2021/12/17 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にハーティリアさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からハーティリアさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にフセスラフさんが現れました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にグレアスさんが現れました。
フセスラフ > 平民地区の飲食店
日がちょうど真ん中にまで登った時間ともなれば、相当な人が入っている。
そこには平民のほか、衛兵や騎士なども様々だ。しかし、奴隷だけは一人では入れない店もある。
特にミレー族は、一人で入ろうとしようものなら摘まみだされるのがオチだろう。男なら体に痣を作るか、女なら全身を汚されるか。

「…………」

そんな店を向かい側からボー、と眺めてる奴隷が一人。
首には奴隷の証である首輪をつけ、中途半端に鎖が伸びている。
その首輪を隠すように真紅のボロのマフラーが巻かれ、突っ立っている。
こんなところで待ち合わせる、なんてことを思いもしない。
周りから怪訝な目や見下された目などを向けられても、意に介していない。慣れているから。

「…………寒い」

風が吹いて、そうぼそりと呟いた。
それでもそれが命令なら、それを待つ。そうして生きて、その生き方しか知らないから。

グレアス >  
雑務に追われ、先に行っているようにと言ったのだが
思いの外、書類仕事が多く行くまでに手間取ってしまった。
残りの仕事を部下に頭を下げて押し付け
急いで平民地区の待ち合わせ場所までやってきてみれば。

「……しまった」

忙しすぎて服を与えるのを忘れていた。
命の恩人になんて事をしたのだと自分を責めながら
急ぎフセスラフの元へと走る。

「すまない、待たせたね!」

急ぎ着ていたサーコートを脱いだらそれをフセスラフへと
着させようと動く。着させることが出来たら暖かくなるだろう。

「飯の前に服屋だったねぇ……」

長い時間待たせてしまったのだから冷えているだろうと
平民地区の店の中でもそれなりのグレードの飲食店へと目をつける。
とりあえず服は温まってから、とフセスラフの手を掴んで連れて行こうか。

フセスラフ > 待たせ、という声に俯いていた顔を上げて、件の女性の方を見る。
現在の飼い主の姿がそこにあり、その人よりも低い視線似なるように背中を曲げた。

「いえ……大丈夫、です。いつも、の、こと、ですから」

サーコートを渡されて、しかしこれをどうするかわからず服とグレアスを交互に見る。
着させようとするなら意図をくみ取り、慣れないながら時間をかけて着ることが出来た。
……体格のせいで少し生地が張っているように見えるが、まぁ大丈夫だろう。

「そう、ですか?……服、が、貰えるんですか?」

どこか疑うような、しかし信じてみたいという気持ちの現れから変な声が出てしまう。
手を掴まれれば鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして驚き。

「えぁ……?あ、あの……ぼく、きたない、ですよ……?」

そう告げて、そっと手を離そうとするか。

グレアス >  
いつものこと、そう言われれば少し表情が曇る
だが、ゆっくりと息を吐き背中を曲げたフセスラフへ笑みを向け。

「態々目線合わせなくてもいいさ
 疲れるだろ? しゃんとしてな」

そう言って軽く背中をたたきつつ、サーコートを脱げば
フセスラフへと渡してどうにか時間をかけて着させることが出来た。
体格の違いのお陰でちょっぴり変だが、しっかりと服を買えば似合うだろう。

「おうさ、しっかりとした服選びな?
 何着も買うから時間かかるかも知れないが
 ああそれと、アタシが着てるような騎士服も支給する」

隣から漏れ出た声、それに疑いの色が混じっているのがわかり
安心させるような笑みを浮かべ、手を掴んだのなら
驚きの声が帰ってきたことに心が痛む。

「アタシにとってしてみれば汚くなんて無いさ
 ま、そう言われてもって話だろうから任せるけど」

一度手が離れる、それを見送れば再び手を差し出しじっと顔を見据えよう。
手を取らなくても、手を取っても笑みを浮かべたまま店へと歩き出すはずで。

フセスラフ > 表情が陰って行くのを見て、自分が何か粗相としたのかと内心焦る。
しかし、すぐに笑みを向けられて、さらに疑問が深まる。
確かにこの人とは知り合いだが、ここまで親切にされるようなことなどしただろうか……?

「はい……。わかり、ました」

背中を叩かれても、痛くない。大体強く叩かれて、真っ赤にして来る人ばかりなのだが。
それに服まで渡してくれる、なんて事も、自分より上の人間からされるのは今まで記憶にない。
汚らしい服を配給されることはあったが……。
この人は自分の服なのに、奴隷にそんなのを渡して、どうして平気な顔をしているんだろうか。

「はぁ……わかりまし、た。
そんなに、時間は取らせません……よ?
……え、でも……。そんなの着たら、おこられ、てしまうので、は?」

そう、疑問を隠さない。いつもなら何も言わずに「はい」の一言で終わらせるのだが。
……まぁ、聞いてくる以上は、正直に答えるべきなのはわかっている。
そういう人なんだろう、と納得させた。

「…………」

再び差し出された手を見て。何度も、顔と手を交互に見る。
握れ、ということなのだろうか。そうして自分の所有物であることを周りに知らせる為なのだろうか。
……いや、そんなことを考える必要はない。
おずおずと、手を握って、引っ張られていくのだろう。

グレアス >  
前団長に気づかれ、死ぬような戦場に送り出された
この男は意識してはいないのだろうが、それを食い破って助けてくれた。
これに恩を感じなければ騎士ではない。

「ん、いい男なんだ。その方が似合ってる」

しゃんとしたフセスラフに目を細め顔を見上げる。
その精悍な顔つきに何度も頷きつつ。
騎士服だけでは寒いだろうからコートも買おうと決めた。

「そうかい? 折角なら良い服選びなよ?
 なぁに、アタシの師団だ。何しようがアタシの勝手さ
 だから気にすることなく、堂々と着な。あんたは着るに値するんだ」

笑いながら、再び背中を軽く叩き
視線だけは真面目にじっと見上げ。
自己満足だと分かっていても、そうしなければ気が済まない。

「……ふふ、よし。じゃあ行こうか
 腹一杯になるまで食べな。肉が良いかい?」

何度も顔と手を交互に見る様子を眺めた後は
手を握ってもらえて満足そうに頷き店へと引っ張っていく。
道中感じる視線を気にもとめずに店へと入る、と。

店員が困ったように来るものの、知ったことかと
予約していた個室へと案内させる。

店内から聞こえるであろうヒソヒソとした声も黙殺し
少し狭いながらも向かい合って座れるテーブル席があり、その一つに座る。

フセスラフはどうするのかと見守り。

フセスラフ > まぁ、戦場で会ったことはあれど、『自分の役割』からすれば当然のこと
そこに、彼としてはそれを誇りには思えない、誰にも褒められたことがないから
だから、恩とか、そういうのはわからない。ただ自分がしてもらったことを返したい。と思うことぐらいはあるが……

「…………」

いい男、なんて言われたのも初めてだ。というより、ミレー族というだけで迫害されて来た
いきなりこんな風に褒められても、嬉しさよりも困惑が勝る
だから、黙るしかできない。どう答えればいいかわからない

「わか、り、ました。
でも……どういうふくが、いい服か。わかりま、せん……」

素直に、そう告げて。
不安な顔を隠そうともせずに、首に巻かれているマフラーと、首輪に繋がれた鎖を握る。
視線がこちらに向けられていても、その視線を合わせるのが、怖くて、下を向くしかできなかった。

「……はい。
何でも、いいです……。
腐ってても、おなか、こわしません、から」

そう言いながら、引っ張られて入店する。
案の定、店の店員や客の視線が痛い。
でも今は、こうして引っ張ってくれる『飼い主』がとても嬉しい。
気の強く、誰にも怖気づかない彼女が、羨ましいと思う。自分にはとてもなれる気がしなかったから。

テーブルのある個室に案内されて、彼女が座るのを眺める。
少し離れた所から聞こえる、明らかに蔑むような声。彼女にも聞こえているだろうに。
こうなるのも分かっていたことだろうに、どうして……と疑問が絶えないが。
ふと彼女がこちらを見ていることに気づいた。

だが、彼には彼女と同じようにテーブルと椅子に座る。という発想は出ない。
そういうのは命令されない限りは自分で座ってはいけないと、経験で刻まれている。
だから、彼女の隣に、チョコン、と犬のように床に座った。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にフセスラフさんが現れました。
グレアス >  
フセスラフが当然と感じていても、こっちはあのときの光景が
しっかりと頭に焼き付いて離れない。
だからこそお礼のつもりで誘ったのだが、色々と気が回っていなかった。

「……ゆっくり慣れていけばいいさ」

困惑しているであろう彼に笑みを浮かべ続けながらそう告げる。
いつか、褒められたら笑えるようになればいいと。そう願って。

「第六感でビビッときた服! ……ていってもあれだしねぇ
 んー、あんたは風格あるから妥当に黒系統でいいと思うんだが」

素直に告げられる言葉、それに顎に手を当てて考え込む
不安そうな顔をさせてしまったと肩を落とすもののすぐに肩を上げ
下を向くフセスラフに目を細めた。

「いや、腐ってるもの出されたら店主をぶっ飛ばすよ
 ちゃんとしたものさ。安心しな?」

少し呆れたように、突っ込むようにそう告げた後は
手を引っ張って入店、視線や囁きなんのその
手をしっかりと握って個室へと入ったのなら手を離して

席へと座るものの、聞こえてくる蔑むような声に
青筋を立たせるものの分かっていたはずだと気を静める。
嫌がらせで連れてきたわけではない。
こんなものでは恩返しにならないだろうがそれでも何かしたかったというのがある。

フセスラフの事を思うなら貧民地区のあの店でも
良かったと思うが後の祭りだ。

「はぁ、小鳥の囀りなんて気にするんじゃないよ
 ……アタシの前の席に座りな。これからはそうしな」

まるで犬のように、隣に座るフセスラフ
それに胸を痛めるが、痛めた所でどうしようもない。
フセスラフのような奴隷は見てきたはずだと自分に言い聞かせ
自分の配下だけは、そういう事をしなくてすむようにしなければと心に刻む。

そうして、前の席へと座ったのを確認したら
店員を呼び、スープや肉、パンをたらふく頼むはず。

フセスラフ > ともかく、とどうしてこうなったかを考えるのはやめにした。
考えれば考えるほどドツボにハマって、わからなくなるのは逆に良くない。
そう思って、今は目の前の『飼い主』の要望を叶えることを優先することを決めた。

「はい……」

それだけ言って、グレアスが内心でどう考えているかなど露知らず。
彼女がどうすれば満足するかを考え始めて。

「カン、ですか……?はぁ、黒……。わかりました。
じゃ、じゃあ、黒のふくを、えらんで、みますね」

黒、黒い服か。血が目立たない服だとちょうどいいかもしれない。
戦場に立つときの自分の戦い方は、返り血を自ら浴びるような戦い方であるがために。
などと物騒に考えていると。

「ちゃんとしたもの、ですか……?」

どういうものがちゃんとしたものか、を思いつくことができなかった。
強いて言えば以前、ぱさぱさとしたクッキーを思い出す。
あぁいう感じの、うれしいものなのだろうか……?

そうして店に入店して、そのままでいれば。
グレアスが、蔑む声に青筋を立ててるのを見て、一言

「壁を、たたき、ましょうか?」

と、隣から聞こえてくる部屋の壁に手を当てながら提案する。
そういう嫌がらせを受けて、そして嫌がらせをするような命令にも、慣れている。
だから、さらりとそう黙らせることも視野に入れられる。
最も大抵、そのあと『飼い主』は責任を自分に擦り付けてリンチされるのを眺めるのだが。

「小鳥……?わ、わかり、ました」

そう命令されれば、言われた通りに前の椅子に移動して。
一度、自身の尻の部分をパンパンとはたいた後座る。
……慣れない。椅子に座るという行為に、思わず眉をひそめてしまった。
痛いというわけでもない、しかし、ずっと床で座っていた身として、椅子に座るという
文化的行為にイマイチ慣れが足りない。
しかしそれを口には出さず、彼女が頼んだテーブルに出されたモノを見て。

「…………」

ゴクリ、と、固唾をのみこんで見ている。
しかし絶対に自分から手を付けることはなく、何も言わない。
そういう教育はよく、行き届いているようだった。

グレアス >  
今の所、フセスラフが喜んでくれているのかはわからない。
どうしたら喜んでくれるのだろうかと考えを巡らせ。

「あ、黒って言ってもあんたが気に入った色にしな?
 自分が気に入った服を着るのが一番なんだからさ

 ……戦場で甲冑は、動きづらいか」

フセスラフの戦い方は目にしているために、そんな小さな呟きも零す
出来れば防具の類なども着けさせたい、と語り。

「そうさ、パンに肉にスープ! それと酒も少々」

にひ、と久しぶりの酒を思い浮かべれば笑みを浮かばせ
そうして入店し、席に座った後青筋を立てていれば聞こえた言葉に
小さく笑い。

「止めときな、ああいうのに関わってもしょうがない」

部屋の壁に手を当てる彼に首を振って止めさせ
どういう環境で育ってきたか分かるような気がして
小さく息を吐こうとしたが、彼を怯えさせるかも知れないので止めておく。

「あはは、少しずつ慣れな
 これからは椅子で食べるんだからね」

椅子に笑った後、眉をひそめたのを見れば小さく笑い
少しずつでいいから生活に慣れさせようと、思う。

そうして、頼まれたものがやってきたら、待てをする
犬に見えて、その頭を撫で回したくなるものの我慢。

「好きに食べな? アタシだけだと食べきれない」

追加でエールを数杯頼みつつ、パンを手に取り一口食べる
そうしたらウィンクを送り。

「アタシはグレアス、好きに呼びな
 で、改めて名前を聞いてもいいかい?」

食べているであろうフセスラフへと問いかけ。

フセスラフ > 互いに互いを考えつつ、その方向性が似つつも自身のことを蔑ろにしながら。
彼女の声に頭を上げて

「なんでも、いいです。ぼくは、何かを選ばせて、もらった、こと。
ないですから……でも、重いのは……苦手、です」

素直に、あまり防具を着させられるのは今の本人にとっては要らないと言葉にして。
でも直接的な表現ができず、そう言ってやんわりと拒否しつつ。

「パン、にく……スープ……」

どれも、自身の階級より上の人が食べるものだと思っていた。
そんな上等なものを、自分が食べられるなんて、全く思いもしなかった。
店に入ってから、いや、店に入る前から香るこの美味しそうなにおいを。
自分が手にする時があるなんて……。

「はい……」

小さく頷いて、壁から離れる。
自分は気にしないが、彼女が気にするようなら……と。
普段からこういう提案は自分からはしないのだが……。

「はぁ……。これからも、ですか……。
……。不思議な、感じです……」

そうぼやいて……怯えと不安と、期待と困惑がないまぜになったような顔をして。
彼女はいったい、自分に何をさせたいのかと、少し怖くなってきた。
だけど、ここまでされたんだ。どんなに無茶な命令にも、受けざるを得ない、と。
そう考えつつ、待てをされればそのまま待つ。
我慢には慣れているし、このまま食べられなくても、別にいい。

「は、はい……」

こくん、とうなずく。
これでも大の青年の見た目をしている。
立派な大人にしか見えず、今までは沈んだ、底なし沼のような暗い目をしていた。
ここに来て、彼女と話すようになってから、どこかその目は浮かんできているように見える。
ぴょこん、と耳と尻尾がその気持ちを表すように揺れ、立つ。

「あ……」

名前……自分の名前を、他人から具体的に聞かれるなど……。
いつぶりになるだろうか……。

「……ふせ……すらふ……」

小さくそういいつつ、しかし自分でその声に納得できず。
今一度、顔を上げて、ゆっくりと呼吸を整えて。

「フセスラフ。それが……僕の名前、です」

そういうと同時に、焼かれた目の前の大きな、切って食べる肉の塊に手を伸ばして。
その熱さを気にせずに両手で握り、思い切りかぶりついた。

グレアス >  
「分かった。じゃあ初体験ってわけだね
 ん、それも分かった。防具はなし、と」

防具なしは少し心配だが、無理に着せて逆に怪我をさせても
しょうがないだろう。穏やかな表情で言葉にうなずき。

そして、どこか夢のように呟くように聞こえた声に
嬉しげな笑みを浮かべ甘やかしたい衝動を堪える。
急に頭を撫でたりなんてしたら驚かれる。

「ん、向こうからやられたらやり返しな」

ガツン、とと笑いながらそう告げるが冗談交じりのそれで
冗談は通じないタイプだったかと思い返して、今のナシ、と咳払いをし。
壁から離れた後はほっと息を吐き。

「あはは、それが今度から当たり前になってくのさ
 今のうちに慣れておきな……っ!」

色々な感情が混ざった表情を見れば、今すぐに頭を撫でたい衝動に
駆られてしまう。さらには抱きしめてあげたい、なんても。
むずむずとしつつ。

「それと酒もね。飲んだことあるかい?」

こっちと話すようになってからか、その瞳は
昏く、色がついていないような印象さえあったものが
だんだんと色づいてきている。
それが嬉しくもあるものの、ぴょこんと耳が揺れたのを見たら
甘やかしたい欲求をニコニコしながら堪える。

そうして、名前を聞いた後は、小さな言葉に
首を傾げたが、しっかりとした言葉が帰ってくると満足気に

「じゃあ、フセスラフ。よろしくな?」

そうして、肉の塊を手づかみで食べる様子をニコニコしながら
眺め、こっちはパンをスープに浸して食べる。
特段注意することもなく。
右手は、甘やかしたい衝動を抑えるために太ももを抓っているが。

フセスラフ > 「はつたいけん……?
あ、はい……すみ、ません。わがまま、で。
めいわく、ばかり、かけてしまって……」

そう頭を下げて謝る。
しゅん、という音が聞こえてくるような、耳をたたんでそう告げた。

……先ほどから、彼女が時々そわそわしているように見えるのはなぜだろう?
何かしたいのだろうか?それとも、何かを待っているのだろうか?
あるいは、彼女の自分と同じように、食事を待っているのだろうか?
だとしたら……うまい表現が思いつかない。
まぁ、いっか。

「はい。わかりました」

そう、真顔のままうなずいた後。
今のはナシだと言われて、小首をかしげて。

「でも、主人の名誉を守るのが、奴隷の役目では……?」
そう疑問を言葉にしつつ。壁から離れていく。

また彼女がなにかを堪えているように見えて、心配になってくる。
実はどこか怪我をしていたりするのだろうか?
そうだとしたら医者を呼ぶか、この場で治さないと……。

「酒……?女性を酔わせて、部屋まで連れ込む道具、ですよね?」

聞いたことは何度かあるが、以前の『飼い主』がそんなことの為にしか使わない
というよりそういう用途でしか使ったり、飲んだりするのを聞いていない為。
そういう道具だと認識して、飲み物とかじゃないと思っているのだ。

だからそれを自分に使う。ということはつまり、自分を部屋に……。
なんて一瞬思って、少し体を震わせたが、別にそんなことは奴隷だから、と思えば。
「使わなくても命令すれば部屋に向かいますが……」
と、ズレた答えを返すのだった。

「はい……。グレアス様、ですね。おぼえ、ました」

そう、大きくうなずきながら、肉を嚙み千切る。
青年の歯は、普段はわからないがこうして何かを食べるとき、大きく発達した牙が見える。
それは鎧すら嚙み砕き、相手の腕の肉や骨ごと嚙み千切ることすらできるをグレアスは見た。
大きな肉といえど、鎧と比べれば豆腐のようなものだ。
それを口に含んだ瞬間、あら不思議

「…………はぐ、もぐ……。……。
はぐ、もぐ、もぐ……!あむっ!はふっ!」

だんだんと先ほどまで不安が隠し切れなかった顔が、食欲に支配されていく。
肉を口に詰め込み、パンを放り込み、次々と手づかみのまま胃に放り込んでいく。
その勢いはとても元気な様子で、しまいには立ち上がって、テーブルに上半身を伸ばして食べ始める。
そうするとちょうどよく、彼のぼさぼさの頭がグレアスの目の前に来るだろう。
今まで一度も火がついたことがない食欲が燃え上がり。
今なら何をしても気づかれないのは明白だった。

グレアス >  
「なんか、アタシがいやらしい言葉教えてるみたいだね
 あ、いいんだよ気にしないで。アタシには迷惑いっぱいかけな」

ちょっと罪悪感が湧いてきたものの
頭を下げて、しかも耳を畳んで謝られたら、片手を振り
笑みを浮かべたまま。頭に浮かんでいる煩悩を打ち消している。

「今度からは奴隷じゃないさ
 服もしっかりとして、一人の騎士として立ちな。
 それと、アタシ以外からの命令は無視していい」

なんだか心配そうに見ている気がして、咳払いし
問題ないと言うことを見せつけ、しっかりと言葉を紡ぐ。
だがしかし、次に耳に入った言葉には驚いたが。

「あー……間違ってはない。間違ってはないが
 気持ちよくなる飲み物……これも誤解があるか
 んがー…兎に角、いい気分になれるのさ。一口飲んで駄目なら良いけど」

フセスラフのこれまでの扱いや態度を思えばそういう答えに
行き着いても可笑しくはない。飲み物を含んでいたら噴き出していただろう。
そうして、やってきたエールのジョッキを手にとって飲んでいれば

「げっほ、ごほ…! そういうのは、そういう気分
 えーと、エッチ…交尾したいっていう気分になったらだよ」

ずれた答えに目を白黒とさせて飲んでいたエール
それを吹き出しそうになった。

「様はいらないけど…まぁ、呼びたいように呼びな」

そうして、大きく頷いた後は肉を噛み切るその姿をじっと眺める。
礼儀作法もなにもないが、がっつくその姿は素直に嬉しくなって
食べるのも忘れて見入ってしまう。
肉や骨を容易に噛みちぎるのだ、調理された肉など朝飯前だろう。

「ふはは、喉に詰まらせないようにね」

次々と、口に放り込んでいく様子を嬉しそうに眺めていたら
まさかのチャンス到来。ボサボサの頭がちょうど目の前に来て
フセスラフも食事に集中している。
ゆっくりと、頭を撫でて、その耳も堪能する。

「ふぁ…」

甘やかすように、フセスラフの頭をゆっくりと撫でながら
嫌そうでないなら耳も軽くもんでみて。

フセスラフ > 「やらしい言葉……???
あ、はい……すみません」

イマイチ、彼女が何を思っているのかわからない。
だが気にするなというのなら、まぁ何も考えない方がいいか。

「き、し……?ぼくが、ですか?
……は、はい。無視、します……」

本当に今、この光景は夢じゃないのかと思ってしまう。
どうしても今までの生活から考えると、現実味を感じられなくなっていた。
実はこれは白昼夢だったりしないだろうか?

「へぇ……。そうなん、ですね。
いいきぶ、ん。になれる飲み物、ですか。
傷とかに、沁みさせて痛みを和らげるぐらいしか、知らなかったです」

本来はそういう用途なんだなぁ。と口をあけながら初めて知ったように。
と、思っているとむせたグレアスを見て慌てて「大丈夫ですか?」などと声を掛けた。

「……?交尾ですか?
でも、奴隷とするなんて……。
痛めつけて、気分がよくなるためなら、わかりますが……」

「はひっ!」

口の中に肉を入れながら、なんとか声を出す。
熱い、熱いけど美味い。これが美味いという感覚か。
血ではない、肉汁が溢れ、口の中ではじける。この脂のなんと美味いことか。
軟骨もこんなに脂が乗っていて旨いなんて初めての感覚だった。

「んぐ、ゴクン……!」

コクコクとうなずきながら、また口の中に食べ物を放り込み……。
そっと、手を伸ばされれば……。
まったく手入れはされていないだろうに、中々柔らかく。
最低限、水を浴びてはいるようで、せいぜい土埃程度が目立つが。
意外にも毛は柔らかく、手触りはいい。そして人肌より高い体温が体に沁みる。

耳を触れられれば、さすがに驚いたように毛が逆立つ。
しかし……。

「……」ゴクン、と飲み込んで

ちらり、とグレアスに視線を向けて、不思議そうな眼をしたが……。
すぐに、逆に擦り付けてくるように。頭を動かした。

「んぅ……」

目を細めて、顔全体を触れさせるように。こんな風に自分から触れられるように動くことはなく。
嬉しそうな顔を隠さないで、こちらもこちらでグレアスの手の感触を楽しむ。

グレアス >  
「あはは、謝らなくていいさ。こっちが悪い」

無垢な子供に変な言葉を教えているおっさんの
ような気分になった。
苦笑いしつつ、ここは流そうと咳払いを一つ。

「ああそうさ、あんな勇猛な姿は中々見れるもんじゃない
 フセスラフ、あんたは立派な騎士さ。アタシが保証してやる」

あの戦場で、あの勇猛さを思い返しては力強くうなずこう
共に戦えたことも光栄だ、そうも語って。

「あー、そういう方法もあるけどね。
 ま、とりあえず飲んでみな」

口を開けて、初めて知ったような彼に可笑しそうに笑うものの
此方がむせたのを見れば心配する声に、やはり優しいのだなと
自然と優しい笑みが浮かぶものの、次には引き攣った。

「……フセスラフ、あんたは交尾したことないのかい?」

少し、聞いてはいけないことを聞いた気がしたが
彼を知るためだ、しょうがないと自分を納得させ。

夢中になって肉を貪るのを飽きずに眺めてはジョッキを呷り
一杯目を終わらせて、続いて二杯目へと突入。
食べる姿は実に酒の肴になる。

「おいしいかい? あ、酒も飲みな」

言いつつ、ジョッキをフセスラフへと近づける。
そうしたら、頭を撫でる段となって、土埃なんて気にせずに
頭を撫でて、その柔らかい毛を堪能する。
同時に、母性のようなものが目覚めてきて。

「あ、悪い」

しかし、耳を触ったら毛が逆立ったので止めておこうと
だが次には、甘えるように頭を擦り付けてもらって

「……っ!」

それがたまらなく嬉しく、ワシワシと少し強く撫でながら
ジョッキを呷って、段々と凛々しく見える顔が可愛くも見えて。
食事の邪魔をしないように、酒を飲みながら優しく。

フセスラフ > 「い、え……」

グレアス様は何も悪くない。そう言おうとしたが。
その前に咳ばらいをされれば、何も言えず。
ともかく、この話はナシということでこちらも流すことにした。

「……はい。あり、がとう、ございます」

ゆうもう?とはどういう意味だろう、と。
まだまだ人と話し慣れていない、教育はあっても教養はないが故
こうして時々、言葉の意味に首をかしげて。

「はい……いただきます」

そういいながらも、今は食欲の方が強く。
肉やパンばかりを口に詰め込むことになるのだが。
次いで出てきたセックスの経験について聞かれても

「…?あり、ますが……」
疑問の意味を理解できず、ただ「ある」としか答えられない。

それよりも今は食欲の方が大事だった。
ボリボリと骨すらも嚙み砕き、その味を堪能する。
肉付き自体は悪くなかった。……飢渇は、敵兵は味方の死体で補っていたから。
だからこそ、『まともな食事』がこんなにも感動を覚えるなんて思ってもいなかった。

「ん、クゥ、ン……」

小さな、甘えるような声を出して頭を擦りつける。少し目線を奥へと向ければ
とても元気よく尻尾が左右に揺れているのが目に入る事だろう。

「んんぅ……♪」

強く撫でられればとても嬉しそうにのどを鳴らして、顔も完全に笑みを浮かべる。
頬を、頭を、目を撫でられてご満悦なのが体から出る空気でわかる事だろう。

「ん、ごく……」

ふと、喉が渇いてきた為に、自分用にあったジョッキを手に取り、飲む。
……エールを、ジョッキ一杯、一気に、だった。