2016/06/26 のログ
■ジブリール > 「……マルティナ嬢が私の首に牙を突き立てようと言うのなら、噂を超えた恐怖を示すわ。でも、そうはならなさそうだから、今の私は淑女なのよ」
噂の魔女がどのくらいの恐怖を示すかは知らないが、少女の内に秘めたる力は魔王と対等に一人で張り合える程度のもの。
手持ちの宝石を全て砕けば、一瞬という限定の上で魔王より上に立てる自信すらある。
そうしないのは、少女が歴史家として人も魔も神も関係なく愛していることと、比較的怠惰な気質のせい。
敬われるのも面倒だから、とりあえず普通を望むのである。
「それは重畳。店主も喜ぶでしょうね――ふふ、気前はいいわよ?魔女の手遊び《ウィッチクラフト》で薬売りをしているものだから。それと、あなたのような冒険者稼業の力添えと、呪いや魔法の分析と解除……そして何より」
懐から取り出すのは新品のスクロール。中に書かれているのは物語だ。
最近それなりに人気な、大衆娯楽用の歴史小説――その原版である。
「印税収入、ってやつがね?寝っ転がってても入ってくるから、お金には困らない立場なのよ。おかげで、こう、退屈ってやつに毎日殺されそうになってるけれど」
言葉のニュアンスから意図を汲み取ると、そっと言葉を作り出す。
割と明け透けなのは、想像で何かを足されるのが嫌だから。
目の前の彼女は礼儀や機微を読む感覚にも優れている様子――それもまた、好ましく思えた。
好感度急上昇中、と言った感じである。
■マルティナ > 標準的な魔女の実態は知らないが、少なくともジブリールは倫理や良識をまともに持っているようで一安心。
噂を超えた恐怖がどんなものか気にはなるがそれを確かめるつもりはない。
「なるほど作家のような事もするのですか……。意外、というのも失礼ですけど本当イメージ以上に人間的というか俗世的なんですね」
お金に困らないというのは素直に羨ましい限り。
とはいえ簡単に真似出来る事でもないのも分かっている。
それだけ売れるにはかなりの教養や体験がなければ相応の物を書けないのだろう。
試しに自分の体験で何か書き物になりそうなものはないかと回想をしてみるが、魔族に捕まって調教されていた頃の体験を本にしたら少なくとも刺激的ではあるなあと半ば自虐的な感想が出てきた。
とりあえず確実に、おおっぴらに売れる内容ではない。
苦笑いしながらそんな事を考えていると、調教を思い出したせいで衣装の下で男根が勃起しかけるが伸縮性のない布地に阻まれ激しく揺れる。
■ジブリール > 「ん、私は人も魔も神も、その全てを好ましく思っているからね。歴史家として、どれが欠けても世界は面白くなくなってしまうから」
少女は魔女であり観測者――世界を眺めて楽しむ存在。
だから世の中にも紛れ込むし、時に気まぐれで手を貸したりする。
言い換えれば少女は、好む全てが絶えないように、調整する存在なのである。
無論、それとは別にかわいい男女を引っ掛けて閨をともにしたり、わざと力を封じて獣や魔物に屈服することも暇つぶしと称して行ったりする。
天衣無縫の自由人、そんな表現が一番かもしれない。
ミルクを七割方飲み終える頃、ふと横を見れば彼女の纏う気配が僅かに変わっている。
色で言えば先程までの温和な暖色から、桜色の――発情を帯びたような感じ。
何を思ったのだろうか、とは思えど、流石に人の頭の中を覗くことまでは出来ない。
故に、そっと手を伸ばし、彼女のしっとりとした肌に指をすべらせるようにして。
「……それは衝動的にそうなる仕組み?それとも、何か考えてしまったのかしら?――とは言え、そうね……今の私は気分がいいから、お友達としてお願いを聞いてあげてもいいわよ?」
告げるのは、迂遠な誘い。強請りを口にさせるのは、何に喜ぶかを見たいから。
彼女が素直に告げるなら良し、そうしないのであれば、勃起した肉棒の根本、精を作る器官たる陰嚢を転がすように攻め立てるだろう。
すでに、彼女を閨に誘おうと考える程度には好いている――それこそ、交わり以外を強請られた時に、余程の無茶でなければ頷いてしまうくらいには。
だから、こうして軽く弄ぶのにも、抵抗はなかった。
■マルティナ > 迂闊な回想のせいで勃起しかかっているのを、体を隠す事は飼い主に禁じられているためにそのままにしているとやはりジブリールに見咎められる。
「お、お願いでしたら……、あんまりこの事を言いふらさないで頂ければ助かりますけど……」
この衣装にも大分慣れてきて日常生活を送る分には特に問題はないのだが、ふとした拍子に勃起しかけるとそこからが大変であった。
完全に勃起する事はなく布地に阻まれ、さらに勃起しようとする動きに衣装が引っ張られ尻穴に挿入されたアナルビーズが腸内を刺激する。
それにより更に勃起が促され……、解消する手立てがないまま悪循環を続けてしまい、今もジブリールの前で股間がのたうっている。
本音を言えばすぐにでもジブリールの体でこれを解消したいと思っているのだが、折角友人になってくれそうな人物にそんな事は言えないと我慢してしまうのであった。
■ジブリール > 「……えぇ、構わないわ。望まないことをする気はないもの。ただ、早めに発散しないと辛いわよね?そういう風に、なっている気がするし」
彼女の体が具体的にどの程度改造されているか、どの程度調教されているかはわからない。
だが、それでも彼女の体が発散を求めていることは一目瞭然だった。
衣装の構造上、際限ない悪循環に囚われている様子だが、それをお首に出そうとしない。
――気丈ね、という評価を下すと、そっと手を伸ばし、彼女の頭を撫でながら。
「――仕方ないわね、今回は私から誘ってあげる。ちょっと虐めることになっちゃうけど、それでもいいなら今夜一晩、私の寝床を温めてくれない?報酬は――」
ふむ、と少し考えてから、ぽん、と手を打って。
「マルティナ嬢の望む魔法が込められたアミュレット一つでどうかしら。呪い避けでも魔物殺しでも、使い切りで一回分。乗ってくれるなら手をとって?」
そっと手を差し出す。店主には今夜の晩餐の分を翌朝の弁当に回せと告げて。
彼女が手をとってくれるならば、少女は転移の呪文で自らの家へと彼女を連れ込むことだろう。
何もかもが揃う、何処にでもある部屋――そんな、魔女の工房へ。
■マルティナ > 色々と自分に言い訳したが誘われてしまっては仕方がない。
何にしても理性の限界を迎えるのは時間の問題である。
「ご、ごめんなさい……。お言葉に甘えます」
日に焼けた顔を上気させながら、差し出される手をとった。
「あ、あの、報酬とか気遣いとか結構ですので、ジブリールさんのお好きなようにして頂ければ……」
ここまで気を使われた上に報酬まで貰ってしまってはかえって居心地が悪いというもの。
手を取りながら、ジブリールにそう囁いた。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 とある酒場」からマルティナさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区 とある酒場」からジブリールさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にノエルさんが現れました。
■ノエル > 軽武装をして、平民地区をパトロールのために歩いている小さな騎士。
先輩騎士の命令で、平民地区の見回りをおこなっているのである。
「特に、問題はないですね……」
とくに争いごとのある要素はなく、今日の平民地区はいたって平和である。
日はもうすっかり落ち、ランタンを手に辺りを照らしながら歩く小さな騎士は、そのまま人通りの少ない路地裏へと向かっていく。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」にイニフィさんが現れました。
■イニフィ > いつもはもう少し騒がしいと思う平民地区。
確かに、このマグメールではそれなりに治安もよく、そして活気もある。
だけど、今日に限って言えばそこまでのものではないかもしれない。
「……週末、だしねぇ。」
その所為で人が外出を控えているのだろうか、とイニフィは少し考えていた。
さすがに此れだけ人がいないともなると、理由はそれくらいしか考えられない。
静かな町を歩きながら、イニフィは少し涼しい夜の散歩を愉しんでいた。
「…さすがに、ね?」
此れだけ人がいないなら、路地裏にいくのもいいだろう。
さすがに泥棒なんかも、このあたりにはいないだろうと言う割りと気楽な考えだった。
くるりと方向転換し、路地裏のほうへと―――足を運んでいく。
■ノエル > ランタンを照らしながら、見回りをしている小さな騎士、
今日は人通りも少ない上、路地裏も人影を見ることはない。
「今日はこのまま何もなさそうかな、戻って報告書を書かなきゃ」
そう小さくつぶやいていくと、表通りから人が路地裏に入ってくるのが見える。
ランタンを掲げ相手を見れば、町娘が一人路地裏に入ってくるではないか。
「お姉さん、人通りが少ないですし路地裏を通るのは危ないですよ」
そう注意を呼びかけながら町娘の方へと近づいていく。
■イニフィ > 路地裏に入るのは別に初めてというわけではない。
勿論危ないことは重々知っているけれども、それでも興味本位ではいることもある。
まあ、危ない目に合うことも少しあるのだけれども、命がなくなるような怪我はほとんどなかった。
体を弄られるのは、まあ半分くらい趣味だと割り切っている。
男相手にするのは、実はちょっと―――というのも。
「…………あら?」
路地裏に入ったところで、ランタンの明かりが見えた。
珍しい、この場所に誰かはいってくるなんて、とイニフィは少し目を開いた。
そのランタンの明かりの主が目に見える範囲で近寄ってくると―――なんと可愛らしい。
ちょっとだけ、イニフィの悪い虫がうずきそうになった。
「え?……ああ、うん。そうねぇ…。
危ないのはわかってるんだけど、今日は月が綺麗だし…大丈夫かなってね?」
いや、しかし小柄で可愛いと本気で思う。
雰囲気的に女の子かな、とはおもうけど男の子かな、とも思う。
中性的では、さすがのイニフィも判断がつかないのだった。
ただ、その服装からしてあの堅物系なのかな、とは思うけども―――。
だけど、ノエルにはこの娘の雰囲気は、少し異様に感じるかもしれない。
■ノエル > ランタンを照らし、顔が見えると
町娘というかお姫様という感じであった、ノエルは少し呆けた表情をしながらイニフィの顔を見つめていた。
「あ、あの……綺麗な方でしたらなおさら危ないです、
この先は特に人がいませんでしたし、何かあった時助けを呼んでも誰もこないかもしれません」
一瞬顔に熱を持ってしまうが、すぐに冷静さを取り戻し、再び注意を呼びかける。
この女性から感じる異様な雰囲気、それはノエルからすれば恐怖のようには感じなかった。
恐らくそれは同族間における感覚、上位種に対する憧憬の念であることは、この時はまだ自覚はしていなかった。
「もし、目的地があるのでしたらそこまでお送りしますがいかがいたしましょう?」
騎士たるもの、か弱き女性を守らなければならない。
幼少期から身に染み込んだ騎士道精神からか、イニフィに目的地までエスコートすることを提案する。
彼女の正体を知ればそんな事は言わなかっただろうが、ノエルにはまだ経験が足らなかった。
■イニフィ > 「あらやだ、綺麗って私に言ってるの?」
女である以上、そういう可愛いとか綺麗という言葉には弱かった。
頬に手を当て少し嬉しそうな照れ笑いを浮かべるものの―――近寄られた瞬間に、イニフィはノエルの雰囲気に気づいた。
(あら……この子…。)
―――自分と同じ質の気配を感じた。
こういう気質を持っているものがまさか騎士の中にいるとは思わず、イニフィは思わず頬を緩めた。
近頃、イニフィはその魔力をどんどん上げていた。
それまでは、同族に手を出すことなどほとんどなかったのだが、下位の者は手篭めにするようになり始めていた。
クス、と浮かべるその笑みは、とても妖艶なもので―――。
「ん、大丈夫よ。特に目的があって歩いてるわけじゃないの。
まあ、食後のちょっとしたお散歩ね…。ところで、貴方女の子なの?」
顔立ちがどこか、そんな風な印象を見せる。
可愛い男の子―――というよりも、女の子に近いその仕草が垣間見えた。
逸れに物腰、まだ年が若いというのもあるのだろうけど、少しだけ男の子よりも丸みがある。
同性というのもあり、イニフィは彼―――も問い、彼女が女の子ではないか、と結論付けた。
甘い香りを漂わせながら、イニフィはもう一歩、彼女に近づく。
「ね、お名前はなんていうのかしら?私はイニフィって言うんだけど…貴方は?」
■ノエル > 「え、ええ、綺麗なお姉さんですから……」
イニフィの照れる仕草に思わずノエルの頬が熱を帯びてしまう。
彼は数カ月前までちゃんとした、ちょっと多感な13歳の人間の男の子であった。
直接淫魔の魅了の力は効かないものの、純粋にイニフィの姿に胸のときめきを感じていた。
「で、でしたら……すぐ表どお……はい!?」
女の子なのと問われれば、驚いた表情を浮かべる。
自分が女性である事は秘密であり、隠さなければならないことだ。
「い、いえ、ボクは男です……その、ちゃんと戸籍も男ですし」
彼女が一歩近づけば、思わずこちらも一歩後ずさりしてしまう。
「ボ、ボクはノエル、ノエル・ヴァンシュタイン……です」
思わず素直に名を名乗ってしまう、だが徐々に手のひらと背中は汗で濡れていく
イニフィに何か飲み込まれそうな感覚に、少しだけ恐怖に近いものを感じ始めたのだ。
■イニフィ > ―――思ったとおりだった。
周囲に放ち始めた甘い香りは、相手を発情させてこちら側に引き込むイニフィの魔力。
だけど、その効果が及ばないものがいる。
それは同族だ。
同じ気質を持つものにはこの効果は極端に薄くなり、その場合は魅了の効果も弱くなる。
発情を催さないノエルの雰囲気に、イニフィは間違いなく同じだという事を察知した。
けれど―――同族ならば自分の正体もあっさり気づかれるはずなのに、それがない。
此れはどういう事なのだろうか、とイニフィは少し考えた。
「ふーん……?だとしたらすごく可愛い男の子ね…?
さぞかし女の子にもてるんじゃない?」
そっちの気があるなら男にも人気がありそうだが、それはどうもなさそうだ。
クス、と笑みを浮かべながら、後ずさりするノエルの頬を優しく撫でようと、手を伸ばす。
「ノエルちゃんね…あ、いや。ノエル君くんか。
んふふ……ねえ、ノエル君?」
瞳を、赤く光らせる。
その気になったイニフィの瞳は、確かに恐怖心を煽るだろう。
だけど、それはまるで蛇のような威圧感にも、感じるかもしれない。
「お姉さんと……ちょっとだけ、イイコトしない?」
■ノエル > 先程から感じる不思議な感覚、それが同族が発するものだと知るのは、ノエルにとってはまだ先だった。
無理矢理に淫魔の身体にされたが為か、淫魔としての能力や常識はまだ持ちあわせてはいなかったのだ。
「そ、そんなことないです……今まで女の子と同席することとかもありませんでしたし」
厳格な家で育ったため、異性との接触というか免疫はほとんどなかった。
だからか、イニフィの誘惑には普通にどぎまぎしてしまっている。
そんな時頬を撫でられれば思わず背中にゾクリという刺激が走る。
「あ……だ、ダメです、ぼ、ボクはまだ仕事中ですから」
目を光らせる女性、恐らく人間ではない。
魔法で灯りを照らすランタンが手から地に落ち、
腰にぶら下げている剣に手を伸ばすが、剣を抜くことはできなかった。
いや、未熟な淫魔であるノエルの上級種である彼女に歯向かうことなど本能的にできないのである。
「だから、その……ボクは」
少し涙目を浮かべ、身体を震わせている。
彼女は魔物であり、討伐しなければならない、だけど身体が思うように動かない。
恐怖や悔しさ、様々な感情がノエルの脳裏に浮かんでいく。
数カ月前、無理矢理淫魔の身体に変えられ、父その同僚そして親しかった友人達に輪姦されたあの記憶もまた蘇ってくる。
■イニフィ > 魅了の力は通じない、けれどもその分言葉での魅了はどうやら相当効果があるらしい。
こういうとき、免疫があるならそれこそ冗談などで返せるんだろうけれども。
「あら、じゃあほんとに初心なの?…んふふ、それはお姉さんラッキーだわ?」
どうやら割りと上流階級に”潜んで”いたらしい。
そのことを聞けば、イニフィは余計に笑みを浮かべた。
だけど、ノエルの反応がどうにも人間にしか見えないため、やはり首をかしげる。
無理矢理淫魔にされたという事実を知らないため、この反応にはどうしても首を傾げてしまうのだ。
(んー…サキュバスには間違いないんだけど……なんか腑に落ちないわねぇ。
まるで私のことを気づいてない、見たいな感じがするわ…。)
いや、おそらく気づかれた。
剣に手を伸ばす、その仕草を見る限り―――自分を殺そうというのか。
しかし、イニフィはその手にすらそっと手を重ね、彼女を抱きすくめていってしまう。
くすくす、と笑みを浮かべ、その豊満な胸を押し付けながら―――。
『……んふふ、怖い?……いいのよ、怖がらなくて。
大きく深呼吸して、落ち着いて……?大丈夫、怖がらなくていいわ。…委ねちゃっていいのよ?
んふふふ……』
声と、そして雰囲気。それらに淫魔の魔力を載せる。
逆らうことの出来ないその体ならば―――優しく、優しく諭してやれば、心はきっと開いてくれるはず。
背中を撫で、耳元でイニフィは囁く。
言霊に魔力を乗せ、天使の様に悪魔のささやきを―――。
■ノエル > 「だ、やあ、ダメ……ダメです」
思わずノエルは少女のような声をあげてしまう。
女性の身体になってから、少しトーンが高くなった己の声、
それを押さえるようなしゃべり方をしていたのだが、ココに来てボロが出てしまう。
「……ひゃう!!」
そのまま抱きすくめられれば、その心地よさに思わず涙を流し始める
彼女の抱擁が幼い頃に亡くなった母をフラッシュバックさせるのか
それとも恐怖から解き放たれた安心感からなのか、ただ涙をぼろぼろ流し始めてしまう。
「あ……でも、やあ、ボクは……騎士、ボクは……男だぁ」
剣から手は離れたものの、騎士として、そして男としての意識がなんとか抵抗をしようとしている。
イニフィが抱きしめれば判るのだが、簡易な鎧、その鎧下の布地は熱いのだが、腹部はやや詰め物が多いように思える。
それは身体のラインをあえて隠すためのもの。
その下には少年ではなく、少女の体が隠れていることをイニフィであれば感じられるかもしれない。
■イニフィ > 男のものとは違う、少し甲高いその声にイニフィは余計に笑みを強めた。
やっぱり、とでも言いたげなその微笑を、ノエルには見せるつもりはない。
ただ単にボーイッシュなだけ、とも思えるかもしれないが―――何か、事情があるかもしれない。
「あら、可愛い声……んふふ。やっぱり女の子じゃない…。
どうして隠そうとしたのかしら……?」
涙を流すその様子を尻目に、イニフィはなおも抱きすくめながら諭していく。
何故泣いているのか、そしてどうして男のフリをしたのか、それが少し聞きたくなった。
身の上話を聞かされることになっても、イニフィはまったく問題はない。
むしろ―――彼女から聞かされるならば、親身になって聞くだろう。
『………抵抗するなんて…無理しちゃって…。
そんなに、貴方は張り詰めてるのかしら……?
…いいわ、受け止めてあげる……。ね、話して?…私が、話を聴いてあげるわ?』
耳元で、満たされていく少女に向けてそんな言葉を囁く。
ただ、抱きしめているだけだけどその鎧の下。
もっと深部の部分まで、イニフィは殻を破ろうと言葉の剣を衝きたてていく。
■ノエル > 「あ……あ、う、うわぁ~~!!」
ノエルは泣いた、おもいっきり泣いた。
父やその同僚、そして親しい友人が亡くなってから、ここまで泣いたことは無かった。
泣いてしまっては、死んでしまった人たちに申し訳がない、その気持ちが強く泣けないでいた、
だがイニフィに抱きしめられ、心を押さえつけていた要石が外されたのだ。
「ボク、ボクは……ボクは……」
そして泣くのが落ち着いてからノエルはイニフィに語り出す。
自分の生い立ちを、そして尊敬した父のことを
そして従騎士となり、初陣の際の悲劇のことも
王都に戻ってからの事も、冷たい王族の事も
初めて出会った相手、魔物かもしれない相手ではあったが
ノエルにとってイニフィは姉のように感じていた。
己の中に溜め込んでいたもの、自身が抱え込んでいたもの
その全てをさらけ出しても許されるような、そんな気がしていた
心を覆っていた防護壁は崩壊した、そしてノエルのことを全て話し終わった時、
ノエルは顔に涙のあとをつけながら、自らイニフィを抱きしめていた。
「……あ、あ、ボクは……」
そして全ての言葉を吐き出した後、冷静さを取り戻す、
自分は何故彼女にここまで話してしまったんだろう、
そう考えてしまい、このままでは自分が男として生きていけなくなるのではないか
父のような騎士になれないのではないか、そう思いが頭の中で交差し、再び震え始めてしまう。
■イニフィ > 人間が泣くところを見ることなど数は少なかった。
いや、別の意味で泣かせることは確かにあったけれども、それでもここまで大泣きする人間はあまり見たことがなかった。
それだけ、彼女は心に重い重い楔を打ち付けてしまっていたのだろう。
それが抜けたいま、彼女の心は無防備だ。
泣き止み、落ち着いてから彼女の事情を聞いた。
ようやく追いつけるかもしれないと思った憧れ、その憧れを失った悲しみ。
だけど、その失った悲しみをよりにもよって淫魔にずたずたにされ、体も穢された。
戻ってからも、全てはなかったことのように、捨て駒のように扱われて―――。
勿論初対面だし、そしてイニフィはノエルに何の縁も紫もない。
しかし、イニフィは知っているのだ。人間にとって―――どうすれば心が一番無防備になるのかを。
彼女も淫魔だけど―――ただ魅了して喰らい尽くすだけではない。
気に入った子を―――鹵獲する淫魔なのだ。
「……………いいじゃない。」
イニフィは、ふとそんな言葉を吐いた。
「悔しかったし、哀しかったわね……。皆、殺されて。
でも、その皆の分まで、ノエルちゃんは頑張ろうとした。…よく頑張ったわね。」
抱きしめてくるその小さな体を、イニフィは撫でていた。
くす、くすと笑みを浮かべ、まるで聖母のように―――。
「ねえ、ノエルちゃん……。貴方は、何に仕返しがしたいの?
自分の体を作り変えた淫魔に?…それとも…お父さんや友達を消耗品のように扱った貴族に?」
―――イニフィは、ノエルの心に語りかけた。
そして―――その矛先はどこにあるのかを―――促していく。
「…もしかして、ノエルちゃんがそういう目に合うのを知ってて……貴族は貴方たちを戦場に送ったんじゃないの?」
■ノエル > 心を解き放って、無防備な状態をさらけ出している。
そう心をここまでさらけ出してしまった相手には、信頼を置いてしまうのは人間の心理である。
徐々にノエルの心をイニフィは掌握していった、ノエルにとってイニフィはエルダーとして認識し始めていったのだ。
「え……その」
頭を撫でられれば、ますますノエルの心はイニフィに委ねようとしてしまう。
「あ、そのボクは男です……」
だが、男としての自尊心はまだちゃんと残っていた、
聞いてもらえるかどうかは判らないが、ちゃん付けは嫌と伝えて。
「ボクのしたいこと……」
そして頭のなかによぎったのは。
「仇討ちがしたい、ボクの身体をこんなにしたアイツに……父さんのみんなのジョセフの仇を」
そう仇に対する憎しみから身体を震わせる、そしてイニフィの口から放たれる意外な言葉にその顔を見つめてしまう。
「え? でも、あの戦場はボク達だけが向かったわけではないし……
その小規模ではありましたし」
ノエルはまだ知らない、この国の腐敗のことを、一部王侯貴族が魔族に繋がっていることも。
ノエルの父が腐敗した王侯貴族にとって、邪魔者であった事も知らなかった。
それほどノエルの父は高潔な人物であった。
だからこそ、高潔な父が、少女になった息子を陵辱するような行為を行わせる、そのプライドを踏みにじるような事をさせた
イニフィの指摘は、実は的を得ていたのだが、ノエルにはまだ信じられなかった。
「それと……男の身体に戻りたいです」
男の体に変身する力が備わってはいるのだが、まだノエルは自覚できないでいた。