2021/05/18 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にロクサーヌさんが現れました。
ロクサーヌ > 以前、マダムのお使いで訪れたことのあるギルドに、顔を出すのは躊躇われた。
マダムが既に、なにか話を通している可能性はもちろん考えたし、
そうでなくとも話の持って行き方次第では、すぐに館へ連れ戻される、
―――――けれど、それでも。

いつも通り、人種も年恰好もさまざまな冒険者たちが集うギルドに、
こそり、小さな肩掛け鞄を提げて潜り込んだ。
カウンタへまっすぐ向かう勇気はさすがになく、足を向けたのは掲示板前。
仕事を探す冒険者たちに紛れて、字が読めているような顔で。
けれどもどの紙片に記されている依頼内容も、まるで解読出来ていないのだ。
辛うじて、数字だけは読めたけれども―――――

「2、……50、……うん……?」

どれが金額の単位だか、それとも日数、労働時間の表記か。
まるで古代の暗号にでも挑戦しているような気持ちで、眉間に皺を寄せていた。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にジーゴさんが現れました。
ジーゴ > 「ん…なんかいいやつあるかなぁ」
ギルドに現れたのは、冒険者にしてはまだ少々華奢な少年。
掲示板に付けられたたくさんの依頼の紙を端から眺めていく。

「ええと、やくそうかな。まちの外はちょっとまだはやいよなぁ。うーん、ドブさらいはまじでくさいし、犬さがしがあったら楽なんだけど。ゴブリン?ゴブリンはむりでしょ。おとしもの探し。うーん、へいみんがいならいいけど」
小さな声で端の紙から依頼内容をぶつぶつと読み上げている。少年もまた、音読すればギリギリ文字が読める程度の識字能力。

目の前に同じように掲示板を眺める少女がいるが、少年の方が背が高くて掲示板を読むには問題ないからそのまま、少女の背後から掲示板を眺め続ける。

ロクサーヌ > 頭のすぐ上のほうで、甘ったるい声が聞こえた。
反射的に振り返ってみると、そこに立っていたのは、

「………こど、も?」

自分自身を思い切り棚の上に放り投げて、そんな呟きを洩らす。
冒険者、と呼ぶには若すぎるように見えるし、
もしもそうだとしたら、きっと駆け出しも駆け出しのド新人だろう。
しかし、この際そんなことは些末事と言えた。

――――――コイツ、字が読めている。

そう、それが重要だ。
問題は相手がどれを読んでいるのだか、こちらにはまるで分からないこと。
なので、――――――手を伸ばして、適当な掲示をちょん、と突ついて示しつつ、

「ねぇ、これは?
 これは、なんて書いてあんの?」

渡りに船とばかり、相手の識字能力に頼る気満々の問いかけ。
もちろん、相手には、この不躾なリクエストに応える義理はない。
けれど、まっすぐに相手を見あげた瞳には、否を許さない気合が籠もっていた、かもしれず。

ジーゴ > 「やくそう…どうくつ…ドブさらい…うーん」
めぼしい物がなくて、掲示板をじっくり眺めていた少年。
現在の彼の腕では受けることができるのは、街の中の比較的安全な依頼だけだ。

「え?ばしゃ…ごえい…かな」
突然話しかけられて、きょとんとするも素直にその紙を読み上げた。読める部分だけ。
厳密には要人の乗る馬車が街から街へと移動する際の護衛。魔獣や夜盗から要人を守る難易度も給料も高めの依頼だ。

「おまえ、文字よめない?」
首を傾げて問いかけた。きょとんとしたままの獣耳は上に大きく伸びて。
「どんなやつ、さがしてる?かんたんなやつ?あぶなくないやつ?お金たかいやつ?」
相手に向かって、質問を重ねた。

ロクサーヌ > こつん、と人差し指を当てた、その紙片を選んだ理由は、
単に、それに書かれていた数字が、一番高額に見えたからだ。
それはつまり、危険な依頼の可能性が高い、ということでもあるが。

「馬車の、護衛……?」

あんのじょう、とても腕に覚えのない子供が受けられる仕事ではなかった。
相手が読んだそのままを復唱し、ため息交じりに肩を竦めて。

先に直球をぶつけたのはこちらだが、返ってきた問いもストレートだった。
さっと白い頬に、耳朶に、鮮やかな朱色が広がる。
きゅっと眉根を寄せて、精いっぱい顰め面をつくりながら、

「ぜ、……全部、ってわけじゃない、からね。
 数字は、わかるの、……数字だけ、なら」

尖らせたくちびる、膨らませた頬っぺた。
それはそれは不機嫌そうに、けれども相手が、どうやら親切心を発揮してくれるらしいと気づくと、
ほんの少し、表情を和らげて。

「お金、もらえるのが、一番だけど……でも、
 水仕事とか、下働きとか、そういうのしか、したことないから。
 そういう仕事は、やっぱり、安いんだろうね」

本当は、贅沢を言うなら住み込みが良い。
しかし、そうそう都合の良い仕事があるかどうか。

ジーゴ > 「そ、ばしゃのごえい。なんかえらいヒトっぽい。ちょっと危ないよね」
これはさすがに初心者の冒険者には難しい内容だ。

「数字わかるのすごいじゃん。オレ、100までしかわからん。オレもさいきんまでぜんぜんよめなかったからダイジョウブ」
なんで相手が顔を赤らめているのか、口を尖らせているのかわからなくて、首をかしげる。

「お前、まちの外とかいける感じ?あ、これとかどう?」
街の外にはゴブリンなどの魔物も多い。街の外の方が高い仕事も多いが勿論その分、危険も多い。
指をさしたのは端っこの方に掲示されている紙だ。
読み上げないと相手が気がつかないことに思い至って、慌てて読み上げた。

「ろてん…肉……焼いて売るってさ。たぶん、3時間でええっと…」
数字を読むのに少年は苦労しているけれど、労働の対価として見合った給料の額だろう。

「てか、娼館でからだ売るのがいちばん高いんじゃね?お前、奴隷?」
ずけずけと言って。確かに奴隷でなければ、娼館で躯を売った方が冒険者ギルドでの仕事よりも稼ぎが良いだろう。
奴隷は娼館でも買いたたかれることがあるから、必ずしもよい稼ぎではないけれど。

ロクサーヌ > 「……剣も魔法も使えないんじゃ、そもそも雇ってもらえないって」

この紙片をカウンタへ持って行ったところで、鼻で笑われるのが関の山だろう。

ひょこひょこと良く動く耳が、相手の出自を知らせているが、
王都の生まれ、王都の育ち、だけれども、ミレーに対する偏見とは無縁だ。
だってつい先日まで居た館にも、気立ての良いミレーの娼婦は居たから。
しかし、なるほど―――――相手の出自を思えば、文字が読めるのはよほど良い主人に恵まれたか、
当人が、よほどの努力家であるかだろう。

「ちっとも、大丈夫じゃないよ。
 ていうか、ソッチこそ、ずいぶん勉強家じゃない?
 ―――――あ、うん……そういうのなら、うん……」

露店で販売の仕事。
いったんは乗り気で頷いたが、場所があまりこの辺に近いのは困る。
相手が指し示した紙片をじっと睨み、思案顔で首を捻り―――――
最もお手軽で、一番やりたくない仕事を示唆されて、ぴく、と顔を引き攣らせた。

「―――――――奴隷じゃないし、娼婦にもならない。
 ボクはね、そういうの、絶対嫌だから出てきたんだよ」

掲示板から相手のほうへ、くるりと向き直って腕組みの姿勢。
宿なし職なしのくせに、それはそれは、偉そうな態度と物言いだった。

ジーゴ > 「それもそっか」
相手の言葉には頷くしかなかった。
自分が要人の護衛を募集している立場であれば、ひよっこ冒険者なんて雇うわけにはいかないのは想像できる。

「え、オレ?ご主人さまが文字おしえてくれる。ちゃんと覚えないと、こわい」
脳みそ軽めの少年に文字を一から教えているご主人様の忍耐力は並大抵の物ではないのに、「こわい」の一言で片付けてしまって。ご主人さまが教えてくれるから最近はようやく、ギルドの掲示板程度は意味がわかるくらいは読めるようになってきた。

何の気なくした提案に返ってきた思いがけない強い言葉と振り返った相手にたじろいだ。
「なんで…?」
一瞬、ひどく悲しい顔をしたのは自分が奴隷で、躯も売っているからだ。
楽とは言わないけれど、無学でも力がなくても簡単に稼げる方法なのに、なんでそんなに強く嫌がるんだろうか、と考え込んで。

ロクサーヌ > 頷く相手に、でしょ、とこちらも軽く頷きで返す。
『こわい』とはいったい、どんなご主人なのだろうと思うが、
少なくとも、奴隷に学をつけようとするのだから、悪いひと、ではなかろう、とも。

「―――――――あ」

とても痛いところを衝かれたので、思わず強く返してしまったが。
相手の反応、表情、声の調子に、しまった、と眉尻を下げる。
慌てて顔の前に両手をあげ、左右にぶんぶんと振りながら、

「ごめ、……あの、ごめん、そういう、つもりじゃ、なくて。
 奴隷じゃないのは、ホントだけど……やなのは、そっちじゃ、なくって」

ええと、ええと、と唸りながら、視線をあちこちへ彷徨わせ。
相手をまっすぐ見つめ返す勇気もなく俯いて、か細い声で、

「あの、……つまり、こわいの。
 ボクは、……カラダ、売るのは、怖い。だから、やなんだ」

上手い言葉が思いつかなくて、ひどく幼い言い回しになる。
けれどもそれが、偽らざる本心、というものだった。

ジーゴ > 少年はご主人さまを「こわい」と表現したが、奴隷に文字を教えようとするご主人さまがもちろん本当に怖いのではなく、彼の学習態度の方に問題があるのである。

相手のくるくると変わる表情にあっけにとられて、悲しげだった耳はぴこり、と立ち上がる。
「いや、べつにオレが奴隷なのは最初からだし…別に気にしてな…い」
気にしてない、と簡単に言い切れるわけではないけれど、目の前であたふたとしている女の子よりは気にしていないだろう、きっと。

暫く時間をかけて絞り出した言葉には目を丸くした。
「そっか…そうだよね…こわいね」
怖いという言葉には同意の言葉をかけるしかなかった。
少年は、困ったように笑った。
確かに、怖いことが起こらないというわけではない。
「でもさ、すげー簡単にかせげるときもあるし、ええと、きもちよくてとびそーなときもあるし…まぁ痛いときも怖いときもあるけど…」
なんとか娼館での仕事のいいところを列挙して、それでも最後の方は消えそうな声で言った。

「でも、そう思うなら、冒険者がんばったほうがいいかもね。これとかどう?」
指を指したのはまた別の紙。近くの酒場のキッチンの仕事だ。
「キッチンで、料理は別にできなくてもいいって。酒場だって。まかないつきだって!」

ロクサーヌ > 「……でも、ごめん。今のは、ボクが悪かった」

自分は偏見を持っていない、けれど、考えなしだったと気づく。
相手のこれまでの人生が、決して楽だったはずはないのだから。
自分がどんなに傷ついていようと、ひとを傷つけて良いわけも、ないし。

「……うん、あの、……娼館の、仕事は知ってる。
 ボク、娼婦の娘だし、ずっとそこで暮らしてたし」

こくん、こくん。
娼館の仕事の良いところ、をあげようとする相手の言葉に、いちいち頷いてから、
へにゃりと不器用な笑みを覗かせて。

「あは、――――――そうだね、アンタぐらい可愛かったら、簡単に稼げるかも。
 ボクはダメだな、可愛くもないし、色っぽくもないし。
 それに、やっぱり怖かったし、今も、怖いし」

相手のように素直で、可愛げのある性格であれば、
―――――きっとご主人にも愛されているのだろう、とは、勝手な想像だが。
こわい、と繰り返すときだけ、無意識にお腹のあたりへ手を宛がったのは、
そこに、今も『怖い』と思っているものがあるせいだ。
瘦せっぽちでも、可愛げがなくても、確かに女であるという象徴が―――――だから。

「キッチン……料理だって、少しくらいはできるよ。
 でも、洗いものとかの方が得意、…――――まかない、つき」

ぐぅ。

ご飯の気配につられて、思わずお腹が鳴った。
相手にも聞こえただろうか、聞こえていないと良いなぁ、と思いつつ、
ことさら元気に声を張って、

「うん、それが良いな、えっと、この紙?」

ぺり、と彼の指さした紙片を素早く剥がし、ひらひらと振ってみせながら。

「ありがと、助かったよ、これ、話聞いてみる。
 ……えっと、……そういえば、名前、聞いてなかったね」

今更そんなことに思い至る、不躾もここに極まれりといった風。
照れ臭そうに微笑んで、自分の胸元に空いたもう一方の手を当て、
『ロクシー』と、自分の名を告げた。
親しい人だけに呼ばせる、お気に入りの愛称だ。

ジーゴ > 「ふーん、オレも娼婦の子どもだったんだって。親のかおもしらないけど」
少し似ているかもしれない境遇に思わず、普段は言わないようなことまで口からこぼれ落ちた。

「って、かわいくねーし!」
耳がぴこりと反応して、頬が真っ赤になる。
目つきは少し鋭くなって、眉にも力を込める。
いい加減、かわいいと言われているようではダメな年齢だ。本人は、もっと大きく大人にならないといけないと思っていて。

「あぁ、でもこわいことはやらなくてすむなら、そのほうがいい」
曖昧に小さく笑った。
自分は選択肢がない時から身売りをしている奴隷の子どもだったから、それでも、もし選べるならやらないにこしたことはないような仕事だと思う。

「うん、まかないつき。その仕事うまくいくといいね。ん?名前?ジーゴ!ご主人さまがつけてくれた名前!じゃ、ロクシーまたね」
聞かれたら名前を嬉しそうに答える。ご主人さまがつけてくれた名前は、大切にしているものだ。自己紹介をするだけで嬉しい。
ばいばいと手を振って、少女がギルドの受付の方に去って行くのを見送った。
「さて、と」
また少年は自分でも受けられそうな仕事をなんとか探す作業に戻っていく。また、端からぶつぶつと貼られている紙の内容を読み上げ始めて。

ロクサーヌ > 「え、そうだったんだ。……ふぅん……」

今度は、しまった、という顔にはならなかった。
どちらかというと興味深げに、相手の顔をまじまじと見て、
なるほど、と一人納得したように頷き。

「可愛いよ、きっとお母さん、美人だったんだと思う。
 いいじゃん、可愛くないより、可愛いほうが」

ご主人さまだってきっと、彼が可愛いから色々教えてくれるのだろう、と思う。
相手が微妙なお年頃であることには、まるで斟酌しない少女だった。

「ジーゴ、……良い名前だね、ご主人さま、ジーゴのこと、きっとすごく好きなんだよ。
 ボクもね、会ったばっかりだけど、ジーゴのこと好きになったもん。
 ……また会おうね」

嬉しそうに名乗る相手の顔を見れば、彼がその名を気に入っていることも、
彼をそう名付けた誰かが、彼をどんなに可愛がっているかもわかる。
ほんの少し、羨ましいと思ってしまった分だけ、笑顔には影が滲んだが。

手を振って向かう先はカウンタで、そこには幸い、少女の顔を知らない男が受付をしていた。
学のない小娘の交渉は首尾良く行くかどうか、――――――そこは、今宵の運次第だろう。
ちらりと振り返った先、熱心に掲示を吟味する少年の横顔を、
やっぱり可愛い、なんて思っていたのは、秘密、である。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からロクサーヌさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からジーゴさんが去りました。