2019/03/01 のログ
グラムヴァルト > 「――――ア゛ァ? 人聞きの悪い事言ってンじゃねェ。ここいらの小物連中なんざ威嚇してどうなるってンだよ。その文句ァ、オレが目ェ向けただけで勝手にビビって逃げ散って行きやがる連中に向けやがれ。」

可愛らしい膨れ面に向けるのは、質の悪いチンピラめいた物言い。とは言え、それも別に嘘では無い。グラムヴァルト自身には威嚇や脅しのつもりはなく、ただただ周囲を見回しながら近付いただけなのだ。
とは言え、少女にネチネチと声を掛ける男の姿を見つけた際には鼻先に皺を寄せた凶相で威嚇しながら近付いたりするので、恐らくはそうした印象からの苦言なのだろう。

「―――ッカ、相も変わらず可愛げのねェ小娘だ。こういう時は黙って奢られときゃあいいンだよ。」

先のセリフも此度のセリフも、その字面だけ見れば険悪な物に見えるだろう。ギラ付く銀眼の凶悪さもまたその印象を強めるも、大口に浮かぶ笑みはむしろこうしたやり取りを楽しんでいる事を示している。
華奢な白手が額に付けた教本でぐいぐいと押して来るのに、こちらは伸ばした腕で教本を取り上げパラパラ捲り

「まァ、どーでもいいからとっとと出かける準備しろよ。あァ、そん時ァコイツを着て来いよ。」

少女の苦言を『どーでもいい』なんて雑な一言で切り捨てて、小難しい教本の中身に眉根を寄せる。恋人の地道なグラムヴァルト更生計画に対するいつもの態度。まるで聞く気など無さそうでいて、その癖聞く事の出来る部分に関しては少しづつ修正している辺り、憎まれ口とは裏腹にそれなりの誠意は持ち合わせているのだろう。
ともあれ、取り上げた教本の代わりに彼女の淡い膨らみに押し付けるのはカウンターに置かれていた紙袋。柔らかく軽い感触から、中に入れられているのが衣服の類である事が分かろうか。

ミンティ > 「……そんな目で、こんな風に見られたら、普通の人は怖がるんです」

スカートのポケットに両手を入れて、軽く顎を引きながら上目で睨むような仕草をしてみせる。自分にできる限り、眉間に皺を寄せて、厳つい視線を作ろうとする。彼の日頃の行動を真似たつもりだけれど、自分がそうしたところで微塵も迫力はないかもしれない。
精一杯チンピラの真似をしてから、小さく溜息を吐いた。慣れない姿勢を早々に解いて、奪われた本を返してもらおうと手を伸ばす。

「…奢っていただく理由が……」

お金を出してもらう事も、なかなか了承しない。首を横に振って頑なな態度を取っていたけれど、伸ばした手が、彼が持ってきた荷物を抱かされて、目をきょとんと丸くした。
中を確認しなくても、柔らかいものだと感触から知れる。着てこいと言われて、丸くしたままの目で何度もまばたきをした。彼の口振りから察するに服が入っているだろう紙袋。
それまで不機嫌そうにしていた表情が一瞬でほぐれて、口元がにやけてしまいそうになる。貰う理由がないと言いたいところだけれど、服を贈ってもらえた嬉しさが隠しきれない。

「……服、ですか?……見ても、いい?」

すこしそわそわしながら小首をかしげる。彼の許しを得られたなら、紙袋を開けて中を覗きこもうとするだろう。

グラムヴァルト > 銀縁眼鏡の奥、幼気な翠瞳が作る上目遣い。少女としては必死で睨みつけているつもりなのだろうが、悲しくなるくらいに迫力が無い。むしろ大変に可愛らしい。唸り声を上げるチワワの方がまだ恐ろしかろう。

「るせェ。オレが奢りたいから奢るンだよ。理由なんざ知るか。」

眉根を寄せた三白眼は文字を追いかけたまま、取り返そうと伸ばす少女の手を一瞥もせずにヒョイと教本を逃がす。チラッと見下ろす銀眼が、犬歯も剥き出しのニヤリ笑いで少女を揶揄う。
代わりに少女の胸元に押し付けた紙袋は、どうやら思った以上に少女の琴線に触れたらしい。膨れ面の口元がぴくぴく動き、気を抜けば円弧を描いてしまいそうなのを必死で耐えているのが丸分かり。
その愛らしさにこちらは遠慮なく笑みを深めて言う。

「オゥ、見るだけじゃなくてさっさと着てこいよ。」

軽く飛び上がりつつ身を捻り、逞しい上体に比べてスラリとした印象の強い下肢をカウンターの上に腰掛けさせ、シッシッと飼い犬を追い払う様な仕草で手を振るう。とは言え、この場で紙袋を開くのを止めるつもりも無いらしい。
興味なさげに教本を見つめる銀眼が、チラリチラリと横目で少女を見下ろして、紙袋の中身への反応を確認している。

紙袋を開いて最初に目に入るのは、赤い色彩の、それでいて悪目立ちする事なく上品に色味をくすませた布地。シルクを思わせる手触りの良い布地は折り畳まれているため、外に出して広げなければ分からぬだろう。それは、雅なドレープが三段の層を織りなすティアードスカート。ふんわりと重ねられたその裾は、王都からほとんど離れた事のない少女は知らぬだろうが、海に揺蕩うクラゲの様。
使われている生地だけでなく、縫製も一流の高級品。丈の長さは膝の少し上辺り。少女が普段履いている物に比べれば少々大胆だが、下品という程では無いはずだ。
そしてそのスカートの下にはレース飾りも精緻な黒布と、赤い革帯の様な物が入っている。紐の付いたハンカチか何かかと思えた黒布は、布地面積の少なめな横紐ショーツ。"大人びた"といえば聞こえはいいが、どちらかと言えば淫靡なデザインの黒下着。こちらもクロッチの肌触りなどは非常に心地良い高級品である。
そして最後の一つ、括れも華奢なミンティの腰にも巻くことの出来ない無骨で短いベルトは、ペット用の首輪であった。少女の白い細首に用いれば、指が二本入るくらいの余裕を持って巻くことが出来るだろう。

ミンティ > いろいろと小言を言いたい気分だったけれど、思いがけない贈り物で機嫌はあっさり上向いてしまった。お金を出してもらったり、なにかを貰ったりするのは慣れない事で苦手に思ってはいるけれど、自分に服を見繕ってくれたという事実だけで嬉しくなってしまう。
許可を得るとカウンターに袋を置いて、一番上にあったスカートから取り出してみる。

「わ……」

熟れた果実みたいな赤さだと気後れしてしまいそうだけれど、そのスカートの色は秋の落ち葉に似ていて、大人びた印象を受ける。それはそれで身に着けるのを躊躇してしまいそうになるけれど、こんなスカートが似合うようになりたいと憧れをいだけるもの。感嘆したあと、ぎゅっと大事そうに抱き締めて。

次はブラウスだろうかなんて考えながら、取り出した黒い布地は思った以上に小さい。それがショーツだと知ると、喜んでいた表情が若干硬くなり、すこし冷めた目になった。
最後には首輪まで出てきてしまったから、ゆっくりと顔を上げて彼を見る視線に感情が浮かんでおらず、呆れ果てたと言いたげな表情。

「……ばか」

それだけ言ったきり、取り出したものを袋の中に戻して抱きなおす。マイナス点を二つつけたけれど、それでも踵を返して店の奥へ戻る動きはすこし浮足立っている。スカートが気に入るものだったから、ぎりぎりプラスの評価でとどまっていた。

「すこし、待っててください」

家に続く扉を開けたところで振り返る顔は、もう機嫌を直して、また口元を緩ませていた。ぺこりと頭を下げて扉を閉めて寝室に向かう。このスカートに合うようなトップスがあったか不安だったけれど、いつものブラウスでもどうにかなるだろうと楽観的に考えて。

グラムヴァルト > 紙袋から取り出した紅葉色のスカートに喜色を浮かべ、幸せそうに抱きしめる様子には狂狼の笑みも優しげに緩む。
が、続いて取り出した黒布の正体に思い至り、更には首輪を取り出した少女の何とも言えぬ表情と、小さく漏らした可愛らしい文句にはしてやったりといった邪な笑みが戻ってくる。
グラムヴァルトとしては最後の首輪こそがメインのプレゼントであり、次が淫靡な黒下着。それだけだと臍を曲げて身につけてくれぬだろう―――ミンティの事なので、どれほど気に入らなくとも捨てたりはせずに大事に取っておいたりはするのだろうが―――と考えて、ご機嫌取りに用意したのが先のスカート。
淫らな下着の購入は平然とこなす癖に、そのスカートを買う際の店員とのやり取りには妙な気恥ずかしさを覚えて苛ついた物だが、どうやらそれだけの価値はあったらしい。

「―――オゥ。」

頭を下げて店の奥へと向かうその口元が綻んでいることに奇妙な喜びを覚えつつ、気のない生返事だけを少女に返す。そうして彼女の気配が寝室へと向かうのを感じながら閉ざした本をカウンターの隅に置き、改めて店内を見回した。
その双眸が窓からこちらを覗き込んでいた若い男の視線と絡んで半ば反射的に凶眼を眇めた。途端、肩を跳ね上げたその男が転がる様に逃げ去って行く。その様子に鼻を鳴らしたグラムヴァルトだったが、先の少女のお小言を思い出してハッとした。
『――なるほど、コイツが不味いのか…』と考えを改めた狂狼は、次は笑みを返してやろうと心に決める。とはいえ、それはそれで『コイツをどんな風に食い散らかしてやろうか』と舌舐めずりする肉食獣を思わせる表情でしかないので、客足の低下を止める手立てにはならないかも知れない。

ミンティ > 自室に戻ってから、一応、クローゼットを開けてみる。わかっていた事だけれど、見事に同じような服しか揃っていなくて溜息がこぼれた。多少は袖口や襟元の形、全体のシルエットに違いがあるものの、普段どおりの服装が大体どんな場面にもあわせられてしまうから、今まで可愛い服装には憧れるだけだったけれど、今になって後悔する事になるとは思わなかった。
新しい服を揃えようという目標だけは捨てていないから、早く実行しなければと、あらためて胸に誓って。

結局、上はいつもどおりのブラウス。カーディガンは合いそうになく、かしこまった場に出る時のジャケットも合う色のものがなかったから、防寒はいつもの外套とマフラーに任せる事にした。
悩んだり、髪にブラシをとおしたりしていたら、時間はあっという間に過ぎていく。ほとんどスカートを履き替えるだけなのに、三十分ほど待たせてしまってから、やっと彼のもとに戻り。

「……どう、ですか。変じゃ……ない?」

首はマフラーで隠れているし、下着が透けるような服装でもない。贈り物をちゃんと全部身に着けているか、傍目にはわかりにくい姿。そもそもスカート以外の感想を貰っても困るから、外套を開くだけにして尋ねた。
慣れない服装のせいか、すこし、そわそわする。視線を落ち着きなく彷徨わせてから、足元に落とし。

グラムヴァルト > 恋人たる少女が戻るまでの間、窓の木板を閉ざし、入り口にはClose札を勝手に出してしまう。近頃はゆっくりと暖かくなってきたとは言え、未だ夜の訪れの早い冬の終わり。茜色への夕日に照らされる商店街は、他の店でも閉店準備をはじめている。
そんな様子を中途半端に開いた扉の傍ら両腕を組んで寄り掛かり、見るともなく眺めていれば寝室からこちらに戻ってくる少女の気配。ゆるりと向けた銀眼が着替えを終えた小柄な体躯を視界に捉えた。
はにかみながら外套を開き、白ブラウスに合わせた紅葉色のスカート姿のお披露目をする様子は思っていた以上に可愛らしい。
見惚れるという程では無かっただろうが、それでも思わず言葉も忘れて凝視して、そわそわしていた視線が落ち込むように俯いた頃合いでようやくハッとし

「――――オ、オゥ。 まぁ、なんだ……アレだ。………に、似合ってンじゃねェか……?」

こういった時にサラリと気の利いた言葉が出てこない。意地の悪い揶揄いの言葉ならいくらでも出てくるのだが、時に意識する事なく口に出来る『可愛いゼ』なんて言葉すら出てこない不器用さ。
薄暗い店内、浅黒い肌にわずかに浮かんだ気恥ずかしさの色に気付かれる事はないだろうが、興味無さげに背けた横顔が、チラチラと銀の横目を向けて恋人の格好を見ている事には気付かれてもおかしくはない。
この男、ミンティと出会うまでは誰かに物を贈った試しが無い。無論、己の贈った着衣で着飾った女を見るのも初めての経験である。故に、挙動不審なその顔に浮かぶのは何とも言えぬ顰め面。それは、妙に浮き立つ心根を覆い隠すための照れ隠し。

ミンティ > 感想を尋ねてみたけれど、なかなか返事が返ってこない。じっと見つめられているから無視はされていないと思うけれど、だとしたら、着方を間違えてしまったかと、あわてて自分の身体を見回した。おかしなところがないから、ますます首をかしげたい気持ちになったところで、やっと返事が聞こえた。ぶっきらぼうな口調だったけれど、そういう彼の照れ隠しは今まで何度も見てきたから、似合っていないわけじゃないだろうと思えて、ほっとする。
ブラウスや靴がそのままなのは惜しいけれど、それは次までの、自分の宿題にしようと思う。小さな足音を立てて彼のそばまで歩み寄り。

「…戸締り、ありがとうございます。では…」

どこへ行こうかと首をかしげて、見上げた彼の顔がすこし不機嫌そうに思えた。やっぱりなにか不満があるのだろうかと考えてから、マフラーを摘み、首に巻いた赤い首輪を見せる。
サイズにゆとりがあるから、これなら痕が残る事もないだろうし、息苦しくもない。

「…あんまり、苦しくないです。ありがとう」

獣のような洞察力を持つ彼なら、首のサイズを間違えるとも考えづらい。だからきっと、気をきかせて緩いものにしてくれたんだろうと考えて、いろいろ思うところはあるけれど感謝の気持ちを囁いて。
ちらりと見せた首輪は、すぐにマフラーで覆い隠す。彼の手をおそるおそる掴むと、行こう、と揺らして。

グラムヴァルト > 横目で伺う少女は幸いな事にこちらの挙動不審に勘違いして落ち込むなんて事は無かった。ゆっくりと近付いてくる小さな足音に妙にドギマギしつつも『ガキじゃあるまいしちったァ落ち着け!』と内心己を叱咤して、顰め面をフイと背けようとした所で

「――――うォ…ッ!?」

思わず唸り声が漏れた。その防寒具の下に、少女が言われるがまま首輪を付けているだろう事は予想していた。しかし、そっとずらしたマフラーの下、繊細な白頸に巻かれた赤い革ベルトの無骨さは、恥肉に食い込む貞操帯でも見せられたかの卑猥な衝撃をグラムヴァルトに与えていた。
ゴクリ…と呑み込む生唾が、肉束の浮き上がる浅黒い首筋の喉仏を上下させる。

「オ、オゥ。」

今度こそ視線を背けて正面を見つめ、小さな手指を武骨な手で包み込む様に握って店から出る。傍らの小躯に目を向けぬまま、すっかり夕刻の色に染まった町並みにだけ双眸を向けて彼女の施錠を待つ。
そうして改めて目的地に脚を向けた所で正面から投げられる驚きの声。
『――――ミ、ミンティ……?』
そこに居たのは小柄な少女よりは高くとも、男にしては背の低い二十歳過ぎの痩躯。それは、ミンティの店から数ブロック離れた場所に軒を構える、ここいらの店舗の中では最も大きな商店の跡取り息子。
ちょくちょくミンティの店に訪れては、あれこれと己の自慢話―――今日はとても高い商品を売っただとか、田舎物から安く商品を買い叩いてやっただとか言う、どこまで本当なのかも妖しい与太話―――を一方的に囀って、最近では仕事の後に下心たっぷり酒場への誘いなどを投げて来る男であった。
幸いといって良いのかどうか、時折遠間から店番しているミンティを眺めたりするグラムヴァルトの監視に彼が引っかかった事は無いらしく、青年を見下ろす狂狼の顔には『なんだコイツ?』といった表情のみが浮かんでいる。

ミンティ > 「…驚くくらいなら、変なものを買ってこないでください」

唸り声を聞いて反射的に肩が竦む。ときどき彼が見せるそういった反応にも慣れてきつつあったけれど、それでもやっぱり急だと驚く。ただ、なんとなくだけれど、こちらの行動を気に入ってくれた時なんかによく見る反応だったから、喜んでもらえたのだと知れたのは嬉しい。
すこし照れくさそうにしながら、大きな手の中に包まれた細指で握り返し、お店を出て、鍵をかける。準備ができたと、彼を見上げて頷いてみせ。

今日はどこに行くんだろうと楽しみと不安を半分ずつ持ちながら歩きだそうとして、いきなり彼とは違う声で名前を呼ばれたから、また肩が竦んだ。
あわてて声がした方に視線を向けると、見慣れた顔の男性が立っている。ときどき受けるお誘いには困っているものの、新米商人としてお世話にもなっている男性。

「あ、ええと……」

二人の男性から怪訝そうな視線を向けられて、どう説明したらいいのか悩んだ。その沈黙は、しばらく続いて…。

グラムヴァルト > 大作りな手を握り返す手指の柔らかさと、小柄な体躯でこちらを見上げる何気ない様子にすら可愛げを感じてしまうのは何故なのか。そんな妙な疑問に内心で首を捻りつつ、本日の目的地である下町の酒場へと脚を向けた矢先に掛けられる聞き覚えのない男の声。
機先を制されて若干ムッとしつつも、少女と共に視線を向ける。

『―――え、ええ、と……ミンティ、その……そっちの男……い、いや、そちらの方は、どなた、様……?』

小柄で大人しげな少女と、ボタンを外してラフに寛げたヘンリーネックの胸元から覗く筋骨も凶悪な長身の組み合わせ。
それらを交互に見つめる男の頬を、一筋の冷や汗が伝い落ちる。
眉庇の作る色濃い影から見下ろす三白眼は、ただただ見知らぬ男の正体を探るべく観察しているだけなのだが、どんな表情をしていたとて凶悪なその顔は、初めて見る者からすればさぞかし恐ろしい物なのだろう。眼前の青年の腰は見るからに引けていた。
それでも即座に回れ右して立ち去らなかったのは、思わず口に出してしまった第一声の後で引っ込みが付かなくなっただけなのか、それともチンピラに拐かされそうになっている様にしか見えぬ知人の危機に対して見せる義侠心か。
後者であるなら大した物だが、自尊心ばかりが覗く小狡そうな顔立ちからはその可能性は薄い様に思える。とはいえ、彼の事をよく知っているわけでもないグラムヴァルトには判断が付かない。故に、傍らの恋人へと怪訝そうな顔を向けて視線で問う。
そんな彼らのやり取りは、周囲の店舗の閉店作業の忙しさの中に埋没していく―――。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からミンティさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からグラムヴァルトさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にアマーリエさんが現れました。
アマーリエ > 戦場を支える余裕が今あれば――、今にしかできないことを遣る。

例えば補給。これは何においても優先すべき事項だ。
例えば人材確保。欠員が出れば、これもまた十二分に考慮しなければならない。
或いは情報収集。これもまた、大なり小なり必要になる。市井で新たに見つかった、流行り出したものは知っておく必要がある。

「――嗚呼。やっぱり変わり映えないけど、こういう風景は見ていると落ち着くわ」

そう零しつつ、夜の平民地区の冒険者向けの飲食店等が並ぶ一角を歩む姿がある。
師団長、或いは将軍等とも呼ばれるその身が街を行くとなれば、相応の作法と装いがあるものだ。
辺境を治める者とは言え貴族としての生まれであり、弁えてはいるが冒険者暮らしもそれなりに経験があれば自ずと身に付く。

昼間は幾つかの公務を行い、戦線に余裕があるということを会議として認識したうえで私事も兼ねて夜は街に出る。
日中にこなしても良かったが、立場を考えればそうもいかないことはある。
赴く先は冒険者ギルドの隣に併設された酒場の一つ。昔の行きつけの一つであり、個人的な依頼を託している先でもある。
その扉を潜れば、瞬間向けられる幾つかの視線に目を細め、冒険者ギルドとしてのカウンターの方に向かう。

アマーリエ > 「お久しぶり。また、頼みに来たわ」

カウンターに眠たげに座している事務員は昔の顔なじみだ。
昔と変わらぬ様子で受け答えする姿にほっとした顔を隠すことなく見せつつ、上着の懐から折り畳んだ紙を差し出す。
幾つかの要件を記した依頼書だ。それに報酬を包んだ革袋を差し出し、託そう。
初級向けではなく、水準以上の力量を要する魔物討伐という形で力量を測る類のものである。
こなせる力量を認めればその上で人材をスカウトすることもあれば、問題があれば注視すべきものとして見守ることもある。

人材はぽっと出で見つかることは、否定しない。
結局のところ自分で一から育てる方が早いのかもしれないが、想像を超える力量の持ち主というのはそうもいかない。
何度もやっていることであれば、手続きは直ぐに済む。

「あとは……お腹が空いたわね。丁度良い、か」

用が済めば、腹を満たすのもいいだろう。併設する酒場を見れば成功を祝する姿やら涙ぐむ姿等、見かける姿は多種多様だ。
それ等の光景をどこか懐かしげな顔つきで見遣って、行き交う人の流れを縫いながら腰の剣の柄頭を押さえて進む。
カウンター席の端に腰を下ろし、ほっと息を吐きながらまずは麦酒を頼もうか。併せて、付け合わせの肉と野菜も一緒に。