2018/07/06 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」にエイブラさんが現れました。
エイブラ > (仕事帰りの労働者、旅から帰った来たような
冒険者。賑やかな酒場のカウンターに陣取り、一人その喧騒を
聞きながら楽しげに余り強くない酒を注いだグラスを傾けて
いて)

「こういう賑やかさはいいですね。活気があって、楽しげで
いて…絡まれさえしなければ、聞こえてくる話だけでも面白い
ですし」

(耳を澄まさなくても聞こえてくる冒険者の自慢話、ガタイの
良い親方っぽい男の笑い声。それに注文を繰り返すウェイトレ
スの声が混ざり、程よく混沌とした雰囲気の中、楽しげにグラ
スを傾ける)

エイブラ > (酒場の喧騒を酒の肴に一人グラスを傾け続け
て、ほろ酔いの一歩手前くらいで辞めて。勘定をカウンター
の上に置き、喧騒の邪魔にならないように静かに酒場を後にした)

ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」からエイブラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にソウレンさんが現れました。
ソウレン > 「やまないな。」

ぽつりと窓へ向けて小さな呟きが漏れる。
しとしとと降り続く雨は時折本降りの様相を繰り返しながらも延々と途切れる事もなく。
屋内にいる分にはまだ風情があるともいえる雨なのだが…。

客足に影響する分にはいただけない。
羊皮紙に墨字で『新しい酒が入荷しました』と書かれた張り紙を見てそう思う。
全く客がいないわけではない。
カウンターで寝潰れた男が一人。晴れていれば放り出すがこの雨だと無闇に投げだすわけにもいかない。
仕方なし、肩をゆすって起こす事にする。

「お客さん。寝られたら困る。雨が弱い内に帰った方がいい。」

一応起きたしむにゃむにゃと言っている。文句だろうか。
ただまぁ、放置するわけにもいかないのが店側の事情だ。
勘定を済ませ、フラつきながらも店を出ていく背中に礼を。
見えなくなってから、やれやれ、と小さくため息を吐いた。

からり、と引き戸を開けて顔を出せば、やはりしとしとと降り注ぐ雨。
今日は早めの店じまいかな…と微妙な表情を浮かべた。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にスナさんが現れました。
スナ > 店を追い出された先客と入れ違いになるように、ひとつの人影が店へと歩み近づいてくる。
背丈は低く、質素な平民服に身を包み、その見た目はパッと見では街の少年。
降りしきる雨の中を、傘もささず合羽も纏わず、まるで着の身着のままといった風情でゆうゆうと歩いている。

少年は店の目の前まで来ると、引き戸から顔を覗かせるソウレンを見上げ、言う。

「……姉御。店、やってるかの?」

その声色は、見た目の幼さとは印象を異にする低い男声。よく見れば喉仏も大きく張っており、声変わり済であることは察せられる。
目はうっすらと糸のように細め、前が見えているかも定かでないが、その実、長身の女性をまじまじと見つめている。

「少し前からここを通りかかるたびにこの店が気になってたんじゃがの。意を決して来てみたのだが。どうかの?」

銀の短髪に雨のしずくを無数にまといながら、男はまくしたてるように言葉を続ける。

ソウレン > 歩み寄ってくる影。
そして水を跳ねる足音。
そちらへと視線を向ければ、何というか不思議な少年がやってきていた。
ふむ?と首をわずかにかしげてみれば、どうやらこの店に用がある様子。

「あぁ。営業中だよ。」

駆けられた声に返事を返す。
思ったよりも歳を重ねている…とわずかに目を細める。
わずかに揺れる妙な気配。それが何であるかまでははっきりと視るつもりはなかったが。

「無銭飲食をする気がないのならいらっしゃい。風変わりなお客さん。」

からり、と引き戸をもう少し開けて歓迎する。
拒んだり、そんな様子はなく、颯爽と店内へと入っていく。
少年が店内へと入ってくれば、まずは髪や服を拭くといい、と大きいタオルを渡すだろうか。

スナ > 「よかった。雨の中を歩いて来て目の前でカンバンと言われちゃたまったもんじゃない。
 お邪魔するよ」

引き戸が開けられ招き入れられれば、銀髪の少年はゆったりとした歩調で店内へと歩み入る。
そして、王都にある多くの酒場とは明らかに意趣を異とする店内の雰囲気を確かめるように、まじまじと視線を巡らせる。

「………ふむ、これは……」

どこか含みのあるような独り言をぼやきながら何周も店内を(そして時にはソウレンの身なりや顔立ちを)眺めるスナ。
髪はおろか服までじっとりと濡れた状態だが、そんな自分の現状を気にする素振りも見せない。
しかし、気を遣ってタオルを渡されれば、「おう、ありがと」とはにかんで快く受け取り、無造作に髪を拭う。

「ん、何、大丈夫じゃ。金はきちんと持ってきておる。姉御がボッタクリを働くんでもなければ、払えるよ。
 ……ククッ。風変わりとな。姉御、俺のどこが風変わりじゃと?」

大きいタオルを頭にすっぽりとかぶせ、乱雑な手付きで髪の水分を拭き取るスナ。
張り付いたような笑みを浮かべつつ、そのタオルを下ろすと。
ボサボサのクセを取り戻した銀髪の頭頂に、髪の色と同じ銀の毛並みをまとったケモノの耳が2本、ピンと立った。
よく見れば、背中からも同様の毛並みのしっぽがいつの間にか伸びている。
己はそれに気づいていないような素振りで、ニコニコとした笑みのまま、タオルを返すべく差し出す。

「俺からすれば、この店の造りもなかなか風変わりじゃがの。姉御、この国の生まれなのかぇ?」

ソウレン > 「ならば傘くらいは用意しておいても罰は当たらないだろうに。」

タオルを渡した後は、たすきで袖口を縛り上げて調理場へ。
清水で手を洗い、料理に備えていく。
店内を見回す少年?の様子を見ながらだが。

「どうかしたかい? ずいぶん造りを見ているようだけど。
あぁ、ぼったくるつもりはないよ。道楽でやっている居酒屋だからね。」

お金を持っているならば問題ない。
そもそも「見た目通り」の客ではないだろうとは踏んでいる。
龍の瞳は特に意識せずとも異常や不可思議があればある程度は見て取ってしまう。

「その耳と尻尾。ついでに言えば見た目通りのお子様ではない辺りかな。
だからといって敬遠するつもりはないから安心するといい。…注文はあるかな?」

タオルで拭いた後から現れた狐の耳と尾を小さく指さしながら答えた。
女店主の表情にはうっすらとした微笑がある辺り、別段気にした風ではない。
差しだされたタオルも黙ってうけとり、洗濯用の籠に放り込んでおくだろう。

「王都では変わり種だろうね。自覚はあるよ。
私はもっと東の生まれ。ぶらぶらと旅してきたんだ。」

スナ > 「あいにく、傘みたいな大仰な道具は好かんでの。持っても畳んでもかさばるし、俺のような野の獣には似合わぬ。
 ……ククッ。そのとおり、俺はチビじゃが子供じゃない。酒も飲めるし、普段からよく飲んでおる。
 つーわけで、そこの…『新しい酒』とやらを頼むよ。あと何か……うーん、そうだな、野菜」

狐耳を生やした小柄な男は、その耳を左手でコチョコチョと弄びつつ、右手で張り紙を指さした。
調理場へと戻っていくソウレンに付き従って店内を歩き、彼女の真正面のカウンター席へと飛び乗るように座る。

「……ふぅん、東……か。確かにそういや、東の果ての方にこういった異文化があると聞く。これがそれかぃ。
 俺は……ああ、俺はスナって言うんだが……まぁこの国であまり大声では言えねぇが、シェンヤン生まれだ」

名を名乗ったスナは、カウンターに頬杖をつきつつ、大雑把に北西の方角を指した。

「この国を挟んでほぼ真逆の方角じゃが、なんでか東の国とシェンヤンとは似通った文化が広がってると聞く。
 この店に入ったときも……そうだな、なんつーか、匂いを嗅いだときも……その通りだなって感じがした。
 実際のところどれくらい似ておるかはよぅ知らんがな。ククッ、姉御の料理、酒、楽しみじゃよ」

言いつつ、スナは己の腰をまさぐり、服を縛るベルトから巾着を外してガチャリと卓に置いた。
財布である。決して大金ではないが、平民向けの食堂でなら腹十二分目くらいまで食を満喫できる程度の重みがある。
そして、なおも頬杖をつきながら、調理場で料理に勤しむソウレンをまじまじと眺めている。

ソウレン > 「好みというやつか。それなら大きくは言えないが…。あまり店は汚さないでくれよ。
そうか。なら遠慮はいらないという事だな。では少し待っているといい。」

真正面へと陣取れば、せっせと腕を動かし、足を動かして調理場を動く姿を見る事ができるだろう。
上背があれば手元まで見えるだろうが…少年姿では覗き込むようにしないと見えないかもしれない。
新しい酒の内、ビンごと清水にさらしておいたものを取り出す。
それをお銚子に注ぎ、お猪口と合わせて少年の前へ。
味、香り共に良い。充分に冷やしてあるので、クセのない爽やかさが堪能できるだろう。
前菜だ、と言って胡瓜の浅漬けを少し切って合わせて出してやる。

「私はソウレンという。なるほど、シェンヤンの。
通った限りでは確かに、似たような所はあるな。」

野菜か、と少し考えるといくつかの野菜を取り出す。
この季節なら、という事で茄子をチョイス。
足元の炭が灯った七輪に網をかけて、半分に割った茄子を置く。

「私はシェンヤンをそこまで知らない。通り道で少し立ち寄ったくらいだし、な。
ただまぁ…君が落ち着いて飲めるというのなら、この居酒屋の本分だ。
楽しんでくれると嬉しい。」

茄子を焼いている間に、芋やニ人参と言った物の煮物を小鉢に盛って出す。
醤油、酒などで味付けのされた、いわゆる筑前煮、というやつである。

スナ > 残念ながら、ソウレンの調理の所作はスナの視点からでは全てを観ることはできない。
かといって身を乗り出して覗くような無粋な真似もせず、ただ憮然と頬杖をついたまま、彼女を眺めるのみ。
東方出身という彼女の、この国ではあまり見られない顔立ち。衣服。そして肩や上腕の動きから手指の動作を想像したり。
……まぁ8割方はソウレンの顔に視線が向いているけれど。

そして、スナにとっては見慣れた酒の容器に注がれ、スナにとっては見慣れぬ澄んだアルコールが差し出されると。
彼は頬から手を離し、細く閉じた目をわずかに見開きながら、お猪口を手にとってその水面を眺める。
スンスンと音を立てながら鼻をひくつかせ、吟醸香を聞く。
ひとしきり毒味めいた所作を続けたのち、その器を静かに口へと運ぶ。

「………ふむ! これは……コメの酒か。しかし俺の知るモノとは違う。ちと甘いが……飲みやすいな」

透明な雫を舌先に転がしながら、スナはソウレンの方をみやり、にこやかに蕩けた笑みを浮かべて感想を述べる。

「同じコメからできておるんじゃろが、俺の知るコメの酒はもっとこう……辛くて、目が覚めるような刺激がある。
 どっちが良いとは今すぐは言えないが、ふむ、これはこれで……なるほど、これが東の酒かぇ……」

舌が潤滑油を得たかのようにペラペラと小言を並べながら、その間隙を縫うように、ちびちびと酒を唇に運ぶ。
合間合間にお通しの漬物も齧りながら、お銚子から手酌で酒を継ぎつつ飲み干していく。
先に言った通り、酒は飲める方のようだ。当然のごとく顔は朱に染まっていくが、口調はむしろはっきりとしていく。

「うむ、うまい、うまい……ふむ……ソウレン、お前さんはシェンヤンにも来たことがあるんじゃな。
 旅好きなのかね。というか……この店、独りでやっているんか?」

ふと気になり、目の前に出されたがめ煮を箸で突きながらぐるりと店内を見渡す。
従業員めいた人影がみられないことに、いまさら気づく。

ソウレン > 調理をしていゆくソウレンの表情は穏やかだ。
視線を気にせず、うっすらとした微笑を浮かべている。
単純に料理を行う事が好きなのが見て取れるかもしれない。

「最初だから、クセの少ないのをチョイスしてみた。
好みを聞けばよかったかな。もう少し辛口の米の酒も仕入れているが、試してみるかな?」

飲み慣れた所作。酒を楽しむ事のできる男なのだろう。
見てくれは少年だが、そういう男なればこちらも興が乗るというもの。
やはり酒を飲むというのは楽しみの一つだと思うわけで。

会話をしながら、七輪の上の茄子。
2本あるそれの片方に味噌を塗っていく。少しすれば、香ばしい香りが店内に広がるだろう。

「仕込み方で色々と変わるようだがね。
東の方の作り方とは言え、この王都に近い場所で醸されているようだよ。」

ごく最近できた縁で仕入れた、と端的に説明をする。
先日までは東方から流れて来た商人から買い付けをしていた。
その名残で若干時間の経ったと思われる、使いかけの一升瓶もいくつか見つかるだろう。

「あぁ、旅が好き…というかごく最近まではぶらぶらと色々回っていたからね。
店は一人でやっているよ。一人で回せる大きさで建ててもらった。

…さ、できたぞ。薬味の乗っている方はこれで食べてくれ。」

長めの皿に、茄子を乗せる。
半分に割られた2本のうち、片方が味噌が塗られ、片方にはおろしたジンジャー…ショウガが乗っている。
そしてそれを食べるように、醤油を垂らした小皿を合わせて出した。

スナ > 「酒の好みかぇ? いや、いいさ。何度か来詰めて『常連』にでもなったら注文もつけるかもしれんが。
 最初はこの店の……いやソウレン、お前さんの選ぶ酒を試してみたいものさ。小言は言うかもしれんがね」

ククッと詰まった笑いで喉を鳴らしつつ、なおもペースを落とさずに清酒を口に運び続けるスナ。
「美味い」「気に入った」といった素直な賛辞は出ないが、その仕草から、スナの好みに合っていることは見て取れるだろう。
そして、炭の上で茄子が焼ける匂いも感じながら、筑前煮にも口を運ぶ。するとまた、箸が止まって代わりに舌が動き出す。

「……む、こっちも酒を使っとるな。いや酒というほど強くないが、甘みを感じる。しかし砂糖の甘さではない。
 この酒と似た甘みじゃが。ふむ……しかしこれは……ふむ……」

煮物のツヤ出しに使われた調味料の存在を的確に感じ取ったようだ。しかしその独特の風味の正体がみりんであることまでは掴めず。
その後は「むぅ…」「ふむ…」などと分かったような分かってないような唸り声を上げながら、次々と煮物を啄んでいく。

「……ククッ、なるほど、面白いなこの店は。出す料理の味わいも珍しく、酒もまた珍しい。
 それにソウレン、お前さんも。この政情不安な国の周辺で女子が一人でブラブラするとは、なかなか奇特。
 その上で未だ独り身とはの……良い年頃だろうに、なんとも勿体無い」

左手にお猪口、右手に箸を弄びながら、スナは卓を挟んだ向こうの長身の女性に向け、ぶつくさと文句を垂れる。
低く濁った声色もあいまって、あまりにもジジ臭いセリフである。

「それとも何か……俺と同じように、お前さんも見た目通りの歳ではないとか?
 ……女子に歳の話を訊くのは『でりかしー』がなかったかの。ククッ。……おっと焼き茄子か。こいつは好きじゃぞ」

悪びれるようなセリフを吐きつつ、他方でその顔はだらしなくニヤけ、一切気負う様子はなく。
続けて出された茄子を箸先で優しくつつき、果肉の中に薬味をなじませながら、ソウレンの反応を観る。

ソウレン > 「なるほど。酒の楽しみ方としては一理ある。
油断ならない客だとは思うが…怒られないだけマシかな?」

少年の言葉にくつくつと笑みを零す。
見たところではそう嫌ってはいない様子だし、問題はないのだろう。
何より、箸もお猪口も止まっている様子はない。

さて、〆の一品、何か少し腹に溜まるものがいいかな、と考える。
そういえば、と野菜の中から葉っぱを取り出した。
最下部にヘタがついている…大根の葉である。
それを軽く洗って、サクサクと細かくまな板の上で切り始めた。

「なかなかいい舌をしているね。やはりただ者じゃないな君は。」

煮物のみりんを感じた様子に、素直に称賛の言葉を贈る。
酒から造る調味料は王都ではかなりマイナーだろう。
その間も手は止まらず。
フライパンを焜炉にかけ、わずかに油を垂らす。
良い感じに温まれば、そこに刻んだ大根の葉を入れて炒め始める。

「変わり種の店って事で、ちょくちょく噂されてるみたいだ。
ただまぁ、よく閑古鳥は鳴いているよ。困ったものだね。」

手を動かしながら、あまり困っんいない様子で口にする。
そもそも団体で騒ぐよりも小人数でちまちま楽しむような雰囲気なのだからしょうがない。
その上、渋めな店構えと料理は女性客には少しハードルも高そうだ。

「はは、耳が痛いな。
確かに伴侶はいないね。けれど、相手がいなければどうしようもない。
見た目と歳は…そうだね、君の言う通り、見た目通りではない、とだけ言っておくよ。」

常連になりそうな男性客からは熱い視線を送られたりはしているかもしれない。
ただ、それ以上に鈍感の様子で、その事は語らなかった。
さらりとした対応。ひょっとすれば慣れているのかもしれない。

さて、炒めた葉には塩を振る。ほんの少し強め。
充分に炒め終えれば、炊いてある米を大き目の器に入れ、炒めた葉を混ぜ込んでいく。
油のコクと、程よい塩加減、それに葉の歯ざわりがプラスされた菜飯を手に取る。
手早く三角の握り飯を二つ作って皿に盛り、少年の前に。

「さ、最後にこれをどうぞ。」

スナ > 「まぁ、うむ。舌には自信がある方じゃよ。ククッ。野を駆け獣を狩っていた頃と比べれば、食の楽しみも増えた。
 じゃからこそ、未だ俺の知らぬ味がこの国に、あるいは外界にあるというのは大変にそそられるモノがある。
 長生きはするもんじゃな…」

なおもジジ臭いセリフを吐きながら、生姜と醤油を纏った茄子を箸にとって口に運ぶ。
こちらは自分でも家で作るような料理だが、コメの清酒とともに口に入れるとなかなかどうして、斬新な味わいとなる。

「なるほど、成る程……東の料理というのは、悪く言えば刺激に欠ける、よく言えば優しさに満ちた味わいなのじゃな。
 シェンヤンの都会の料理は……いや俺も数えるほどしか食べたことはないが、どれもこれも目から火が出るほどに辛い。
 気候とか植生とかはさておき、人の性格っつーもんも食に表れるのかもしれん。
 アッチの連中は自分にも他人にも厳しいやつばかりでの……東の国はそうじゃない、のかもの」

清酒や味噌の風味に包まれれば、醤油の塩気や生姜の香味さえも和らいで舌に広がる。
巧みな箸使いで茄子をほぐしながら口に運ぶスナ。もぐもぐと頬を揺らしながら、なおも無遠慮な視線をソウレンに向ける。
一見さんでありながら屈託なく本音をまくしたてるスナを、柔らかい言葉であしらいつつ、それでいて腹の底をなかなか見せない店主。
話していて楽しい相手である。閑古鳥が鳴く、という発言はにわかに信じられないが、これも真実はいかに。

「そうかい、見た目通りではないと。やはりお前さんも……ククッ、いやいや、これ以上の詮索は次の機会にしとこう。
 つがいを見つけるだけが人生でもなかろうしの。とはいえそこに生の楽しみがあるのも事実なり、わかるかぇ?」

遠回しな口ぶりで、『性』に関する認識をも探ろうとするスナ。はぐらかされても、理解されなくても、それはそれで一興。
ただ、面倒くさい類の客であることは確かだ。

「……ふむ、〆は握り飯かぇ。美人さんの握る飯はなかなか食えるもんじゃなかの。
 菜っ葉入りとはシャレておるが、大根の葉を使うところは初めて見た気がする」

差し出された大根菜入りのライスボールを、壊れ物でも手に取るように指でそっと持ち上げ、恭しく口に運ぶ。
その視線は、先程までそれを握っていたソウレンの細い手指を追う。