2017/11/13 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にリューテさんが現れました。
リューテ > 「はい、確かにお預かりしました。隣町ですので、配送後受領のお知らせまで僕が行いますね。何かご不明点があればお知らせください!」

夜の荷受はそうそう珍しいことではない。強いて珍しい点をあげるなら、少年がこの時間の荷受業務を行っているくらいのものか。
この時間帯ともなれば人に似て人ならざる『ヨクナイモノ』も活発に蠢き始める時間帯。普段は傭兵や、そういった存在相手にも荷物を守りきれる人が宛がわれる事が多かった。
……だが、今宵は人が居なかった。それだけの理由で少年の元に連絡が届き、小遣いを弾んでもらう事で仕事を引き受けたのだった。

キモチ、足早に。トントトン、と夜の石畳で舗装された中世を思わせるメインストリートを駆け抜けていく。
――少年本人も、今時間は余り出歩く気持ちは強くないのだ。
夜は、善くない。イケナイ本や、イケナイ事へ自分の興味が移り代わってしまう。
勉強する時間のはずなのに、勉強以外のことに気持ちが奪われてしまう。

その理由は判らない。判らないからこそ、夜と言う時間への恐怖感…否。警戒感は強くなってしまうのだ。

「…回り道にはなるけど、こっちの方が早く集積所に着くかな?」

皮に包まれた靴底の鉄板が、急ブレーキをかける様に石畳を滑った。
皮の表面に附着していた油脂が少しだけ焦げ臭い香りを発し、少年の瞳が覗き込むのは暗い隙間道。
ひょい、と覗き込むがそこに音はなく。音がなければ――誰も居ないのだろうかと――何時ものルートとは違った、夜道を急ぎ足で駆け出す。

リューテ > 夜が『怖い』のではなく。夜が『善くない』で済むのは、自身の魂に。本能に根ざす魔王の一欠けらの為。
夜という時間でこそ、その一欠片は支配する力を発するのだ。
…もっとも。魔王の意識とはいえ、少年の意識とは水と油に等しい。
影響こそ及ぼすが、決定的な変質――人ならざる存在の意識へと変貌を遂げるには、何かの切っ掛けがなければならない。

精々、今の状況では少年の本能――色事に興味を持たせ。
捨てられたヨクナイ本や、異性への興味を抱かせ、少年の内部に蓄えられた魔王の種を異性――母胎へと植え付け、力を取り戻す手掛かりとさせるべく興味の矛先を変えてしまうだけの存在だ。

裏通りに脚を踏み入れると、明らかに空気は変わる。
夜風が優しく肌を撫でる表通りと異なり、その空気は優しいながら――肌を値踏みするように舐めまわす。実態こそ無いが、不安を。不穏を本能へと告げる妖精のような存在感だ。
其処にはいない。其処にはない。なのに――居る。在る。…いや、有る?それらへの猜疑心を強く持たせる、闇への誘い水。
不安は。不穏は伝播する。――もっとも、そこでの不安や不穏を『命の危険』とは捉えられないのが――少年の、魔王によって蝕まれている本能の代償というところだろうか。

リューテ > 「ゆっうしゃっーゆっうしゃー。うーるわーしーのー。」

小さいながら口ずさむのは、東国の英雄譚。
魔王を倒し、そして人知れず表舞台からは消え去った伝説の英雄を讃える為の唱。
魔王の一欠けらからすれば面白くもない。
その唱に出てくる討伐されし悪逆の限りを尽くす魔王とは己の事であり。
表舞台から消えてしまったが為に、その勇者達への復讐もまた遠い道のりとなってしまうのだから。

自らを討伐し、配下すら全て討ち尽した勇者。――が。殺意は覚えないのだ。憎しみはある。怒りは――無いといえば嘘にもなる。
だが、面白さも感じるのは否定が出来ない。人とは、情欲に溺れ、愛に溺れ。
義理に縛られ神に平伏す。そんな存在が自分を討つ事など、正に最後の瞬間まで考えたことすらなかった。
剣に莫大な魔力と、天運により与えられた黒雲からの雷鳴。
二つを備え、崩壊、暴発をさせぬ最大限の均衡を保たせながら自らの核を貫きすべてを解放させて肉体どころか魂のほぼ全てすら消滅させた勇者達。

死という苦痛から逃れた今だからこそ、脳裏に過ぎるのは素直に賞賛する意識と――だがそれでも、完全に負けたわけではないという子供染みた負け惜しみ。

「てんへとーかえーるー」

それだけに。勇者の存在が、足取りがつかめなくなった事は腹立たしいのだ。……まさか本当にこの世界ではない、別な神々の世界へとでも旅立ったというのか。
勝ち逃げなどされてたまるものか、と言う意識が、唱を口ずさむ少年の表情に少しばかりの怒りの色合い。目元が少しだけ釣り上がり、眼光鋭く――少年の穏やかな表情から、優しさという色合いを薄めていくのだった。