2023/05/29 のログ
ヴァン > 少女の言葉には頷いてみせる。
男が困っていたら助ける、というのは悪くはないが、今何かする訳ではない。
がっかりした、という声には右の眉を吊り上げてみせた。

「話の通じる相手なら交渉することにしてるんだ。大方路上強盗だとは思うが……っと」

少女がチンピラに飛び蹴りをかますと、チンピラは両腕を交差し蹴りを防いだ。その後、突如として身体をくの字に曲げた。
男の方に視線をやれば、チンピラへ掌を突き出している。掌の先には微かに魔方陣のようなものが浮かんでいる。
その後、チンピラは二度くの字に曲がると、糸が切れた操り人形のようにそのままの姿勢で頭から地面へと突っ込んだ。

男は軽く息をつくとチンピラへと向かい、武装解除を始める。チンピラはぴくりとも動かない。
懐に収めていたナイフをチンピラが最後まで抜かなかったのは、小娘相手に使うものではないとの矜持からだろう。
ナイフと小さな袋――財布だろうか――を取ると、ようやく男は少女へと顔を向けた。

「久しぶりだな。会う時は毎回トラブルに巻き込まれているが、君はそういう星の元に生まれついているのか?」

森で落とし穴に落ちていたり、野犬と争っていたり、チンピラと争っていたり。
つつがなく暮らしているという姿を見たことはないし、あまり想像もできなかった。

ティアフェル > 「犯罪者と結託して善良な一般人を虐めたらあんたも犯罪者よ」

 如何にも正論というように述べているが、もしも彼がチンピラの方に加担したら厳密に取り締まられるかどうかはともかく、立派なアウトローである。
 しかし、結果はそうはならなかったのだから、ここには犯罪者は一人しかいない。

 飛び蹴りの軌道もタイミングも悪くはなかったと思うのだが、場数を踏んでいるチンピラの方が反応が早かった。防がれたことに、瞬発的に舌打ちして追撃に体勢を変えようとしたところで。

「――っ?」

 対戦相手は唐突に戦線を離脱していた。というかさせられていた。
 思わず知人の方を見れば掌を前へ押し出すようにしている。そこから浮かぶ魔方陣がチンピラを沈めたのだと知れば目を見開いて、そのままパチパチと何度か瞬き。
 そのまま倒れた男からナイフと小袋を取り上げるのを黙って見つめていたが。
 こちらへと声がかかるとようやく我に返ったようにぴくっとアホ毛を揺らして反応し。

「いや、むしろ荒事の起こるような場所にあなたが良く足を運んでいるせいじゃない?
 わたしも冒険者だからまあ、窮地はいつものことではあるけど……ともあれ助かった、わ。一応云っとく、ありがとう」

 こちらに加勢するかチンピラに加勢するか天秤にかけていたのを目の当たりにしたのだから、助けては貰ったが少々微妙な心地で礼を云い。
 ぱんぱんと衣服の埃を払いつつ。

ヴァン > 「見た目通りの路上強盗なら、その通りだ」

少女が何かやらかして追いかけられていた、という可能性も皆無ではない。
過去のやりとりから彼女はそういう事をしない人間だと予想はつくものの、断言できるほどではない。

男の武装解除をしている間、少女が動く気配を見せないため不思議そうに首を傾げた。
言葉だけならば男はチンピラに加勢する可能性もあった、信用ならない相手の筈だ。
この袋小路から男達を置いて早々に立ち去るというのも選択肢としてあるだろう。

「否定はできんな。他人の厄介事は、火の粉が飛び散らない限りは面白いからね。
あぁ、さっきの交渉はそういうフリをしてみただけさ。顔見知りを力づくでなんて、後々面倒にしかならない。
特に君には俺の職場がばれてるからね」

冗談めかして笑うが、言葉通りなのかどうかはわからない。
チンピラの判断が早ければ男が敵になっていた可能性を、少女は自信をもって否定はできないだろう。
男はナイフと小袋をジャケットのポケットにしまうと、にっと笑った。

「言葉以外の報酬はなしかい?頬にキスぐらいしてくれてもいいと思うが」

明らかに冗談で言っているとわかる言葉。右手の人差し指で己の頬をぴたぴた、と叩いた。

ティアフェル > 「わたしがこいつより悪いと思うの?」

 お天道様に顔向けできないことをするほど堕ちちゃいない、と挑むような強い眼差しを向けて腕組みして問い返し。返答次第によっちゃあ、罵倒してやる、とくらい思っているのだから悪人じゃないかも知れないが少なくとも口は悪い。

「人の不幸は蜜の味とは云うけどね……堂々と云うもんじゃないわよ、人間性が疑われるわ。
 フリねえ……あなたほどの実力者がわざわざそんな振りをする理由なんてないように思うけど。実際瞬殺だったし、一応二対一ってことだったんなら余計。
 好感度下がるからよした方がいいわよ」

 実際今、非常に下がってしまったし、額面通り受け取るにはこじつけがましくもあった。
 それに今、カツアゲ野郎からカツアゲしている、結果的にカツアゲ犯となっている。

「……こう、スマートに助けに入ってくれてれば、ありがとう!好き!ってどこへでもキスの一発や二発、可能性はあったけどね……今はもう、好感度だだ下がりだからシンプルに無理ね」

 冗談でもそんな気にならない、とふるふる首を振って。

ヴァン > 「いや。ただ、何がきっかけかは途中で首を突っ込んだ者にはわからない、というだけさ」

腕組みして睨むような姿には肩を竦め、首を横に振る。

「んー、実際俺はご大層な人間でもないしね。
俺はてっきり、最初にこいつが振り返った時点で喧嘩が終わるかな、って思ってたんだ。
喧嘩の原因がわからないから、手を出すのはなるべくしたくなかった」

それでも手を出したのは、失望したという少女の言葉が少なからず男の心を動かしたのだろう。
一方で、喧嘩の相手から授業料を受け取ることには何ら良心の呵責を覚えていないようだった。
迷宮で魔物が出たら倒し、その持ち物を漁ることが当然であるようにチンピラにしている。

「本当かよ……ま、いいさ。
ともあれ、ここが平民地区で良かった。貧民地区ならチンピラが延々と仲間を呼んでただろうから」

チンピラの首根っこを掴むと、建物の壁に凭れさせた。生きてはいるようだ。

ティアフェル > 「わたしの方が悪いようには見えない、それで充分でしょうが。めんどくさい人ね」

 思考がこちらはこちらで単純明快過ぎるのかもしれないが。ふん、と鼻白んで。

「偉人には見えないけど、自分の株をわざわざ下げに行かなくてもいいかと思うの。
 聞き覚えのある声だったから思わずわたしも振り返っちゃったんでね。
 それなら何が原因か先に確認しておけば済む話じゃない。そういう人だったんだー感じ悪ッ、て思われるってことは考慮しとくべきね」

 本当に株が暴落した。これまでの印象から悪く思ってはいなかったどころか、割といい人だなーくらいには好感を抱いていたのが台無しではあった。
 平然とナイフや金品を巻き上げているところも暴落に拍車をかけた。

「少なくともほっぺにくらいはいくらでもしたところよ……今は一歩引いた距離感がちょうどいいなというくらいには思っている。
 でも、借りは借りだから。前言通りもしも困ったことがあれば借りを返しに行くわ。わたしの出来る限りで。
 ………こんな奴に加勢する仲間とか纏めて地獄に堕ちて欲しい……」

 息があるらしいが、なくなっていても微塵も心は痛まない。小さく溜息をついて。

ヴァン > 「そうだな……いい面ばかり見せているのも良くないと思ってる。
あぁ、その点は悪かった」

原因を確認すべきでは、という言葉には返答しない。正論であり、生来の悪戯好き、天邪鬼な部分が顔を覗かせたからだ。
少女の中での印象が壊滅的に悪化したことについては知る由もないが、男が知ったとしても気にはしないだろう。
前述の言葉通り、良い面も悪い面も知った上で相対してほしい、と男は考えていた。

「あぁ、それくらいが丁度いい。俺みたいなオッサンが女の子に近づくなんて、大抵は下心があるもんだからな。
借りは……期待はしないよ。お互い覚えてられるかわからない。君を助けて得たナイフと財布が報酬ってことにするさ。
……こんなのでも王国民だ。法で殺害は禁じられている。気持ちはわかるがね」

下心のくだりは茶化すような口調だったが、男の顔は笑っていなかった。
いい顔をして信頼させて女性を誑かす男など沢山いる。願わくばそんな警戒心を多くの相手に持ってほしいと思っていた。
チンピラの唇のあたりに手の甲を軽く差し出す。息をしていることを確認した。依然として気を失っているので、縛る必要はないだろう。

処置も済んだし、長居は無用だろうか。袋小路を抜けるまでは一緒だろうが、その後は別々の道を歩むだろう。
安全な所まで送っていくことを少女が望むとも思えない。どうしたものかと相手に視線を向ける。

ティアフェル > 「云う程いい面ばかり見せてもらってたわけじゃないですけど……シンプルに嫌われるようなことを好き好んでやるなと云いたい。
 別に、いいけど」

 最終的には敵対しなかったわけだからこれ以上恨み言を云うのも疲れるしかない。
 悪い面を知ってそれでも変わらぬ気持ちを抱くほどにはお互い親しくはなってないのだからどうやってもいい方には転ばなかった。

「好きな相手の下心なら望むところだけど……ここはもう一歩、下がっておこう……。
 それは報酬じゃなくてただの個人的強奪だから一緒にしないで。じゃあその蛮行に目を瞑ったことで半帳消し。
 過剰防衛に問われるのはあなただしねえ」

 地獄に堕ちろと云っているだけで別に自ら手を下すなど一言も云っていないが。
 誑かされた方が納得していればそれはそれでいいのでは、と思うが、誑かす気も目の前の相手はないらしいし、誑かされる段階は過ぎた。
 
「…………。じゃあここで。さようなら。お世話さまでした」

 向けられた視線に込められた感情を読み取りでもしたのか、何か察した顔をして。これ以上手間を掛けさせるわけにはいかないだろうと、別れ道で軽く会釈をしてたた、と速足で帰路へと駆けだしたのだった。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からティアフェルさんが去りました。
ヴァン > 「あぁ、それでは」

少女からの言葉を聞くと軽く頷いて、遠ざかる背中を見送る。
路地を曲がり姿が消えたのを見届けると、軽い息をついた。
頭をぽりぽりと掻くと歩き出し、袋小路から立ち去った。

少女からの株を大きく下げ、得たのはナイフと小銭のみ。
甚だ割に合わない行動だが、人から無視すればよかったのにと言われたならばはっきりと否定するだろう。
男は賢くはなく、独善的だが非情ではない。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/広場」にジン・ジャオファさんが現れました。
ジン・ジャオファ > ──昼間の騒々しさから一転して、冷たく降る雨の音だけが広場に響いている。

傘と呼ぶにはいささか形状が異国めいているが、帝国風の番傘と呼ばれるそれを差す男が一人。
ゆったりと結った黒髪に、光の差さない虚ろめいた金の目と、シェンヤン風の旅装を着ている。
腰には長剣と儀礼剣を差す姿は、戦士や冒険者というよりただの旅行客のよう。

「参ったねえ」

低い声音が、さほど困っていなさそうな軽さで零れ落ちる。
男は王都に来たばかり────といっても、ひと月経つか経たないかぐらいだが。
いつもと違う道を通ったせいで、宿場への道が分からなくなった。
そうして出てきたのがこの広場。普段は奴隷などが売買されたり、咎人が晒し者にされていたりする場所。
今はご覧の通り静寂、雨の中で一人佇む異国風の男は、やや目立つかもしれない。
さてはて、親切な御仁でも通りかからないものかと黒い空から降る雨の音を聞いている。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/広場」からジン・ジャオファさんが去りました。