2016/10/31 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」に砕華さんが現れました。
砕華 > (夕暮れすぎの、マグ・メール。
夕闇に染まり始めた町並みは、いつもと変わらず、にぎやかなものだった。
学園帰りの学生が、どこかで寄り道でもしようかと、歩きながら話している。
夕食の買い物の帰り道、すこしだけ贅沢をしようと、家事の合間をぬって、主婦がカフェテリアで、井戸端会議。
いつもと変わらない、マグ・メールの町並みを、一人の老人が、右手をひらひらと振りながら、歩いていく。

頭の上には、団子や饅頭を思わせるような、大きな塊が一つ。
布の中に包まれているのは、長い長い白髪を纏めている、シニヨンと呼ばれている、髪型だった。
やわらかな微笑を保つその顔は、聖人を思わせるほどに温和で、この人は怒りを憶えるのか?というような疑問が、浮かびそうなほど。
マグ・メールではまず見かけられないような、見事な青い竜の刺繍が施された、丈の長い服装。
身長が、少し低めに見えるのは猫背だからだろう、左手が腰に当てられている。
しかし、足取りはしっかりとしていて、向かう先は馬車の停留所。

その後姿を、砕華が、深く深く腰を折り曲げ、一礼をしながら見送っていた。
かの老人こそ、砕華が『老師』と慕い、製薬の技術を、骨の髄まで叩き込んでくれた、恩人であった。
『紅一朝』の前で、砕華は涙すら浮かべながら、恩師の背中が見えなくなるまで、見送っている。)

「老師!本当に、本当にありがとうございます!」

(その背中に、砕華は精一杯の礼を投げかけた。
ひらひらと、何も変わらない老師の行動に、ますます感謝の念が浮かばざるをえない。

店が半壊して、しばらく。
ようやく、店の改装も終わり、後は製薬の道具が届くのを待つだけ、というときだった。
早くても、届くのは後3日はかかるはずの道具を、わざわざ老師が届けてくれた。
曰く、手紙を貰ってから、すぐにシェンヤンを発ち、ここまでやってきてくれた。
それも、送ってもらおうと思っていた、製薬道具一式を持って。)

砕華 > (老師曰く、『可愛い弟子が、困っているときに手を貸さぬ師匠はいない』、とのこと。
らしい言葉だが、様子を見るついでに、壊れてしまった製薬道具を届けに来てくれた、という事だ。
せっかくだし、今日一晩は泊まって行っては、と誘った。
しかし、老体にはあまり、この国の空気は馴染めないらしい、丁重に断られてしまった。
孫の顔が早く見たい、とか、店を閉めるわけには行かない、とか。

どちらにせよ、老師の顔を見られた上に、励ましの言葉までもらえた。
砕華にとって、少し落ち込み気味だった気分を、活性化させるには十分すぎる。
老師の背中が見えなくなり、ようやくその頭を上げた砕華は、意気揚々と店の前に掲げていた、『臨時休業』の看板を外した。)

(ようやく、薬屋『紅一朝』を再会できる。
襲撃を受けてから、およそ1週間、その間に傷も大分癒えてきた。
間接を外された肩も、廻せるほどに言えたし、内臓のダメージもかなり治った。
もう、違和感も嘔吐感も感じない故、薬を作るのに、支障などもはやどこにもなかった。

とはいえ、既に時間は夕暮れ時。
いつも、店を閉めるのはこのくらいの時間だ。
少し名残惜しそうに、砕華は掛けていた暖簾を外し、店の中へと片付ける。
明日から、通常通りに営業できるのは、かなり助かった。)

「何とか、徴収に間に合ってよかったよ…。
明日頑張れば、商人組合に文句言われなくて、すみそうね。」

(正に、老師様様だった。
月に一度の、場代として、商人組合にださなければならない、売り上げの一部。
それが足りないと、この店は貧民地区に移転、という事にもなってしまいそうだったので、老師の来訪は正に、天の助けであった。)

砕華 > (暖簾を片付けた後、しばらく砕華はカウンターの前にい続けた。
真新しい、製薬道具を手に、喜びのあまり、薬を作り続けた。
その姿は、見たものが恐怖するホド、喜びに満ち溢れていたという。)

ご案内:「王都マグメール 平民地区」から砕華さんが去りました。