2020/06/13 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にフォティアさんが現れました。
■フォティア > 平民地区の、賑わう場所から少し離れた一角。
篠つく雨を見上げながら、銀色の髪の娘がカウンターで頬杖をついていた。
貸本屋の看板を掲げた小さな店は、まだそれを下ろす様子なく。
すでに陽も暮れて、メインの客層であろう絵本を読んで欲しがる子供たちも通りがかるような時間ではない。
なのに店を開けているのは、雨宿りの客を狙ってか。または、本来の貸本ではない秘匿の写本を求める客の訪れやすい時間帯だからか。
「………とはいえ、そろそろ頃合い…か」
独り言ちると、銀色の髪の娘はカウンターから立ち上がり、店先へと歩を進める。
雨の具合を確かめるように、そぅ、と掌を店の軒の先へと差し伸べた。
はたはた、と冷たい感覚が、断続的に小さな掌を叩いて濡らす。
その感覚に淡く口唇を緩め、通りの人通りを見遣った。
数軒先の飲み屋の明かりはまだ煌々としているが、ストリートには人の姿はほとんどない。
「この雨だし……」
客はもう来ないだろう。そう予想し、軒にかかった小さな看板に手をかけた。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にミシェリさんが現れました。
■ミシェリ > 夜も更けた頃。点々と広がる水溜まりを踏まないように静かな通りを小走りに進む、目立つ帽子の人影が一つ。片手には壊れた傘を強引に畳んだ形で持ちながら雨を凌げる場所がないかと視線を左右に走らせる。夜の散歩に騒々しくない場所を選んだのがかえって災いしたか、賑わいから遠いこの辺りの店のほとんどは扉を閉ざしていた。そんな中から看板に手を伸ばす少女の姿を見つけたのは必然といっていいだろう。
「…ああ、すみません」
少女が店内に戻ってしまう前に声を投げかけて進む足を速めた。素早く軒下へと身を滑り込ませると、雨の水を吸って重たくなった帽子を脱いで一礼し、弾む呼吸を整えるために深く息を吸い、静かに吐いた。
「こんな時間に申し訳ありません。よろしければ少しだけ休ませては…」
そう口にしかけながら店内に目を向けて、しまったと苦笑する。濡れ鼠となった自分がお邪魔するには相応しくない店だったかと今になって知り、ばつが悪そうに眉尻を垂れる。それでも駄目元で小首を傾げ、店主と思わしき少女の意を窺ってみた。
■フォティア > 「よいしょ」
小さく口に出しながら、小さいとはいえ少し重量のある看板を抱えて外し、胸に抱くように運ぼうとした。
その瞬間、かかる声に看板を取り落しそうになる。
雨音に紛れて足音を聞き取れていなかったのだろう。
「えっ? あ、はい……!」
少し慌てた様子で振り返り、たたずむ姿へと視線を投げた。
濡れ鼠の女性の姿。恐縮するような佇まいに、つい小さくクスリと小さく微笑んで、頷き返した。
「ええ、よろしいですよ。どうぞ中へ……今夜はもう早じまいをしようとしていたところなんです遠慮なくごゆっくり。タオルをお持ちしますね?」
サービスだけでなく、やはり商品を濡らしたくないという気持ちからなのだが。そっと手の動きで店内を指し示し、招くよう。
本棚が壁どころか天井まで埋め尽くす、様々な書籍の並ぶ店内。独特の古い紙の匂いが満ちる、小さな店内だ。
■ミシェリ > 雨宿りを申し込むには相応しくないだろう店に駆け込んでしまい、更にその店の主を驚かしてしまったとあっては、ますます気まずさが募る。日頃は道行く若い娘に悪戯せんと目論んでばかりいる自称悪い魔法使いであっても、申し訳なさが先立ち、もう一度軽く頭を下げた。
「すみません。お気遣いいただいて…、ですが…せっかくなのでお言葉に甘えさせていただきますね」
暫く軒下だけ貸してもらえたなら、それでも十分だと思えた。しかし店主らしい少女に愛想よく応対されて、今更遠慮するのもどうかと思う。数秒ほど考え込んだが、タオルも貸してもらえるのならば彼女の厚意に甘えた方がいいだろうと判断した。ジャケット、ドレスの裾、そして何より水を多く吸った帽子を軽く絞ってから店内に足を踏み入れる。
「こちらは…、本屋、……いえ、古本屋…でしょうか?」
タオルを借りるまではなるべく本棚に近寄らないようにしつつ、見える範囲で店内の様子を窺う。並ぶ本の背表紙を観察して、何人もの手を渡り歩いていそうな草臥れた印象を受けるものも少なくないように思えて、少女に問いかける。
■フォティア > 少し足早に、一度店内へと戻っていく華奢な後姿。
店奥に鎮座したカウンターの奥には一枚のカーテンによって、プライベートスペース兼バックヤードが仕切られているのだろう。
その厚布を跳ね上げるようにしてその奥へと。しばし、けれど決して長くはない時間で再び姿を現し。
「お待たせしました、どうぞ。 それと……濡れると、少し身体が冷えますでしょう。お茶を淹れましたので」
片手で支えた盆には、癖のない紅茶を入れたカップと、薄水色のタオルが載せられている。
それを支えながら、おそらくは今日最後のお客へと歩み寄り、それを差し出した。
「ええ、正確には……貸本屋になります。 どうしても、とおっしゃる方にはお譲りすることも可能ですが、それには少し時間をいただくことになりますね」
質問へと答えながら、己の小さな店を見回す。
絵本小説様々な書籍。もちろん購入希望もあるのだが、全て写本という状況から、それを再び写すまでの時間が必要なのだ、何しろ、在庫がほとんどない。
■ミシェリ > 壊れた傘を店の入り口に立てかけておき、少女の戻りを待つ。読書は嫌いでないから、本の背表紙を眺めているだけでも時間を潰すには十分。さほど待たされたとも感じないうちに再び少女がやってくると、漂う紅茶の香りに目を細める。
「あら…、何から何まで…ありがとうございます。ご馳走になりますね」
先にタオルを受け取り、長い髪の先から水気を拭う。服の袖や手の先も念入りに拭き終えて、これならば彼女の店の商品を濡らしてしまう心配もないだろうと一息。改めて盆に手を伸ばしてカップを受け取ると、湯気立つ紅茶を一口含んで、ゆっくりと息を吐いた。夜が冷える季節は脱していても、日のない時間に雨に降られては、さすがに身体も冷えてしまう。温かな飲み物で芯から温められる感覚に、心地よさそうに表情を崩した。
「貸本屋…。なるほど、道理で…絵本の子達は、歴戦、という感じがするのですね。 …それは…譲渡の前に複製をしたりするのですか?」
元気な子供達の手を何度も渡ったのだろうと思える絵本の様子に目を留めて静かに笑う。古書店よりも落ち着いた、柔らかい雰囲気が漂っているように感じられた原因はそれかと納得した後、譲渡も請け負っていると聞いて首を傾げた。いくらか時間が掛かるという話から、書き写して在庫を減らさないようにしているのかと推察しつつ、紅茶を一口。