2018/02/04 のログ
クウ > 「送るのは良いけど…返信は受け取れないかもしれない」

送った後にどれだけの時間がかかって着くかが判らない。
なので返信を貰ってももうそこにいない場合もあると。

「後悔するようなことがあったらもう手伝わないだけ。
仕事はちゃんとするからマイも頼りにするから」

お互いがやる事をやれば無事に帰れるのが仕事。
少なくとも少年の腕前は知っている範囲では信頼は出来る。
だからこそ手伝うのを決めたのもあって。

「近くじゃなくて遠くならそれも必要。……もう手出しは駄目だから」

それなら行くと少年に頷き。
どちらにしてもダンジョンに行くのに必要な準備や気構えは聞いておく必要があるので。

マイ > 「まぁそれはしょうがないかな、送ってくれるだけでも十分だよ」

こちらから手紙を送っても、確かに届かないかもしれない。
クウのほうから送られてくるだけになってしまうが、無事が確認できるだけでも十分だと。

「わかってる、もうお酒は無し…というかクウもお酒弱いんだから気をつけなきゃね。
僕の取ってる宿でいいかな?」

お酒は持ってないし部屋にもないので、もうどうこうすることもないはずだ。
そう言えば彼女はお酒に弱いことを認識しているのであろうか。
彼女が行くと言ってくれるのであれば、自分の取っている宿へ案内することになる。

クウ > 「それでいいなら時々は送る」

自分に何か起きるか事故で手紙がなくなってしまうなどが起きない限りは手紙は定期的に描く事になるはず。
それが届かないのは恐らくそういう事なのだろう。

「私が弱い……?そんな事ない。お酒は滅多に飲まないけど。
・・・・・・うん、そこでいい」

お酒に弱いといわれても不思議そうに少年を見返し。
その部屋にお邪魔するのは不安があるが自分の宿に行くよりはいいと頷いて。

マイ > 「いや前回それで…まぁ、お酒は無いからいいか…」

酒が飲めないのをびっくりするほど認識できていないクウにずっこけそうになる。
こんな抜けてるところがあったとは…

「えーと…じゃあ、案内するよ」

クウがこちらの宿に来てくれるならば、その宿に案内していく。
案内したのは平民地区にある宿で、大通りに面した比較的安全な冒険者向けの宿。
そこに到着すれば、二人一緒に入っていった。

クウ > 「あれはマイが何か盛った。違うの?」

あれはお酒に何かをされたと思っていた少女。
なので飲めないなんて欠片も思っていなかった訳で。

「ん、よろしく」

少年の宿が何処かは判らずに案内を頼み。
向かった先は同じ平民地区で大通りに面しているが自分の場所とは違う宿。
こんな場所にもあるんだと感心しながら入っていく事に…。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からマイさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からクウさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にヤシュタさんが現れました。
ヤシュタ > 夜は喧噪に見舞われるのだろう平民地区の町外れの酒場も、
昼間ともなれば、些か閑散としていた。
テーブルに座するのは、昼間から飲んだくれる常連客と、
いつから酔い潰れているのやら、テーブルに突っ伏した誰か。
そして、遅い朝食を迎えているらしい二階の宿に泊まる宿泊客の類。
そして、――襤褸のマントで身をすっぽりと隠した娘は、そのどちらでも無い。
カウンターに立つ店主に渡すのは何処ぞの密造酒二瓶。
いまは名を失った村の、戦乱の焦土から発掘された稀少な酒だ。
盗掘品が、廻り巡って、此処にある。

「封緘とラベルが綺麗なものは、全土を鷹の目でくまなく探してもこれだけだと。主さまが。」

交わす言葉は多くは無い。既に交渉は己が主との間に終わっている。
己は品を渡し、サインを貰い、金を受け取って持ち帰る。それだけだ。
金をマントの内側の腰袋に仕舞い乍ら、簡素な受領書に署名を待つ間、――店内を眺めた。

穏やか過ぎて気後れがする。つまりは結局――…何処に行っても、そぐわない気になる。
そっと、嘆息をしのばせて。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」にグライドさんが現れました。
グライド > (――其れは、闘技場からの帰りだった。
朝帰りと為ったが故に、王都の飯を喰おうと酒場に入れば
普段夜に入るのとは違う閑散とした雰囲気が物珍しい
酔い潰れている者も居れば、億で何やら向かい合っている者も居る
恋人達の逢瀬…だなんて甘い雰囲気ではなさそうな、いや、其の辺りは別に良い
兎も角、其の近くの席へと腰掛ければ、店員へと決まり切った朝食を頼む声を響かせ。)

…………むん…?

(ふと、隣から聞こえた言葉に、耳を傾けた。
封蝋とラベル、となれば瓶物。 酒の話か、と興味が湧いて。
片手に掴んでいた盾を、テーブルへと立て掛ける様にして置けば
料理が運ばれてくるまでの間、静かに聞き耳を建てるだろう
何かトラブルでもなければ、大人しくしている心算では在る、が)。

ヤシュタ > また一人、白昼の陽射しも明るい酒場に入ってきた客が居た。
少しだけ、マントのフードの登頂がぴくと揺れる動きをしたのは、耳聡く相手を感知した獣の性。
店内を眺めていた娘の、フードの内側の眼差しが少しばかり物珍しく、
男の装備品に向いた…かも知れないが、サインを終えた店主の言葉に阻まれ、視線をカウンターへ戻し。

「そういえば、主さまが。おっしゃっていた。
リヴァロの祝福酒と、三百年物の、蠍の爪酒が、次の新月に入ると。」

ぽつりぽつりと言葉を交わすのは、どれも珍酒奇酒の類。
そして、少女の指先が器用に動く。多分、声無く値を示す動きだ。
もう二言三言、言葉を交わせば――コクン。頷いた。

「承った。 ええ。おつたえする。」

新たな商談は――――斯くして成った。立ち去ろうと、身体を扉に向けた折。
不意に… カウンタから眠そうな店子が料理の皿を運ぶべく横切れば。
食物の匂いにうっかり …満足に食事にありつけぬ嗅覚が反応する。
顔が、皿の動きを追い縋るように… 男のテーブルへと向いて。

グライド > (携えていた巨大な盾は、大きな陥没と亀裂によって、破損していると判る。
其れでも其の形状を保っているのは、元々が異常な頑強さだからだろう。
一般的な盾の形状と異なり、突端部が刃と為って居るのが特徴で…確かに、物珍しさは在るだろうか。
程なくして運ばれてくる料理に、先んじて御代を払ってしまえば
隣で交わされる会話内容を耳聡く。

――マジかよ、と。 無表情ながら脳裏で思う。
どちらも通常の手段では滅多にお目に掛かれない代物だ
爪酒の方なんかは話に聞いただけで、空の瓶すら目にした事が無い
随分な物の商談をしていると、フォークを肉へ突き刺しながら思えば
其のうちに、隣から女の方が立ち上がり。)

……、……うん?

(話が終わり、どちらもが立ち去ってしまうと思っていたのだが。
足音が止まり、其方へと視線を向ければ――丁度、最後に注文した皿を見詰める女の姿。
一寸、何をしているのだろうと思い掛けて、其の、お世辞にも物を食べているとは思えない華奢な体躯に気付けば
少しばかり考えた後、女へと片手を向けて、手招きする様に。)

……よう、嬢ちゃん。 話が終わったんなら、ちょいと付きあわねぇか?

(掛ける言葉は粗雑なソレ、隣の椅子を引き、座面を片掌でぺしぺしと叩いては
あくまで『女に絡む酒飲み』の様なていで招こうとするだろう。
そうすれば、商談相手にも角が立たない筈だ、或いは彼女の主人にも
足環、それが、彼女が奴隷である事を理解させるには十分だ)。

ヤシュタ > 娘の行動は無意識だ。フードに翳った眼差しの奥が、つい本能的に疚しく料理の皿を追ってしまった。
だから、男の表情が此方に意識を向けて漸く、気付かれてしまった事に娘自身が気付く。
少しばかり、ハッとしたように翳りの内側で唇が動き。咄嗟に視線を明後日に逃がし、
何気なさを装い、其の儘歩き出そうとするの、だが。

「 ――… 、 」

招かれてしまった。
掛けられた声に思わず、娘が逡巡と困惑に動きを固まらせて。

「いや。わたしは、出向く先がある、ので。―… 」

不器用に場を辞する声に被さるように、背後の店主が―… 声を投げてくる。
酌ぐらいしてやりゃいいじゃねえか等と暢気に宣う言葉の加勢にますますに、
拒む言葉が娘の口先から奪われた。恐らく…酷く厄介そうな面持ちで眉を顰めている。
そんな空気が襤褸の内側から、ひしひしと。叩かれた座面に視線を暫し沈黙と共に配せ。

「生憎、もちあわせは、ないのだけれど。」

断りを入れてから―… 矢張り何処か渋るよに慎重に、椅子に腰掛けようか。
此れも運の巡りだ.酔っ払いの講釈の一つでも――聞いて早々に解放されよう、等と。

グライド > (一度視線を背ける女が、理由をつけて離れようとする。
其処に背後から加勢の声が掛かれば、此方も此方で意外だったか、からりと笑って招く手をもう一度。
程なくして、根負けしたように女が振り向き、席へと腰掛けるならば、店主へと向けて手を振り。)

嗚呼、要らん要らん、付き合せてんのは俺なんだ。
おぅい、野菜と肉皿、嬢ちゃんの分も頼むぜぇ!

(此処から、更に料理を頼んでは…早々に解放する気が無い、奴。
彼女の取引相手が、そんな内に店を出たのを確かめた辺りで
のんびりした表情は変わらないが、周囲には聞こえぬ声音で女へと声をかけ。)

――……良いから喰っていけ。 何処の誰が主人か知らんが、喰わんと其の内倒れるぞ。

(――其れは、酔っ払いの講釈、とは違うだろう。
盛り皿に為って居るポテトサラダを、女の前へと移動させれば
店子が先に持ってきたナイフとフォークが其の隣に並ぶ。
此方といえば、別に遠慮するでもなく、肉切れをばくばくと口に放り込んで居るが
酒は、僅かも注文されていないのが判る筈だ。 酔ってはいない。
店主は、其れをわかっていて酌をしろ、だのと話を合わせたのだろう
彼女の分の料理も、きっと直ぐに運ばれてくる筈だ)。

ヤシュタ > 退路は塞がれた。酷く正直な反応で、溜息すらも零し乍ら…、
目深く被った襤褸を脱ごうとせぬ侭、娘は居心地悪そうに浅く椅子に腰掛けた。
針の筵にでも座したかの、どうにも落ち着かぬ風情を醸し乍ら。
だってまるで責め苦ではないか。目の前には肉汁滴る馳走。
其処で―――ただ、ひたすらに。見知らぬ男の話に相槌を打つ、等と。
酷く険しげに引き結んだ唇が、程なくして呆気にとられたように、
割り開かれるのは、男の注文の言葉を聴いてからの事。

「… ッ、 いや。 わたしは、別に。食事を済ませてきた、ばかりで。」

声には些かの慌てた色味と、先程よりも深まった逡巡があらわれる。
助けを乞うよに振り仰ぐカウンターの内側、店主もさっさと背を向けてしまうあたり、薄情だ。
ともすればまるで当然の対応の如くに、目の前に置かれるナイフとフォークと、ポテトサラダ。
目に見えて、娘がたじろいだ。思わず見遣る相席の男はといえば――…
小声にて言葉一つを降らせた後は、我関せずと肉を喰らう。
すんと鳴らした鼻先に感じる匂いにアルコールなんて微塵も無く。

「――――… 、 あとで、泣きをみても、しらないわ」

頭痛く一度、額を抑えてから―… 開き直ったように、ポテトサラダを口に運び。
宣言は、ひとことに。ぽつりと――恨みすらを込めた。
其処から先は―… もう、とまらない。空腹は、思いのほかに飢餓だった。
与えられたものをがつがつと、まるで大食漢か獣かの勢いでかっ喰らう。
肉が運ばれれば肉を、魚が運ばれれば魚を、スープならば皿まで抱えて、
夢中で――――… 相伴に預かることとなり。

グライド > ―――飯済ませてきたって顔じゃねぇだろ、そんぐらい見りゃ判る。

(きっぱりと、否定だ。
良いからとっとと喰ってしまえとばかり、女の前に並ぶ食事。
其の隣で先んじて飯をかっ食らう男は、何せ闘技場帰りなのだ、当然空腹の極み
そうして、其の内に退路を断たれ、漸く開き直ったのか
ナイフとフォークとスプーンを手に、並ぶ料理を一気に平らげて行く女の姿が在るなら
隣でにやりと笑みを浮かべ、其れから、店主へと向けて、もっと持ってこい、だなんて仕草を送ろう
どうせこの時間、他に碌な客なんて居ないし、遠慮する事は何も無い
注文すれば最優先で、最速で運ばれてくる料理を、二人して喰らい尽して行く、勢い。)

―――……やっぱり腹減ってたんじゃねぇかよ、良い食いっぷりだぜぇ?
あ、おぅい、魚とスープ追加だ、あとパンな。 後なんか喰いたい物在るか? ありゃ勝手に頼め。

(泣きを見る、なんて台詞にも気に留めた様子は無い。
まぁ、此処まで食うとは流石に予想は出来なかったが、其れは其れだ。
会話よりも、最早食事の方が優先度高めのテーブルで、好きなだけ食わせてやろうとする、か)。

ヤシュタ > 「――――… 、」

思いきりの否定。
当然の看破をしてみせる男が、忌々しいとばかり。
襤褸に翳った琥珀色の瞳が、生意気に光って、ひと睨みする。
己は奴隷。相手が相手なら殴られていても仕方が無いだろう視線の種類であっただろうけども。
恐らく相手は意にも介さないのだろうは何となく知れた。
其れならば―…、娘だって遠慮の欠片も無く欲求を満たすのみだ。

「 、、… 」

向けられた気前の良い言葉に、返す礼も言葉も無く。
ただ、肉にかぶりついた侭、視線だけがちらりと相手の食いっぷりを這う。
其の後は、また――――没頭。
それでいて自分で注文することも無い。代わりに――振る舞われたものは、全て平らげた。
行儀の悪さなんて知った事かとばかりに、目の前にあるだけの食事に固執する。
流石に皿を舐めるまではしないも、其れすらも必要無いくらいに綺麗に食べた。
何処までも無言で、黙々と食事をこなし、暫く経っただろうか。
漸く――…少女の胃袋が満腹を訴えたか。フォークに刺した肉の一刺しを口に運び、
指に付着したソースを舌で舐めて、…… 二人で築いただろう皿の山の前で、

「もう、 要らない。」

何とも無愛想な満足の言葉と共に、口を手の甲が拭い。
指が食後の祈りの印を刻んで、―…終了の、合図としようか。
そして漸くに、――――何処と無くの気まずさを思い出したかに酔狂な男を見遣るのだ。
酔狂な癖に、一杯の酒気すら含んでいない、目の前の相手を。

「ほら、――――…きっと、高くついたわ。」

グライド > (後はもう、只管に食い倒すだけだ。
流石に倒れたりするまで、何て阿呆な事にはならないが
其れでも、上を満たし欲が満たされるまで、恐らく無駄口も殆ど無く食い続けるんだろう。
行儀の悪さで言ったら男の方だって人の事は言えたもんじゃないし
店主だって、其の辺りに一々口なんて出しやしない。
喰って、頼んで、また喰って。 一回皿を片付けに店子が訪れたけれど
其れでも最終的には皿が詰まれている様な、そんな状態で
己も相手も、満腹と言ったていで水を呑めば、椅子の背へと凭れるだろう。)

……食えないってェのは、キツイもんだ。
確かに、代金はさっきのじゃあ足りてねぇな…おぅい、勘定頼むぜ。

(手を振り、店主へと計算を求めれば。 ――まぁ、二人分の食事量とは到底思えない数字に為るんだろう。
細かく注文の内容を確かめる気は無く、値段だけ聞いて、はいはいと返事しては懐から小さな布袋ごとを店主に投げる
闘技場、結果としては準優勝、途中棄権、と言った具合の泡銭めいた賞金から
細かい釣りは要らんと、一言告げて、口元を拭き。)

本当なら、其のクソ寒そうな見た目も何とかしたいトコだがなァ。
……だが、ま、腹一杯飯を食うだけなら誰にもバレやしないだろうよ。
クク、もうちょっと肉が付けば、良い女なんだがなぁ、嬢ちゃん。

(店主は、店の奥で金勘定に入って行く。
どうせがらんどうの店内だ、これだけ飲み食いした後で、直ぐに席を立てとも言われないだろう。
改めて、隣の女へとまともに視線を向けたなら、そんな戯言を響かせて)。

ヤシュタ > 食物で腹の膨れる感覚すら懐かしい。
何時ぶりの満たされた食事かなんて、憶えていない。
つまりはその程度に久しく腹を満たしたのだと、
感慨は直ぐさま、居心地の悪さに変換される。
目の前の皿を前に――…其れはますますに募るばかり、で。
精算を店主に求める男の一声に、居直ろうにも、どうにも―…落ち着かない。

「そう。だから、施しなんて、ばかのすること。
だって、空腹の鼠はどこまでも卑しいのだから。」

食えないのがキツいなら、食えない日の為に銭を蓄えておけば良いのに、と
礼を述べるでもない卑しい鼠は、抑揚無い声に少し、呆れた風味の色を込めて、
もう一度、芳醇な肉の味残る唇をなぞるように拭った。
存分に喰った手前、そさくさと席を立つのも気が引ける。
ぞんざいで豪気な男の店主との遣り取り。黙って聞いていた少女が、
向けられた声に――… フードの内側の顔を、少しだけ持ち上げた。
目鼻立ち際立つ、褪せた煉瓦色の面差しには、
矢張り、非難めいた―釈然としない風をのせて。

「――…わたしに使う金があるなら、女でも買えばいいのだわ。
そういうことをしたい、なら。抱き心地もきっと、よくはない、から。」

進言は…保身と言うよりも、一食の親切心から。
つくづく、変わった相手だとばかり、向いた視線と控え目な対峙をした。

グライド > はっはっは! だが残念ながら、俺ァその馬鹿の類な性分でな。
第一、腹空かした奴が鼠みたいに食わなきゃ嘘って奴だぜぇ。

(ちらり、フードの端から其の顔が覗く。
整った顔立ちは、けれど矢張り少々滋養の足りていない様子
なんだか、相変わらず釈然としていなさそうな其の表情に、片掌伸ばせば
フードの上から、其の頭にぼふりと柔く、掌を乗せて雑に撫ぜ)

なぁに、女を買うなら其の時に考えるさ。 だが其れは其れ、これはこれ、だ。
何だ、買えるんなら、まだ付き合うか? 抱き心地が良いかは、抱いて見なけりゃ判らんもんさ。

(――豪放に、そんな事を堂々と言って見せれば。
頭に乗せた掌は、一度、ゆっくりと其の目元に触れてから、テーブルに落ちるか。
途中で店主がやってきて、支払った金額の紙を渡そうとするが
其れを捨てて置いてくれと受け取りもしなければ――ふと、フードの中の女の顔を、ひょい、と覗き込もうとするだろう。)

それとも、何か甘い物でも食うか?

ヤシュタ > 男の笑いは何処までも豪気な類。
面食らった様に瞬いた娘の貌が、少し―…呆れを通り越して、口角を笑いの形にした。
笑い、というには随分不器用な表情であったけれど。

「―――… 。きっと、いつか鼠に財布まで、囓られるのよ。」


皮肉も何処まで皮肉に届いたか。きっと皮肉とも取られなそう。
そんな事を考えていれば――不意に。此方に伸びてくる掌に、
何事かと娘の表情が俄に、焦る。フードの上から
掻き雑ぜるよに撫でてくる無骨な掌の下。
もこりと存在する二つの柔い膨らみは、獣の耳だろう。
撫でられ慣れない少女はといえば、襤褸布の端を抑えつつに、
甚だ気が気でなく、そして甚だ迷惑そうに―…思いきり眉を顰める。
何処までも、男のフランクさに――――不慣れな、様相で。

「―… ぃ、 きなり、やめて。
だめ。わたしは帰らないと、怒られてしまう、もの… っ。」

付き合わないわ、との言葉はたじろぎつつに。
琥珀の双眸が、掌の流れに逆らう様に、少し細まってから―…
矢張り、男の態度を邪険にしたそうな、落ち着かない表情で。
相手の逐一に神経を向けていた。覗き込むよな視線に、また。
撫でられるのに懲りたのか、少し身を引いて。

「いらない。――果物しか。食べたことないから、わからない。」

グライド > おうおう、鼠は齧るものさ。 穴が開かねぇように精々丈夫な財布にしとくぜぇ。

(皮肉だという事は、一応伝わったのだろう。
ただ、其の皮肉ごと笑い飛ばすから、きっと彼女の予想通り
フードの下、掌に触れた感触は、成る程、耳か。
奴隷ならばミレー族である事にも納得が行くし、大して気にした様子も無く
――むしろ、其の耳の付け根辺りを、捏ねる様に柔く擽ってやる様な
そんな悪戯をちょっとだけ仕掛けたかも知れない。)

……ふぅむ、商談がちょいと延びた、とかじゃ話にならねぇか?
別に、そこ等の面倒な酔っ払いに捕まってた、とでも言い訳しとけば良い。
主人から直に買えりゃ、其れは其れで後腐れなくて良いんだがなァ。

(帰らなければ、と言う言葉は、確かに飼われているならば当然だろう
けれど、それでも「帰らない為の言い訳」の例を幾つかあげてみては
其の顔を覗き込みながら、くつりと、小さく笑みを零して。)

……よう、適当に果物包んでくれ。 あと菓子な。

(店主に、多分最後の注文。 多分。
そうして、ゆっくりと其の場から立ち上がれば、片腕で巨大な盾を軽々と担ぎ上げ。
女へと、店主が包んでくるだろう菓子と果物の包みを持たせれば。)

なら、飯代と土産代の代わりだと思って、取り合えず宿までついて来な。
クク、今此処で仲良くなれりゃ、ご主人様の客が一人増えるかも、だぜ?

(――なんて、そんな風に、誘うのだ。
少しづつ、少しづつ、女が帰るまでの時間を伸ばしてゆく様に――にやりと、口端を吊り上げて見せ)

ヤシュタ > 男の豪胆な返しに、娘の表情は矢張り不慣れに苦々しい。
言葉を返す代わりに、鼻の頭に皺を刻む。
多分其の上、眉根も大層に皺を刻んでいるのだろうけども、
残念乍ら、其処までは見えないだろう。
あからさまに耳の根元を弄り擽る掌の思惑に、
頭を雑に揺らして―――… 遠離りたがる。
自分は厭で仕方無いのだ、と意思表示をしてみたりもして。

「… ぃ、… 言い訳なんて、きかないのだ、わ。
面倒な酔っ払いが、売れ残りの商品を買ってでも、くれない、と。…」

男の言葉の醸す空気が、どうも宜敷くない方向に傾いているのを
薄々と感じれば。飲食の恩も忘れたかに露骨な迄に拒絶をする、のだけど。
どうにもこうにも、口振りの暢気さは娘の意を汲まない模様で。

「要らないと、言ったの。聞こえなかったの… っ?」

要らないわ、と店主に声を張るものの、店主の客は、目の前の男唯一人。
少女の意見は何の其の。暫しの後、包みが手に渡されて。
女の零す溜息は、何処までも深く。――恨みがましい色をふんだんに、込めた。

「取り敢えず、付いていく。で―…終わらせてくれる、なら。幾らでも付いてゆく、のよ。
ああ、…… お前みたいな面倒な客、わたし、ちっとも要らないわ…」

勿論、其れで済んだら目の前の男は歓迎すべき莫迦だろう。
しかして先払いの恩は既に存分に享受して。だから諦めて椅子を引き、男の傍らに立つ。
憮然と甘味の包みを腕に抱いて。

グライド > (―――ぴくん、と、一寸男の動きが止まった。
売れ残り、と言う一言を聞いて、一寸巡る思考。
確か、先刻女が売っていたのは何だったか。 そして、其の売れ残り、とは。
女へと包みが、殆ど押し付けられるようにして渡されたなら
殆ど諦めに近い境地で、不承不承己が傍らへと近付くのを待ち、其れから
ゆっくりと店を出る直前に、其の耳元へと顔を寄せて。)

……売れ残りってのは、さっき話してた酒か?
つーか、若しかしてまだ余ってたりすんのかよ、アレ。

(絶賛、興味を示したように女へと問いかければ、ともあれ、酒場を共に出る、か。
街中へと繰り出せば、漸く此処から人が増えてくる時間帯なのだろう、最初に見せに入った時よりも人気は多く、元の騒がしさを見せ始めている。
大通りを真っ直ぐ歩けば、其のうちに見えてくる看板は、所謂冒険者御用達でもあり
其の中では多少良い宿としても知られている場所でも在るか。
歩く最中でも、隣からぶつぶつ文句が聞こえてくる気がしないでもないが
残念な事に、まったく持って気にしちゃいない、図太い神経。)

よう、帰ったぜェ。 御蔭さんで依頼の首尾は上場だ、あの野郎、精々搾り取ってやったさぁ。

(そうして、宿の中へと脚を踏み入れれば、女将へと声を掛けて。
そうして、きっと、まるでそうする事が当然だとばかりに女を連れ立って、部屋まで進む筈だ。
部屋の扉を開け、中へと入って行き――そうして、女へと、中へ入る様に促すのは
恐らく、先刻までの話であれば、其れ以上相手は入って来なかっただろう、けれど。)

―――売れ残りの話、ゆっくりしようじゃねぇか。

(――これは、相手を引き止める為でもあり。
ついでに言うと、単純に酒に目が無い己の個人的な目的の為でも在った)。

ヤシュタ > 男の傍らに立ち、足向く扉を遅れて女も潜る。
景気の好い店主の挨拶に忌まわしげな視線で一瞥をくれ、
追い付いた少女の耳元に。注ぎ込まれる――まさかの声、に。
娘が思い掛けず、男の面差しを仰ぎ振り返った。

「……お前、」


盗み聞いてたのか、と言いたげに見返す双眸が―…矢張り苦さを崩せずに、
顰めた声を返すのは、相手の抜け目無さを半ば投げ遣りに讃える心持ちで。

「生憎、あの、どちらでもない。
どちらでもない、物。――鼠に懐を囓られた、お前にはきっと、買えないわ」

どちらでもない、酒、ではあるのだろう。
やっかみを込めて少しばかり淡々とした声色に、相手を窺い試す色をのせる口先。
外に出れば辺りはすっかり日も欠けた。賑わいの気配すら浮かばせる刻限に、
帰らなければ、戻らなければ、と焦燥にも似た堂々巡りの思考が回る。
男から渡された包みを抱き握り、視線が落ち着き無く―密やかに、
苛立ちを伴って帰路を探す視線は結局、逃げ出さぬ侭に、男の宿へと到る。

迎え入れる女将に、襤褸に隠れた娘の面差しは向かれずに――。
男の後に付いて従って、部屋の前へ辿り着くだろうか。
向けられた、己が立場を搦め捕る声。―… 唇から息を抜いて。

「――――… 、。」

男の促す先へ一歩、踏み入ろう。
耳鳴りにも似た呪詛を振り払うよう眉を顰め、奥へ。どうせもう、手ぶらでは帰れない。

グライド > (――答えは、上々だ。
例のどちらでも無くても、酒にさえ変わり無いのならば一考の予知がある。
そうかい、と笑って頷いては、きっと、其の後に女から告げられた言葉は気にも留めていないのだろう。
ひらりと掌を振って見せるだけの仕草が、道中、女へと向けられて。

そして、辿り着いた宿の、部屋の中で。
テーブルのそば、引いた椅子へと座るように促したなら
片腕に抱えた盾を壁際に立てかけ、腰に巻いていた革袋を寝台の横へと、どさりと乗せれば。)

………金の相談は、先ず何が売れ残ってるのか聞いてからだな。
飲んだ事ねぇ酒や、俺が飲みたいと思った酒ならアリだぜ。

(――早速とばかりに、女へと、其の売れ残りの内容について問うだろう。
ふと、小さな食器棚から皿とフルーツナイフを取り出してはテーブルへと置き
女に持たせた其の果物包みから、適当に食べたい物を出せと告げる
出せば、其のフルーツを、存外器用なナイフ使いで皮を剥き、切り分けて
皿へと並べてゆく、筈で)。

ヤシュタ > 迎え入れられた部屋に踏み入れば、女は矢張り―…所在無げに、
まるで己を迎え入れた空間そのものを訝しむように、佇んでいた。
椅子を促されれば漸くに、先程と同じような。針の筵に座するみたいな
慎重さで腰を沈めるのだろう。相変わらず、襤褸布に表情、隠した侭で。

「…………重そう。」

男が楯を壁に立て掛けた時に、言葉少なに呟いて。後は―…だんまり、だ。
此方に相手の興味の矛先が向く迄は。向くのなら――、漸くに、口を割る。

「あの店に寄る前に、もう一軒出掛けた。
待ち合わせた相手に、逃げられた。来なかったの。…よくあること。」

表情を見せぬ翳りより、言葉を落とし。
腰袋に納めた―――小振りの酒瓶を取り出した。
古び、ラベルも剥がれ掛けた香水瓶にも似た優雅さを携えた、一瓶。
フルーツの盛られゆく皿の傍ら。テーブルの上にこつりと置いて。
大きな手が、存外に器用に剥く果実。切り分けられるソレ、
何処か興味深そうに手許に視線向け、見遣り乍ら。

「術牌を噛ませた悪魔の頬骨を漬けた、蒸留酒だそう。
古代語なのか、悪魔のスペルなのか。ラベルは掠れて…読めない、けれど。
これも、物騒な盗掘品だわ。」

薬酒の類だ、と。声を向ける。

グライド > ―――重いぜぇ。
だがよ、重いからこそ、俺の命を護ってくれる訳だ。

(――女が、己へと示した興味…と言えるかは判らないが。
言葉に応えて、盛大に凹んでいる盾を、片掌でぽむりとひと撫で。
皿の上へと、一通り果実を盛り付ければ、ナイフを布で丁寧に拭き、鞘にしまう
矢鱈、均一に等分された果実を、好きに食べろと促しながら
小さなフォークを二つ分、皿へと立てかけて。)

……金が用意出来なかったのか、それとも買う気が失せたのか。
まぁ、其の辺りの事情は別に如何でも良いさ。 ……しかし、まぁ…、……また、随分なシロモノだな。

(――其れは、少々予想外では在った。
女が取り出し、テーブルへと乗せた其れは、明らかに普通の品では無い。
いや、確かに酒と言う分類である事に変わりは無いのだが
其の曰くと言い、作られ方と言い、何よりも出自と言い。
確かに女の言う通り、物騒、と言う一言が最もよく似合う。
滋養強壮で蛇やら虫やらを漬ける酒は良くあるが、悪魔の頬骨なんて代物は"良い趣味"だ
其の小瓶に視線を向け、掠れたラベルを眉根寄せながら覗き込んでは)

……どっちかってと、魔術品って言った方が近そうだなァ。
態々ンな事をしようとした目的は? 飲んだら何かの効果が在る、なんて事でもなければ造ろうとしないだろうに。
ただ、作りたいから作った、何て理由だったら、よっぽどのクソ野郎だな、ソイツは。

(――ただ、味を愉しむ為だけに作られた品とは思えない。
術牌を噛ませている時点で、何らかの魔術的効用を目的としている筈だ。
とは言え、其の詳細を果たして女が把握しているのかは判らないが。
先刻までの表情とは違い、少々真面目な顔で酒瓶の色合いや中身の液体に視線向けてから
改めて、女の方を向いて。)

……それと、値段だ。 味よりも、そっちの方が問題だな、コイツは。

ヤシュタ > 「…似合ってる、と思う。なんとなく、だけれど。」

感想、というにはどうかとも思ったけども、淡と口に出す言葉。
何をしたら頑丈な楯がそう凹むものやら、随分と彼の得物は役に立っているのだろう。
少しばかり、視線に柔らな色を雑じえて。そんな言葉を返し乍らに、
差し向けられたフォークを手に取り、妙に几帳面に、綺麗に切られた果実とを
見比べては、少しだけ眉を悩ませて――… ぷす、と刺した。
口に運んで咀嚼する。酷く懐かしい甘さがした。

「おもしろい、でしょう? きっと、後者。
口先で買うと言った。けれど――気付いたんじゃあ、ないかしら。」

遊びで買うには物騒だ、と。
男の視線が語る色を、此の時ばかりは女も否定しない。
だってこれは、物好きしか買わぬ迷品の類だ。勧める側も、買わせる気なぞ、
実は――さして無かった。だから、肩を竦めてみせる。

「喉が灼けるような味がする、と主さまは言っていた。
魂が凍えるような虚ろな香気が残る、とも。
“一息に飲み干せば舌は妄言を爛れさせ――”なんて。飲んでも、ないくせに。」

つらつらと並べる売り口上を女にしては饒舌に一息で告げて―…少し鼻白んだ。
男の問いにも一度、肩を竦めてみせ乍ら…果実をまた一口、唇に食ませる。
黙々と咬んで、嚥下して。酒瓶を覗き込む男を、何とはなしに観察する。
何処と無く真面目な、探求者の面差しだ。其の変化が少し、面白かった。

「瓶のなかの、悪魔のかけらにくちづけして、効能を訊いてみたら、どう?」

嘯く声は、白々しく。商売っ気の無い素振り。
向く問い掛けに、女の指が売値を思い出すように器用に動く。
数を指の流動的な動きに記憶する。まるでその様に。

「そう。あと、5回。… いや、6回は、
今日の食事に――…相伴できる、くらい。」

グライド > ―――そうかい? なら、相棒にし続けてきた甲斐が在るってもんだ。

(――悪い気はしない。 己が鎧を身に纏うようになってから、ずっと携えて来たのだから。
例え壊れても、直して、鍛えて、そうして相棒関係は続いている
だから、鎧は置いていっても、この盾だけは常に携えているのだ。

果実を口に運び始める女を見て、ふ、と其の時だけは笑い
其れから、また小瓶を見詰めて、真剣な眼差しを向ける。)

……ま、お遊びで買う様な物じゃあねぇな。
要するにアレだろ? 悪魔が浸けてある、なんて物珍しさだけが先行して、何が起こるか誰も知らん、と。
…まぁ、悪魔なんぞを漬け込んで在る位だ、強い酒にゃ違いなさそうだが。

(――臭いは、するだろうか。 瓶の口部分へと軽く鼻先近づけてみつつ
女の述べる売り文句に、用は、其の効能を知るのは造った者だけ
或いは、造った者ですら、何が起こるかは判らない、と言う事なのだろう。
流石の己でも、遊び半分で飲もうとは流石に思えない物だ、けれど魔術品としてならば興味は在る。
傭兵なんて稼業をやっている以上、どんな代物が、どんな危機を救うか判らないのだ。
故に珍品と言う物の価値を、酷くドライに良く理解している、と言えようか。

顔を上げ、少しばかり腕組みして考える。
隣から告げられる値段には、成る程、と眉根を跳ね上げて頷いた後で。
再び、先刻置いた革袋の方へと歩めば、其の中から、食事代を払った時よりも大きな布袋を取り出して
女の前、テーブルの上、果実の乗った皿の隣へと、差し出し置いて。)

……因みに、嬢ちゃんだったら飲みたいと思うかい?

(――何と無く、答えは判りそうだが。
布袋を開けば、恐らく酒瓶を買い取って僅かに余るくらいの金額が、其処に在るだろう。
昨日までの依頼と、闘技場で稼いだ額、殆ど其の儘が其処に在る。
要するに、其の小瓶を買い取るのだ、と言う意思を見せたなら。
其のついで、ひとつだけ、女へと条件をつけるだろう。)

買った。 だが、其の代わり…、……一晩、嬢ちゃんも一緒に付き合え。
其の条件で、如何だ?

ヤシュタ > 相手の言葉を聴き乍ら。楯を視界に入れ乍ら。男の眼前にて、
先程と遠く及ばぬ速度ではありながら、果実を運ぶ往復の手は
幾度も、繰り返される。美味こそ表情に出ないけれど。
普段食べられない甘やかな誘惑を断ち切れずに、幾度も。幾度も。
もそもそと、大事なものでも口に運ぶように、ひとつづつ――。

「そう、だから。わたしは、お前に買えなんて、―…謂う気も、ないの。
主さまの品物は、…ましてや、悪魔の酒なんて。わたしには、価値もわからないのだし。」

瓶の口へ鼻先寄せれば。きっと馨るのは土臭いような、黴の匂い。
古びたもの特有の、鉄錆を帯びた、湿り気ある臭いだ。
其の様子を眺めていた娘が、ふ。と短く息を吐く。
商談は決裂だろうと、…鉄錆の瓶口の代わりに、嗅覚が、嗅ぎ取った。
随分と数を減らした果実の皿に、名残惜しくフォークを立て掛けて。
既に、気は此処を去る事に向いていた、ものだから。
男が布袋を取り出した、其の理由を。一瞬、――… 汲み損ねる。
瞬きが俄に信じがたいように、――――琥珀色を、瞬かせて。

「わたしは、飲まないわ。死を呑むだなんて、…魂の善きものが傾いてしまう。」

聞く迄もないだろう、とは女自身の口振りが語った。
だから――男の決断を、まるで有り得ないものを見遣るかの視線で、見つめるのだ。
布袋の中の金の価値を知らない筈はないだろう。
壁に立て掛けた件の楯で。命を削り乍ら、得たものであろうから。
娘の表情が、測りがたい愚かなものを眺めるかに、顰められて。

「お前はほんとうに、ばかだったの?……ほんとうに…?」

心底から告げ、いいのかと確認してしまう。――遠慮の欠片も無く。
そして、男が購入を望むなら奴隷たる娘の躰なぞ、酒の滴にも満たぬ価値。
交渉は否応も無く、成立するのだと。

グライド > (結構な数を剥いた筈だ、けれど、皿の果実はひとつづつ減って行く。
口に運ぶと言う事は、欲するという事だ。 其れは飢えとはまた違う。
男がひとつも手を付けないのは、きっと、女が全て平らげる事が前提だったからだろう
美味い物を食い、皿を空にする事こそが、表情に等しく感情を表す事でも在るのだから。)

……俺もだ、コイツは興味半分で飲むような代物じゃ無い。
だが、碌でもないモノが助けに為るって事も在るのさ。

(――己もだ、此れが何を齎すのかは知る由も無い。
無論、其の効果を知れたならば、また考える予知が在るのだが
誰にも判らないならば、判らない事が強みに為る事も在るだろう。
何処か、驚いた様な表情で己を見上げる女に、此方はと言えば、涼しい顔で支払いを告げる。
布袋を、指先でこんこんと突けば、其の中に詰まっている物が間違い無く金である事を伝えた後

――壁に掛けている盾を、一度、静かに一瞥して。)

―――……俺たち傭兵ってのはな、何の後ろ盾も持っちゃいねぇ。
今日勝利しても、明日は敗北して簡単に死んじまうかも知れない生き方だ。
当然、そんな生き方だから金は手に入るが…其れを何に使うかは、人それぞれでなぁ。

(視線を、盾から女へと戻す。 向けるのは、先刻までと何ら変わり無い、豪放な笑みだ。
ゆっくりと、女の傍へと歩み寄れば、其の頭上へと片掌を伸ばして、フードを外そうとするだろう。
隠れがちだった其の素顔を、己が視界へと晒させようとしながら
叶えば、其の頬へと指先を滑らせ、親指で目元を柔く擽り。)

……俺ァ、稼いだ金で、明日の…或いは、何時か知らん未来の命と勝利を買う。
言ってみりゃ、俺自身への先行投資って奴だなぁ。 ……だから、俺にとっちゃ馬鹿じゃないぜ、ちゃんと意味がある。
……其れにだ、其のついでに、嬢ちゃんがついて来るってんなら喜んでだぜ。

(――交渉は、己の側からは条件を提示した。
女が其れを拒まなければ、きっと文句無しに成立するのだろう。
其の成立を、女自身が認めて、そして言葉にすれば
それが、ひとつの切欠となるだろう。
――寄せた顔が、驚きを紡ぐ女の唇を奪うのは、直ぐだ)。

ヤシュタ > 男の思惑の通り。フォークを置く迄ぽつぽつと数を減らした果実は、
娘の胃袋に、数個を残しておさまった。そして、其の傍らには曰くありげな酒瓶と。
更に――…金の詰まった、布袋がある。男の指先が打ち鳴らす音に、
紛う事無き取引対象だと証明されれば、襤褸に半ばを隠した娘の表情が、
多少なりと驚きを氷解させてゆく。理解しがたいような、複雑な色は其の侭ではあったけれど。

「――…、…。」

男の一瞥に促される形で、一度楯に視線をくべて、耳に傭兵の声を聞く。
言葉を聴く最中に、女の表情は何かしら変わったのだろうか。
襤褸の庇に隠れた琥珀の双眸が、じ、と暗闇の猫の目めいて、目の前の相手に据えられ。
開いた唇を――…男の泰然の笑みと共に言葉を吟味するかに、また噤む。
そんな最中だっただろう。相手の歩みが、己が傍らに到るのは。
外れたフードから覗くのは、傷み乾いた白灰の長い髪と、
同じ毛色の細く尖った、障害物が退いたことを喜ぶかに跳ね上がる一対の耳。
暗い蔭より暴いて尚、肌に闇を残すよな、浅黒い煉瓦色の膚と、
矢張り、―男を、睨むかに見上げる、何処と無く剣呑で生意気そうな琥珀色の眼。

「……… 、」

目許滑る指先を避けるべくもない。唯少し、擽ったさを訴えるよう双眸細め、

「そう。…… ならば、きっと。これは買うべきところにゆくのだわ。
 今宵買ったこれが、いつかのいのちのしるべとなるのなら。――……きっと、」

先んじて買い躊躇い逃げ出した件の客に渡るよりずっと、少なくとも、娘の胸に落ちる意味がある、と。
漸く、すとんと胸に理解が及んだ心地になる。唯、其れにしても、だ。

「ばか、と言ったのは撤回する。交渉も、承諾する。でも、やっぱり、…
お守りの趣味も、―…女の趣味も、わるい。
抱き心地の悪いミレーの女を添え付けにするなんて、――…   、」

碌でも無いと言いたげに、女の鼻先が笑った音を逃がした。
重ねられる唇に、少しだけまた。物言いたげに眉を顰めるも、それだけで。
乾き皹割れた、けれど其れでも果実の香味に少しは潤った…感触を伝え。

グライド > (――フードから現れた其の顔は、猫を想起させると同時に。
砂漠地帯を出自に持つ女達を想起させる、肌色でも在った。
琥珀の瞳が、この段に及んでも己を、何処か訝しげに見詰めるのなら
最早構いやし無い、何れにしても己が、そう言う生き方をして来たのだと伝われば
それだけで、今のところは十分だ、と言う事にして置こう。)

……なら、この小瓶と俺、どっちがロクでも無さそうだ?

(――其れは、笑い飛ばすかのような一言だろう。
馬鹿だろうが趣味が悪かろうが、其れが己で、己らしさだ
今更そんなもの変え様も無いのだと、其の耳元へ囁いては
再び、口付けを重ねて――今度は、もっと深く。

艶やか、とは言え無い其の唇を、潤す様にゆったりと舌先でなぞれば
誘う様に、唇を開けとばかり、奥へ入り込もうとするだろう。
女の舌を捉える事が出来れば、果実によって潤う其の粘膜を、己が舌で絡め捉え
ゆったりと、舐め上げ、擦り上げて。)

……、……そも、頭の良い奴なら傭兵なんて生き方は選ばねぇよ。
だがよ、女の趣味に関しては否定出来無ぇ。 ……俺はどうにも、跳ねっ返りが好きでなぁ?

(そうして、唇を離す合間に、そんな戯言を紡ぐのだ。
そして、掌がするりと滑り落ちる。 襤褸布のマントを外して、椅子の背へ掛ければ
大きく腹部が晒された布服を辿るように指を這わせて、其の臍の辺りへと掌を置く。
ゆるりと、撫でる様に薄い腹筋の上を辿れば、そのまま指先が、布地の中へと滑り込んで

――秘裂を、掌全体を押し当てるようにして、ゆっくりと擦り上げて行く、か)。