2015/12/11 のログ
チェルトト > 「……わかってたって苦手なんだもん」

 彼の指摘に、チェルトトはそう答えてからぷぅと頬を膨らます。
 仏頂面のまま串に残っていた最後の肉を平らげ、くん、と、手首をしならせると、木串はひゅんと風を切って飛び、街路樹の根元へと突き刺さった。
 そうして両手を空けてからの問いに彼が答えると、チェルトトは乗り出していた上半身を引いて、硬い木のベンチにもう一度尻を落とす。

「……そんなことか。
 心配しなくても、多少動いたぐらいで見えやしないわ。
 誰かさんが急に発情して引っ張り下ろしたりしたらそりゃ別だけど……って、指ささないでよ」

 言いながら片手を伸ばして彼の指をぎゅっと握る。
 が、すぐに表情を緩めると、ぐいぐいとその手を開かせてそこに硬貨を乗せてから、カップを持って立ち上がり、チェルトトは彼を見下ろして言った。

「ま、いいか。とりあえずスープ買ってきてくれてありがと。
 あたし、もうちょっと食べられそうだしなんか探すことにするわ。
 じゃあね、坊や。熱いもの食べられるからって調子乗ってると火傷するから気をつけなさいよ」

 言って、ひらりと手を振ると、湯気を立てるカップを持ったまま雑踏の中へ……。

シオン > 思ったよりも、子供っぽい反応にかわいいと思ったが表情には出さないように気をつけた。
ねがられた器具氏の見事な投擲は凄いなと思うと、同時に狙いがそれて人に当たったとしたら大惨事になるだろうと思った。

「見えたりしないって言うか少し、見てるような感じがするんですけど…。
流石に人通りのあるところじゃ誰もしないとは思いますけどね」

先端が見えなければ問題ないとか言う考えなんだろう…でも気をつけたほうがいいと思う。
指さした指を捕まれて手を開かされれば硬貨が載せられた、先ほどのスープの代金であることにはすぐ気が付いた。

「熱いもの食べるときは気をつけてくださいね。
後、人を坊やって呼ばないでください」

名乗る暇はなかったが坊や呼びには少しだけ抵抗があったので反論していた。
相手はいなくなったがまだスープが残っているし、これをここで飲み干してから帰るとしようとベンチに座りなおした。

ご案内:「王都マグメール 平民地区」からチェルトトさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区」からシオンさんが去りました。
ご案内:「王都マグメール 平民地区/路地裏」にヴァイルさんが現れました。
ヴァイル > 夕刻。
猫の集まる場所と近隣住民に知られる、ある路地にふらりと現れたのは
白皙の魔族の少年、ヴァイル・グロットだった。
手には煮干しの瓶詰めを携えている。
まるで猫好きの少年が餌付けに訪れたような格好であるが、
別にヴァイルは猫はさほど好きではないために真実は違う。

「なにもおれが食って始末する必要はないのだよな」

この煮干しはあるミレーのためにプレゼントとして用意したものだったのだが、
受け取ってはもらえなかったためどうにか消費する算段を考えなければならなかったのだ。
そこでこのねこだまりである。
なかなか冴えた案だ、そうヴァイルはほくそ笑んだ。

「…………」

だが、ヴァイルが路地に一歩足を踏み入れると、
路地の塀の上や隅に陣取っていた猫たちは蜘蛛の子を散らすように
さっさかと退散してしまった。

ヴァイル > ヴァイルの猫苦手を向こうも察しているのか、
はたまた邪悪な本性を悟っているためか、
ヴァイルもまた猫には好かれづらい傾向にある。

「ほらほら、おまえらの好きな煮干しであるぞ……」

警戒し、物陰から様子を伺う猫たちに見えるよう
煮干しの瓶の蓋を緩め、かざしてみる。
そうすると退散していた猫たちがそろりそろりと寄ってくる。

「ふふ、浅ましく喰うがいい……」

近寄ってきた縞猫に、煮干しを差し出す――
と、猫は風を切る速さで煮干しをひったくって
再び物陰へと消えていった。

「…………。
 かわいくないな」

ヴァイルはそれを曖昧な笑いを浮かべて見送るばかりだった。

ヴァイル > そんな調子で猫に煮干を与えたり投げたりすると少しずつ減っていったのだが、
そもそも律儀にひとつひとつ食べたり与えたりして消費する必要などはないのではないか、
そんな考えが今更よぎったが、かといってやめるのにも癪にさわる。

「……あいつにまた会ったら何匹か押し付けるか」

やはり親しくするなら犬だな、と思う。
猫というのはどうにも賢しすぎる。素直に愛でさせてはくれない。
いっそミレーであれば言葉で操ることもできるのだが。