2015/12/21 のログ
ご案内:「ティルヒア城最上部」にナルラさんが現れました。<補足:銀髪・褐色肌/龍鱗で強化された鎧>
ご案内:「ティルヒア城最上部」にヴェルムさんが現れました。<補足:黒髪短髪/ティルヒア上級騎士鎧/ティルヒア紋章入り外套/聖剣持ち>
ナルラ > 白き龍と黒き龍の戦いは最終局面を迎えていた
城の最上部に叩きつけられた白き龍ティルヒア
血まみれの彼女の元へヤルダバオートの勇者であるナルラが向っていった
全ては我が主のタメ……
我はその為にココニイル……
我に流れるはカルネテルの血
我が名は『ナルラート』に添って名づけられた名前
その呪縛により、我はヤルダバオートの眷属なり
アイオーンに関するものは全て抹殺する
それが龍であっても、罪のないミレーであっても
ナルラの鎧に付けられた鉤爪が白き龍を捉え、返り血を浴びる
白き龍はこの小さき者にも反撃を行えば、ナルラは吹き飛ばされる。
だが鎧を一部パージし、再びティルヒアに襲いかかる
ティルヒアの血を全身に浴び、口に入ったものは飲み込んだ
鎧は次々に剥がれ、半裸に近い姿になれば、手には剣を持ち、なおもティルヒアへと向かっていく
まるで操り人形のような彼に、白き龍は怒りと、悲しみに眼差しを向けていた
ヴェルム > 「危ない危ない……でも」
白い龍、ティルヒアが城に激突した衝撃で床が崩れ落ちる。
幸い一つ下の階層に落ちただけだったため負傷無く立ち上がることができた。
ただ目の前の光景は幸いと呼べるものかどうか別だ。
共に落ちて来た魔物連中ものそのそと起き上がってきているところ。
おまけにまたいつ龍が城にぶち当たり、崩落する危険もあるのだ。
しかし大人しくなぶり殺しに合うつもりはない。
完全に追い詰められた状態で剣を構え、魔物どもとの戦いを再開する。
聖剣で魔物を両断し、炎の魔法でまとめて消し炭にする。
それでもあまり量は減らない、城の中にいた魔物が全て集まっているようだ。
だが下を見れば新たな魔物が城に突入している様子は無い。
王国・ティルヒア連合軍がカバーしてくれているのか、
あるいは力をもった数人の誰かによるものか。
上ではナルラが戦っているらしい音が聞こえる。
だがどうなっているかまではわからなかった。
ナルラ > ヤルダバオートの化身がティルヒアを愚弄する
ティルヒアはもう、その身体が消滅しようとしている。
目の前にいるヤルダバオートの化身、黒き龍、眷属をせめて一太刀を
ナルラもまた、狂戦士となりティルヒアへと向かっていく
その刹那……
――戦が、止まった。
――世界が、止まった。
皆、天を見上げていた。
ティルヒアの都にある者も、王都にある者も。
既にこの世から消えたはずの光を見ていた。
天に光があふれていた。それはティルヒアの放つ光にも似ているが、違う。
それは誰にも形容できない光。
大いなる光。天地創造、すなわち光。
遥か彼方に去ったはずの、いと高き天にある者。
光が降り注ぐ。光が降り注ぐ。
天使が歌うような神々しい音色が世界に満ち満ちていく。
天の門は開かれた。神の国は近づいた。
去ったはずのものが来たる。
混沌のもたらした破滅によって。
あるいは、ティルヒアの民の祈りによって。
そして、傷つき狂いゆく大いなる精霊のために。
強烈な光が溢れて、それらは光の矢となり、槍となり、剣となり、降り注いだ。
そしてヤルダバオートの眷属と化したナルラにも降り注ぐ
其は、光の柱が
ナルラだけでなく、彼の複製体であるカオナシ騎士にも降り注いでいった
『その呪縛が『血』であるならば、“彼女”の『血』を受け入れよ
その呪縛が『名』であるならば、我が刻印を汝に与えよう
汝の運命、本来の道へと戻るが良い人の子よ』
其れはあくまでもついでだったのかもしれない
この地の不浄を払ったおまけのようなもの
ナルラの頭のなかの靄が晴れ、繰り返される悪夢から目が覚めるような
そんな不思議な感覚に陥っていく。
ヴェルム > 胸が熱い、心臓となった魔導機械が激しく動いているのがわかる。
何度魔法を放ったか、何時間聖剣に魔力を送り込んでいるか。
多数に無勢な状況ではあるが圧されてはいない、
しかし床に溜まっていく魔物の亡骸と大量の血だまり、
ヴェルムの鎧すら魔物の返り血で真っ赤に染まっていた。
戦いづらい、油断すれば一気に喰われる…。
今になってようやく死ぬかもと考えたりし始めた。
だが…
突然の静寂と暖かな光。
すべての者が動きを止めて空を見上げた。
「正直……神なんて眉唾もんだと思ってたけどな…」
元から信心深い男ではない、
しかし天から光が降り注ぎ、魔物どもが次々と光に貫かれ、粒子と化していく光景を目の当たりにすれば、認めざるを得ない。
ふと視界の端で光に降り注がれているナルラが見えた。
「!…王子!」
魔物を消していった光がナルラにまで降り注いでいる。
何故なのか、何を意味しているのかこのときのヴェルムにはわからなかった。
ナルラ > 光が晴れた時、ナルラはそのまま膝をついた
魔物たちが光で消滅されていく中、彼は消滅はしなかった。
彼は人の子である
だが、彼を蝕んでいた呪縛は、抑えられていた。
彼の血や彼の名がある限り、呪縛は完全に消滅しない
その強き束縛が弱まっただけである
そして彼は気づく、様々な過ちを、そして思い出す
あのミレー族の少女は、ナルラを裏切ったわけではなかったと。
そして気づく、己はヤルダバオートの人形にされていたことを
ナルラの左胸には大きな痣ができていた、アイオーンの聖印の形状の痣が
聖痕としてナルラの身体に刻まれていた。
そしてティルヒアの言葉が皆に響いていく
『……すまぬ、我が為に。我が為に、多くの過ちを――』
空には大いなる光と、白き龍、神なる龍がいた。
黒き龍は既に消え去った。
神々しい声で、神なる龍は口を開く。
涙を流しながら。
『我が子らよ、王国の子らよ。全ては我が咎にある。
最早、この罪を雪ぐことはできぬ。
最早、我が許されることはあらず。
だが、主はなおも、我を許すと言う……。
我はもう、この身を留めることはできぬ。
この都を再び導くことも護ることも、できぬ。
ただせめて、天の国へと誘おう。良き国へと。
この戦は既に終わった。我が子らよ、我が残せるのは、最後の加護のみだ。
……後に続くものよ、すまぬ。お前たちの魂も、連れて行く。
人の世のことに、最早我らは関与することはできぬだろう。
人の世は、人が作るべきもの――そう、そうすべきであったのだ。
……女王ティルヒアは、マグメール王国に降伏を宣言する。
願わくは、我が子らに幸あらんことを――
そして、いつか、あの混沌から、光を取り戻さんことを――』
王国軍、ティルヒア軍問わず、その死者の身体から白い光が満ちて、空へと舞登っていく。
救済である。その魂は、天の国へと誘われるのだという。
真相は定かではない。ただ、その神なる光は優しく、神聖なるものであった。
大いなる神と、そしてティルヒアの最後の力によって。
無為に失われた魂達が舞登っていく。
「違う、違うのだ……お前は悪く無い、ティルヒアよ、お前が謝る必要はないのだ!」
念話装置はすでに砕け、彼の声はただ宙にむけ放たれた
誰かに聞かれたかは判らず、ただ目の前の白き龍は粒子となって消えていく。
「ティルヒア! ティルヒア!!」
龍の姿が取れなくなっただけで、完全に消滅をしたわけではない
白き龍、自分の呪縛を解き放った恩人の名を呼び、男は城の謁見の間へを向かっていく
天井が砕けているその場所から侵入を試みる
ヴェルム > 「王子…?」
光と化して消えた魔物と違い、ナルラは消えなかった。
その光はナルラに大きな変化を与えたのかもしれない。
ただやはりヴェルムには事態が把握できていなかった。
膝をつき、黒い鎧が消え、纏う雰囲気が僅かに変わったような、そんな気がするだけで。
上空では白い龍、ティルヒアが語る。
やはりあの龍はティルヒアその人だったのだ。
久しぶりの彼女の声、そして初めて聞く彼女の本当の言葉。
ヴェルムは何も言わなかった。
ただ涙を流し全てを詫びる彼女の姿を黙って見守るだけ。
結局何もできなかったのだ、今更何も言えないし、
主がそう決めたことなら黙って受け入れるのが僕…
魔物や穢れが消え去り、死者の魂が救済されていく。
その光景は人知を超えた神の御業と呼ぶべきものだ。
龍のティルヒアが消えていく中、ナルラの声が響く。
ナルラは何をしたのか、何を見たのか…
彼が慌てた様子で謁見の間へと走る姿を見て、ヴェルムも瓦礫と飛び越え後に続く。
ナルラ > 城の最上部に近い場所、瓦礫の不安定な足場を超えながら、謁見の間へと進入する
謁見の間、その玉座に彼女はいた
そして彼女の周りには、古の時代からの彼女の友人、臣下の者たちが彼女を囲むようにいた
その姿を見た瞬間、ナルラは一瞬安堵した
だが次の瞬間、強い悲しみを胸を襲った
玉座に座る少女はすでに息絶えていた
そして周りの臣下の者たちも、誰一人生きてはいなかった。
ナルラは涙を流し、声なき声を叫んだ
ヴェルム > ナルラの後に続いて、謁見の間へと入る。
入る前から不安しかなかった、謁見の間から何も感じられなかったからだ。
謁見の間の入口付近で足を止めているナルラに追いつき、そして視線の先を見る。
「…ティルヒア様」
ナルラが今までの様子と打って変わり、涙を流して叫ぶのと対象に、
ただ目を閉じて歯を食いしばる。
どうしてナルラがここまで泣くのか、理由はわからなかったが、
今はただ、二度と動くことは無いティルヒアの姿を見て、何かしようという気は起きなかった。
ナルラ > 王族として、醜態をさらしている男
彼女によって救われた、彼女によって解放された。
だがその事は、誰にもわからない事であろう
そして、それと同時に己の重ねた罪が重くのしかかってくる
あの黒い泥の中で、麻痺した感覚の中で行われた己の罪
だが泣くことで、心のなかから叫ぶことで、それらのプレッシャーから徐々に心は解放されていく。
人間という生き物は、そうやって悲しみを乗り越える生き物なのである。
ヴェルムがやってきてしばらくすれば、徐々に落ち着きを取り戻していく
「すまない、醜態を晒してしまった……ティルヒアと、その臣下の者を楽にしてやろう……あと、念話装置を返してもらえるか?
私のものは、先ほど砕けてしまってな」
そう言いつつ呼吸を整え、己の衣服を手元に呼べば着替えをはじめる
その時ナルラの左胸に大きな痣が見えたかもしれない。
ご案内:「ティルヒア城最上部」に魔王アスタルテさんが現れました。<補足:外見10歳、身長130cm。黒いワンピースを着て、悪魔の翼を生やす魔王。>
魔王アスタルテ > (先程の光により、既に邪悪なる闇の者はこの地から消え去ったはずだった。
ティルヒアの都にいた多くの魔族も、光により消滅してしまう。
だが、あの光を耐え抜いている強大な邪悪もまた存在する。
謁見の間に、目に見えて禍々しき闇が渦巻き、覆い尽くす。
その闇はやがて一点に収束していき、やがて悪魔の翼を生やした一人の少女の姿へと変わっていく。
魔王アスタルテは、謁見の間の中央部で、ティルヒアの死体を目にした後、ナルラとヴェルムにもそれぞれ視線を向けた。
そして最後に、再びティルヒアに視線を戻す)
「やはり人姿のティルヒアはここにいたね」
(アスタルテは最後に、旧知の仲たる女王ティルヒアの姿を見に来たのだ)
ヴェルム > 「…落ち着かれましたか、さしもの私も驚きましたよ。
もちろん、これはお返しします。」
たぶん人前で泣くことは恥だろう。
だがナルラをそれで笑うようなことはない、ナルラがいなければ自分だって涙腺が緩んでいたかもしれない…。
敬語に冗談を交え、恥を晒したと思っているナルラをフォローする。
と同時に預かっていた装置を手渡し、そのとき左胸に痣が見えた。
それが何を意味するのかわからないが、今聞こうとは思わなかった。
視線をティルヒアの元へ送り、ゆっくり歩み寄る。
「遅くなり、申し訳ありませんでした。
さぞお辛かったでしょう…でも…、今はもう、ゆっくり…お休みになられてください…。」
ティルヒアの前に跪き、頭を垂れる。
役立たずの家臣にできるのはこれくらいしかなかった。
ヴェルム > 「魔王…アスタルテ」
ティルヒアの元で頭を垂れている。
そのとき背後から感じる闇、つい最近覚えのある感覚。
後ろを向いてやはりと彼女の名を口にする。
その様子は恐れとか、敵対心のようなものはない。
無事だったのか…天下の魔王に対して心配などする必要が無いのかもしれないが、素直にそう思っていた。
「やっぱり上手くはいかないものだね」
アスタルテにそう苦笑いする。
あの時アスタルテに言われたことを思い出していた。
ナルラ > 着替えが終わり、顔をタオルで拭き顔に軽く治癒を施せば、涙で腫らした瞳は元にもどるだろう。
ヴェルムから念話装置を戻されれば、それを受け取り懐にしまう。
自身が彼女へ着せた汚名、それを返上するために、また残った者達に彼女の死を伝えなければならない。
そんな時、謁見の間の中心に一人の少女が現れる
数々の戦闘記録、様々な王族や兵士の証言に当てはまる存在がいる
『憂鬱』の魔王アスタルテ、好戦的で女性に対して好色である事が有名で
そのせいか、他の魔王に比べ、遭遇や目撃も多い少女魔王である。
「魔族の国、『憂鬱』の領主、アスタルテ姫とお見受けする……
失礼ながら、我々には魔族が死者を弔うという風習があるかは存ぜぬが
もし、ティルヒア公を弔うのならば歓迎しよう、もしそうでなければお引き取り願いたい」
小さな少女の姿をした魔王を見つめる
魔王アスタルテ > (アスタルテはまずヴェルムに目を向ける)
「なにせ、事が大きいからね。
ティルヒアは……混沌に穢された時からきっとこうなる運命だったんだよ……。
あたしも、そう感じ取っていたかな。
だけどヴェルムとナルラ、君達の演説は間違いなく王国軍とティルヒア軍の心を一つにしたよ」
(王国軍とティルヒア軍の心を一つにした二人の“勇者”に、“魔王”は心から敬意を称す。
そしてナルラの方にも視線を向ける)
「君はカルネテルの王子ナルラだね。
先の大演説は、偽りもあったけど王国とティルヒアの心を一つにした見事なものだったよ。
あたしも、ティルヒアを弔いに来たんだよ。
何せ、ティルヒアとは昔色々あった仲だからね」
(そう言って、アスタルテは亡きティルヒアにゆったりとした歩みで寄っていく)
ヴェルム > 「王子、皆への知らせは任せていいかな?
僕の言葉では上手い伝え方が浮かばないからさ…」
恐らくティルヒア様直々のお言葉とはいえ、龍の姿でのこともあり地上は混乱しているだろう。
ナルラの言葉なら、状況を正確に伝え、次にするべきことを指示できるだろうと。
「ティルヒアの民と都市が全滅しなかったのが唯一の救いか…結局神に助けられちゃったけど。」
助けるならもっと早く来てくれても、なんて思ったりするが、
神は気まぐれということなのだろう。
少なくともここに着て無駄なことはなかった、アスタルテの言葉でほんの少し、楽になった気がした。
「ありがとう」
微笑んで、魔王にお礼を言う。
ナルラ > ヴェルムの言葉に軽く頷き
「ああ、そのつもりで返してもらった、ティルヒア嬢の汚名も晴らさなければならない
アスタルテ姫の指摘通り、先ほどの私の演説には偽りがあった……
そのように言わされたからな、なので訂正が必要だ、あと何か遺留品がないかも調べておいてくれ」
そして二人のやり取りを見て
「で、二人……いや一人と一柱といったほうがいいのか? ああ、ややこしい、アスタルテ姫、一応便宜上二人と言うぞ
二人はお知り合いなのか?」
「昔というと神話の時代からですかな? その気持は私にも理解はできます
ティルヒアの武人は忠義に厚いものが多く、尊敬できる者も多かったですから」
剣を交わした者同士、敵対するものであれ、尊敬できる存在であれば
その死を弔いたくなるというのは、実体験で理解していた。
さて、ここで魔王アスタルテは気づくだろうか
先程までヤルダバオートの力を宿していたナルラが
今ではアイオーンの力も宿していると。
光と闇、それが牽制し合いながら同居していると。
ご案内:「ティルヒア城最上部」に魔王アスタルテさんが現れました。<補足:外見10歳、身長130cm。黒いワンピースを着て、悪魔の翼を生やす魔王。>
ご案内:「ティルヒア城最上部」に魔王アスタルテさんが現れました。<補足:外見10歳、身長130cm。黒いワンピースを着て、悪魔の翼を生やす魔王。>
ご案内:「ティルヒア城最上部」に魔王アスタルテさんが現れました。<補足:外見10歳、身長130cm。黒いワンピースを着て、悪魔の翼を生やす魔王。>
魔王アスタルテ > 「ティルヒアの民と都市が全滅しなかったのは、ヴェルムのお陰でもあるよ。
なにせ、あのまま王国軍とティルヒア軍に蟠りが出来たままだったなら、神が現れる前に黒き龍が生み出した化物や死者達により壊滅させられていた可能性もあったからね」
(そして神に助けられたと聞くと、アスタルテの方は苦笑する)
「あたしはその神に、禍々しき存在として消されかけちゃったんだけどね」
(ヴェルムからお礼を言われれば、魔王は少し照れたように頬をかく仕草をした後、ヴェルムから僅かに顔を背ける)
「あたしは、何もしてないよ。
君達人間が心を合して、頑張ったんだよ」
「そうだね、ナルラ。
勇敢なる君の口からも、ティルヒアの汚名を晴らしてあげてよ」
(そう言ってアスタルテは、ナルラに微笑んでみせた)
「二人という事で構わないよ。
ヴェルムがティルヒア城の最上部に向かう時に、廊下で邂逅したという仲かな」
「鋭いね、ナルラ。
“あの時代”は、王国では既に忘れ去られているはずだったけどね。
そうだね、そこにいるヴェルムもまたティルヒアに忠義を尽くす立派な武人だよ。
あたしはそんなティルヒアには、敵ながらも尊敬するよ」
(だから、その死を弔わせてね……ティルヒア。
アスタルテは、ティルヒアの前で立ち止まる。
そして手を合わせて、ゆっくりと瞳を閉じる。
おそらくは、先程の光の影響だろう。
混沌なるヤルダバオートを宿していたナルラは、今や相反するアイオーンの力も宿していた。
彼の中には今、光と闇の両方が存在するのだ)
ヴェルム > 「言わされた…なるほど、それで光に当てられていたのか、
それでさっきと今で様子が違ってみえるのか。」
ナルラにあったのは、恐らくはティルヒアを操っていたものと同じようなものだろうか。
だとしたらこの異変はずいぶん根の深いところにあるようだ。
次いでナルラが疑問したアスタルテとの関係については、彼女の説明と変わらない。
「アスタルテは応援してくれた…ような感じかな。」
割と好意的にアスタルテのことを見ているらしい。
「かろうじての勝利なのかどうかわからないけど、また同じようなことが起きるんじゃないかな…、結局今回の黒幕を倒したような気がしない…。」
黒い龍は倒れ、神も現れたが全てが終わったように思えない。
また何かが起こるのではないかと。
「そ、それは大変だったね…無事でなにより…。」
神に消されかけたというアスタルテにはさすがに苦笑してしまう。
神はやはり融通は利かないらしい。
当然、また強大な危機が訪れたとき、助けてくれるかどうかも。
ナルラ > 「根深いのは確かだ……」
ヴェルムの言葉に軽く頷く、ナルラに関して言えば何年も昔から
彼を傀儡として育てようとしたのだから、
彼が猫(ミレー)嫌いになった件もまた、ヤルダバオートの化身によるものだろうから
「古の文献から魔族は人を助けたりする場面も色々ある
まったく、魔族は人間の敵なのか味方なのかよくわからんよ」
アスタルテの言葉に頷き
「私も、完全ではないがだいたいは理解している、城に残っていた
地下迷宮化した図書館等から、様々な文献を読んだものだからな……」
ふむと頭のなかで考えをまとめ
「次の演説も、少しは偽りを混ぜる……だが、ティルヒア姫の名誉を傷つけるものではない、
マグメールという王国のシステムも守らねばならん、その点はご了承願いたい」
そう言って、ナルラはマウスピース状の念話機を歯にかぶせ、噛みしめる
『聞こえるか、この国に残るものよ
生きているか? 兵士たちよ、そして民たちよ
私ははマグメールはカルネテル王家、ナルラ・ホーティ・カルネテルである。
まず最初に私は皆に詫びなければならぬ、先ほどの演説に偽りの箇所があったことを
多くの者達が気づいているように、あの白き龍こそティルヒア姫である
彼女はあの黒き混沌にその精神を惑わされ、多くの混乱を引き起こしたのである
そして私もまた、あの黒き混沌に精神を蝕まれ、先ほどの演説であの白き龍を敵だと宣言した
まずここにティルヒアの民、そしてマグメールの兵士たちに詫びよう。
だがティルヒア姫は、最後の力を振り絞り、神を一時的にこの世に呼び戻し
オリアーブ島の闇を払った、そしてティルヒア姫の呪縛、そして私の呪縛
そして死した兵たちを、混沌から解放したのである。
彼女は我が恩人である、そして最期には貴方達の知る優しい姫として
……先ほど、先ほどお亡くなりになられた
此度の戦乱の元凶はあの黒き闇の化身である
よって、ティルヒア姫に責はないことを、ここに
マグメール王家の者として宣言しよう!
そして、ティルヒアの兵達よ、諸君らは忠義に厚い兵だということは
剣を交わした者であるからこそよく判っている。
マグメールの兵たちよ、今後ティルヒアの兵を愚弄し、差別することは私が許さん
彼らこそ、忠臣と呼ぶに相応しいものたちである!
今ここにすべての戦闘の集結を宣言する、
これから復興の為に尽力を尽くそう。
恐らく、あらたなる指導者がマグメールより選出され、この地の復興を導くであろう
私はできるだけ、優しき善良なる者が、新たなる領主となるようにかけあおう
だからこそ、オリアーブ島に残る者達よ、その指導者に協力してくれ
それこそ、ティルヒア姫の望むことだろうから
ティルヒア姫の葬儀は国葬にて行う。
できるだけ多くのものが、彼女を弔ってもらえることを、
私は望んでいる……』
演説が終わればマウスピースを外し、一息をつく
さて、これからまだ仕事は残っている、この地方のある程度の自由を確保するために、
国に戻り色々裏から手を回さなければならない
一応この戦争の功労者としては上位に入る、褒章のついでだ
その辺りの事をゴリ押しでもして通さなければならない。
魔王アスタルテ > (しばらくティルヒアの前で瞑想した後、
再び二人に振り向く)
「ナルラもまた、あの黒き龍の力を持ちし者だからね。
最も、今ではそれだけじゃないけどね」
(そこまで話すが、アスタルテはその立場から真相を人間に語る事はない。
結局のところ、後は人間の問題という事なのだ。
神代の魔王が、人に深い真実まで語るべき事ではない)
「城の最上部に続く唯一の廊下を通ったのは三人。
ティルヒアの強力な結界を破り、そして危険を顧みずその奥に突き進んだ者は二人。
そんな勇敢な君達こそ、あたしは“勇者”だと思うよ。
“魔王”が“勇者”を応援するなんて変な話だけどね。
この戦乱を終えた後で尚、君達が無事で本当によかったよ」
(アスタルテは二人に、にこりと笑ってみせる。
二人があの廊下を通りぬけた後、ティルヒアを見届けながら、アスタルテはずっと勇敢なる二人の無事を祈っていた。
それだけにナルラとヴェルムの演説を聞いた時は、実際ほっとしたのも確かだ。
黒幕を倒したような気がしないというヴェルムに、それぐらいなら話していいかなとアスタルテは口を開く。
最も、黒幕の正体たるヤルダバオートの事までは話さない。
アスタルテの口から、人間達にそれを言ってはならない)
「ヴェルムが予感する通り、この件の“黒幕”はまだ消滅していない。
“あいつ”の影響は、まだ強く残している。
だけど、“あいつ”の力の一部は確かに白き龍によって滅ぼされたよ。
この場においては、君達の勝利と言って差し支えないんじゃないかな」
(ヤルダバオート……君はまた、何かよからぬ事を企むのかな?
さっきまで熾烈な戦いを繰り広げていた上空を仰ぎ、誰もいない空間に口に出さずにそう問いかける。
もちろん、返ってくる答えなどない。
そして、神に消されかけたという話でヴェルムとアスタルテは苦笑し合う。
まあ、生きていたのだから笑い話で済ませられるというものだが。
あの光で、同胞たる魔族の多くが消滅したのもまた事実)
(魔族は人間の敵なのか味方なのか、という言葉にアスタルテは悪戯気に笑う。
その笑顔は、どこか爽やか)
「さて、どっちだろうね」
(そして、ナルラの疑問にアスタルテはまともに答える事はなかった)
「そっかぁ。
王国にもまだ、“あの時代”を知ろうとする者も少ないけれどいるんだね」
(もう王国ではほとんど忘れ去られたと思っていた神話だけに、アスタルテは素直に感心する)
「あたしは君が演説でどう偽ろうと、無論、口出しは一切しないよ。
ティルヒアが君の演説で偽られても、あたしが何もしなかったようにね。
マグメール王国システムは、君達人間の問題だからね」
(その後、アスタルテはナルラの演説をその場で聞く事になる。
そしてアスタルテは、ナルラの演説を最後まで黙って聞く。
演説が終われば、魔王は軽く手を叩いてみせる)
「これでやっと、多くの犠牲をはらった戦争が集結したね」
(そして、国民達を導くナルラにカリスマ性を感じながら、そんな一言を零した)