2018/04/28 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区 広場」にジルヴァラさんが現れました。
■ジルヴァラ > さすがに今日は飲みすぎたらしい。
自分の船で、酒場で、その後は誘いを受けて知人宅でも杯を交わし、
全身の血液がアルコールに染まってしまったような感覚に陥っていた。
こんな夜は久しぶりだ。
自嘲と心地良さの狭間で身体はふわふわと浮き立ち、おぼつかない足取りのまま広場へ足を踏み入れる。
酔っているからなのか、元々豪胆な性格だからか、
躊躇うことなく噴水の中へ身を入れると、流れる水を掬い、両手でばしゃばしゃと顔を洗った。
■ジルヴァラ > 濡れた皮膚が夜風にさらわれ、火照った身体を鎮めてくれる。
身体のあちこちから雫が伝い落ちるのも構わず水から這い出ると、
男はそばにあったベンチにごろりと巨躯を横たえた。
浸水したブーツが重みで抜け落ち、情けない音を立てて石畳に転がる。
「はっ……。海賊が酒に呑まれるとは、お笑い草だ」
海の男は酒に強い。また、強くなくてはならない。
儀礼的な意味ではなく、海において貴重なのは酒より飲み水だからだ。
男がまだ若く、酒を不得手としていた頃、所属していた海賊団の男達によく言われたものだ。
そんな体では海神に笑われるぞ、と。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 広場」にオフェリアさんが現れました。
■オフェリア > ――帰り道。大通りへ抜け出る心算で通り掛った時だった。
足を踏み入れる少し前から既に聞こえて居た様な気もするが、中央付近の噴水から、不自然に水が大きく跳ねる音がする。
オブジェの影が邪魔をして、様子を伺う事は出来ない。―けれど野良猫か何かだろうと、特に気には留めずに片手で纏ったショールを抑え、進む歩みは噴水の傍を通り抜けるべく運ばれる。
何時しか、近付いて噴水の全貌が眺められる距離まで辿りつく頃には、不思議な水音も聞こえなくなっている。
その替わりに見付けたのは、ベンチに寝そべる人影だった。
「―――…、…」
緩く傾いていく貌。街灯に浮かぶひとの姿は暗く、未だ陰と呼べる様な輪郭だけれど、知る顔であるとは間も無く判別出来た。
歩みの速度を緩める間に周囲へ視線を流すが、連れらしき人影の気配は無い。
石畳には大きな靴跡が続いている。男が横たわるベンチ迄。其の横を、女は顔が覗ける距離まで静かに近付いて行った。
■ジルヴァラ > こんな時でさえ人の気配を感じ取ることが出来たのは、幾つかの死線を越えた身だからだろうか。
人影からは嫌悪も敵意も感じられなかったため、通りすがりのお人好しだろうと気にも留めなかったが、
軽やかに揺れる金の髪が視界に入るや、男は双眸を見開き、びしょ濡れの顔で彼女を見上げた。
そこに居るのはやはり、いつか海で出会った女だった。
あの夜と変わらず、星の欠片を集めて作ったと思わされるほど美しく輝く髪と、
幻の宝石と名高いレッドダイヤモンドを思わせる神秘的な瞳を惜しみなく晒している。
――夢か現か。
出会った時と同じ唐突な再会に、つい小さく笑ってしまった。
酒精を帯び熱に溶けた男の瞳は、普段よりいくらか幼気な表情を作るかもしれない。
そうして微笑んだまま甘えるように両手を伸ばし、彼女の白い頬を撫でつける。
「――夢だとすれば、あまりに俺に優しい夢だ……」
■オフェリア > 軌跡を明確に浮き上らせる濡れた足跡。其れが、一人分。状況から、先に聞いたあの水音は此の男が噴水で立てて居たものなのだろうと推測出来る。
酒場も此処から近い。悪酔いして寝て居るのだと、そう思った。
「……ええ、 私も。
…貴方はきっと夢の中なのだと、思っていたわ」
予測に反して重なる視線。脈絡無く告ぐ言葉に、意外だった、と、浮かんだ感想を素直に声へ乗せる。然して驚いても居ない様な、淡い微笑を湛えた表情で。
持ち上げられた男の手が、指先が頬へ触れる。覗いた顔に違わず其の手もまた濡れて居て、女は可笑しそうにもう少し口許の笑みを深めると、横から見下ろす位置の侭、ショールの裾をそっと持ち上げて。
「冷たい。 …きっと、随分お呑みになったのでしょう?」
白い薄布を、男の頬へと押し当てる。纏う水滴は其れらしく冷ややかなのに、肌は熱を持っていた。そんな感触が指先から、布越しにじわりと伝わって来る。
■ジルヴァラ > 柔らかな頬に触れるとまろい熱が伝わる。
温もりを得て初めて、自分の両手が濡れていること、
そしてひどく情けない姿を見られていることに気づいたが、
その手を振り払うことなく笑みを湛える彼女の姿に、男はゆったりと安堵の息を吐いた。
「……今日は羽目を外しすぎた。ああ、悪い……」
上質な布が頬を拭う感触にうっとりと目を細め、くすぐったそうに笑う。
頬から手を離すと、布に添えられた彼女の手に自分の指を絡め、
離れてしまうのを惜しむよう、愛しげにそっと握った。
「……噴水に入るんじゃなかった。
アンタを抱き締めたいのに、この格好じゃ風邪を引かせちまう」
落胆した口ぶりながら、口元はやはり嬉々と緩んでしまっている。
会えた嬉しさと情けなさ、こんな自分を許して欲しいという甘えがない交ぜになり、
蕩けた瞳でただ、置いて行かないでくれ――と言外に訴えかけた。
■オフェリア > 酒気を纏った、熱を孕む蒼の双眸。その眼が覗かせる表情を女は幾らかしか知らないが、今見て居るのはあの日、出逢った時に見上げた其れに似ていた。波間に揺られ漂った、夜の海を見たあの時と。
――如何やら呂律は回るらしい。
二言目にしてそう判断し、先ず水気を帯びた顔位ならばショールの端でも足るかと、顎先へ生地を滑らせて、
「あら、 …動けないように見えるのだけれど、そうしないのは私を按じて下さっているから、 なのね。
――…フフ、 優しいひと」
最中、撫でる様な所作が中断される。捉まった手は其れ以上動かそうとはせず、軽やかに笑い声を混ぜた。
惜しむ様な台詞の中でも楽しげな男の表情は、矢張り酔っている所為だろうか。どちらと区別が付けられぬ侭、女はそっと自らの足許へ視線をやると、空いた片手で静かにドレスの裾を押さえ、その場にしゃがみ込んで行く。
姿勢を低くして視線の高さを近付けると、同じく近付いた男の顔へ、変わらず赤い眸を向けて。
「…風邪を 、引いてしまうわ。ジルヴァラ様。
夜は未だ冷えるもの 」
■ジルヴァラ > 冗談めかして告げた欲望は愛らしい声に笑われて、
更に優しい、等と形容されるとこちらもますます可笑しくなってくる。
膝を折り、ベンチの前に腰を下ろす彼女の仕草を見届ける。
互いの顔が間近に迫り、その赤い瞳に視線を絡めると、男は軽く上体を起こした。
今夜二人の間に起こるかもしれない――否、起こしたいことへの鮮烈な期待に胸が膨らみ、
試すように片眉を上げて笑い、緩く首をもたげてみせる。
「……暖を取らせてくれるか? ……湯より暖炉より、アンタがいい」
細い首筋をすい、と浅く撫でると、後頭を軽く引き寄せて口づける。
優しく啄むような触れ合いを何度も繰り返し、最後には相手の唇を長く食んでから解放した。
こんな時間に現れるのだから、彼女の住処はこの辺りだろうか。
鼻先をつんと触れ合わせ、駄目か? とだけ囁いて。
■オフェリア > 女の眸には――ともすれば浮かべる微笑にさえ、感情の色は滲まずに居た。言葉通りに男の身を按じての事か、注がれる目や仕草が余りに熱を湛えていたからか、答えを見せぬ侭、けれど女に其処を立ち去ろうと云う気配は無い。
近くなった顔を身を屈めながら眺めていると、徐に僅か起き上がる男。
完全に腰を据える訳ではないが、動けない、そう揶揄した言葉への反応かと、最初はそう考えるものの、
「―…、…」
単なる証明、では無かった。首裏が濡れて、それからひどく熱いと感じたのと同時に、そうだと判る。
抱き寄せられず、軽く貌を引き寄せるのみで口唇だけ重なったのは、本当に己の服が濡れてしまわぬよう注意を払ってくれたからだろうか。酒の味がする口付けが幾度か続いて触れ合う間、微かに丸めた眸を瞬かせながら思惟を巡らせる。
首筋が冷たくて、口唇が熱くて、酒のにおいがした。此方まで酔ってしまいそうだと、口角を持ち上げ掛けた折、
「…もう、 人魚姫…、 だなんて、呼んで貰えなくなってしまうのね。
あんな風に呼ばれたのは初めてで、 素敵だったのに」
幾許かの間を挟み離れた口付け。吐息に強請るような音が乗ると、赤く彩られた口唇は矢張り予定通りに弧を描いた。
女は其の侭立ち上がろうと躯を起こし始め、片手を差し伸べる。
「――…あの夜の魔法が解けてしまうわ。
…其れでも、良い?」
■ジルヴァラ > 人魚姫――そう戯れに掛けた言葉が思わぬところで繰り返され、少しばかり面食らった。
彼女自身が現実離れした美しさを秘めているからか、
どこか世を達観したかのような大人びた印象を勝手に抱いていた。
あの夜の言葉が今尚彼女の胸の中にあるのだと思うと、妙に面はゆい。
「ははっ……。やめてくれ。
……あんまり可愛いところを見せられちゃ、さっきの我慢が無駄になるだろ……?」
彼女の身体への気遣いも無視して、今ここで思いを遂げてしまいたくなる。
再び唇が離れると小さく水音が鳴り、もの寂しさを煽った。
小さな問いかけがなされれば再び首をもたげ、今度は声を立てずに微笑んでみせる。
「いいさ。どんなアンタでも……楽しみだ」
差し伸べられた手に己の手を重ね、ベンチから立ち上がる。
脱いだブーツを履き直しもせず引っ掴むと、ましになった足取りで彼女を追いかけた。
残された足跡はいずれ夜気に攫われることだろう。
再会の夜は更けていく――。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 広場」からジルヴァラさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 広場」からオフェリアさんが去りました。