2016/10/20 のログ
ご案内:「王都マグメール 平民地区」に砕華さんが現れました。
砕華 > (日はまだ高く、むしろこれから、昼下がりに差し掛かってくる、時間。
石畳を走る、子供がきゃっきゃと喜びながら、今日の昼食を、母親に願っている。

「今日のお昼は、ハンバーグがいい!」
「それは、昨日食べたでしょ。今日のお昼は――――」

そんな、明るい家族の会話が、そこかしこで響いている。
八百屋の主人もまた、今がかき入れ時と、声を張り上げて、手を叩いて、少しでも注意を引く。
向かいの、魚屋が逸れに負けじと、大きな魚の尾を掴み、高く掲げて、手で声を響かせて、叫ぶ。

マグ・メールの活気は、完全に以前のものを、取り戻していた。
第七師団壊滅の話は、もはや過去の話なのか、誰も話そうともしない。
ただ、いつものように、噂話から、世間話へと移り変わり、そして談笑へと変わっていく。
いつもと変わらない、マグ・メールの、商店街の風景。)

「………………そろそろ、焼けたかな?」

(その商店街の、入り口でもあり、出口でも在る場所。
『紅一朝』と、大きく書かれた看板の店の中で、砕華はカウンターの向こうに、腰掛けていた。
いつもは、薬を調合する際、細かく砕いた薬草を、炒る為に使っている、火と金網。
今日は、その金網の上に、白米を炊き、三角の形に握った塊を、乗せていた。
その、塊には、薄い茶色の、糊のようなものが塗られ、それが火で炙られると、焦げ目からとても、香ばしい匂いが、立ち込める。
いつもは、故郷の家庭料理である『ミソシル』の源になる具材、『ミソ』を、この塊の上に塗って、そして焼いているのだ。
水に溶かしても、美味しいミソだが、焼いても、とても香ばしくて美味しい。

砕華は、白米を握った塊を、『オニギリ』と、呼んでいる。
米を炊き、白飯にしたものを、手で握るだけの簡単なものだが、アレンジの方法が様々。
今日は、逸れにミソを塗り、ソイソースでもう少し、味にパンチを効かせて、最後にこれを、形が崩れないように、丁寧に焼く。
部屋の中は、いつもの薬の匂いではなく、ソイソースとミソが焼ける匂いが、充満していた。
これだけで、空腹が助長され、小さく腹の虫が喚く。)

砕華 > (砕華は、オニギリの横っ腹を、つめの先で挟むようにつかみ、手早くひっくり返す。
火に炙られていたミソは、香ばしく焦げ目をつけて、見た目にも色鮮やかになっていた。
熱されたオニギリに、しみこんだソイソースの、焼ける匂いもまた、食欲をそそる。

火で炙っただけのそれを、調理と呼んでいいものかは、定かではない。
しかし、手軽に出来るミソ塗りオニギリは、店番をしている今でも、手軽に食べられる、万能昼食であった。
シェンヤンで、修行をしている際も、何度もお世話になった、(一応)得意料理の、一つである。)

「もう、焼けたね。…ほんとに、待ちくたびれて、お腹と背中が、くっ付くところだったよ。」

(大袈裟な表現だ。実際に、お腹と背中がくっ付く、などとありえるはずがない。
だが、それだけ空腹だったと、此処にいない誰かに語りかけるように、開いているのかいないのか、わからない目で。
砕華は、金網の上に載ったオニギリを、両手のつま先で持ち上げると、笑顔で、一口、そのオニギリの、先端にかじりついた。

まず感じるのは、米の甘味。
香ばしく焼きあがった、表面が堅く、中がしっとりと柔らかい、いくつもの米粒から感じる甘味。
其処に混ざるのが、ソイソースの香ばしさ。
発酵させたものの汁であるが、火で炙られたソースは、米の味をより一層、引き立ててくれた。
最後に、それを包み込むように、ミソの味がやってくる。
マグ・メールでは味わえない、三重奏に、砕華は少し、故郷を思い出した。

もぐもぐ、もぐもぐ。

何度も、味わうように噛み砕き、少しずつ、少しずつ飲み込んでいく。
アツアツのミソで、口の中が火傷しそうだが、そんなことは構いはしない。
ごっくん、と最後は一口に、口の中で細かくなったオニギリを、一思いに飲み込んで。
そして、悦に浸る。この昼食は、いつになっても、いいものだ。)

「ああ……美味しい。」