2022/09/30 のログ
ヴァン > 目を閉じると、自然と他の感覚が鋭くなる。
虫が鳴く音、やや冷たくなった風、飲んでいる酒の匂い。そして足音と気配。

昼間と変わらぬような、自然な音。音を消そうとしたり、急いでいたりもしない。背もたれに投げ出していた身体を起こすと、見知った顔。
右手を軽く上げると、スキットルを軽く呷った。

「やぁ。こんな時間に会うとは思わなかったな。あー……体調は悪くない。気分は最悪だがね。
また、一週間ほど各地を回って騎士達の教官をすることになった。しかも、今回は終わるまでここに戻ってこれない」

肩を竦める。過日の教官としての指導が良かったのか悪かったのか――とにかく、また指導をするようとの指令が下ったようだ。

マーシュ > 様子をうかがうように屈めていた身を起こすと、少し香ってくる酒の匂いに目を細める。
あまり馴染みのないその中に杜松のそれを少し感じた。

「そうですね、少々遅くなりましたので。………?」

どこか倦んだような声音に、言葉の続きを聞いて得心が言ったような表情を浮かべた。

「だとすると少々またお忙しくなるのですね、………なおのこと此処で寝ていると風邪をひいてしまいそうですが」

少しづつ空きが深くなっているのと同時に寒さも忍び寄ってくる時節。
相手の言葉に多少引っ掛かりを感じ。

「終わるまで、とは、育成が?でしょうか」

含みのない問いかけ。
教官として評価されている結果であれば、そう悪いことでもなさそうだ、などと返し。

ヴァン > 酒の匂いを嗅ぎ取ったのに気付いたか、スキットルの口を閉めて尻ポケットに入れる。
強い酒を勧めるのも気が引けた。

「眠りはしないさ。さすがにこの格好で夜は冷える。……いっそ風邪をひいて休んでしまえばいいか。
この前は予算として、辻馬車組合の飛竜が使えたんだ。だから、毎日夜には自宅で眠れたんだ。
今回は予定がびっしり組まれていて、宿も決められている。枕が変わると眠れないんだよ……」

女の言葉に名案だとばかりに膝をうつ。
男にとっては街の外で長時間過ごすことが不本意なのだろう。人よりも本に囲まれていたい人間なのだ。
最後の冗談めいた言葉が嘘なのは、女にはわかるだろう。

マーシュ > 葡萄酒は嗜むが、それほど酒を好むわけではない。変わった香りに少し興味をそそられた。
それ以上を強請ることはなく。

「───……安全な宿、と保証されているのであれば、と思いますけれど」

如何にも物憂げな声音や、彼の上司との関係性はあまりよろしくなさそうなことだけは察せられたが───。

「────………え、───」

最後の言葉に一瞬口ごもる。でも、と続けそうになってぴたりと口を閉じた。

「………冗談が言えるようであれば大丈夫、という気もいたしますが」

ヴァン > 「あー、これはジンだ。ワインの倍はきつい酒でね。今度小瓶を見つけたらあげよう。安全……安全だといいな」

指摘にやや渋い顔をする。この前の聖都のようなことが続けば身が持たない。短時間でも眠れればよいのだが。
組織内に味方を作ろうとしなかったツケといえばそれまでだった。
口ごもった姿に右の眉をあげて、笑ってみせる。

「ん……?冗談を言っていないと正気を保てないんだ。
王城まで送っていこうか?そこの道を抜ければ王城に続く大通りだから安全ではあるが……」

これもまた冗談なのだろう。おそらくは。
立ち上がると大きく伸びをした。周囲を見てから、大通りへの道へ向かおうとゆっくりと歩を進める。
ベンチにいた人物が悪意ある人物だったら――まだどこか、女に危なっかしさを覚えている。

マーシュ > 「なぜ、そこで疑問があるのでしょう……?」

曲がりなりにも彼が所属している組織なのではないか、とか。
彼の微妙な立場は多少知っているけれど、そこまで危ういのだろうかと考えながら。
きっと修道女は彼が出発するところにまみえることはないだろうから、今できることを考えた。

捨て鉢というわけではないけれど、少し投げやりにも感じる相手の言葉に、多少なりとも力になりたいのが友人としての立場だ。

「正気、正気ですか……」

修道服の隠しから、掌に収まる程度の小物を取り出した。

「気付けと、傷薬。……まあ、ヴァン様は神聖魔法を使えるでしょうし──ほんの気休めですが」

軟膏の容器と、小さな小瓶を差し出して。

「あとは、そうですね───、郊外の静穏派の修道院であれば。……私の名前を出せば一応は匿ってくれるはずです」

己を王都に送った修道院でもあるから、どこまで信用できるかはわからないが、時間稼ぎ程度には使えるだろう。

冗談めかした言葉の中、どれだけの真実が備えられているかはわからないが、つらりと言葉を紡いだ後で。

「どこまで信用がないんでしょうか……。でも、そうですね。貴方の正気を保つ手伝いができるなら……送っていただいてもよろしいでしょうか?」

穏やかに告げて、男の歩に追随するように歩きだした。

ヴァン > 疑問の声にはただ笑って応えるのみ。

「ありがとう。使う機会がこないことを祈るよ。……静穏派、覚えておく」

受け取った容器と小瓶をジャケットの内ポケットにしまう。
半歩ほど離れて歩き出そうとするが、立ち止まる。少し距離を詰めて、手を差し出す。
歩みは女の歩幅に合わせてゆっくりと。

「訓練の仕事が終わって、マーシュさんといちゃつけるかと思ったんだけどな……」

からかうような言葉は、冗談ではなさそうだ。そのまま、大通りへと――。

マーシュ > 「つかわないのが一番です」

ただそれらが少しくらいは彼の負担を受け持てばいい。
ほんの小さな祈りのようなものだ。

歩き出す前に手を差し出されると少しためらってからそれに重ねたら、じわりとお互いの体温が重なってゆく。
此方の歩幅に合わせた歩みに、静かに歩を重ねながら。
散策めいた帰路に就く。

「────」

不意の言葉に、けほ、と咳き込んで。
そっとウィンプルで己の頬を隠す修道女の姿があった──。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/公園」からヴァンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/公園」からマーシュさんが去りました。