2020/08/27 のログ
ネム > 昼下がりのこんな時間には、ちょうど昼寝には良いかもしれない。
けれども、子守り歌ばかりでは客に飽きられてしまうし、稼ぎも少ないわけで。
偶にはこうして、少しアップテンポの、足でリズムを取って見たくなるような歌も披露する。

1曲歌い終えると、スカートの裾を摘まんで、クマのぬいぐるみ共々お辞儀する。
同時にそれまでどこにいたのか、黒猫のぬいぐるみが帽子を手に足を止めていた聴衆の間を巡っていく。
投げ込まれるのはコインばかりではなく、飴玉や果物も混じってはいるものの、黒猫は気にした風もなく。

「……あれ? そこのまっくろさんは、この前の客さん、だよね?」

今日はよく働いたとばかりに、小さく欠伸を漏らす。
実労働は1曲だけなのだけれど、そんなことはお構いなし。
最前列に目立つ身長の、しかも周囲に溶け込むことを拒否したような色合いを見つけると、
ぴょんと立っていた木の台から飛び降りて。

「また聴きに来てくれたんだ? ありがと。」

眠そうな表情に、営業スマイルを浮かべてみせる。
ちょうど、辺りを回り終えた黒猫が、お前も当然出すよなと言わんばかりに帽子を突き出してくる。

黒須 > (少女の歌を聞くも、この前の子守り歌とは違った歌であった。
思惑通りと言うべきか、思わず片足でリズムを取っていた。
かなり気分も乗っかるような歌であり、聞き続けたいとも思えた。
曲が終われば、周りの客と合わせる様に拍手を交わす。)

「よぉ、また会ったな…嬢ちゃん。」

(飛び降りる様子を見るとそれに合わせて自分も近寄る。
背丈を合わせる様にしゃがみ、サングラスを外す。
営業スマイルに対して、こちらは変わらずの表情だ。)

「あぁ、酒飲みにいい場所は無いか探してたんだけどよ…屋根で過ごそうとしたら、歌声が聞こえてな…。
今日は、子守り歌じゃないんだな?」

(近くにやって来た黒猫に帽子を突き出されると、意図を読んど素直にコインを言えた。
素晴らしいもには代価を支払うのが基本。
金を使ってきた身からすれば、当然である。)

ネム > 稼ぎの方は、時間単価にすればまずまずといったところだろう。
こういう場所ではあまり長時間粘ったところで、稼ぎが増えるわけでもない。
場所を変え、品を変え、見栄を変えなければ、すぐに飽きられる。
そんなわけだから、今日もう店仕舞い。

黒猫が突き出した帽子への投げ銭にはお礼を告げて。

「今日は、お昼寝しないの?
 また歌ってあげるよ?」

酒瓶を手にした相手に小首を傾げる。
お酒を飲むのなら、子守り歌よりは別の曲が良いだろう。
見た感じ酔っぱらっても騒ぐようなタイプに見えないから、落ち着いた曲の方が好みなのかなと考えて。

「いつも子守り歌ばかりだと、お客さん増えないから。
 んー……お酒なら、酒場だろうけど。この時間だとまだ空いてないよね。」

時に酒場でも歌うことがあるから、お店を紹介することはできる。
けれども、日の高いこの時間からとなると、どこもまだ開店準備中であり。

黒須 > 「あ?まぁ、眠くねぇし…昼寝はしねぇかな…。」


(頭を掻きながら答える。
体力も多い上に、睡眠欲も操作できるぐらいな特殊体質のため必要はなかった。
したいのならするっといった感覚なので、今日の所はパスした。)

「まあな、流石にこんな昼間っから飲む奴は居ないだろうな…。」

(空を見上げてもまだまだ太陽は明るい。
こんな時間に飲む、仕事なしのナマケモノは居ないだろうし、酒場はそう言う雰囲気だからと思えるが、今日はとりあえず静かに過ごしたい。)

「…ん、なぁ、嬢ちゃん。
今日はまだ昼寝はしねぇけどよ…もし、仕事がねぇんだったら、宿に行かねぇか?
ちと、この前の願い、叶えてやってもいいっと思ったからよ…。」

(初めて子守り歌を歌われたときの事、自分の毛並みに目を光らせていたことを思い出した。
あの時は少女の仕事であったため、出来なかったが、今店仕舞いならばその願いを叶えられそうだと思い、誘ってみることに。)

ネム > 「そっか、残念。でもご用命はいつでもどーぞ♪」

子守り歌は不要とのことだから、ちょっぴり肩を竦めるも、きっちり営業は忘れない。
普段寝ぼけているように見えても、これでしっかり客商売はしているわけで。

街の中で落ち着いてお酒を飲める場所となると、なかなかに難しいかもしれない。
路地裏に行こうものなら、変なのが寄ってくるだろうし、かといって表通りは人であふれている。
そもそもまだこの街に来て日が浅い少女には、そういった場所には詳しくなく。
軽く手を上げて、降参のポーズを見せ。

「おにーさんの要望には、応えられそうにないかな。
 頑張って探してね?」

そう言って別れようとしたのだけれど、何故か呼び止められ。
聞きようによっては、誘われているようなセリフに笑ってしまう。

「おにーさん、その言い方だと誤解されちゃうよ?
 でも、とっても魅力的なお誘いだから、お邪魔しちゃおうかなぁー」

基本的に来る者拒まずの少女としては、にこりと頷いてみせ。

黒須 > 「ああ、そうだな…。
あの子守り歌は中々に良かった…。仕事で忙しい時にでも、また頼むだろうな?」

(あそこまで深く気持ちのいい寝入りは初めて出会った。
今回は必要なかったが、また今度お願いしようとした。)

「あ?なんだ?まさか、俺がお前を「喰おう」としてたとでも思ったか?
残念だが、そう言うのは相手が望む時だけだ…。」

(何を誤解してしまうのかと思いながら、舌を出してそんなわけないだろっと言いたいような様子。
そう言うと、この前の様に片手を差し出し、少女と手を繋げば近くの宿屋へ。
適当な部屋を一部屋借りれば、そのまま部屋の中へ。
来ていた革ジャンを壁に掛け黒いYシャツ姿になり、帽子を脱ぎ、ベットに座れば生えて来た犬耳と尻尾を見せて、髪を軽く整える。)

「そら、今日はサービスだ。
好きなだけ、堪能しろ。もっと、毛並みを堪能したいなら…答えるがな?」

(自分の後ろ髪を指さす。
まるで大きな生物の背中の様に綺麗に揃った後ろ髪。
かなりモフりがいがありそうだ。)

ネム > 「お褒めに預かり、光栄だよ。ご贔屓にだね。」

褒められれば嬉しそうに。やや棒読みの営業トークで返すのは、照れ隠しもあるのかもしれない。
商売柄、お世辞を含めて褒められるのは慣れてはいるけれど、何となくこうやって素で言われたのは久しぶり。
そんなわけなので、ちょっくくらいのサービスはしても良いかなと思ってしまったり。

「思わないけど、他の人が聞いたら、そういう誤解をしちゃう、かも?
 おにーさん、女の子から『言葉が足りない』って言われたりしない?」

見た目だけなら、ちょっと怖いけれど、面倒見の良い男のことだから、モテはするのだろう。
まわりの女の子は大変だなぁ、とか。そんなことを考えながら、差し出された手を取って。
エスコートにも慣れているようだし、実は結構遊んでるのかなーとか。

「うふふ、おにーさんをいっぱいもふもふ……
 代わりに耳かきでも、毛づくろいでもしてあげるけど……お酒飲むんだよね?」

よじよじとベッドに上がり込むと、淵に座った男の背後へと回る。
黒い毛並みにそっと細い指を差し込むと、さわさわと。
その柔らかな毛の感触をまずは堪能して。

ちなみに、いつものお目付け役の黒猫は付いてきているけれど、アコーディオンを演奏していた熊はいつの間にか姿を消していて。

黒須 > 「言われたことねぇな?
ま、俺の生き方は…大体、さっきの言葉があっているけどな?」

(何がとは言わないが、誤解を招く言い方なのは確かだ。
今まで生きて来た人生の半分かそれ以上はそのような生き方であったため、言葉選びは極端に下手だった。)

「ん?あぁ…。…まぁ、後でな…。」

(少女に毛並みを触られる。
小さくて細い指に髪の毛が絡まるも、軽く引けばすんなりと柔らかく抜ける。
整えられている上に、質にも気を付けているのかとても触り心地が良い。
指に絡まる毛が逆にくすぐるかのように芯はしっかりとしていた。)

「・・・。」

(あまり髪の毛を触られることがなかったため、少しばかりくすぐったかった。
嬉しそうに触れる様子は見えてなくてもわかっており、思わず尻尾がフリフリと小さく動く。)

ネム > 「おに―さんの髪、とってもモフモフだし、綺麗だね。
 よぉーし、マッサージしてあげちゃおう。」

触り心地は抜群。
ややもすれば、うちのぬいぐるみたちが嫉妬して内乱を起こしかねないくらい。
短く刈られた長さがちょうど指先に絡んでは抜けていく。

軽いタッチで堪能すれば、今度はもう少し指先に力を入れてみる。
まるで毛づくろいでもするのような仕草で、頭皮を丁寧にマッサージ。
この様子なら酒場のおっちゃんのように剥げてしまうことはないだろうけれど、
もしもそんなことになってしまえば、世界から癒しがひとつなくなってしまうわけで。
そんな世界の危機をもたらすわけにはいかないと、真剣な表情だった。

「やっぱり耳って、敏感、だったりするの?」

揺れる尻尾にも目を奪われてしまうけれど、頭の上で時折ピクリと動く耳の方も同様。
毛並みで言えば尻尾の方に軍配が上がるけれど、触り心地で言えばまた違った感触だろう。
許可を貰う前から、ツンと、指先で突てみて。

黒須 > (マッサージを始められ、大人しく過ごしている。
頭皮マッサージも初めてであり、あまり感じた事の無い感覚だった。
思わず顔がうっとりとしてしまうかのように気持ちがよく、振る尻尾が少しばかり早くなる。)

「ん…中々に心地いいな?
こうされるのも初めてだ…。」

(のんびりとした口調。
さっき街中で出会った時の印象とは打って変わっての落ち着き具合であり、心を許しているような様子だ。
だが、まだまだ少ない出会いのため、それ以上に行くことはまだないだろう。)

「っ…!」

(許可を出す前に耳を触られると驚く。
神経が詰まっているため、今までの戦闘経験故に体が動いてしまった。
反撃までは出ない物の、体が一瞬収縮して縮まる。)

「…やめい」

(しばらくして元の座る体制になれば顔を上げて少女を見る。
ポーカーフェイスの顔で言う様子は怒っているかの様に見えるが、声はいたって普通。
特に怒る気持ちはないが、驚きはした。)

ネム > 「ごめん、ごめん。
 急に触ったら、びっくりするよねー」

思ったよりも過剰な反応に、こちらの方までびっくりしてしまった。
けれども謝る口調はどこまでも軽いもの。
これが怒鳴り声であったならば、さすがにマイペースな少女も委縮してしまったかもしれないけれど。
声の調子はまだ普通の範疇。ならば、そこまで怒っているわけではないのだろうと感じ取ってのもので。

「うん、ありがとー。すっかり堪能したよ。
 あとは尻尾とじゃれついてるから、お酒飲んでていいよ?」

いつまでも頭を触られていては、落ち着いて酒を飲むことなど出来ないだろう。
何よりも温かい毛並みを触っていたら、眠気に誘われてしまった。
そのままベッドに横になると、揺れる尻尾を掴まえて、ぎゅむっと抱き枕代わりにしてしまい。
髪に比べれば、幾分長い毛先が顔を擽ってくるのが気持ちよく。

黒須 > 「そりゃそうだ。
俺も一応狼の獣人だからな…感覚も動物と同じだ。」

(今は人間の姿になっている物の、身体能力や神経の出来は動物と同じである。
そのため、耳を触られればびっくりするし、マッサージをされれば気持ちよく感じたりするのも同様だ。
軽い口調で話す様子をみても、こちらもそんなに怒っているわけでもないので、まぁいいかで済ませた。)

「ん、あぁ、悪いな…。」

(髪を撫でるのに満足し、今度は尻尾を抱きしめられる。
かなり大きいため、少女が抱き着くにはぴったりの大きさだ。
そのまま、買って来た酒の栓を開ければ直飲み、軽く飲んではふぅっと息を吐いて落ち着く。)

「…そう言や、嬢ちゃんは名前はなんて言うんだ?
俺は黒須。黒須・狼だ。第七師団所属の戦闘員だ…。」

(こうやって気ままに過ごしているが、お互いに名前を名乗り合っていなかった。
そう言えばしておかねばと思い自分から名乗り、職業についても話した。
ここに来たばかりの少女からすれば、何のことかわからないが、ともなく名前を覚えてもらうだけで充分だと思った。)

ネム > 尻尾にしがみついて寝ている様子は、まるで仔猫のよう。
半分寝ぼけたように瞼を落としながら、時折、頬に尻尾を擦り付け、気持ち良さそうにしており。

「くろす? だいなな? 冒険者とか傭兵じゃなかったんだ。
 私は、ネムって呼ばれてるの。好きに呼んでいいよー」

欠伸を堪えながら間延びした口調で答える。
第七師団とかいうのが何なのかは分からないけれども、戦闘員というからには軍か何かなのだろう。
てっきり冒険者かと思っていたから、少し意外ではあり。

国に居た頃には、家名もあったのだけれど。
家を飛び出てからは名乗ってはおらず。短い名前だけを告げる。
うとうとと夢の世界と現の世界を行ったり来たり。
他にも何かを問われれば、寝ぼけたままに答えるだろう。
とはいえ、難しいことを訊かれたらそこまで。あっという間に夢の世界に旅立ってしまうことで。

黒須 > 「呼びにくいなら…。まぁ、簡単にローとでもいえばいい。
そっちの方が楽だろ?」

(まだ日の浅い上に、明らかに街の事を知らなすぎる様子から遠くから来た人間なのはわかった。
恐らく、その国での発言や言葉使いなどのせいか、良い慣れないことも多いだろうと思い、単純な名前にすることにした。)

「ネム、か…。寝坊助なお前にはかなりあっているな?」

(すでに眠りかけようとしている様子の少女に言う。
名前についてどうこう言うのはかなり失礼だが、ジョークとして言ったために深く考えなかった。)

「…ねみぃなら寝て良いぞ?俺も、適当に寝るからよ…。」

(振り向けば、眠気眼な少女。
行き来させるのも悪いだろうし、いっその事片方の世界に行った方がめんどくさくもないだろうと思い、好きにさせるようにした。
尻尾もそれなりに動かせば、特に邪魔することなく横になれる)

ネム > 「じゃあ、ローって呼ぶね。
 むー……これでも、寝起きは良い方なんだよー」

その代わりに寝入りも早いのだけれど。
と、そんなことまで説明しようとも、もう半分以上は夢の国。
無防備と言って差し支えない姿ではあるけれど、それだけ相手のことを人畜無害――もとい、信用しているということだろう。

寝て良いと言われるまでもなく、そうするつもりではあったけれど。
許可を貰えば、あっさりと現の国に別れを告げる。

「……おやすみ、ろぅー」

最後に、寝言のようなそんな呟きを漏らして。
尻尾はしっかりと抱いたまま。けれども力の抜けた腕からはするりと抜け出すことも可能だろう。
心地よさそうな寝息を立てる少女が目を覚ますのは、おそらく日もすっかり暮れてからのことで―――

黒須 > 「…奇遇だな?俺もだ。」

(寝ようと思えばスッキリと目覚めることのできる性質のため、お互いに同じ様子があったと思った。
違う点と言えば眠気の量の違いだろう。
許可を出した後にすぐさま眠りに付くと、ふぅっと息を吐いて起こさないようにゆっくりと横になる。
風邪をひかせないように毛布を掛けて自分は頭の後ろで手を組んで目を閉じる。)

(しばらく眠り、少女が起きるのと合わせて自分も起きる事だろう。
ある程度身支度をした後、外に出れば別れの挨拶、それぞれの日を過ごすことになるだろう。)

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からネムさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」から黒須さんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にジーゴさんが現れました。
ジーゴ > 教会には「きょうかいがっこー」があるらしい。
「きょうかいがっこー」では読み書きを教えてもらえるらしい、と聞きつけたのが、今日、場違いな少年が教会にいる理由だった。
そもそも、もう日が暮れきって夜更けも近い教会に誰かいるかどうかは分からないけれど。

小さな音を立ててそっと開く教会の扉。
忍び込むかのように気配を消して入ってきたのは、まだ幼さの残る少年。

「でっか…。なにあの色つきの硝子…」
街の中でも有数に高い建物だ。
天井を見上げて、よくわからない何かの大きな像や
ステンドグラスを見上げる。
夜だから、ステンドグラスに日が差して綺麗、みたいなことはないが、
それにしても無学な獣は、芸術を理解せず、ステンドグラス全体を絵として認識しているかも怪しい。

「あれがカミサマってやつ?」
並べてある長椅子のうち一つを選んで、座って上を見上げる。
大きな人型の像が神様なのだろうか。
神様が何かさえも全く分かっていない少年はとりあえずその像を眺めるばかりだ。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にはばりさんが現れました。
はばり > 『きょうかいがっこー』に人気は非ず。精々来る者と言えば警邏の者か、不審者しかおるまい。
たとえばそう、彼のような人物だ。
ひそひそこそこそとやってきた彼の背後から忍び寄り、同じく人型の像を仰ぎ見るようにして教会へと堂々と入ったのは、同じくミレー族の兎だった。

「いよう、兄さん。神サンが気になるんで?」

特段、警戒もいぶかしむ声でもなかった。ステンドグラスをぽけらっと見上げる彼の心境は己は与り知らんが、さぞ感動的な光景が映っていたに違いない。静寂を突き破る場違いな声色は、ほんのりと呆れ交じりであった。

ジーゴ > 確かにぼーっとしていた。
平民街だからか、人気が無いからか。
神に祈っていたからではないのは確かだ。

「!なに!」
突然後ろから離しかけれると、文字通り飛び上がりそうになって。
驚きから、ビクリと体を震わせた。

「カミサマしらない。見にきただけ」
いきなり話しかけてきた相手に視線をやって、律儀に返事をした。
相手のことを頭の先からつま先まで、無遠慮に
何のミレーだろうかとしげしげと眺めた。
こちらもミレーだが、今日は平民街に来たから帽子を被って、一番の特徴である獣耳は隠している。
それでも隠しきれない、獣の牙と獣の瞳孔を持った瞳。
何より、獣の気配は消せていないから、相手にこちらもミレーであるということは伝わるかもしれないが。

「お前は何してるの?」
恐らく奴隷であろう相手に対して、素直な疑問を投げかけた。

はばり > これが学校に忍び込む盗賊だの貴族狙いのお偉いさんだのやべーヤツだのがやってきたら手前もさらっと後ろを向いて逃げただろう。
が、彼は物取りというにはカッコはみすぼらしいし、多少肉付きが良いとはいえぶっちゃけ同族・同類の類と見た。相手は肉食の獣っぽいが、ミレー族同士でマウントを取り合ってもしゃあなし。
手前はやさっこい草食の獣畜生だが、ここは毅然と振る舞わねばなるまい。
兎耳を生やしたミレー族。布一枚を巻いた東国風の着物という変わった出で立ちの、男か女かも判断付きづらい兎は肩を竦める。

「おっとすまねぇ、別に驚かす心算はありゃせんよ」

彼の言葉を信じるなら、彼は無学の者だろう。こんな夜に来るのは淫蕩に耽る聖職者か悪いならず者だろうよ。
しかし盗人の類ならもうちと実入りのイイモンに眼を付けるだろうし、さしずめ学を知らない無学の獣の類とみて間違いない。
目の前に飛び込んでくるステンドグラスの価値も伝えようとする在り方も知りはしないだろうし、神サンの価値も同様だに違いねぇ。
なぜなら手前だって神サンに然程の重要性を見出していないからだ。
さておき、獣の瞳は間違いなく捕食者の眼だ。彼に勇気があるかはともかく、ともあれば喉笛を掻き切ってでも逃げるに違いない。

「あ、わっちゃはここの清掃係でありやす。今日限定でございやすが。
 学生に見られないようにこそこそとこの広ェ土地を掃除しろって言われたんで夜中に掃除に来たもんで……。
 流石に同じ奴ァいねぇだろって思ったンだが」

今日雇われた奴隷だと暗に語る。ミレー族がこんな崇高な学校に深夜にこっそり現れるなぞ、選択肢は自然と少なくなろうて。

「そちらさんは盗人じゃあありゃせんよね。一応物取りだったら報告しなきゃわっちゃが半殺しにされるんで、確認しねぇとなんですが」

ジーゴ > 「オレ?きょーかい見に来ただけ。あ、今は入ったらいけない時間だった?」
地域の子どもたちに聖書の教えや簡単な読み書きを教えるための学校として使われることもあるとは言え、教会の大聖堂である。
いつ入っても大丈夫だと思っていたが、違ったらどうしようかと焦りはじめて。

「ああ、そうじ!」
相手が、掃除のために雇われたと聞いて、合点がいった。
「広いからたいへんだな、あのガラスの掃除とか
とってもめんどくさそうだ」
正面の大きな像だとか、壁一面のガラスを見やった。
背が低くて、空も飛べなさそうな相手が壁を掃除することは無いかもしれないが、
床面積だって随分と大きい。
掃除をするのが大変そうだ、というのが正直な感想だった。

「な、おまえってカミサマ信じる?」
きっと、自分と同じミレー族で、奴隷にみえる相手。
もし、本当にカミサマがいたら、こんな酷いことはないんじゃないか、っていつも思ってきた少年は相手に問いかけて。

はばり > 「いやあ別に。許可さえあればいつの時間にいても良いと思いやすよ。『多少』怒られる覚悟があるなら別にいつ来ても良いんじゃあねぇですかね」

やはりというか、言語の覚束なさからして貧民の子かミレーに該当するに違いない。
威光をたらしめる教会のお膝元、学び舎の中枢にて。バレたらシャレにならんだろうに。

「そーそー。あのガラスな、一片だけでわっちゃが身を粉にして働いてもお代が稼げるか怪しいレベルの産物ってなモンらしいでさぁ。
 しぬっほど面倒臭いに違ェねぇよ。綺麗なモンだし見事なモンだが、ありゃあじっと見てると目ェがしぱしぱしてくる。
 床も拭いて椅子も拭いて……神サンには触れちゃならねぇって言われてるから触るのは憚られるが、それでも数が多い多い」
 
 わざとらしく目を瞬くモーションをしてから、くしくしと目をこする。

「ンー、神さんでありやすか」

 相手は何を期待しているのだろう。神サンがいりゃあ、多少は楽になるだろうと思っているのだろうか。
 同じ共感を得ることで、何かのとっかかりになると思ったのだろうか。常々思っているのであろうそのことに、己は何と答えようか。

「……いるんじゃねぇんですかね。こうして神サンの像があって、本っていうやつにありがたい?御言葉があって。
 そんで信じてる輩が山ほどいるってんなら、いるんだと思いやすよ」

 同調的な圧力。別に神を信奉しているわけではないが、いないというのも違う気がして、いると思うからいる、ということにした。

ジーゴ > 「そっか、やっぱ夜はだめか」
夜に訪れるのはやはりだめだったらしい。
あと、この教会は自分が来るには、すごすぎる場所だったみたいだ。
平民の子どもに読み書きを教える学校をやっているような教会はもっと小さい教会かもしれない。

「え、あの変な色のガラスそんなに高いのか!
絶対、さわんないようにしないと。
…あと、わっちゃ?ってなに?」
わっちゃってなんだろうか…と思っていことがそのまま口から出てしまって。

「そっか、カミサマっているのか。
カミサマに会ったことあるヤツいるのかな」
檻の中にいた期間が長すぎた奴隷は、そもそもこの国で暮らしてきたはずなのに、この国の文化に対する知識が少なすぎる。
神様が何であるかを根本的に理解していない。

相手が、神様がいるっていうからにはきっといるんだろうなぁ、とまた大きすぎる像を見上げた。

「な、そうじオレもてつだう?」
この広さでは、一人では一晩かかっても終わらないだろうと、思って相手に尋ねた。
話に付き合わせてしまって使ってしまった時間もあるし、
明日の朝までに掃除が終わっていなければ、相手が怒られてしまうかもしれない、と思って。

はばり > 「ここはちぃと規模のでっけぇトコでやすからね。
 入るんならもうちっと小せェとこが良いと思いやす。なるべく郊外のトコの」

ここは学校の名を冠する教会だ。多少なりとも動員数は大きく広いものだろう。
孤児院が併設されているような場所だったらリスクも少なくみられるだろうが、ここまで巨大な建造物に忍び込めることも早々あるまい。
これはこれで、ある種貴重な体験とも言えるのかもしれない。

「わっちゃはわっちゃでありやす。言葉を直すと俺とか僕とか私とか、手前を指す言葉でありやす。
 ちと遠くの国から来たモンで言葉がなまっておりやすが、まあ気にしねぇでおくれ」

ぴっぴと自分に向けて指をさす。己よ己。

「わっちゃには遠い遠い御伽噺見てぇなモンですから、いるかもしれんよ。
 だってこうして神サンの像がつくられてるってことは、神サンを見たってことなんでしょうから。
 こういう別嬪さんだったんじゃねェんですかね、神サンってのは」
 
 それこそあの像くらい大きかったのかもしれない、と付け加えながらしたり顔で頷いた。

「あー、いや別に良いですよ。わっちゃ一人でやったってことにしねェと『テメェサボってやがったな』ってドヤされて裸吊りされちまうよ。
 つーか、兄さんも頃合いを見て逃げる算段を付けとく方が利口でありやすよ。わっちゃとハナシしてることがバレたらそれこそコトだからよ」

ジーゴ > 「わかった、ここにはもう来ないようにする」
自分が場違いなところに来てしまったことだけは分かった。
確かに、ガラスは明らかに大きいし、全ての場所にお金がかかっていそうで、居心地は些か悪い。

「遠くの国!わっちゃはどうやって遠くの国から来たの?その国にもミレーっているの?
その国でもミレーって奴隷なの?」
他の国はおろか、王都からもでたことが無く、
貧民地区と平民地区、ごく稀に富裕地区に行くことがあるけれど、狭い世界に生きている狼は突然質問攻めにしてしまって。
わっちゃの解釈も間違えたまま。
それでも目を輝かせたまま相手に質問をたくさん。

「あんなでかかったら、巨人じゃん」
神様が本当にあんなに大きかったら、さぞかし救われた人間も多いだろう。
大きすぎるその像が、虚勢をはっているように見えて、
少し斜に構えた狼は、暗くて光ってはいないステンドグラスと、夜の影が差した神様の像を見上げている。

「まぁ、どうにかなるでしょ」
とはいえ、逃げ道がそうたくさんあるわけではなかった。
自分が入ってきた扉。
聖堂の脇にある、奥へと続く扉が左右に2つ程度。
自分が入ってきた扉は外に繋がっているけれど、
他の扉からでは直ぐには逃げられそうにない。

「わかった。吊られるのはこまる。鞭とかもこまる」
もちろん、サボりがみつかったら碌なことがないことはわかる。

「お前って、何のミレーなの?」
無遠慮に相手に伸ばされた手。
避けなければ、相手の耳に手を触れようと。
白くて薄くて、長くて、綺麗な耳だ。

はばり > 「いるし立派な奴隷でございやす。獣だからってどうにもわっちゃらは見下されていけねぇや。
 一部の地方だと神格化されてるなんていううわさ話もあるんですが、どうせロクなモンじゃねぇや。

 えー、しかしてまあ、わっちゃあ質問攻めされんのに慣れてないんでこそばゆいんですがね」
 
 ぽりぽり、と頬を掻きながら頬を赤く染める。
 なんとか彼の矢継ぎ早の質問に答えながら、続けて口を突いて出たのであろう彼の所感に「そりゃそうだ」と返す。

「神サンってわっちゃらにはよう分からんモンなんだから、もしかしたらホントにあれだけでっかいのかもしれんですよ。
 掌だけでわっちゃらを虫みたいに潰せるくらい、広い広い掌を持っているやもしれやせん。
 人のお悩みを聞くのにも、あんだけ大きな耳がなきゃあ聞こえねェかもしれんでしょ」
 
 ここには人々が集まって、各々の祈りを紡ぐのだ。ならば大きければ大きい程効率が良いのではないか。
 半ば妄言交じりの言葉は、されど子供に向けた言葉としてはそれなりの説得力も持とうか。

「……まあ、最悪わっちゃの同僚とか嘘八百ほざいていりゃあ何とか回避は出来るでしょうが。
 あぁわっちゃあ……ひゃぅ!?」

 びく、と肩を震わせる。ほんのりと女性的な声が漏れた。耳はふにふにとしていて柔らかく、先端がほんのりと垂れた庇護欲を掻きたてられそうな――あるいは飯と思える程か弱いものだ。

「う、兎のミレーにございやす。ほれ、白くてぴょんぴょこ跳ねてる動物の。よくシチューの具材になってる」

ジーゴ > 「んあ…ならダメか…」
他の国でも、ミレーは奴隷ならしい。
もちろん国によるとは思いたいが。
他の国でなら、自由に生きられるのではないかと考えていた少年は小さく肩を落とした。

「あんなにでかきゃ、ちいさきモンの気持ちはわからなくない?オレたち、すぐにつぶされて死にそう」
本当に神は大きいのかもしれないし、慈悲深いのかもしれない。
でもそれを信じ切れなくて、軽口を叩いた。


相手が奴隷だからだろうか、伸ばした手は拒絶されることなくて、柔らかくて肌触りのよい耳に触れることができた。

「シチューだからか。うまそう」
ウサギは見たことがないから何か分からなかったけれど、
なんだか食欲を誘われる匂いがする。
相手が草食のミレーで、自分が肉食のミレーだからなのか。
触れたままの耳の根元をくすぐるように触ってから、ふわふわの髪の毛にも手をのばした。

うまそう。うまそう。
食欲なのか、はたまた他の欲なのか、自分でも認識できないまま。
もう一歩相手に近づく。
相手が抵抗しなければ、少し屈み込んで、肩口にキスを落とそうとして。唇が触れてから、少し小さく噛みつくようなソレは、肉食獣の牙を少し立てるようなものでありながらも、
舐める獣の舌は相手を刺激するものでもあり。
少女が抵抗すれば、少年は直ぐに我に返るだろうけれど、
草食動物の香りにあてられていて。

はばり > 「まあ世界は広いですよ。兄さんが思っている以上に。
 だからそういう違う世界ってぇのもあるんじゃねぇでしょうか」
 
断言はできないから、あくまで希望を持たせる程度にしかならんのだけど。

「そりゃああんだけでかかったら気付かれずに足元で倒れる事もあるでしょうよ。
 もしかしたら神サンにとっちゃわっちゃらはありんこみたいなモンかもですし、それでも慈悲をくれてやるって言ってくれるかもしれやせんよ」

そうして軽口を叩いてから、

己は奴隷だ。相手と立場が同じだろうと、常に受けての姿勢を許諾し続けた存在だ。
相手は曲がりなりにも上位者である肉食の獣。こちらは食われるべき劣等種。
白髪はふわふわとして張りがあって、動物のような柔らかな手触りだ。身なりには気を遣っているのか、随分と繊細な髪質と肌をしている。
相手の食欲には何となくの危機感でしか察知できなかった。

「ひゃあ!? ン、ぁ……ぞわぞわ……って」

露出した肩に堕とされる口づけ。牙を突きつけられ、無意識的に反応して声が漏れた。
ざらついた舌先は得物を値踏みする獣のようで、味見をする何かのようで。

「な、なぁ。わっちゃを食うのはやめなんし。わっちゃあそんなに美味いもんじゃありゃせんよ……」

非常に抵抗感は弱い。同族で同じ立場とはいえ強く出られれば無下には出来ない。
結局のところそういう生き方しか出来んのだ、己は。
潤んだ赤色の瞳は痛みからではない。