2023/05/28 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にティアフェルさんが現れました。
■ティアフェル > 比較的治安のいいとされる平民地区と云えど、表通りを一本入ると。
貧民地区に近い場所となると。
それなりに危険な場所もあれば、掏摸やら引ったくりやらカツアゲやら……そんなケチな犯罪で賑わう場所もある。
ここはそんな、一本路地に入った裏通りの一角で、そういった場所に似合うのは――、
ばきっ
「一昨日来いって云うのよ…!」
肉の打ち合うような鈍い音。怒気を孕んだ声。乱れた呼吸も混じる。
それは、故郷ではゴリラ女の名を欲しいままにした特攻型ヒーラーとチンピラとのタイマンな一幕。
袋小路になった人気のない通りでストリートファイト繰り広げる、19歳ヒーラー女子とは思えないゴリラと対するのはチンピラ風情の男。黙って歩いてれば一見大人し気に見えるそんな女をカモとして金を巻き上げついでに力づくで――などとヨコシマ満載な。
しかし、薄暗い通りを一人で歩いていた、ちょろい獲物としか見えなかったその女が予想外過ぎる反撃を見せるのに当初一歩出遅れていた。
『中身ゴリラじゃねえかァ!』
それは男の実際の声か心の声か。若干後悔した心境ではあったらしいが――そこで易々とこんな小娘に気圧されては名折れとばかりに、安っぽい矜持を抱いていた為――戦いのゴングは鳴ってしまったのだった。
「わたしが云うのもなんだけど! あんた倍くらいはでかいガタイしといてちょっとは手加減しなさいよ!?」
ゴリラの分際でハンデを求めるが、チンピラからしたら『ふざけんなゴリラ』としか云いようがない。
ゴリラはゴリラで、相手がただのチンピラにしては腕が立つことに少々焦りを覚え。さらに無手であることに不利を感じていた。
先ほど、回し蹴りを一発男の脇腹に放ったはいいが、ダメージが軽かったらしく足を振り抜いたところで出来た隙を衝いて拳が容赦なく耳の付け根辺りにヒットして、よろけてしまう。
「ッ……」
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にヴァンさんが現れました。
■ヴァン > 平民地区といえど、裏通りは決して治安のいい場所ではない。
犯罪に加勢することこそないものの、騒いでも無関心を決め込む住人が大半だ。
帰宅途中に男は女性の声で威勢の良い啖呵を聞く。男の帰り道からはやや外れる方向であげられた声だ。
賢い人間ならば聞かなかったことにして家路を急ぐ。そして帰宅したら酒を飲んで寝て、翌朝にはすっかり忘れてしまう。
男はそこまで賢くはなかった。何だろうと野次馬感覚で声の方に向かう。
「……ゴリラ?」
男の声がする。確か南方の人型生物だったか。何を意味しているのだろうかと首を捻る。
どうやらただ言い争っている訳ではなさそうだ。格闘の鈍い音もする。
路地を曲がり、袋小路の奥に何度か目にした少女の姿を認めた。ヴァンに背を向けているのは先程の声の主か。
「よう、苦戦しているようだな。手伝ってやろうか?報酬次第だが」
二人へと声をかけると、背を向けていた男が首を巡らせて『あぁ、なんだてめぇは?』とのたまった。
少女相手には決定的な隙といえるが、問題は少女がその好機を活かせるかどうか。
■ティアフェル > 側頭部に喰らった衝撃に一瞬目が眩んで、形勢が傾きかけたところで不意にかかる声。
まさかこんな面倒な場に気づいてわざわざ首を突っ込んで人物がいるとは予想打にしていなかった喧嘩中の二名。
反応する男、そして聞き覚えのあるような声に思わず振り返って。
加勢とは、どちらに向けてだろうか、などと考えていたところで見覚えのある顔が視界に映れば軽く双眸を見開いて。
「ぇっ? ――っ、きゃ……」
対峙するチンピラにも隙が出来たかも知れないが、それはこちらも同じだったので相殺されてしまい。
それどころか知った顔に気を取られてさらに余計な隙が生まれてしまったのはこちらの方で。ただでさえ一発喰らってしまったところに、男の振りぬかれた蹴りに反応が遅れ。
直撃はしなかったものの、わき腹を掠ってしまいさらによろけた。
「――っ……ちょ、っとぉ……知った顔のよしみで助けるべきじゃな、ぃ……ったた……」
男のつま先が掠めたわき腹を庇いながら、畳みかけてくる拳をバックステップを踏んで距離を取りつつ唸り。
■ヴァン > 『なんだぁ、てめぇこのスケの知り合いか?』
「知り合い程度だ。で?先に愉しませてくれるんなら手をうつぜ。嬢ちゃんはどうだ?何が出せる?」
チンピラの問いに答えると、少女へと声を投げかけた。
チンピラは銀髪の男が少女側につくかもしれないと考えたようだ。男と少女、双方を視界に入れられるように位置取りをする。
男は競りの形式にして報酬をつりあげつつ、美味しい所をいただけないかと考えているようだった。
「お嬢ちゃんを助けてもなぁ。前は犬を葬る手助けをロハでさせられたし、森の時も何もなかったな、ってね。
顔見知りを助けろってのはその通りだが、何かしてくれたかい?」
男は正義の味方ではないし、根っからの善人でもない。
やや辛辣とも言える言葉を投げかけた後、交互に戦闘中の二人を眺めた。
そうは言いつつも小声で回復の呪文を紡ぐ。対象は少女。痛みはひいていくだろう。
その後、にっと笑って前方に出した右手で手招きする。いい条件をどちらが先に出すのかと。
チンピラはヴァンを信用したものか、考えているようだった。
■ティアフェル > 「うるせえ、困ってる女子がいたら助ける! 以上よ! あと、あんたが困ってたら無条件で助ける! それが助け合いの云う名の報酬! 不足ならゴーホームすりゃいいでしょ!」
今のところ彼が困っている現場に出くわしたことがないのだから借りがかさんでしまってはいるが。
逆の立場になれば報酬など口にせずにすぐに手を差し伸べるつもりではある。
なんなら困っているから手を貸してくれと一言あれば駆けつけるのも厭わないが、それで不足であるならばこれまでだ。
情のない利益主義を決め込んで女から金を強奪するつもりの文無しのチンピラに力を貸すと云うなら今から敵と見做す。
「――ただ、すっごくがっかりしたわ! 二度も助けてもらったし、もうちょっとマシな人かと、思っていたからね。私の中で通りすがりの素敵なお兄さんじゃなくてあんたはただの気まぐれのすかすか野郎だわ!」
恩義は感じているが、今夜でそれも総崩れするかもしれない。
しかし、辛口な科白を口にする割に回復魔法が痛みを和らげていくのを感じ。
とにかくノーダメージとなったのだから、目の前のチンピラを彼との交渉の前に速やかに叩きのめせば一件落着だ。
急に持ち出された交渉事に男が悩んでいるのを見逃さず。
「手なんか組ませるかボケー!!」
これ以上面倒なことになって堪るかとだ、と地を蹴り、恫喝一発飛び蹴りで突っ込んでいった。