2015/12/01 のログ
アノー > 魔族ではない、と参謀が言った言葉をアノーは信じることにした。
否、参謀を信じる少女を信じた。
一息。溜息と共に席に腰を落ち着かせると剣から手を離す。
やおら、食堂の扉の向こうにある気配も落ち着くだろう。
そう、此処には10人の10倍の兵が詰めている。時と場合によっては敵地なのだ。
「・・・・・・・いいだろう、わかった。だが、参謀。お前のやろうとしてることは俺が一番嫌いな方法だ。いいか、ヒロイズムに酔ってんならやめておけ」
煙草に火をつけてこの男にしては珍しく苛々とした口調で言った。
魔族側でないとするなら、それは――ブラフだということだ。
こいつら、自分たちの命を投げ出してもこの少女を助けようとしているのか。
「ジャンヌダルクって感じでも無いだろうに。いいか、俺はそういうのは大嫌いだ。俺が同じ立場になったら部隊にいる奴がそうなったら危険を顧みないから言ってんだ。同じ穴の狢は嫌いあうもんだ」
気持ちが分かるだけに苛々する。
「お前が此方に対して王国の間諜疑惑を得ているのと同時に、俺達がお前のその別組織に関して通じてる話をすれば同じ結末ってのはわかってるだろ? まず、お互いのマイナスはイーブンだ。 ・・・・・・」
やや男は黙って天井を仰いだ後、溜息を盛大に吐いた。
もわもわとした紫煙が天井を漂う。
「魔術技術に関する情報は基礎を頂くがそこから得られた改良点はくれてやる。さっきの魔石に関しても此方が受け入れることでその点は合意しよう」
だが、と男は続けて参謀のほうへと向き直ろうか。
その顔にあるのは不敵な笑み。
「お前の望み通りなんざしてやらん。コトが起きれば鉱山は俺たちが頂く。無血でな。異論はあるか?」
それと、と続けてアノーはリーゼロッテのほうを見やるだろう。
「今度二人で話をしたい。こいつは――頼みだ」
リーゼロッテ > 少女は彼が苛立つ理由がわからない。
何を持ってこうなってしまったのか、涙目の少女はわけが分からず震えるばかりだ。
参謀は表情をまた冷えたものに変えて、淡々と耳を傾けていた。
こちらは何となく言わんとしていることが分かったらしい、だが、鉱山を奪うと言われれば小さく鼻で笑った。
あれはもう他人のものとなり、その鉱石だけが遊撃隊が確保できた産出物。
それを蹴るなら、それ自体すらも失うと。
そして参謀は仕方なく、彼にヒントを一つだけ告げる。
こちらに手を出せば、もっと混沌としたことになり、『亡霊』から生まれた射手と喧嘩することになる。
何処にいる誰とは言わず、王国軍に関わったことがあるものならば知るであろう字の欠片を紡いだ。
「亡霊の射手?」
少女はキョトンとしていた。
参謀は再度問う、得るものを得てお互いにメリットをおいて交渉を終わらせるか。
それともここで刃を向けて、一層の被害を互いに齎すか。
アノー > 「そうかそうか。なら話は簡単だな。勇猛果敢なる魔術部隊がいないなら鉱山も楽勝だな。それと――無血って言ったのが聞こえなかったのか。防衛隊が半減すれば物の数じゃないだろ。まあ、気が向けば話をしろ。そこのリーゼロッテがいない時でも聞いてやる」
つまり、『リーゼロッテがいなくても降伏すれば先ほどの捕虜としての丁重な扱いはする』と言っている。
ブラフである以上、少女がいるこの場で明言できないだろうが、通じていない様子なのでそう言った。
元より、魔術部隊相手に大立ち回りをする気などさらさらない。似ているから嫌いで気に入った。と言外に言ったが通じなかったようだ。
「テルヒアに最後までいるっていうなら話は別だがな。その時は――亡霊の射手だったか。相手になろう」
男は不敵に――笑った。
最後までテルヒアにこだわって敵対意志を取るなら、戦闘も辞さない。
「わかっていないようだな。どこの誰が相手だろうと俺達がやることは変わらない」
そして溜息混じりに。
「それと、参謀。リーゼロッテのことになると頭が熱すぎるぞ。少し冷やせ。俺は条件を呑むと言ったんだ。呑んだ上で「もしもの場合お前たちを助けるために」手を貸すといってるんだ。メリットを失う? 一層の被害? こっちはデメリットしか無い。大事な譲さんだということはわかったから落ち着け」
リーゼロッテ > 手を出さないほうがいい、その一言だけを答えた。
以前の射手だけであれば、数に物を言わさればその雨を突破できたかもしれない。
しかし、射手が新たに添えた右腕…弟は、最早並という領域を超えている。
そして、数こそ少ないが精鋭の部下達。
そんなのがこの先、鉱山に居座ることになるのだからやめろとしか言い様がない。
こちらは刃を向ける気はないが、権利を有し、土地を守るつもりで待ち構えている人馬宮と堕天鳥のところへ向かえば、大事になる。
仕方あるまいと、参謀は心に一つ決める。
どっちにしろ、ここで語らなければ引受先が支障をきたす。
そうして参謀は引受先について語り始めた。
引受先はチェーンブレイカーという傭兵組合、おそらくあまり名を聞かないだろう。
問題はそれを率いるのが、その昔に王国軍でメテオサジタリウスと呼ばれ、多くの敵を一人で屠った射手であることだ。
腕は現役で、海上戦では第7師団の副官を捕縛している。
そして、その弟は第7師団の司令官をサシの場で下し、最近まで王国の軍勢に単騎で突撃し、何百と一人で殺して回った化け物だ。
そんな化け物を二人と、射手が選び抜いた精鋭が鉱山に待ち構えている。
鉱山の権利を参謀から国の意思として譲り渡し、戦争が終わるまでそこを死守せんと。
ただ、自分達が彼らのもとに入るにはまだ早い。
だから、ティルヒアに残り、その時を待つのだと。
「……凄いこと、考えてたんですね」
ぽやんと呟かれた言葉に、がくりとなりそうな参謀だが、これで満足だろうかと、彼を見やるだろう。
アノー > 参謀の話を聞き、男はやや瞠目したがそれも数秒で支障を来たさずに即決した。
「そうか。情報に感謝する」
男はそう言うと―――――笑ったのだ。
不敵に、ではない。
楽しみだ、という風に。
「参謀。お前の忠告には感謝するし此方のことをおもんばってのことだろう。だが――悪いな」
男は一息。
参謀が最大限の情報を出したということは、
ここで傭兵部隊が鉱山を諦めることを期待してのことだろう。
それはきっと優しさだと思う。
「こればっかりは――どうにもならん。何に忠を尽くすか。俺達は――やはりやることは変わらないんだよ。ああ、そうだ。俺は戦場が大好きなんだよ」
笑みが抑えきれない。
その笑みは――戦場への喜び。
ああ、根幹ではフォンロークと変わらないのだと自分で気づいていたことを再確認させられる。
「改めて名乗ろう。ナナシ部隊のアノー・ニュクスだ」
ジャックと言う仮面をおろした。
相手が最大限の、自分の隠しておきたい情報を――恐らくは王国の間諜である相手に出したのだから。
「技術協力と魔導石受け取りの件は先ほど言ったとおり了承している。お前たちが鉱山で怪物と一緒に専守防衛するのもわかった。改良点に関しては間違いなく明日から取り掛かろう。報酬の魔導石はその時に受け取った後、此方は撤退する。亡霊とはそれまでの共生関係だ。依存はあるか?」
この間、男は楽しそうに笑っていた。
リーゼロッテ > それと殺り合おうとでもいうのだろうか。
彼の返答は狂気に満ちているようにも感じた。
「ぇ、ジャックさんじゃないんですか?」
男の狂気に気づかないのは、何度も転々とする出来事に思考力が疲れているのだろう。
なんとも間抜けな言葉が溢れるも、参謀は溜息をつくだけ。
続く言葉には最後以外は頷いているも、最後の言葉にはこう答える。
共生するかは彼ら次第だと。
そういうと参謀は立ち上がり、帰るぞと少女を突っつく。
「あ、あの! 私だけ何もわかってないんですけど…」
自分が知らないうちに、色んな思惑が渦巻いていた。
見えない渦に飲み込まれるような、不確かで怖い感覚。
それを抱きながら少女は仲間に連れられ、鉱山へと戻っていく。
翌日、魔法遊撃隊は鉱山を起つ。
化け物二人が住まう鉱山は、戦争が終わるまでにどうなるかは参謀の知るところではもうないのだから。
アノー > 男は笑って手のひらを振った。
ジャックは死んだ。残るのは名無しだ。
ともあれ、話を整理すると鉱山部隊の防衛に後任の亡霊部隊が駐屯する手筈となっている。
ナナシ部隊技術班は明日より魔導銃の改良任務に就き、それを引き渡し次第魔導鉱石を報酬として受け取る。
ナナシ部隊が関わるのは此処まで。
その後ナナシ部隊は鉱山守備隊の情報を持って王国軍側に復帰する手筈になるか。
ともなれば基礎設計から算出される魔導銃の可能性から対抗策を考えなければならないか。
そっちは技術班に丸投げしよう。
そこまで考えてアノーはリーゼロットのほうへと視線を向けた。
ろくにこの少女と話が出来なかったな、と苦笑交じりに笑う。
「次に会った時は戦場だな」
そういって笑うとベルを鳴らそうか。使用人が丁重に村の外まで案内し何事もなく帰れるだろう。
ご案内:「◇テルヒア軍駐屯地」からアノーさんが去りました。<補足:待ち合わせ>
ご案内:「◇テルヒア軍駐屯地」からリーゼロッテさんが去りました。<補足:毛先の辺りに緩やかなウェーブが入った薄茶色のロングヘア、青い丸い瞳の童顔。幼児体型に、可愛らしい軍服。>