2015/10/08 のログ
ご案内:「大通りの酒場」にヘレボルスさんが現れました。
■ヘレボルス > (夜半の酒場。フィドルに煽られた手拍子と賑わいの声が、いよいよ騒がしく酒場を包み込んでいる。
カウンタ席のスツールに独り腰掛け、酒で満たした銅のカップを傾ける若者の姿がある。
背をカウンタに預け、天板に肘を載せた格好で、摘み上げたナッツを噛み砕く。
人を待っているようにも、誰かを探しているようにも見える眼差し。
若者のもとへやって来る人間は、二、三の言葉を交わしては、また機嫌よく宴席に戻ってゆく。
ヘラ、ヘレボルス、あるいは全く異なる響きで呼ばわれ、若者はそのいずれの名にも等しく返事をした)
■ヘレボルス > (ヘレボルス、と最も多く呼ばれたそれが、若者の名だ。
無作法に組まれた足元で、斜めに立て掛けられて寄り添う長剣が、ヘレボルスの身分を示している。
形のよい唇から小さく覗いた犬歯が、齧り付いた干し肉を裂く。
食事よりは、酒を目当てにしているらしい。乾き物ばかりを指先に摘んで、口に放り入れる)
■ヘレボルス > (数多いテーブルの間を縫うように忙しく立ち回る、若い女給に手を挙げる。
顔馴染みらしい少女は、手際よくトレイを空にするとヘレボルスににっこりと笑い返す。
女給はバックヤードへ戻りざま、ヘレボルスと掠めるようなキスを交わす。
ヘレボルスが細い指先を揺らして見送り、女給はひらりと奥へ引っ込んで消える。
唇を濡らした酒と、少女が残した柔い感触とを、まとめて舌で舐め取った)
ご案内:「大通りの酒場」にティネさんが現れました。
■ティネ > テーブルの上を見れば、いつのまにか異物が現れている。
人形かと思えばそうではない。
鼠ほどの大きさのひとがたが木板の上に座り込み、
我が物顔でナッツを抱えてかじっていた。
若者が鮮やかな接吻を交わせば、数秒の間それに魅入っていたが、
再びナッツに歯を立てる作業に戻る。
どうやら、誰もこの小さなものには気づいていない様子であった。
■ヘレボルス > (幸か不幸か、ヘレボルスはティネに背を向けたきり、全くその気配に気付いていなかった。
再び独りになって暇になったところで、後ろ手につまみの皿へ手を伸ばす。
ナッツと同じ皿に乗っていた干し肉を掴もうとして、ティネの身体をむんずと掴む)
「!」
(白い手が強張る。咄嗟に首だけで振り返り、カウンタの上のティネを見た)
■ティネ > 「ぐげっ」
この間抜けな声は、見つかったことに対する『げっ』と、
掴まれて肺から漏れた『ぐえっ』の混ざったものだった。
「…………」
恐怖と緊張に汗を流しながら固まっている。
盗み食いをしていたのは明らかなので友好的な接触を望むには分が悪いが、
いまさら人形のフリもできないししっかり掴まれていては逃げ出すのも難しい。
「こ、コンバンハ」
ぎこちなく唇を動かして人語をつむぐ。
あと苦しいから手を緩めて欲しいと目で訴えた。
■ヘレボルス > (鼠じゃなかった。しばらく無言でティネと向かい合ったのち、手を離す。
その小さな口から人語が発せられて、思わず天板の上へ張り付くように相手を覗き込んだ)
「何だ……お前、妖精か? 盗み食いしやがって。酒瓶に漬け込まれたいのか」
(ティネが触れていたナッツの欠片と、その周りの二、三粒ほど、それから干し肉の小さな一切れ。
指先で、ティネの方へ軽く押し退けて寄越す。妖精が触れたものなど口に入れて堪るか、という具合に)
「その見た目のとおりなら、金なんか持ってないんだろうな?」
■ティネ > 「はい……俗にいう妖精でございます……えへへ。
さ、酒瓶はお許しを……いいダシは出るかもしれませんけど……」
ヘレボルスの険しい語調に卑屈に笑みを浮かべる。
本当に妖精かと疑問に思えるくらいにはイヤに人間くさい表情であった。
「はい……金目のものは何も……
あっ、まごころはありますよ! まごころは!」
すっかり縮み上がっていたかと思えば、
そう高い声で言ってやけに自信満々な顔で薄い胸をポンと叩いた。