ヤルダバオート信仰の巨大教派である聖バティスタ派騎士修道会――その創始者にして絶対的指導者。 年端もいかぬ少女の貌を持つ、優雅な佇まいと穏やかな声音を宿した童女。 深淵を覗くかのごとく相手の心を透かし見る紅と蒼の異色の瞳を持ち、 手の甲と胸元に宿る聖痕は傷を癒し、病魔を祓う奇跡をもたらすと言われている。
「困窮する者には施しを、求める者には救いを」
掲げる理念は慈悲に満ちたものであり、言葉通りの行動にも淀みを見せない。 しかしそう嘯きながらも、マグメール王国の裏に潜む腐敗と滅びの行く末を嘲り弄ぶ、醜悪で無邪気な歪んだ本性を秘めている。 その嫋やかな仕草も、清らかな言葉も、すべては欺瞞と冒涜に彩られた偽りの聖女。
《騎士修道会の成り立ち》遡ること数十年——ひとりの少女が王国に降臨した。
少女は自らを"聖女"と名乗り、貧しさと病に苦しむ民を奇跡の力で救い歩いた。 彼女が"御神ヤルダバオートの奇跡"と呼ぶその力は、数々の救済をもたらし、やがて人々がその周りに集い始める。 信仰は広がり、奇跡の証人たちは神聖都市に教会を築いた。
時が経つにつれ、救われた者、心酔する者、崇める者、そして守護を誓う者が増え続けた。 彼らの祈りと忠誠は一つの形を成し、ついに"聖堂騎士団"が旗揚げされる。 信仰の灯火は燃え広がり、聖堂騎士団は規模を拡大し、今では巨大教派のひとつに数えられるまでとなった。
そして——
時の流れの中で、多くのものが変わり果てたが、ただひとつ変わらぬもの。 それは"聖女"と呼ばれたあの少女の姿。 今もなお、彼女は当時と変わらぬ姿のまま、神——ヤルダバオートを崇め、奇跡をもって民を救い続けている。
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