2021/04/07 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にヴェレニーチェさんが現れました。
■ヴェレニーチェ > 昼下がり、馬車の往来が絶えない広場にまた、一台の馬車が到着した。
相当な距離を走ってきたのだろう、やや埃じみたその馬車から、
身分も年恰好も様々な乗客たちが降りてくる。
その、一番最後に、黒い質素なドレス姿の少女が居た。
「ふわ、あ……ここが、王都、ですか…………ぁ、いたた」
薄茶色のごつい鞄を両手で身体の前に提げ、斜めにずれた黒いボンネット帽の下から、
周囲をのんびり眺め渡しての呟きは、年寄りじみた仕草で腰を押さえつつの、
小さな泣き言で締めくくられる。
座りっぱなしで数時間、はっきり言って腰が、首が、あちこちが痛い。
けれどもやっと、念願の王都にやってきた。
祖父母は最後の最後まで渋っていたし、乳母あがりの侍女をつけると言っていたけれど、
押し切って、振り切って、一人旅を選択したのだから――――さて。
「えっ、と……まずは、荷物を、お宿に……」
探索はそれからだ、とは思えど、何しろ土地勘がまるでない。
誰かに聞くか、地図を探すか、呑気に考えながら、おのぼりさん丸出しの無防備な眼差しで、
行き交う人々を眺めていた。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にトーラスさんが現れました。
■トーラス > 地方への遠征を終えて、乗合馬車に揺られる事、数刻。
漸く帰還を果たした王都にて、馬車乗場に降りたつや否や、大きな伸びをする中年男。
冒険者としての経歴も長く、過酷な行軍や野営もお手の物だが、
逆に長時間、自分が手綱を引く訳でもなく快適な筈の馬車での移動は疲れが溜まる。
コキコキと肩や首を鳴らしながら、周囲を見廻せば、同じ馬車に乗り合わせていた
身形の良い少女が何やら、無防備に周囲を眺める様子が見て取れて。
「お嬢ちゃんは、王都に訪れるのは初めてかい?」
気さくに親切を装いながら、軽く片手を掲げると少女の傍に近付いていく。
腰掛ける座席が遠かった為に、馬車の中で特に言葉を交わした訳ではないが、
退屈を持て余す間、何気なく目の保養にと愉しませて貰った、
彼女の肢体、特に小柄な身体にそぐわぬ発育良好な胸の膨らみを間近に捉えて頬肉を綻ばせ。
「宿って言っていたな。何処に泊ってるんだ。良ければ道案内してやるよ」
あわよくば、と下心を抱きつつ、彼女に片手を差し出せば、その荷物を持とうと紳士的な気遣いを見せる。
■ヴェレニーチェ > 声をかけるなら、やっぱり、女の人の方が気やすい気はする。
あるいは男の人でも、祖父ぐらい年嵩の人であれば。
それにしても都会の人は、なんだか皆忙しそうだ―――――などと、
ガラにもなく気おくれしていたところだった。
かけられた声に振り返ってみると、見覚えのある顔。
二度、三度と瞬いてから、屈託のない笑顔を向けて、
「ああ、先ほど、一緒の馬車に乗っておられたかた……。
はい、初めてです、王都に来るのも、お家を離れるのも。
すごいですね、……なんだか、見てるだけで目が回りそう」
問われたことにも躊躇いなく答える、警戒心の薄さも都会慣れしていない証拠か。
もちろん、馬車の中でも、今現在も、向けられる視線の意図に気づきもしない。
差し出された手の意味は、いちおう察したけれど、遠慮がちに首を振って。
「あ、いえ……えっと、おばあさま、いえ、祖母の、お知り合いの、修道院に……
お願いして、泊めていただくことになっているんです。
ただ、あの、女子修道院ですので……もしご存知でしたら、
場所だけ、教えてくだされば」
初対面の、しかも男の人に、そこまで迷惑はかけられないと思う。
だから、荷物を預けることはせず、代わりに鞄のポケット部分に入れていた紙片を、
引っ張り出して、広げて見せることに。
祖母の神経質そうな筆致で綴られた、王都にある女子修道院の名前。
―――――そこが真っ当な修道院であるかどうかすら、少女も、少女の祖母も知らない。
■トーラス > 「あぁ、確かに地方に比べりゃ、建物の数も、人の数も段違いだろう?
俺も昔、田舎から出てきた時は、そりゃもう、吃驚したもんだ」
此の街であれば、子供ですら素性の知らぬ誰かに対する警戒心をもっと持ち合わせている。
特にそれが異性であれば尚の事。何しろ、退廃と背徳の王都マグメールなのだ。
だが、育ちの良さもあってか、警戒もせずに問い掛けに躊躇なく応える相手に口端を弛め。
差し出した手に荷物が委ねられなければ、無用な警戒心を与えぬようにその手を引っ込め、
代わりに拡げられた紙片と覗き込むようにと彼女の隣りへと並び、
「んっ、……此処は、――――いや、知ってはいるが……」
神経質そうな筆致で書かれた修道院の名前を二度見して、彼女の顔を見た後に、再び、紙面に視線を落とす。
貧窮院や孤児院の役割も担っている王都内に存在する女子修道院。
だが、その実態は保護した女子供に客を取らせる、修道院を騙った売春窟に他ならない。
真っ当な人間、特に少女のような存在が好き好んで宿泊する場所とは思えぬが、と怪訝な視線を向けるも、
「……此処の修道女とは懇意にさせて貰っていてね。俺も時々、寄進に訪れるんだ。
少し分かり難い場所にあるから、言葉で説明するよりも案内するが、どうだ?」
そう、彼女に告げる言葉に嘘偽りは一切含まれず、ただ方便のみが存在する。
彼女の目的地である修道院の良き顧客である事を被膜に包んで伝えれば、
再び、彼女へと片手を差し出して、相手が同意するならば修道院へと共に歩みを進め――――。
■ヴェレニーチェ > 「ええ、本当に……!皆さん、お忙しそうで……」
都会では時間すら、流れる速さが違うのかも知れないとさえ、
おのぼりさんの少女は考え始めていた。
そんな中で、わざわざ声をかけてくれた相手に、警戒する意味が解らない。
差し出してみせた紙片を覗き込む相手の顔を、隣から窺い見つつ、
「――――――どうか、されましたか?」
何故か口ごもったように見えた相手に、不思議そうな顔を向けて。
祖母はもちろん、少女自身だって、修道院すら腐敗の温床になり得る、とは知らない。
恐らく祖母は手紙のやり取りで、相手方をすっかり信用したものと思われる。
少女の身柄がどう遇されるのか、売られると決まったわけでもないけれど――――。
「まあ、ご寄進を……?
そうですか、よくご存知の場所だったんですね。
でしたら、ええ、……ご案内、お願いしてもよろしいでしょうか?」
単純に、良く知った場所だから驚かれたのか。
―――――そう信じ込んだ少女は、今度こそ遠慮なく、道案内を願い出る。
差し伸べられた手に、促されれば鞄を預けさえするだろう。
そうして、道すがら相手の名を尋ね、自ら、スフォルツィ男爵の孫娘であるとさえ伝え、
もちろんフルネームさえ明かして、修道院を目指すことに――――――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からトーラスさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からヴェレニーチェさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にギデオンさんが現れました。
■ギデオン > 王都の夜はまだまだこれからが盛りという時刻。
酔漢が居流れる酒場の薄暗い一角に、その騎士風の姿は座していた。
テーブルにはピューターのジョッキがひとつ。
まだ、頼んでいないのか、料理が運ばれてくる気配は無い。
それでも酒場の主がその客を見て嫌な顔ひとつ見せていないのは、前もって十分な金額を払っておいたからだろう。
何か欲しくなれば、声をかける。
足りなければ無論払うが、釣りはいらぬ。
そう、騎士風の男は主に告げて、その席へとついたのだった。
吟遊詩人の奏でるリュートの戦慄と甘い声。
酌み交わされる酒の匂いと脂滴る肉の匂い。
酔漢のだみ声と酒場女の嬌声。
酒場中に届いている筈のその全てが、静かに座すその姿、その周りにだけは触れていない…。もし、見る者がいればそう感じさせてしまうような、そんな不思議な気配を纏ったままに、騎士風のその男は冷え、水滴を浮かべたピューターのジョッキを一度、大きく呷っては、喉越しのよい金色の酒精を流し込む…。