2018/02/10 のログ
ご案内:「王都マグメール 路地裏」にスナさんが現れました。
■スナ > 冬のおひさまがちょうど天頂に差し掛かる頃。風をしのげれば、屋外でも比較的ぽかぽかと過ごしやすい。
商店街の裏路地は居住区のそれよりも遥かに入り組んでいる。
入り込むのは残飯狙いの野良猫か乞食か、ゴミの不法投棄を画策する悪い店主くらいだろう。
そんな、木箱や樽が乱雑に置かれた路地の行き詰まりに、スナは腰を下ろし佇んでいた。
何か楽しい見ものがあるわけでもなし、楽しい出会いがあるわけでも……あるかもしれない。
いつもどおりの、何の変哲もない王都の路地。
しかしその実、スナから見て半径100mほどに至る空間のありとあらゆる路地に、幻術が張り巡らされているのだ。
何か恐ろしい光景を見せるわけでもない。ただ単に、うっかり表通りを外れた侵入者をここに連れてくるだけの術。
一歩でも裏路地に足を入れたが最後、方向感覚を微妙に狂わされ、たとえ来た道を引き返そうと決して表通りには戻れない。
いつかスナの居座る行き詰まりへと脚を運ぶ運命となる。
極めて精緻かつ最小限に仕組まれた術のため、気付くにはよほどに勘か能力が高くないといけないだろう。
名付けて、「いざないの小路」。
なぜスナはこんなことをするのか? 単なる暇つぶしである。魚釣りに興じるのと何ら変わらない。
「……………………よし、と」
主要な路地の入り口の屋上等に、尻尾を変化させた使い魔の狐を配置する。これで誰が網に掛かってもすぐに気付ける。
スナは木箱に座り込んだまま、憮然と正面の壁を見つめ続ける。
■スナ > 「………………………」
とはいえ、魚が掛かるまでただひたすら待つことで暇を潰せるほど、スナは単細胞ではない。
時折は斥候の使い魔に意識を送り、人で賑わう商業地区の路地のほうに観察の目を向けることはある。
でもそれで暇を潰せるのなら、通りに座り込んでいればいいだけの話。
喧騒を遠くに聞く、このような静かな場所を選んでわざわざ居座るのにも、理由はある。
木箱の上に置いた大きめの雑嚢を漁り、いくつかのアイテムを取り出すスナ。
右手にはよく使い込まれた彫刻刀。左手には長さ20cm程度の細長い木片。よく乾いたクルミの木の心材だ。
「……………………」
眠たげに目を細め、口をへの字に固く結び、一言も発しないまま、スナは木材に彫刻刀の刃を入れ始める。
先端2割ほどを残し、細長い木片をさらに細く削っていく。最初は大胆にガツガツと、2cm程度の径まで細まれば繊細に。
やがて、ゆるやかな弧を描く棒が立方体から長く伸びている形になる。
そうすれば今度は、原型を保っている立方体の方にも刃を入れていく。
持ち手と同様の薄さにまで削り、先端は丸く、中には窪みを彫っていく。小ぶりの彫刻刀を、器用に打ち込みながら。
どうやら木の匙を作っているようだ。
暇な時は大抵、こうして木工に勤しむスナ。作ったものは自ら露天を開いて売りさばくのである。
■スナ > 30分ほどチクチクと彫刻刀に身を削られ、端材として捨てられる運命だった木片は匙の形に生まれ変わる。
しかし、この時点では文字通りの荒削り。食器としての用は足すだろうが、造形は悪い。これでは売れない。
ここからさらにヤスリや布などで磨き、表面を滑らかに仕上げる必要がある。
だが、そういった作業は水場が近くにあったほうが好ましい。
というわけでこの木匙はここまでで作業中断。使い込まれた布切れを取り出し、何重にも包んで保護し、雑嚢に仕舞う。
では次の木片を取り出し次の作品へ……と行きたいところだが。
スナは一息つくように、ぼーっと空を見上げ、肩の力を抜く。建物と建物の間から見える青空、陽は少しだけ傾き始めている。
天を斜めに見上げながら、スナは使い魔の1匹へと意識を移す。
まだまだ表通りは人の行き来も露天も多い。さすがは大国の王都、うんざりするほどに活気に満ちている。
先程、スナのこの行為を釣りに喩えたが、その喩えを続けるなら今は「針だけを糸につけて垂らした状態」。
常識に照らし合わせてみれば、魚釣りは針に餌をつけて行うものである。
餌無しで釣れる魚や釣り方もあるかもしれないが、まぁ悠長に過ぎるというもの。
「………ふぅむ。今日の『餌』は何にしようかの……」
大きな木箱に腰を下ろしたスナ、そのシルエットはどうみても子供。
しかし、その小さな口から漏れた独り言は成熟した大人めいて低く、細い喉にはくっきりと喉仏も浮き出ている。
スナはぼーっと思案に耽り、数分の後「よし」と小さく呟く。しかしそう呟いた後も、物思いに耽る様子のまま。
……いざないの小路に繋がる、路地の入り口。その全てから同時に、ふわりと良い香りが漂い始めた。
それはパンの焼ける香り。小麦粉とバターがねっとりとよく混ざって発酵し、その生地が釜の中で膨れていくときの香り。
食品店が並ぶ通り、雑貨屋が並ぶ通り、鍛冶屋が並ぶ通り……そのロケーションを問わず、路地の入り口付近に匂いを滞留させる。
誰が嗅いでも顔がほころぶような香りだが、それもまたスナの作った幻覚。
幻覚は想像力の賜物。スナ自身もまたその香りにあてられそうになるが、昼飯は早めにたっぷりと取ってきたので平気だ。
『餌』の幻覚がしっかりと働いたのを確認すると、スナはまた木片を取り出し、彫刻に興じ始める。
■スナ > やがて陽は大きく傾き、西向きの路地にも陰が差し始める。
そうなると冬の昼の心地よさは急速に引いていき、吹き抜ける風の冷たさだけが際立つ。
表通りの賑わいも、昼過ぎの頃に比べれば明らかに落ち着いている。そろそろ『釣り』を止める頃合いである。
釣果に恵まれない日だってある……いやそっちの方が遥かに多いが、それもまた釣りの醍醐味というもの。
片手間に進めた木の匙彫りも(まだ仕上げの作業は残っているが)5本彫れた。上々である。
「よっ、と……」
雑嚢を抱え、木箱から降りるスナ。そこを見計らったかのように、路地の向こうから3匹の小狐が駆けてくる。
使い魔たちはスナの股間に体当りするように跳ねると、幻のように掻き消えた。
尻尾に戻ると同時に、幻術によって不可視の状態となったのだ。
「……さぁて、と。早めの夕飯にしようかの。その後はどこに行こうかの……ククッ」
コキコキと細い肩を鳴らしながら、スナは幻術の解かれた路地裏を悠々と歩き、去っていく。
ご案内:「王都マグメール 路地裏」からスナさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にカーレルさんが現れました。
■カーレル > 「はい、エール2つおまたせしました」
テーブルにドンっとジョッキを2つ置く
平民地区にある冒険者に人気の酒場。看板娘がちょっと質の悪い風邪を引いたと言う事で「何でも屋」に声が掛かる
看板「娘」の代わりということで初めは女性の同業者に声を掛けたらしいが手が空いていなかったらしい
困り果てた店主は仕方なく…仕方なく暇そうにしていた自分に声を掛けたらしい
「いや、繁盛しているようで何より…」
先程まで目の回る忙しさであったがようやく一段落付いた
声が掛かるまで店の隅に立って呼ばれるのを待ちつつ、店内に視線を配る
殆どの客が冒険者のようだが、商人や兵士らしき姿がちらほら見える
潜入した敵国で似たような配膳の仕事も熟した事があるから、仕事自体はそつなくこなせたが、
時折、常連らしき冒険者が自分の顔を見て看板娘がいないとわかると去って行ってしまったりしたのが
少し申し訳ないのだが自分にどうにかすることが出来るわけでなく…
「……煙草吸いたい」
突っ立ったまま、くあ、と欠伸を零す
冒険者は性格の粗い者も多いが、今の所は静かだ…このまま、何事もないことを祈る