2017/09/01 のログ
リン > 「いやあ、僕給仕は素人なんで作法とかわからないんですよね」

しれっとそんなことを言う。そういう問題なのだろうか。
席で煙草を嗜む美女は、雑駁とした様子の酒場の中にあっても妙に絵となっていて、思わず仕事も忘れ少しの間魅入ってしまう。

「あ……はぁい! お待ちを~」

目が合う。注視していたのに気づかれたかもしれないと、ぎくりと身体がこわばる。
普段から自分のことを美少年と嘯いては居るが、格の違う相手には萎縮せざるを得ない。
ともあれ台所に注文を伝えにゆき――しばらくすれば給仕の少年は
おとなしく注文通りのラム酒を席へと届けるだろう。

ナイチンゲール > 「素人?とすると、普段は給仕として働いていないということか。なるほど、忙しい日に助っ人として呼び出されたんだな。通りで初々しいと思った」

少年の返答に微笑ましい気持ちになりつつ、注文を告げれば彼は慌てて背を向け台所に入っていく。微かに染まった頬にまた口角が上がる。少し大人びてはいるが、まだまだ可愛い少年だ。決めた、酒の肴代わりに可愛がってやろう。
女はあの少年と目が合った瞬間そう考える。そして、注文したラム酒を持ってやってきた少年に、柔らかく微笑みかけるのであった。

「ありがとう。……ああ、そうだ。君、私の晩酌に付き合ってくれないか。この通り、一人で呑むのも寂しいもんでな。丁度相手が欲しかったところなんだ。なに、チップも弾むし、何よりつまらない仕事をしなくて済む。そう悪いことはないだろう?」

頬杖をつき、少年にそう告げる。ラム酒を受け取る際にそっと少年の手に触れ、なぞるように指を動かして妖しく誘い込む。

リン > 「ヒエッ」

妖しい手つきで指が滑らかに己の手に触れれば驚いた声を上げるが、振り払いなどはしない。
口角などド正直にニマニマと上がっていた。
このような美女にこのような誘いをされることは彼にとって稀な話であった。

「そういうお店じゃないんですけどね~、困っちゃいますよ~」

そんなやりとりをしていると、示し合わせたように隣の椅子が空いたので、当然のようにそこに座ってしまう。
何かの罠ではないかとも疑わないでもなかったが、だからといって断るわけがなかった。
なんにせよ、退屈で面倒な給仕よりも全然いいのは間違いないのだ。

「ぼくはリン、普段はしがない楽器弾きをやっています。おねえさんは?」

にこりと微笑み返して。

ナイチンゲール > 「おっと、迷惑だったか?それにしたって少し嬉しそうに見えるがな。
……ふふふ。なら、おしゃべりだけでいいさ。私も別に初対面の人間を『そういうこと』に誘うつもりはない」

困ってるのか困ってないのか、言葉と表情が相反する少年にそう告げつつ。しかし少年が丁度空いた席へと座るのを見て、満足そうに頷いた。
少年の手に触れていた己の手を離し、年頃の少年のように微笑む彼の問いに答える。

「私のことは『ナイチンゲール』とでも呼んでくれ。普段はその辺で自由気ままにふらふらしているな。……まあ、そんなことはこの酒場に来る時点で察しているだろうが。
普段はこの酒場で楽器を弾いているのか?私はたまにこの酒場に来るが、君が演奏をしているところに出くわしたことがなくてな」

己の名を名乗った後、話題を広げるべく質問を投げかける。彼の演奏を聞いたことがない間の悪さが悔やまれるものだ、とナイチンゲールは思った。

リン > 「なに、嬉しすぎて困ってるんですよ」

彼女が離した己の手を、なんともなしに見つめる。

「“小夜啼鳥”とは、洒落た呼び名ですね。声も美しいあなたには合っている。
 まあ、毎日励んでいるわけでもありませんから。
 あのピアノや、……ヴァイオリンを。ヴァイオリンのほうは、ほとんど人前じゃやりませんが」

落ち着きを取り戻して目を細め、壁際の、今は奏者のない古ぼけたピアノを指で指し示す。

「剣も魔法も素人で、かろうじて出来るのは楽器と言った塩梅で。
 この乱世、日々を過ごすのも大変ですよ」

愚痴るような言葉だが、語る表情は朗らかである。女性と話せているのが嬉しいのだろう。

ナイチンゲール > 「『夜に啼く』から小夜啼鳥……といったところかな。お褒めいただきありがとう。
ふむ、ピアノとヴァイオリンね。どっちも聞いてみたいが……あまりバイオリンの方は好きではなさそうだな。表情でわかる」

彼が指差すピアノの方を彼女も見遣り。楽器が弾ける腕があって羨ましいことだと呟いた。

「私もそんな具合だな。自分の特技を使って日々を凌いでいるが、どうにも。お互い生きるのが大変だなあ。ま、それが面白いんだが」

大変だという少年の言葉に同意する。だが、同じくそのことについて苦には思っていなさそうだ。微笑みを崩さず楽しげに話す。

リン > 「騒がしい時と場所じゃなければいくらでもお聴かせするんだけど。
 ヴァイオリンは……ヴァイオリンが嫌いというか、
 ヴァイオリンに嫌われてるというか」

少しだけ苦く眉を寄せ、なんとも要領の得ない事を言う。
今彼の手元にはヴァイオリン――《アクリス》はない。
店のカウンターの裏側に置かれていた。

「ナイチンゲールの特技って何? ……魔法の類かな?」

どことなく魔女然とした雰囲気から、そうではないかと見当をつけて。

ナイチンゲール > 「ふうん?なんとも曖昧な答えだなあ。嫌われている……意思を持つバイオリンとは面白いな。少なくとも、君のバイオリンはただのバイオリンではなさそうだ」

少し苦い表情を浮かべる相手に、やはりバイオリンに何か秘密がありそうだな、と推察する。非常に興味深いが、あまり根掘り葉堀り聞いても彼が嫌がるだろう。それ以上追求しないことにした。

「魔法……まあ正解だな。といっても、大したものじゃない。ただ『魔法薬』を自分で作って売っているだけだ。派手な魔術師のように魔法で飯を食っているわけじゃないのさ。といっても、『魔法薬』を道端で売って金を稼ぐ方が楽だからやっているだけなんだが。堂々と魔法を使うと目立つからな。面倒なことが度々起こる」

と、自らの生活の糧について語る。道端で薬を売ってぼんやりするのが一番性に合っているのだと、肩を竦めつつ言う。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」にナイチンゲールさんが現れました。
リン > 「察しの通り、ぼくのヴァイオリン――《アクリス》はいわゆる呪いの楽器というやつで。
 今も呪われています。むしろ好かれているのかも、迷惑なことに。
 興味ある? 話すとちょっと長くなるけど……」

呪いの詳細について喋るのは内容が内容だけに少々恥ずかしくもあったが、
それ以上に説明して理解されるかどうかが怪しいというのも大きい。

魔法薬を商っている、という言葉にほうほう、と興味深げに相槌を打つ。
そういえばある知り合いも魔道具を製作して商売にしていた。

「ちゃんと商売に出来るだけすごいと思うけどね。
 ぼくは楽器ができるとは言え、如何せん半端な腕で。
 ……ちなみにどんな薬が売れ行きよかったりする?」

そう尋ねるリンの視線には素直な感心があった。

ナイチンゲール > 「『アクリス』……どこかで聞いたことがあるな。確か魔界の住人によって作られ、弾く者に呪いを与えるとか……。どんな呪いかは忘れたが。
言いたくないのなら言わなくてもいい。無理には聞かないさ。興味はあるが……些細なものだ」

呪いについて思い出そうとするも、なかなか思い出すことが出来ない。そろそろ歳かな、と思いつつも、話そうとする目の前の少年に対してやんわりと断った。過去の傷を掘り起こす気にはなれない。

「そうか?私も大した薬売りではないがね。そう言われると益々聴きたくなるな。また今度聴かせてくれないか?いっぱいのチップを持って君の演奏を聴きに行くよ。
……そこが気になるか。ふふふ、やはりこの街で大体売れるのは……そういうことに使ういかがわしい薬さ。かなり需要があるから、材料集めにも苦労するよ。
……リンはこういうものに興味ないか?今ならお試しに一瓶やろうか」

いたずらっぽく笑い、腰のポーチから薬瓶を取り出しカウンターに置く。瓶の中には薄桃色の液体が入っており、揺らすととろりと粘度がある。感度を上げる薬だ、と彼女は告げた。

リン > 「うん、うん。ぼくの知識と大体合ってる。
 ……そう。じゃあやめておくよ」

そう言われれば敢て口にすることもないだろうと、リンはさしたる未練もなく語るのをやめた。
いかがわしい薬、と言われて取り出されたる、いかにもと言った色合いの薬にまばたきを一つ。

「へぇ。これが……まあ、興味あるかと聞かれれば、それはもう。
 これは飲み物に混ぜたりして使うのかな?」

美女にこんなものを出されて、思わず一瞬身構えてしまう。
瓶を手に取り、角度を変えてはランプの光に透かし、中の液体を観察してみる。

ナイチンゲール > 「あるいは直接飲ませるとか。なかなか面白いことになるぞ。
……試してみるか?まだまだこれから時間はある。この酒場から近いところに、小さい宿があるんだが」

まじまじと薬を見る少年の耳元で、吐息混じりにそう囁き。その反応を楽しみつつ、熱っぽくジッと少年を見つめる。少しばかり濡れた翡翠の瞳は、彼女が『いかがわしいこと』に誘っているのは明白で。

「うん、そうだな……。君にはこの媚薬のテスターになってもらう……とか。この酒場の給仕の仕事よりも多く出すさ。だから一晩だけ……ちょっと私に付き合ってくれないか?」

蠱惑的な笑みをその細面に浮かべ、少年に誘いの言葉を一つ。無防備な少年の背中に手を伸ばし、ツツ……と背筋を人差し指でなぞろうとする。甘い声色は、少年の鼓膜に張り付いて離れないかもしれない。

リン > 「……っ!」

耳元で囁かれ、背筋を撫でられて、身体を震わせる。
濡れた眼差しに怯むも、しかしそれから逃れようとはせず、受け容れる。
あるいは、視線を外すことができないだけかもしれない。

「……なら、はずんでよ、報酬」

悩ましげに眉を下げ、口元で薄く笑み、少しばかり熱を孕んだため息を吐く。
彼女にどこかに誘うというなら、それに付き従うだろう。

ナイチンゲール > 「……勿論。幾らでも出すさ」

視線を外さず、こちらをジッと見つめる少年に、ニィッと歯が見える程口角が上がる。誘いに乗った少年の悩ましげな溜息が愛らしく、少しばかり気持ちが昂ぶる。

「じゃあ、行こうか。マスター、お勘定。あとこの子も借りていくぞ。埋め合わせはまた後日しておくさ」

酒の代金をカウンターに置き、残りのラム酒をぐいっと煽る。そして椅子から立ち上がり少年の手を取り、そっと熱く指を絡ませつつ誘導するように手を引こうとするだろう。

「何、退屈はさせないさ。それに、君がこれまで感じたことのないくらい気持ちよくしてあげよう」

酒場の喧騒に搔き消える程の小さな声で、少年の耳元に唇を寄せまた囁く。そしてにこりと微笑みかけて、少年の手を引き店を出る。
二人の姿は、街の闇へと消えて見えなくなっていくことだろう。

ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」からナイチンゲールさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/酒場」からリンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にライムウェルさんが現れました。
ライムウェル > 平民地区の通りにある、とあるカフェ。
オープンテラスとして設置された席の一角に陣取って、優雅に茶を嗜むタキシードの男…は当然の様に浮いていた。
その他の席は埋まっており、相席となる程の盛況ぶりではあったものの、この男の席には1人が座るのみなのだから諸々お察しあれ。

茶を嗜みながらも視線は通りに向いており、道行く人を見ながら時折腰を浮かしかけ。
いやいやがっついてはなるまいと、葛藤染みた仕草を取りながら今は茶を味わう事とした。
そう、妄りに声をかけてもうまくは行かぬと学習をしたのである。それが実を結ぶかどうかは定かではないが。

それでも道行く人の中に、これぞ、と琴線に触れる人が居れば飛びつかんばかりの勢いで声をかけにいくのだろうが。
尚、先ほどから追加の客が来ては相席はあの席しか…と定員に提示され、諦めて帰る人多数となっている模様。

ライムウェル > 暫しそうして茶を楽しみ終えると、休憩はお終い。
代金を支払った後、大通りへと飛び出していくタキシード姿の男の姿があるのだった。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からライムウェルさんが去りました。