は、淑女のもてなしがお上手でございますね?
 さぞや、素敵な味わいでしょう。……ですが、その前に……」

そっと、グラスを持ち上げ、少年に笑顔で囁くと暗に杯を交わそうと目で訴える。
少年がその意を汲んだならば、そっとグラスを小さく合わせてクリアな音を小さく響かせ。

「……乾杯♡」

どこか艶めいた声で告げれば上品な所作で軽く一口。若き王子のもてなしを味わおう。

エルビー・カルネテル > 「学院でこんなこと教えるのか?
どちらかというと自宅で学んだと言うべきだろうか。」

いや、多分冗談だよな?
それに真面目に返してしまう余も大概だな。
自宅で使用人達や余を慕う者達に接してるうちにこうなったと言うか。

それはそうと、エリシエール様もどことなく嬉しそうだ。
表情も笑っているようだし、余に胸元を押しつけて来てる。
うん、なんだか良い匂いもしてくるな。
余は肩を掴む手に力を籠め、ぎゅっと強く抱き寄せていた。
今は余のモノだと示すかのように。

「余こそ、エリシエール様とこうしてお話できて嬉しいぞ。
それに余の言葉で元気になってくれたのなら余も誇らしいな。」

余に身を寄せてくれているエリシエール様を抱き寄せ、さらに得意げになっているだろう。
エリシエール様が許すのなら、桃色の長髪を撫でようとする。
あまりそう見られることはないが、余もれっきとした男なのだ。

「ふふふ、あまり持ち上げられると調子に乗るではないか。」

エリシエール様は人をその気にさせてしまう何かがあるのか?
余は有頂天に近いくらいいい気分になっている。

「乾杯。」

グラスを合わせ、心地よい音を聞きつつ余もジュースを口に。
屋敷の者達がちゃんと冷やしてくれているので、味もいつも通りだ。
エリシエール様の方はどうだろうか。
喜んでくれているのかな?
余はちらりと横顔を覗きこむ。