2022/10/23 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/神殿図書館」にアリス・クェンビーさんが現れました。
■アリス・クェンビー > 図書館内に女が立ち入る。
髪は複雑に編まれたフィッシュ・ボーン。そこに真珠の髪飾り。
服装は白ブラウスに、ネイビーとワインの配色が特徴的なフレアスカート。
そこにベージュのコート。胸元には翡翠のペンダント。上品な出で立ちだった。
女は探し物があるようだ。だが、勝手がわからない彼女は、職員の誰かに声をかけようとする。
タイミングが悪かったか、受付やその周辺に人が見当たらない。利用者らしき人はまばらに見かけるが、
彼らに聞くのはためらわれた。
「……自分で探しちゃおうかしら」
書架に踏み込む。
■ヴァン > 本用の台車に載せていた本が片付いて、受付に戻る途中。
昨夜見かけた空色の長い髪をした人影を見かけた。
台車を壁の横に置き、邪魔にならないようにしてから人影へと話しかける。
「やぁ、アリスさん。何か探し物かい?」
まばらとはいえ、利用者はいる。彼等の邪魔にならぬよう、2mほどの距離に近づいてから声をかける。
男は昨晩とほぼ格好が変わらない。よく見れば服の濃淡が違うぐらいか。
■アリス・クェンビー > 「……っ」
この街に知り合いは少ない。声がしたほうを振り返ると、先日知り合ったばかりの青年がいた。
実際は壮年らしいが、女の体感ではそれより若く見えている。
ほかの利用者に気遣いながら、距離を少し詰める。
小声で話しかけるには、少し遠いと思ったので。
「ある作家の先生の本を探しに。……借りるつもりはないんだけれど。
その。本が置いてあるかだけ、確認したくって」
■ヴァン > 「……というと、小説やエッセイか?作者名か書名を言ってくれれば調べられる。
昨日の仕事着も大人っぽくて良かったが、今日の格好もいいとこのお嬢さんって感じでいいな」
懐から掌サイズの板状のものを取り出し、なにやら弄っている。どうやら図書館の備品、魔導具らしい。
一度板に向けていた視線を女へと戻し、軽く顎をあげる。どちらかを教えてくれ、と促しているらしい。
その後、左手で持つ板へと視線を戻し、右手を添えるようにした。
■アリス・クェンビー > 「ハロルド・オルブライト先生。本のジャンルは……」
作者名を言っただけで、黙り込む。平静を装っているが、自然に出てきた褒め言葉に動揺したらしい。
僅かに頬を赤らめると、気を取り直して言葉を紡ぐ。何もなかったように。
「ジャンルはともかく……オルブライト先生の本はある?」
編み込みに巻き込みきれなかった、少量の横髪を指先で無造作にいじる。
僅かに吐息が漏れた。彼には自然呼吸に見えていて欲しい。
視線は彼が持つ板状の魔道具らしきものに向けられている。無難な視線だった。
■ヴァン > 「オルブライトの作品はあるよ。小説……だけかな。貸出されているものもあるが」
右手の指を動かして、魔導具を操作する。細く長い指がとん、と板を叩いた。
吐息には特に気付いた様子もなく顔をあげる。指である方向を示すと、静かに歩き出した。対象の書架に案内するのだろう。
「ファンなのかい?最近は新作を出していなかった気がするが。……どんな小説を書く先生だっけ?」
歩きながら質問する。名前は聞けば思い出せるが、久しく聞く機会がなかった名だ。
魔導具で書名を確認したものの、どんな内容だったかは思い出せない。
行き先がはっきりしているからか足取りはしっかりとしている。やがて小さな書架の前で立ち止まり、このあたり、と示した。
■アリス・クェンビー > 「小説だけ。……彼が遊びで書いた小説のほうが、受けが良かったのかしら」
彼が魔道具を操作しているのをしばらく眺めていた。
モヤモヤした心地で呟く。本のラインナップが理由ではない気がする。
促されれば、それに素直に従った。彼の後に続く。
「元々は、哲学だとか魔法の理念だとか。そういった専門書を書いていた先生。
小説のほうは……簡単に言うと、ボーイ・ミーツ・ガール。
ファンというか──アリスのコレクション。使役している死霊の一人。
今でも執筆している。本人が書いているのに『ゴースト・ライター』なのは、ちょっと笑えないけれど。
……新作。出たはずなんだけどな。『自分の本がどれだけ普及しているか知りたい』って言われて。
だから、ここに来たの。アリスが代わりに確かめるために。……ヴァン様に会いたかったのも、あったけれど」
歩きながら答える。……知名度が低いから、この図書館に出回っていないのだろうか。
それとも、本の種類の問題か。同じ作家でも本のジャンルによって売れ行きや知名度は変わるだろう。
話しているうちに、目的地に着く。途端、零れる苦笑い。
「本当だ。小説しか置いていない」
小さな書架だから、目当てのものはすぐに見つかった。
■ヴァン > 小説だけ、という言葉に不満を感じ取ったのか、ちらりと見た。
「専門書も同じ名義で?複数のペンネームを使い分ける人もいる。魔法理念ならば、学院の図書館にはあるかもしれないな。
……亡くなっていたのか。道理で」
新作を聞かない筈だ、と思ったが続く言葉に不思議そうな顔をした。
霊体は一般的には物体に影響を及ぼさないとされている。ポルターガイストや、ペンに霊体が宿って執筆でもしているのだろうか。
蔵書の傾向について質問されて、顎に手をあてた。間接的に本人――霊体をそう呼ぶのも妙な気持ちだが、彼にも伝わるだろう。
死霊に感情があるのかは知らないが、言葉を選ぶよう考えた。
「ここは小説のコーナーだから……仮に哲学書が蔵書としてあっても、あるのは違う棚さ。
神学書や哲学書といった硬い物だけだと人が来ないから、客寄せ的に恋愛ものや冒険ものなども入れているんだ。
一般民衆にはそちらの方が受けが良い。哲学書がこの図書館にないのは少し不思議だが……広さや予算が有限なものでね」
会いたかったという言葉には心を擽られたが、それを表情に出す場面ではなさそうだ。
取り繕う訳ではないが、直近の貸出状況を端末で確認し、それなりに利用されていることを伝えた。
■アリス・クェンビー > 「オルブライト先生のお弟子さんのほうは、官能小説を書く時だけペンネームにしているようだけど。
あっ……弟子の作家先生のほうは生きてるのよ? よく師弟で言い争いをしているみたい……。
『どっちのほうがよく書けているか』とか。『どっちのほうが読者の心を掴んでいるか』とか。
埒が明かなくなると、お互いの容姿や性格、ファッションセンス、交友関係、最近あった幸運な出来事……。
ともかく、ともかく、何でもいいから引き合いにして。並べて比べて。優劣を競っているみたい」
話の流れで弟子作家のペンネームについて触れた。
アリスにその意図はなかったものの、間接的に「官能小説を読むことがある」と彼に伝えたようなもので。
それに気づかないまま、ヴァンの不思議そうな顔には気づくと、微笑んで。相手の疑問を想定して、聞かれるまでもなく答えた。
「先生もそうだけど……アリスが使役している死霊は全員、自我が強いから。
念力でものを動かすくらい、できるわ」
会話をしながら、不意に彼との距離を詰める。一歩半分。
「先生のフォロー、ありがとう。……本人もわかっているみたいなの。
自分が書きたい本と実際に売れる本は、違うって。
娯楽小説が受けても、先生の承認欲求や自己顕示欲を満たせないようなのよね……」
それからまた、一歩。距離を詰めた。
「……ヴァン様」
上目遣いで彼を見上げる。女の白い指先が彼に伸びかけて、触れる寸前で引っ込む。
どうしたものか。顔を俯かせた。
■ヴァン > 「恋愛小説でも物によっては官能小説と区別がつかないものもある。お弟子さんはそっち系も書く、と。
死霊というと陰気な印象を受けるが、君の話からだと、随分活動的というか、感情表現が豊かなのだな。
使役というのがどういう状況・状態かはわからないが、個性的な面々を相手にするのは大変じゃないか?」
続けられる、自我が強いという言葉。
精霊使いは精霊を使役するといいながらも、実態は良好なコミュニケーションをとって依頼するのだという。
似たようなものだろうか。ふ、と詰められる。距離がやや近い。
「世界でもっとも有名な推理小説のキャラクター……今君が想像したものであっていると思う。
それを作った作家先生は歴史ものを書きたかったらしい。当座の生活資金稼ぎで名探偵を作ったんだと。
彼が没して長いが、彼は『名探偵』の作者として知られている」
女が伝えたかったことに繋がるか、そんなエピソードを語ってみせた。誰もが思い通りに生きられるわけではない。
更に距離を詰められる。上目遣いで見られて、昨日とは履いている靴が違うのかな、とぼんやり考えた。
「年上だからといって、様づけじゃなくて、普通にさん、でいい。なんだい?夕飯のお誘いなら今夜は空いてるぜ?」
整った、年若い女性の顔がすぐ近くにあると、多少なりとも緊張する。何か言いだしそうで止まっている女に、軽く投げかける。
否定されるような茶化すような言葉を投げかけ、リラックスと共に本音を引き出す。
先程指先が動いたようだが、人気が少ないとはいえ公的な場所だ。突飛なことはしないだろう。
■アリス・クェンビー > 「……主導権は、アリスのほうにあるから。だから、『使役』という言葉は使うけれども。
奴隷みたいに扱うことはないわ。大変も何も、誰にでも個性はあるから。
おのおの、臨機応変に対応するだけよ」
余計なことを言った気がする。弟子作家の部分は、これ以上発言を避ける。
普通に会話を続けている風でも、距離を詰めた女の心臓は速く脈打っている。
「詳しいのね。ヴァン様も、本を読まれるの?
……そうね。アリスも今のところ、思い通りに行っていない」
ため息交じりに言う。女は無意識に、自分の横髪に触れる。
今日の彼女の足元は、ダークオレンジの編み上げブーツだった。
「……遠回しながらも、サインは出しているつもりなんだけれど。
それ、意地悪で言っているの? アリスの考えていること、あなたはわかっていそうなのに」
さん付けが来るどころか、二人称代名詞が来た。とはいえ、呼称の変化で微妙に距離感も変わった気がする。
今の距離を保ったまま、どこか不満げな様子のアリス。やがて。
「アリスに触れて欲しいの。……だめ?」
緊張した面持ちで言った。
■ヴァン > 話を聞いて、想像した精霊使いと似たようなものかと結論付ける。
違うのは死霊には個性があり、普通の人間を相手にするのと変わらなさそう、という点か。
「そりゃ、司書だからね。少なくとも人並みには読むさ」
思い通りにいってない、という言葉。一瞬だけ男は目をそらした。
呼び方が変わったことに僅か、瞬きをした。
「受信してるが、解釈に手間取っていてね。誤解して後悔したことはたくさんある。
親しい相手でもそうなんだ、昨晩会ったばかりの君からでは……」
緊張した表情に、考えるような素振りをして視線を外した。実際は周囲からの視線が通っていないことを確認。
とはいえ、気配はある。いつ誰が見るかはわからない。
向き直ると、子供にするように頭を軽く撫でて、額に口づけた。顔は耳元に寄せられ、囁き声で擽る。
「人の目がある場所ではこんなところだ。どこで、君の身体のどこを、どういう風に触れてほしい……?
これまでの経験からでもいいし、君が読んだ本からの引用でもいい。
しっかりと言葉で、俺に伝えてほしい。……大丈夫、今は素面だからね。曲解はしないよ」
くすりと笑う。どうやら、弟子作家の部分は聞き流していなかったようだ。
数秒ほどの短い時間の後、元の姿勢に戻る。書架に気になった部分があったか、膝を曲げて作業を始めた。
言いたいことがあるなら耳元に声をかけやすい今のうちに、ということだろう。
■アリス・クェンビー > 「……そうだったわね」
気まずそうに返す。……言われてみればそうだ。彼は司書なのだから。
人並みかそれ以上に読んでいても、おかしくはない。
普段の自分なら、それぐらいの想像はできる。上の空が露呈した。
彼を異性として意識していた。昨日も今日も。もちろん、今も。
ただ、アプローチの仕方がわからなかった。手探りだった。
同時進行で普通の会話及びアプローチ及びアプローチを探るなど、どこかでぼろが出るに決まっている。
そんな自分を痛感して、目まいがした。
ひたすら自意識が恥ずかしい。その中に快楽がある。
内から滲み出す快楽の中、彼の言い分を聞く。
「……あなたが解釈に迷っているのは、なんとなく感じていた。
アリスを試しているようにも感じられたし、気のある振り? 迷惑ではない振り? ……をしながら、
アリスをからかって遊んでいるような気もしてた。でも……。
全体的に見て、慎重だったし……。いや。慎重だとアリスは思ったし……。
だからこそ、『もしかしたら』って期待しちゃって──、
ッ……!?」
なんとか声を押し殺す。額への口づけに、かなり衝撃を受けたらしい。
頭部を撫でられた際の心地よさは、彼の手が離れた今も残っている。
遅れて、くぐもった甘い声が漏れそうになるのを必死に抑え込む。そこに耳元、至近距離からの囁き声。
……彼との距離が近い! 願っていた展開のはずなのに、いざそれを前にすると逃げ出したくなるのはなぜ?
ただ、実際は逃げ出さないし、逃げられなかった。秘所の奥から熱のこもった蜜があふれ出すのを感じた。
相手、シチュエーション、彼の言葉が、アリスの官能を揺さぶる。あそこが甘がゆくて仕方がない。
「………………」
熱っぽい呼吸がひたすら繰り返される。彼の質問にはちゃんと応えたい。
だが、熱に浮かされたような心地からなかなか抜け出せない。言葉が思うように紡げない。
「……ちゃんと、全部。言うから。あとで絶対に言うから。
──今はヴァンと、二人きりになりたい」
彼に近づいて、かろうじて言えた言葉がそれだった。及第点をもらえるか不安だ。
もし彼が横を向いて、アリスの表情を正面から見たのならば、
明らかに欲情している潤んだ瞳、紅潮した頬、薄開きになった物欲しそうな唇が見えたはずで。
■ヴァン > 司書には本の知識は必要だが、世界中の本を読むことなどできはしない。
事務作業を地道にやり遂げる力、そして人から聞き出す力だ。とはいえ、本嫌いはそもそも司書にはならないだろう。
男は目の前の彼女の内心などわからぬまま、自然に振る舞う。
耳元に顔を寄せた際に女の身体がやや固まっているのを感じたが、気にせず続けた。
女の動きがないため、本棚に視線を向けながら雑談するように普通の声量で話す。
「魅力的な女性をからかうのは礼儀みたいなものさ。悪癖とも言われるが……。
……どうした、簡単なスキンシップだろう。嫌だったか?」
一度だけ視線をやって、近づくのがわかると顔を傾け、話しやすいようにする。
紡がれる言葉を聞いた後にふむ、と一言。数十秒返答をせず、手だけ動かして本棚の整理を終わらせる。
立ち上がり、ゆっくりと向き直ると正面から相手の顔を見据えた。
表情を眺めると目が細まる。どこにでもある碧眼が、深夜のような暗い青に変わる。嗜虐的な視線。
「地下に宿直室があるからそこででもいいが……静かな場所の方がいいか。
閉館まであと1時間と少し働いたら、その後の予定はない。それまでいい子で待ってられるか?」
返事がどうあれ、男はまだ勤務時間中だ。宿直室に行っても不完全燃焼になるだろう。
ならば、しばらく待ってもらい、焦らせるか。
考えつつも、時間は過ぎていき――。
■アリス・クェンビー > 「でも。昨日は……。触れてくれなかったでしょう?
──うぅん。嫌じゃない……。気持ちいい。もっと触れて?」
拗ねたような声には、本気の不機嫌は感じられない。
むしろ、甘え、すり寄ってくるような気配がある。
後半、快感を露わにして、欲しがる際の言葉には、アリスは自分で言っていて感じているようだった。
本音を言えば、からかいの延長線上でもいいから……。昨日の時点で彼に触れてもらいたかった。
その欲望はあの時、言い出せなかった。拒まれた時の心痛を恐れていた。
相手の迷惑にならないか、相手に不快感を与えないか。そういった懸念もあった。
それが今、杞憂に終わりつつある。間違いなく幸せだった。
意地悪なのか。返事を数十秒待たされている時も、期待でアリスの胸は高鳴っていた。
やっと彼と視線が絡み合う際には、恍惚とした笑みを浮かべる始末。
「待つのは……その、いいのだけれど。アリスがその宿直室を借りて、そこで一人で待っていても?
……アリス、『いい子』で待っている自信は……」
焦らされるのも快感だった。その先にあるものを思えばこそ。
それでも、待ち時間の扱い方には難儀しそうだ。女の様子と言葉の感じから、
彼との時間が来るまで、一人遊びに耽るつもりなのがわかるだろうか。
ともあれ、ここで行為に及ぶことはない。
彼らは移動するだろう。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/神殿図書館」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/神殿図書館」からアリス・クェンビーさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にリスさんが現れました。
■リス > 平民地区の大通り、夕方から、夜に差し掛かるこの時間は人の行き来が、其れなりに多かった。
仕事を終えて家に帰ろうとする街の人々、冒険から帰ってきて、依頼の性交を報告する冒険者、これから仕事に向かう人、警邏の兵士。
様々な人々が、様々な思いを持って道を行くのだから、それが活気となっているのだろう、と、リスは考える。
早めに仕事が終わって、手持無沙汰になったからというわけでもないが、久しぶりに散歩をしてから帰ろうか、という気分になって、とことことこ、とお気に入りの藤の籠を持って、道を行く。
屋台では美味しそうな串焼き肉を売っているし、搾りたてのジュースも売って居たりする。
寄り道して帰るなら、本屋とか、他の商店、とか、九頭龍温泉……は、毎日のように行ってるけれど、いいかもしれないわ、と。
空色の瞳は、右に、左に、面白そうな店を見ては、ふらりふらりと寄ってみる事に。
店から家まで、其処迄遠くはないと言っても、とても時間がかかるのかも知れない歩き方。
一寸小腹がすいてもいるし、串焼き肉とか、甘いケーキ、とか、何かを摘まんでみましょうかしら、と、良い匂いが漂う一角の方を少女は見る。
でも、とおもう。
「ぽよん……。」
気に成る一点だ。
スタイルが、とても、気に成るのだ。
自分の知り合いとか近くにいる人は、みんなすごい、一言で言えば、とてもすごい。
それを見て、自分を見ると、ダイエットとか……とか考えてしまいそうになる。
でも、美味しい物を食べるのは好きなのだ、とても、とても、好きなのだ。
誘惑に抗うべきなのか、それとも、美味しいは正義!を貫くべきなのか。
串焼き肉の屋台のすこし離れた所で、うーんむーんと唸り始める。
これが、とある店の店長とか言う事実。
■リス > 「美味しいから……いい、よね?」
リスは、人竜だから、人よりもたくさん食べる種族、こんなに小さな体でも、大人の人よりも食べることができる。
寧ろ食べないと力が出ないし、大変なことになる。
家に変えればご飯は在るのだけれども、それは其れとして、と、少女は自分を納得させることにする。
なので、きょろきょろ、と、視線を動かす。
まるで、誰かから隠れているかのように、見つかってないだろうか、と確認するかのように周囲を確認する。
「ちょっとだけ、味見だけ、さちっちょだけだから。」
自分を納得させるように呟いて、良し、食べようと決心。決心というよりも欲望に負けた、が正しいのかも知れないけれど。
ちょこちょこちょこ、と屋台に近づいて、さて、どの串にしましょうか、というよりも前。
どの屋台にしようか、というのがあった。
美味しそうな匂いのする屋台は沢山あって。
フルーツソースを入れた、甘辛系の串焼き、塩振っただけの、串焼き。
一つ串焼きと言ってもいろいろバリエーションがあるのだ、肉だけ、とか野菜挟んでる、とか。
肉だって、鳥豚牛を初めに、魔獣の肉串だってあるぐらいだ。
いっぱいあり過ぎて、どれにしましょう、目移りする少女。
ウロウロ、うろうろ。
右に、左に、色々な屋台を見回して、美味しそう、と目を輝かせていた。
■リス > 「此処が、美味しそうね!」
ウロウロとしていた所、とても美味しそうな匂いをさせているお店があった。
ちらり、と周囲を見回してみても、色んな客が焼き肉の串を駆って、美味しそうに食べていくのが見える。
此処が良さそう、と頷いてから少女は、その店にすることにした。
様々な焼き肉の串があり、人気なのは、たれの付いた焼き肉串らしい、他のたれとは違い、甘さが強そうだ。
しかし、見ているだけでもほかの店舗よりもお肉が柔らかそうで、脂もたっぷりなのが見て取れる。
これはおいしいやつね、と頷いた。
其れで、味見なので、売っている焼肉の串6種類全部を注文することにした。
ちゃんと食べ比べなければ美味しさは判らないし、と。
ほくほく顔で、お金を支払い、紙袋にそれぞれ入った肉の串を受け取って。
「んふー。どこで、食べよう、かしら。」
きょろきょろと、見回しながら。
少女は、焼き肉を食べる場所を探して歩いていくのだった―――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からリスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/市場通り」にマーシュさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/市場通り」にヴァンさんが現れました。
■マーシュ > ───陽が落ちるのが早くなったのを、ぽつりぽつりとともり始めた街灯の明かりを眺めながら感じている。
けれど賑やかさはあまり変わらない、というよりは、時間ごとに、色や雰囲気を違えながら、喧騒は続いているというべきか。
襟の高い黒シャツの袷を鎖骨のあたりまで緩め、のぞかせた喉元の彩にそっと指を触れさせている。
すっきりとしたシルエットは勤めを終えた私服であることを示しつつ。夜の気配を孕みつつある風に、銀糸を遊ばせていた。
言葉を送り終えると、喉元から指を離して───、さて、と視線を巡らせる。
時間的には夕食時、炊飯の香りがほのかに届いて食欲に訴求する。
■ヴァン > 雑踏をすり抜けるように歩きながら、男は歩く。
普段は首から提げられている聖印は左手にチェーンごと握られている。
視界に入った長い銀髪を認めると、聖印を首にかけながら歩き、目当ての女性に声をかけた。
「やぁ、さっそく活用してくれて何よりだ。これのいい所はすれ違いを減らせるところだな。
……うん、この前買った服、やっぱりいいな」
贈ったものは大切に保存されるのも悪くはないが、使ってくれる方がいい。
それに、男が連絡を受信したということは、襟の下に身に着けている、ということでもある。
シャツの色がいつもと違うのに目を細める。もう片方、コートはまだ早い。
選んだ自分のセンスを自画自賛するようでやや恥ずかしかったが、似合っていることを素直に口にする。
「それで……どこに行く?」
市場の飲食店を軽く眺める。詳しい話は決めていなかった。食事か、買い物か。
■マーシュ > 人波を眺めるのは、この辺りで休憩するときも良くするのだが、やはり時間次第で目を引くものは変わってゆくものだな、と静かな眼差しが点ってゆく灯りの煌きを眺めていたのだが。
「────折角ですから。すれ違うのも面白くはあるのですが……でも迷わずに済むのは助かりますね。
………───、ありがとうございます。」
己の出で立ちへの言及にそっと目を伏せると礼を告げた。
僅かに目許を染めて、細められた眼差しから視線を逃がして。
「そうですね………時間的には夕食時ではありますが。少し余裕があるのでしたら、少し小物を見て回りたいのですが」
物欲はさほどないことを以前述べた女が、そっと言葉を添えた。
逃がした視線がちらりと惑うように揺れるあたりは、何か、と思ってもらしい思い付きはあまりなく。
ややあってから───。
「先日のお礼に、何か贈りたいなと思ったのですが。……ヴァン様の好むもの、というのがあまり思い浮かばず」
お茶や強めの酒精を好むことは知っているが、そういうものではなく、と漠然とした考えはあるのだけれど。
僅かに眉尻を下げた。
■ヴァン > 「それに、急に会いたくなった時も便利だ」
続けた言葉はやや、からかっているのか。女からの呼び出しがあったからか、表情は嬉しそうだ。
小物、というと首を傾げて。
「確かに、食事をした後だと雑貨店は閉店してしまうな。わかった。で、何を買うつもり?」
一緒に回る訳だから、日用品に近い物というわけでもないだろう。
彼女が欲しがるものというのが予想もつかない。店まではついていく形になるか。
「お礼……? いや、気にしなくていいぞ。服もこれも、俺の都合で贈ったところがあるし。食事もおごってもらったしね。
好むものねぇ……酒、お茶、本……嗜好品だな。あとは……まぁ、売り物ではないな」
これ、といいながら聖印をみせて、チョーカーのことを暗に伝える。嗜好品は自分で揃えてしまうので、欲しいという訳でもない。
そもそもこの男、長らく人から物を贈られたことがない。咄嗟に思いつかないのも当然か。
何か思いついて口に出そうとしたが、周囲に人がいるからか言葉を濁した。
■マーシュ > 「─────…………そうですね」
揶揄う言葉に、やや沈黙を挟んでから認めた。
彼が言う通りの使い方をしたのは己だ。気恥しさを抱く表情を、夜の照明が誤魔化してくれることを期待しつつ。
「……、……何を買うか、はイメージがまだついてないのですが。……そうですね、できれば残るもの、とか」
この前の食事代だって、己に出してもらった分には追い付かないだろうことは予想できるのだから、少々不満そうな表情を浮かべた。
「そうですね。………贈りたい、というのは私の都合ですが。………、ん、何か思いつきました?」
相手の返答は予想できたものだった。
折角だから、と歩き出す中で何かを思いついたようすの素振りに一度立ち止まり、首をかしげる。
濁された言葉の続きを問うように視線で促す。
■ヴァン > 男は傍らに立ち、同じ方向を見ている。
これから行く店に興味があるのか、女の意を汲んで見ないようにしているのかはわからない。
「残るもの、か。マーシュさんも知っての通り、俺の部屋は消耗品の他は家具、食器、本、服……ぐらいか」
なんとも面白味のない言葉だが、宿屋の一室を拠点にしている男やもめはこんなものかもしれない。
思いついた言葉をそのまま口にするか迷っているうちに、新しくまた考えついたか。
「いや、食器で思いついたんだが……マーシュさんの紅茶用の食器とかどうだろう。俺の部屋に置いておく用で。それと」
さらりと考えなしに告げる。今後頻繁に訪れる可能性があることまでは男も考えている。ただ、その先。
女が訪れて、その後何をするか。蔵書の読書や、食事だけではないだろう。
そんな事は考えもせず、聖印を触る。念話の合図。
(マーシュさんが誘惑してきたら、それは最高の贈り物だね。
……冗談はさておき。君がこうやって連絡をとってきてくれて、共に過ごす時間。俺みたいなオジサンには、それ自体が贈り物さ)
セクハラ発言か、それとも感謝の気持ちを素直に伝えることか。周囲に聞かれたくなかったのは、どの部分だろう。
■マーシュ > 「……確かにヴァン様の部屋はそのようなものですね───」
幾度か訪れた部屋。
ものを持たないのは、女もまた同じだったのだが、いざそういう相手にものを贈るというのは難しいものだと実感する。
「………それは結局、私のものになるのでは───?」
困惑しつつもその案自体は否定しない。ただ、続く言葉が切られ、その指が彼の胸元を彩るものに触れるなら、己も静かに喉元へと指を伸ばす。
(────……っ!?!?
…………、…………、…………)
一度ふ、と息を吐いて、もう一度、輝石に触れた指に思いを込める。
こうして、余人に聞こえない形で言葉を届ける理由を考えながら。
(───善処いたします。)
簡潔な返答を一つ返すと指を離して、代わりにその手を相手に向けて差し出した。
「では、……食器から。参りましょうか?」
■ヴァン > 指摘については、ばれたか、と小さく呟く。
他のものを考えてみるも思いつかなかったので諦める。
念話の間は、しっかり男は女の顔を見ていた。表情の変化、平静を装おうとする仕草。
眉を片方あげてみせて、善処するとの言葉には頷いてみせた。
差し出される手をとり、自然に指を組む。続く言葉には一瞬、真顔になった。まじまじと顔を眺める。
「食器『から』?」
返事を聞く前に、やや高級な食器を扱う店の方向へと視線を向ける。歩幅と歩調をあわせ、市場を歩き始める。
数分もしないうちに店へとたどり着いた。名残おしそうに絡めていた指をほどく。
■マーシュ > 「ええ、でも。────居場所を許していただいたようでうれしくはありますね?」
緩く指をからませるのを受け入れ、あるく。
相手の方が其方については知識があるようだからとその視線に合わせるように食器などを並べた店に向かいつつ。
口に出された問いかけに、女こそが訝しそうに視線をかえした。
「から、です。何か問題でもございますか?」
強請られたことに対して、善処する、と返した。
彼なりの照れ隠しや揶揄いだったのかもしれないが───それを真にするかどうかの選択を委ねられたから己はそう返したはずで。
おかしいところはないでしょう、と言いたげな。
そんな会話にもならないような会話を交わしながら、ほどなく辿り着いた店の軒先。
棚に収められた食器類が、品の良い照明に照らし出されているのが、そこからでも窺い知ることができた。
優美なフォルム、素朴な焼き肌、華麗な金彩、異国風のものもある。
それはそれで、宝飾店にも劣らない華やかさを醸し出すのに少し驚いたようなそんな眼をむけた。
■ヴァン > 「ささやかな場所だがな。今の所が窮屈になったら、図書館に転籍してもいいぞ?副館長として歓迎する」
家のような存在になる、と目の前の彼女に伝えた。そのためにできることはしたい。
聖都からの出張で、彼女なりになすべきこと、やりたいことがあるとわかっているので、図書館のくだりは軽く話すのみ。
「い、いや……何も」
こういった言葉にはただ恥じらうばかりだったのに、と内心驚きつつも、質問には首を横に振って返した。
男の扱い方を理解してきているのかもしれない。
まいったな、とばかりに空いている方の手で軽く頭を掻いた。
店内に入り、食器を眺める。男が普段使っている紅茶セットは華美ではないが、上品な印象を与えるもの。
値段も幅広く、服飾代よりも高価なものは珍しくはない。
無粋かな、と思いつつ口に出した。値段は買い物で重要なファクターだが、それを理由にいいものを諦めてほしくはない。
「気に行ったものが高ければ、少し出すよ」
■マーシュ > 「………そうですね、何か粗相をしてどうにもならなくなったら、考えます」
此方は本当に軽めの言葉だ。
その本意こそをありがたいと思っているから笑んだまま頷いて。
此方の態度に狼狽えた様子を見せるのならば、いつもの仕返しくらいにはなったのだろうか、と思う。
───行動としてできるかどうかは別だけれど。
価値の高いもの、の見方は正直わからない。
ついてる値段と乖離しているようなものもあるが。
店の中に足を踏み入れ、ひとまずは眺める。
あまり華美なものは好まないが──、華美でないからと言って安い、というわけでもない。
陶器か、磁器か。
手触りや、口当たり、を考えながらじっとカップを眺めていると、助言というか気遣いの言葉に少し肩の力を抜いた。
「……そうですね。あまり雰囲気の違いすぎない、シンプルなもの、と思っているのですが」
白磁の、柔らかなフォルムのそれに触れる。
口当たりの部分も穏やかで、己の好みではある。相手の部屋に置いておいてもおかしくないだろうか、とそんなことを問うた。
値段は───出せそう。けれどそれほど安くもないものなのだとそれはそれで一つの学び。
■ヴァン > 「俺も詳しい訳じゃない。
店を構えている所は変な噂が立つと逃げられないから、値段と品質に極端な差はないよ」
露店は逆で、掘り出し物もあればぼったくりもある。買い物そのものが娯楽に近い。
個人で使うのならば、大店に任せた方が無難だ。
「そうだな、一緒に使う物や、場所に適したものがいい。……うん、いいんじゃないか」
選ばれたものは彼女らしいものに思えた。部屋や一緒にお茶を飲む姿をイメージする。
素朴だが今使っているものにも合うし、何より部屋の雰囲気にあう。
ちらりと値段を見て、服装との対比を考える。問題はなさそうか。
決まったのならば、買うのは彼女だ。男としてはついていくだけ。
持って帰るのは己だから、丁寧に包んでもらわないと、なんてことを思う。
店を出る頃には陽はすっかり落ちているだろう。お腹も減ってきたが、はて何を食べたものか。
以前かなり酔った姿を晒してしまったので、逆に彼女が酔った姿を見てみたい。
ほろ酔いではそこまで変化はなかったので、普段とどう変わるか興味はある。
■マーシュ > 「そう言うものなんですね?」
手にしたカップを見つめる眼差しは穏やかだ。
ゆっくりと見定めて、手に馴染むものを選べた気はする。
絵付けも装飾もほとんどないから純粋に品質と値段が釣り合ったものだろう。
会計台に連れ立って持っていきながらも、きらびやかな宝飾品のように姿よく並んでいる食器類は純粋に美しいなと思う。
割れ物を扱う店だから店員もそのあたりは心得ていてくれて、持ち帰るだけであれば問題はなさそうだった。
「──、お待たせしました。ええと、お腹すいてらっしゃいますよね?ヴァン様はいつもどこで食事を?」
相手の思考は読めないが、この辺りで食事も済ませているのではないかと予想を立てる。
──女の食事事情は以前話した通りなのできっと参考にはならないので……いい匂いが漂ってくる食事処や酒場の並びへと目を向けて───。
酒精を口にしないわけでもないこともまた彼は知っているので、そういった席に誘われても断ることはないだろう。
■ヴァン > 買い物後、店の軒先にて、人の出入りの邪魔にならぬよう立ち止まる。
質問に対してはどうしたものかな、と顎に手をあてて。
「普段は1階で食事をして、それから3階にあがるんだ。
だいたい博打に誘われるから、その気分じゃない時は屋台で買い食いとか、他の酒場に行ったりとか」
口にしているのは『ザ・タバーン』でのことだろう。神殿図書館から徒歩約20分、余程空腹でなければ家で食べるのは自然といえる。
博打のくだりで誘いを断らないのは、地元住民が多い店では評判が売り上げに直結すること、長居してもらうことが理由だと告げた。
司書としての仕事だけでなく、経営者の一面を覗かせたのは意外に思われるかもしれない。
「そうだな……適当に入ってみるのも手だが、無難な候補は2つかな。食事を出すバーか、あるいは食事がメインの食堂か。
バーはここからちょっと歩くが、平民地区と富裕地区の間にあって王城にも近いし食事もうまい。
食堂はこの市場の外れにある。夜でも親子連れが来るような店だな。椅子が座り心地がよくて長居しやすいのと、安い」
バーは女にとっては馴染のない所だろう。いい経験になるかもしれない。食堂は使いの合間に利用しやすいだろう。どちらも良さそうだ。
指を二本出して、どちらの店に行くかを決めてもらう。
■マーシュ > 「博打………?」
普段の生活を垣間見せる言葉に、鸚鵡に一つ紡ぐ。
少し意外そうに声が上がるのは、あの酒場でもそういったことが行われているのだな、と妙な関心をしてしまったせい。
だが、確かに娯楽としての賭博は──酒場にはつきものだ。
その程度は世間をあまり知らない女でも理解できた、同時に、酒場のオーナーとして考えてるところはあるのですね、と面白がるような声音。
「…………そうですね、その二つですと、ゆっくり会話できるのはバーの方でしょうか。……少し長く歩けますし」
提案に僅かな思案。食堂の気安い感じも着にはなったのだけれど、そこは小さな女の我儘として、を告げた。
そっと最初に上げられた指をつまんで、答えを返した。
■ヴァン > 「あぁ、トランプとかサイコロを使ったものだ。平民の遊びだよ」
そもそものレートが低く、博打といっても遊びの延長。ヒートアップして喧嘩になるほどではない。
面白がるような声色には、気持ちよくお金を落としていってもらわないとね、と笑った。
「わかった。最近顔を出せてなかったし、いい機会だ。行こう」
長く歩ける、の意図を掴みかねて、軽く首を傾げた。手を差し出して、また繋ぐか。
途中住宅街のあたりを歩くためか、人通りはあれど街灯がない、月明かりだけが照らす道を通る。ふと思いついたか、にっと笑った。
空いている方の手で己の服の襟を摘まみながら口にする。
「マーシュさん。もうちょっと襟、広げてみようか……?」
言葉通りにすれば、チョーカーは露わになるだろう。人影は判別できても装飾品まではわからない程度の暗さ。
人通りはあるが、皆自分の行き先に頭がいっぱいで、周囲の人など見てはいない。そんな路地。
先程返された意外な反応にやりこめられたので、ささやかな反撃か。
男は強制はしない。店につくまでの十数分、ゆったりと歩く。
■マーシュ > 「ルールは知らないのですが、皆さん楽しそうにしてらっしゃるのは幾度か拝見したことがございます」
街に出ることは多い。だから、赤ら顔をした酔客らが楽しそうにゲームに興じている姿は見たことがある。それを思い出しながらの言葉。
此方の言葉に訝しげにされるのならば、つないだ手に今度は己から指を絡め。
「……こうして、長く歩けますから?」
歩き出す道すがらの返事。市場の喧騒からゆったりと離れて、そうすると街灯が減る。
とたん秋の気配が色濃く漂う夜の空気。
月灯りが明るいからさほど困りはしないのだが───。
「はい……?」
呼びかけに返事を返す。
襟元を崩す様な仕草と、その意図する言葉に僅かに黙り込んだ。
なにも肌の露出を促すわけではないのだが────。
以前の会話が思い出されて少し俯いた。
ややあってからもう少しだけ襟元を寛げると、シャツの隙間から白い喉元が覗く。
ベルベット地のチョーカーに飾られた小さな輝石が、月明かりを弾く、その程度。
ただ、そうすることの意味だけが羞恥を呼んだ。
「…………、───」
ゆったりとした歩調の足音が、妙に響く中、店に辿り着くまでをそうしてすごす。
■ヴァン > 繋いだ手に合点がいったらしく、頷いた。
市場の賑やかな喧騒から離れ、人はいれど足早な路地を歩くと秋の訪れを強く感じる。
人の作った光が多い場所から、月光が主な光源になったこともそう思わせる。
襟元を示しての仕草はうまく伝わったようだ。
にこりと笑うと悪戯をするように唇を窄め、ふっと息を吹きかけた。その先には当然のようにチョーカーがある。
その後は素知らぬ顔で、歩調をあわせて店まで歩く。
たどりついた店、看板には『バックス』と、酒の神を冠した店名。扉を開けると店内の暗さが際立つ。外の方が月光がある分明るい。
人が二人通れるかどうかの通路が6mほど続くと、カウンター席といくつかのスツール。
男は奥に向かって二言三言やりとりすると、通路の途中で立ち止まる。壁に手を当てると、壁は音もなくスライドした。
あるとわかっていなければ気付かないであろう引き戸。その先は二人掛けのソファと同じ高さのテーブル、そして壁。
テーブルはカウンターテーブルよりやや広いくらいの奥行き。カップル用の個室だろう。先に入るように、手だけで促す。
その後、男も入ると引き戸を戻す。最後に、静かに鍵をかけた。
食事だけで終わるかどうか――。
■マーシュ > 合点がいったらしいのには、口許の笑みだけで応じて返す。
子供のような戯れめいた行為だけれど、それだけでも女にとっては十分貴重な事だから、だが。
喧騒が収まり、ひんやりとした夜気と静寂は、秋らしい。
そんな中での相手の仕返しに、じわりと頬が染まってゆくのは、致し方ないのだが。
「────……!」
呼気が首筋にかかるとびく、と肩を震わせる。
素知らぬ表情の相手を少しだけ恨みがましく見やりつつ、残りの道程を埋めたかもしれない。
───辿り着いた店は、看板こそ出ているものの静かな通りに面していた。
看板に描かれている装飾文字が示すのは酒神のそれならば確かに酒類を提供する店なのだろうと納得はできるのだが、市場にあった酒場のような雰囲気とはまた違う。
物珍しそうに巡る視線が、言葉よりも雄弁にそういった店の外観や、入り口、そして足を踏み入れた内装へと向けられて。
静けさと居心地の良さを演出しているのか、照明はあってもやや暗い。
連れられるままに足を踏み入れた店内はやや狭く感じ、そういったものなのだろうかと磨かれたグラスや、調度類に視線を向けていると───空間が生まれた。
「……え?」
驚いたように小さく声が上がる。
個室になっているその場所は、ややこじんまりとしたソファとテーブル。
促されるままに足を踏み入れて、席に着くものの鍵のかかる音に驚いたように振り向いた。
「………バーなんですよね……?」
■ヴァン > 室内は暗く、テーブルの近くにある魔導灯の間接照明がなければ足をソファかテーブルにぶつけてしまうだろう。
やや驚いたような声の相手に頷く。
「もちろん、バーだ。違うのは……個室があることぐらいかな。
姿を見られたくないやんごとない人達が使うことがあるんだ」
個室という言葉と共に、指は地面、そして入口方向を示す。どうやら個室はもう一つあるらしい。
部屋は防音ではないのか、店の奥側でグラスの音がする。あくまでただの個室のようだ。
「ここは珍しいチーズの盛り合わせもあるし、料理全般が旨い。隠れ家的な所だな。
さて、マーシュさんは何を飲む……?」
男は既に決めているようだった。メニューを広げ、飲みやすいか否か、度数が高いかどうかなど、書かれていないことを補足する。
酔わせたいという想いと、酒への無知で酷い酔い方はしてほしくないという考え。
いくつか質問を重ね、希望に沿ったカクテルを提案する。
果たして二人はどれだけ杯を重ねるのか、それはまた別のお話。
■マーシュ > あまりこういった席には詳しくはない。
真面目な顔で説明されたら、そういうものか、と納得もする、のだが。
「……なるほど……?」
個室があるのはやはり珍しいのかもしれない。
もう一室あることを示す言葉に、全く気付かなかった、と一言嘯いて。
耳を澄ませると、給仕する物音が壁を隔てた分僅かに遠く聞こえてきた。
「雰囲気は確かにそうですね、ずいぶんと静かに感じましたし────」
店の特色を一通り聞いて、男のいつもの悪戯でないことを認識しつつ。
問われたことに素直に応じた。
メニューに綴られた名前を見てもピンとこないから、時折指で気になったものを示して問いかける。
様々に問いかけられて少し混乱はしたけれど、結局最初は果実風味のものを希望することになった。
酒類に対する耐性はないわけではない。どれくらい杯を重ねるかは、店への滞在時間と比例することになるのだろう───。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/市場通り」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/市場通り」からマーシュさんが去りました。