2019/06/26 のログ
セーデ > やがて全天が等しく闇と星々に覆われた頃になってようやく、セーデはランタンに火を灯す。
バッグの奥底にしまいこんでいた火打ち石を取り出すのが面倒くさかったというのもある。

「はー、やれやれ……我ながら辺鄙なとこに家を作ったもんだよ。中心部との行き来だけでもちょっとした遠出じゃん」

1週間のうち半分以上は工房に籠もってエンチャントに集中し、残りの数日で売り捌く、というサイクルを続けている。
散歩感覚で繁華街に遊びに行くこともできない、そんな位置取り。
しかし、付呪にはどうしても儀式という工程が伴うため、近隣の風評被害を避けるにはこういう吹き溜まりに住むしかない。
悪魔召喚や呪いなどに関わる怪しい儀式に興じているわけでもなし、非難される筋合いは……。

「………いや、私の付呪が怪しいのは重々承知してるけどさ……」

非難される筋合いはある。セーデの付呪品には往々にして『呪いのアイテム』も混ざることがあるのだ。
なにより、魔族の知識と血筋が大きく絡む付呪法である。儀式は大変におぞましく、複雑怪奇で、たまに淫猥だ。
売り捌く付呪品の8割はまともに機能するが、残り2割の動きの怪しさがすでに知れ渡りつつあり、評判はさほどよくないのである。

そんなわけで、何十分も歩いてひたすら治安の悪い方へと歩みを進めるセーデ。
やがて周囲の通りの気配が明確に変わる。
もともと少ない明かりが、さらに少なく。ゴミが増え、生臭い匂いがあちこちから漂い始める。
蒸し暑い夜なのは変わらないはずなのに、ただ闇の中を歩いているだけで寒気を感じるような。
この王都で1年も暮せば、区画による治安の良さ悪さというのは空気感だけでわかるようになるものだ。
……ふ。セーデの頬がにわかに釣り上がり、安堵にも似た吐息が漏れる。

「……よーやく、家が近づいてきたわ。帰ってきた~って感じね」

張り詰める空気を五感に受けながら、それでもなぜか安心感を覚えてしまう。
セーデは半分魔族である。自分にその自覚がなくとも、善よりは悪、秩序よりは混沌を好んでしまうところがあるのだ。
一歩道を踏み外せば如何なる危険が潜んでいるか分からない。
そんな闇の道を歩きつつ、歩調は危機感よりも高揚感から徐々に早まっていく。

いつもどおりの、セーデの一日が終わろうとしている。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からセーデさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にソウレンさんが現れました。
ソウレン > 今日も赤提灯が通りを薄く照らしている。
表の引き戸には王国の言葉で『冷や酒置いてます』という張り紙。
その引き戸がからりと開いて、赤ら顔の二人組が出ていく。

「ありがとう。また来てくれ。」

続いて着流し姿で現れ、出ていく男に声をかける。
酔って気が大きくなった二人の姿が消えるまでその背中を見送ると、ひと段落ついた店内に戻っていく。
調理場へ戻る前に空いた器をまとめて調理場へ下げる。
じゃぶじゃぶとそれを洗いながら、客のいなくなった店内をちらり。
蒸し暑くなってきたな…と考えながら作業を続けていく…。

ソウレン > 「あぁ、いらっしゃい。」

再び開いた引き戸を見ながら声をかける。
やってきた男女に微笑みかけ、調理場から出ていく。

今日も静かに夜が更けていく…。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からソウレンさんが去りました。