2019/05/17 のログ
■ソウレン > 「そんな所だよ。たまに粗相をする客もいるけれどね。」
口に合わないとか王都の料理を出せとか。
丁重にお帰りいただいてはいるのだが…まぁ、それはこちらの話だ。
刻んだものを皿に盛りつけ、すり下ろした生姜を少々醤油と合わせて別の小皿に。
「どうぞ。油揚げの網焼きだ。」
かりっとした食感と大豆の風味、油のコクが楽しめる一品。
酒のつまみには最適だろう。
網の上のもう一品はじっくりと焼いていく。時折、加減を見るように動かして。
「ん?いいや、あれは私の夕食だよ。ちょうどお客さんが切れていたからね。」
気にする事はないよ、と笑う。
ここに来るのは気にしない客が多いだろうが、相手をしている手前というものがある。
食事しながら調理や接客、という事はしないのだと語った。
網の様子を見ながら、さてと次の準備に取り掛かるだろう。
食材庫から緑のもので包まれた塊を取り出す。
夕方に仕込んでおいた魚の昆布締めである。
「生の魚は大丈夫かな? 苦手ならば別のものを出そう。」
■ティエンファ > 「そう言う客に困ったら俺の出番だな。町に居る時は用心棒をやってる。美味い物を出す店を守るなら、安くしとくぜ」
ティエンファだ、と青年は子供っぽさの残る笑顔で名乗る。今日もその帰りなのだとか。
「アブラアゲ? ふぅん、なんかクッションみたいな……うん、でも良い香りだ
……んむ、ん ……へえ、こりゃ面白い! 派手じゃないけど軽くて旨いな
俺このソース好きかもだ」
ザクリザクリと箸でつまんだ油揚げにかぶりつく。ソウレンの見立てた酒と料理は、青年にピタリと合ったようだ。
生姜も乗せて味も替えながらそれを楽しみつつ、ソウレンの言葉になるほど、と頷く。
「バーとかだと、バーテンダーや店主と酒を酌み交わす事もあるけど、ここはそう言う感じじゃないんだな
……なんだいそれ、緑のー……って、え、それ魚なのか!? いや、生の魚も食うけども……
って、成程、葉っぱか何かでくるんでるのか。驚いたぜ……でもまあ、お姉さんの選んだものだ、間違いないだろうし、頂くぜ」
あ、お酒を追加で、と呑み干したぐい飲みを置く。
■ソウレン > 「はは、有難い話だ。その時はよろしく頼むよ。
ほら、お酒のお代わりだ。」
私は店主のソウレンだよ、と名乗り返しておく。
他に従業員はいない、とも。
店自体はこじんまりとして、一人でも経営が可能な内装である。
空になったぐい吞みを回収し、同じお湯割りと青年の前に差し出していく。
「焼いてあるから香りが立つんだ。
そのままでも揚げたてはなかなか旨いものだけどね。」
そう言ってから、網の上に置いておいた塊をまな板の上に。
濡れた羊皮紙はすっかりと焦げてしまっているが…。
それを剥がし、中の薄皮も剥がせばふわりと甘い香りが立ち上る。
「魚の前にこれだ。玉ねぎを包んで焼いてみた。
春の玉ねぎは甘くておいしいからね。…熱いから気を付けて食べるといい。」
軽く塩を振り、器に盛って青年の前に。
ほくほくと湯気が昇る玉ねぎの蒸し焼きである。引き出された甘みととろりとした食感が特徴。
出し終えれば魚を薄くスライスし始めていく。
「そういう店もあるだろうけれどね。酒を呑んで手元がくるってはいけない。
この緑の物は海藻だよ。旨味が魚に移っていい味を出してくれる。」
■ティエンファ > 「喜んで、だ。とは言え、お姉さんもなんか修めてそうだな、そう心配する事もないか?」
おかわりを受け取って一口つける。その目が一瞬人懐っこい表情には不釣り合いな鋭い物になる。
修羅場を越えて来た武芸家の目だ。とは言え、敵意は無いのですぐにそんな光は消えるが。
揚げたても今度食べてみたいな、なんて言いながらも油揚げを平らげ、次の皿。
「まさに手を変え品を変え、だな! へえ、玉ねぎってこうやっても食べられるんだな
刻んで炒めるか、スープにぶち込むくらいしか知らなかったけど……ん、ほはっ、はひっ
……ん、辛くない。へぇ、蒸し焼きにするだけでこんなに違うんだな。素材もそうだが、腕も良いんだろうが」
内側のトロトロに蒸された厚皮から食べ進みつつほくほく顔で熱い味わいを楽しむ。
「プロだな、こりゃあちょいちょい顔を出して、ソウレンのレパートリーを色々味わってみたくなる!
ふぅん、山育ちで旅も陸路が多いから、あんまり海藻は食べた事が無いがそう言う使い方もするんだなァ」
知らない道は通ってみるもの、初めての店には飛び込んでみるもの、と今日の自分の気まぐれを褒めて頷く。
■ソウレン > 「何、嗜み程度だよ。所詮は居酒屋の店主という所だね。」
一瞬向けられた鋭い眼光。
謙遜しながらも、それを涼やかな表情で流して見せる。
そして、薄く削ぎ切りにされた刺身を綺麗に盛り付けて青年の前に。
「東方では生魚を切って提供する。お刺身というものだ。
その内、昆布で余分な水気を抜いて旨味を閉じ込めたものだね。」
今日は市場の真鯛を使ってみたよ、と笑う。
一度手を清めながら、青年の気持ちの良い食べっぷりを眺めているだろう。
「酒を呑ませる所だからね。がっつりと大量に、よりは色々なものを少量ずつ、の方が喜ばれる。
尤もあまり大きな店でそういう事はできないだろうけれど。」
大きな店で細かなリクエストに応えていては手間がかかりすぎるだろう。
その点、この小規模な店は都合が良いようだ。
「気に入ったのならまた来てくれるとこちらも嬉しいな。
忙しければ季節が変われば来てみるといい。
その時々の美味しいものを使ってみたい所だからね。」
大豆なんかは比較的手に入りやすいので揚げなんかはあるのだけど、と笑う。
■ティエンファ > 「所詮、ね。まァそう言う事にしておくよ」
呵々と獣が歯を剥くような笑顔を浮かべ、しかし、目の前に出された刺身に子供のように驚きをあらわにする。
「へえ、こんな風に出されたのは初めてだな!
さっき言った剣士が試しに俺に出した時は本当にきれっぱしみたいになってたからなあ……
ん、ふぅん、結構歯応えあんのな。……うん、うん ……ぷは、これは、酒だな。酒にとんでもなく合う」
刺身を一切れ味わってから、ちゅっと啜るように焼酎を一口。鯛の舌に残る甘みを洗う焼酎の味わい。思わず深い息が漏れた。
育ち盛りに見えるが飲兵衛な姿も堂に入った物だ。
「なるほどね、普段は味濃く量が多く安いってのばっかりだが、こう言うのも良いもんだなあ……
ソウレンの店で暫くそう言う呑み方も嗜んでみるかね。東の国の味……というか、ソウレンの味は俺の舌に合うようだし」
旨い、と嬉しそうに目を細めて素直な感想を口にする。
この日は深酒をせずほろ酔いで帰ったが、時々顔を出しては舌鼓を打つ常連客になったのだという。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からティエンファさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からソウレンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にロベリアさんが現れました。
■ロベリア > 春も過ぎ日差しの強い日が増えてきた。
街には既に薄着の者も少なくない。
なんだかんだと頑丈なロベリア自身は特に衣替えを意識する事はないのだが、制服に夏用が必要か否かで思案中であった。
寒い時期に作ったものだし基本的には冬寄りに調整されていて、開いた背中とミニスカート以外は露出も控えていて生地も厚めだ。
この先暑さが本格的になってきたらウェイトレスも大変かもしれない。
ゼナからの陳情があった事もあり用意しておきたいものではあるが。
「やっぱりそれなりにかかっちゃうわよねぇ」
思わずため息と共に独り言。
人の少ない時間帯とはいえ一応客がいるというのに気を抜きすぎである。
夏服を導入するなら、先々の事を考えるとまとめて発注してしまう方が予算的に優しい。
一度にそれなりの出費がかかってしまうが、結局だらだらと逐次出費を続けるよりは長い目で見たら得だ。
前回一通り揃えた時も結構な出費ではあったが、夏用なら単純に布の量も少ないし以前程はかからないだろう。
多分出せない額ではない。
しかし踏ん切りがつかず未だ思案顔で唸ったままだ。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にルークス・ルナエさんが現れました。
■ルークス・ルナエ > 店主が唸り声を上げる店頭に、硬質の足音が響く。
どうやら来客の気配であろうと目を向ければ、そこに居るのは長身の女だ。
常連客ではない。看板につられて、気紛れに足を止めたという所か。
「取り込み中か? 営業中の札は出ていたように思うが」
悩み事に耽る店主の直ぐ近く、カウンター席に腰を下ろして女は言う。
「まずは酒を頼む。食事の方は……推しているものはあるか?
……まあ、後は幾つか欲しいものもあるが――」
そこまで言った女は、店主の顔を見て、少し怪訝そうな顔をする。
時折視線が天井へ向かったり横へ逸れたりするのは、人が記憶を探る時に良くやるような仕草だ。
「――すまんが、店主。いつぞや、会った事があるか?」
この女の言う〝いつぞや〟の範囲は、少々人間より範囲が広い。
故に些か記憶が定かでない部分もあるが――見た気がしないでもない顔だ、と。
■ロベリア > 「あら、いらっしゃーい」
この時間帯に珍しく客。
それも新顔だ。
女の子、というには少々迫力がありすぎるがともかく女性というのも珍しい。
「あー、ごめんなさいお酒は夜からなの。
お料理は一応出せるけどそれでもいいかしら?」
酒場ではあるが日の高い内はお酒は出さないようにしている。
過去に酔っぱらい絡みのトラブルが続出した上での措置だ。
それらの事件とは一切関係ない新顔にまでそのルールを付き合わさせるのは気の毒ではあるが、例外を作るとずるずるいきそうなのが怖いので当面昼間に酒を出す予定はない。
「……なになに?
ナンパかしらぁ?
ちょっと古い手だけど嫌いじゃないわよ。
でもそういうのはお店が終わってから、二人っきりでお願いしてもいいかしら?」
含みのありそうな問いかけに、一瞬考え込むと普段通りの愛想の良い笑顔でのらりくらりとかわすような言葉を返して。
この新顔、まだ確信はないがロベリアにも引っかかるところがあった。
「そういう訳だから、デートは後でしましょ?
とりあえず、食事はスープ以外の四点セットがおすすめねぇ。
まだスープは味の仕上げが出来てないからシチューの方が美味しいわよ」
何にしてもこの場では事を起こさず、営業モードに。
まだ気は抜けそうにないが。
■ルークス・ルナエ > 「なんだ……酒は駄目か」
厳しい顔の女がこの時ばかりは、少ししょげたような顔になった。
感情の起伏を隠さぬ性質なのだろう。アルコールを取り込めぬ事には酷く残念そうだが、それはそれ。
素直に従って食べ物のメニューに手を伸ばす。
お勧めのメニューを聞いておきながら、目が移るのは肉や芋、即ち腹に溜まるもの。
荒くれの男どもや傭兵のような好みが垣間見える。
そして、メニューを開く合間には、営業用の笑顔に対してやけに真剣な顔を作り。
「古い手か、なるほど。確かに何百年と使われているからな。
だが、まぁ、許せ。長く生きていると、誰に会ったか会ってないか、あやふやになってくるのだ。
お前の母に会ったのかも知れんし、或いは本人やも知れんが――」
そこで一度言葉を区切り、カウンターから少し身を前に傾ける。
他の客には聞こえぬ程度の声量に変えて、耳元に届けるように囁くのは、
「――そういう事を言うと、私は本気にするぞ。
店が終わってからなら良いと、そう言ったな?」
戯れるような口調だが、目が狩人のそれだ。即ち、本気だ。
返す言葉の選びようによっては、本当にこの女は閉店まで居座るのだろう。
「と、それはそれとして。なら、その四点セットとやらを貰おう。
……何、そう警戒してくれるな。流石に白昼堂々、人間と殴り合いなぞせんよ」
笑顔の裏の警戒心は何となく読み取ったものか、言い訳めいた言葉を添える。
■ロベリア > 店主が美人や美少女を見るととりあえず手を出そうとするのは常連達もよく知るところ。
今回のロベリアもいつもの調子と捉えられ特に不審に思う者はいなかったようだ。
「あらあら、情熱的ねぇ。
それじゃあ期待しちゃおうかしら?」
女の囁きにも、いつも通りの美人相手に節操がない女好きらしい態度のままで。
特に拒絶の意思も見せず、注文を取り食事の支度をするのであった。
そしてそのまま居座ろうとするのも止める事もない。
やがて夜の営業時間となれば人も増え酒も出る。
そこもいつも通りの仕事の風景ではあるが、ロベリアはあまり浮ついた様子を見せず少し気を張っているようであった。
その夜の営業時間も終われば、いよいよ約束の時間である。
■ルークス・ルナエ > 「期待されたからには、応えねばならんな」
ナンパの類は数打てば当たるもの、断られる可能性は低くない。
それがスムーズに受け入れられた事には、にやりと唇を歪ませるような笑みを見せた。
その後は――さして珍しくもない客の通りだ。
食事を喰らい、夜になれば酒を飲み。……些か酒量は多いが、酔った様子は無い。
そして営業が終わり、客がはけて、もはやグラスも何も乗らぬカウンターに肘を着いて、女は言った。
「随分あっさりと受け入れてくれたものだ。
……もしやお前、本当に顔見知りだったりするのか?」
約束の時間。だが、流石にお預けを解かれた犬のように、飛びついて床へ押し倒す真似はしないらしい。
店頭の片付けが終わるまで、女は待つつもりのようだ。
「……然し、暑いな。夏も近いとは言え、まだ夜だ。
その制服、些か風通しが悪そうだ。春先までは良かろうがな」
グラスやジョッキや、皿や盆や、そういうものを片付けて回る女店主の背へ。
曝け出された背と、袖口の生地の厚みと、交互に視線を飛ばしながら、世間話のように。
■ロベリア > 「美人のお誘いは断らない主義なだけよぉ?
私も気になってたし」
含みのあるロベリアの言い回し。
気になっている事は実際あるが、まだ確信はない。
相手の方もあまり大胆な行動には出てこないようだが向こうも似たようなもので探っている段階なのだろうか。
「そうねぇ、お店の子にも夏服が欲しいって言われちゃったわ。
ルークスは夏服にするならどんなデザインがいいと思う?」
食べっぷりも飲みっぷりも気持ちがよく、気がかりさえなければ中々好みの相手。
何事もないならそれに越したことはない。
何かを探っているように見えるのは取り越し苦労だと良いのだが。
こうして今最もロベリアが危惧しているのは、魔族側の追手というものだ。
連れ戻しに来るか、最悪始末するつもりか。
袂を分かったとはいえ魔族とは積極的に敵対はしていないはずなので、わざわざただの戦士一人に対してそんな手間をかける者が魔族にいるとは思えないのだが最近の動向は分からない。
今はこうして周囲の人目もなくなり、何かしら仕掛けてくるのかもと一応警戒しながら世間話を続けている。
■ルークス・ルナエ > 「ふむ……まぁ、そういう事にはしておこう。
だが、夏服のデザインか? むぅ、私は服飾などさして気にせぬ性質だが――」
衣服の話題を振られた女は、腕を組み、首をかしげ始めた。
生真面目とでも言うべきか。その顔は真面目に、問いに対して答えを探しているようだ。
が、暫し口を閉ざして黙考の後、再び開いた口から出てきた言葉は、
「――いっそあれだ、最近出来たル・リエーの水遊場のように。
腰から上をいっそ水着にでもしてしまえば涼しいのではないか?
ついでに目の保養に客も増える、一石二鳥と言う奴だ」
……繰り返しとなるが、その顔は真面目そのものだった。
ともあれ、そうして言葉で戯れながら――女は立ち上がり、カウンターを回りこんで女店主の背後に迫る。
背丈に高いヒール、近くに立てば相当に頭の位置の差があるだろう。或いは威圧的に感じられるやも知れない。
が、女はそこから害を加えるでもなく――
「もしくは、何も身につけぬというのも、私の好みだ。
この肌を何時だろうと楽しめる訳だからな……」
布地に覆われぬ背へ、長い指が伸ばされる。
避けるか妨げるかの抵抗が無いならば、その指は女店主の首に触れ、背骨を伝って滑り降りて行くだろう。
骨の凹凸を皮膚の上から味わうようにして、下へ、下へ。
どこかで店主の柔肌は布の下に隠れるのだろうが、指はそれを追い、無遠慮に制服の下を暴こうとする。
腰を過ぎて尾てい骨、更にその下へ――低く低く、降りて行く。
■ロベリア > 「裸で営業したら捕まりそうねぇ……。
水着は……、うん、まあ悪くなさそうだけど」
ルーミスやゼナの水着風衣装を想像してみると、中々そそる。
あの豊かな実りに挟まれたい。
問題はそんなものを採用して皆が着てくれるかという事だが。
「ひゃんっ!?
ちょ、ちょっと、そういうのはもっとムードを大切に……」
少し妄想している隙にルークスの指が背中に触れている。
その行動自体に敵意は感じないので言う程嫌がってはいない。
美人に責められるのは割と好きだ。
だがルークスが何か魔族陣営としての目的を持って接触してきたのではないかという疑念が晴れないままだと素直に楽しめる心境ではなく。
「もう、今日会ったばっかりなのにがっつかないで……。
もっといいとこ、行きましょうよ」
乱れた服を直しながら、拒絶はせずしかし一旦制止する。
とはいえ寝室に誘うのは、もし何かあった時お店が壊れたら困る。
となると適当な宿に行くべきか。
ロベリアとしても特に何の裏もなくただ口説いてきただけというのに期待したい思いは強い。
必要以上に警戒して機会を失うのも勿体無いので、最低限の保険を取るに留めて。
■ルークス・ルナエ > 「夜なら、そういう店も幾らでもあるがなぁ。
下っ端の役人に鼻薬の一つも聞かせれば出来そうだが……駄目か?」
暫しの間は指の感触を楽しみながら、提案の却下には残念がる声。
退廃の王都にあっては、店員が裸で給仕に務める店など幾らでもある。
……無論そういう店は殆ど娼館まがいで、真っ当な店とも呼べないが。
それはさておき、移動の提案である。
〝もっといいとこ〟と言われた時、女の眉が少し持ち上がった。
意外なまでに積極的に振舞う女店主に対する驚きの意ではあったが、傍目にはどう見えたものか。
だが、言葉の調子は変わらない。
「悪くはない。幾つか欲しいものがあると言ったろう。一つは宿、一つは共に寝る女だ。
……まさかそのいずれも、この店で見つかるとは思わなかったが」
剥き出しの肌に触れる指は、まだそのまま。
それどころか次第に、指に触れられた肌が熱を持つような、疼くような、そういう感覚を抱くだろう。
女にしてみればささやかな悪戯。感覚を鋭敏にする、即ち〝愉しむ〟為の魔術だ。
背を上下に這い、時折は腰を超えて、尻の割れ目のぎりぎりを掠めるまで。
「そういう事なら、良い宿を選べ。一夜の仮住まいとは言え、風情は欲しい。
ムードを大切にしたいのだろう? 幸い、金には困らぬ身の上でな」
咎められた事も気にせぬように指の遊びを続けながら、宿へ向かう事には同意して。
魔族の身分を隠さぬながら、金を払ってサービスを受けるという概念は持っているのだろう。
実際に、ナイトドレスの内側に隠したポケットから取り出して見せたのは、小さくも重そうな皮袋。
軽くゆすれば高額貨幣のぶつかり合う音がじゃらじゃらと。
■ロベリア > 触れる指で何かを仕込んでいる事は分かったが、危害を加えるようなものでもないみたいなので抵抗はしない。
おかげで軽い愛撫だけで大分火照ってしまったが、これ自体はそう不快でもなし。
「ふぅん、それじゃあ着替えるから少し待ってて。
ふふっ、こういう事にぱっとお金出せる人って素敵よ」
無駄遣いを推奨している訳ではないが、口説かれている時に節約されてるなぁと感じるとどこか醒める部分があるのも事実。
使うべきお金を使うべきタイミングで出せる度量は素直に好印象だ。
火照って赤くなった肌のまま、一旦私室へと引っ込むと地味ながら清潔感のある普段着に着替えてきて。
「ほんとはエスコートされたいけど、場所は私が選んでいいっていうならちょっと行ってみたいところもあるし」
普段は女の子たちを連れ込む事が多い立場。
そういったお店はいくつか目星をつけている。
腕を組み、向かう先は迷わず富裕地区。
値段もお高いが夜景が美しいと評判のホテルへと一緒に歩いていく事に。
「いつもはどう口説き落とそうか悩むぐらいだけど、こうして求められるのもいいわねぇ」
道中もべたべたとして上機嫌のロベリア。
もう警戒心は最低限でなるようになれという心境だ。
やはりかなり美人に弱い。
■ルークス・ルナエ > 「金は神でもなんでもないが、人の街で金は強い。
百の口説き文句より黄金の輝きの方が、力を見せることもあるのでな。
……まぁ、金に魅力で負けるというのは悲しいこともあるが――」
言葉でも戯れ、そして道を歩く際には身を寄せて、髪や腕の感触を楽しみ。
そうして向かった先は富裕地区。平民が少し金を溜めて――というにはランクの高い場所だ。
「――ああ、此処か。確かに良い宿だ、ベッドが広いのが良い」
この宿は知っている、慣れていると直接でなく示すのは、〝良い格好〟をしたいが為か。
何にせよ二人はホテルの上層、王城の尖塔とさして変わらぬ高さの部屋へと通されるだろう。
広さだけを言うなら、それなりという所だ。上等なのは調度品のセンスと夜景――それから寝台。
良くスプリングの利いたベッドは所謂キングサイズで、皺も一筋の汚れも無い真白のシーツが被せてある。
部屋へ入った女は、自らのドレスの留め金を――手が届かない位置だが、指を一度慣らすと自然に外れていった――外して、クローゼットの方へと放り投げる。
そしてベッドの上に腰を下ろし、背丈に見合うだけの長い脚を悠々と組んで言うのだ。
「さて――今更聞くが、何を警戒していた。私が毒を塗ったナイフでも持っている、と思ったか?
ならばこの通りだ。凶器も何も隠す所は無いぞ、安心しろ」
あまりにも堂々と、己が肌を隠すそぶりも無く。寧ろ両腕を広げ、何も持たぬと示す。
引き締まった戦士の肉体に、妙齢の女の豊満さが同居する、正に魔が如きものの美であった。
それが女店主を手招きし、ベッドの上へと呼んでいた。
■ロベリア > 部屋に入ればルークスの脱ぎっぷりも潔い。
中々印象通りの性格のようだ。
それに倣うようにロベリアも衣服を床に落とすと下着姿に。
薄っすら透けた黒地で、面積もかなりギリギリな完全に睦事を期待した下着姿。
「疑ってて悪かったわ。
ちょっと思わせぶりだったから、警戒してただけよ。
お詫びといってはなんだけど、今夜はたっぷり楽しませてあげる……」
もちろん自分も楽しむ前提だが。
招かれたベッドの上に座ると、ぴたりとルークスの隣に寄り添う。
「すっごいカラダ……。
見惚れちゃうわね……」
うっとりとした様子でルークスの腿やお腹といった肉体を撫ぜると、鎖骨の辺りに啄むように口づけを繰り返す。
■ルークス・ルナエ > 「お詫び、か。くく……なら存分に、期待しようではないか」
女店主が服を脱ぎ落とし、下着姿になった時、女はヒュウと口笛を鳴らした。
ある意味では裸体などより余程扇情的な、秘すべき肌を透かす小さな下着。
余程興が乗ったと見えて、近付いて来る身体へ手を伸ばし、引き寄せるように受け入れた。
大腿に、腹部に、手で触れられて、鎖骨へ唇を重ねられて、心地よさげに喉を鳴らす。
暫しは唇を受けるがままであったが、次第にその手は女店主の背へと伸び、肌の感触を両の手で確かめるように摩り動かす。
先の〝悪戯〟は継続中だ。
感覚を鋭敏にし、些細な接触でも愛撫のように感じさせる為の、姦淫の為だけの魔術。
それが女店主の肌、魔族の女の身体に触れた箇所へ浸透するのだ。
最初の内はまだ、良くある事と思うだろう。多少魔術の使える者なら、出来る程度の事と。
だが、次第にその熱が、手や唇、舌にまで及べば、その術の本質が分かる筈だ。
〝触れられた場所〟ではない。〝女の身体に触れた場所〟が熱を持ち、快楽を求めて疼き出すのだ。
「ではまず〝楽しませて〟もらおうか、店主よ。
……店主、と呼び続けるのも風情が無いな。私はルークス、ルークス・ルナエだ。
一夜限りの名でも、真の名でも構わん。好きに名乗れ」
そして――女は名を問いながら、もう一つ、魔力を脈動させた。
女店主にその素養があれば、或いは魔力の流れが何処へ集まるかも、具現化の前に分かるのかも知れない。
それは女魔族の下腹部にて、陰核部を覆うように形を為した。
小さな肉の芽が肥大し、表面に血管を浮かび上がらせ、先端には雄の臭いと共に先走りの露を湛える。
女の身体に備わったのは、魔力で編まれた偽物ではあるが、見た目も感触も何もかも本物に等しい雄の根だった。
――但しその大きさは。両の手を縦に重ねて握ろうと余る程。太さもまた、子供の腕より逞しい代物ではあったが。