2015/11/22 のログ
ご案内:「オリアーブ島南部 煉獄の宮殿」に魔王アスタルテさんが現れました。<補足:外見10歳、身長130cm。黒いワンピースを着て、悪魔の翼を生やす魔王。>
魔王アスタルテ > (時は少しさかのぼる)

(ここはアリアーブ島南部に位置する魔族都市。
 その都市は、どこか魔族の国のようなイメージを漂わせる。
 険しい山々に囲まれた、難攻不落の地にある。
 その中心部には、禍々しき宮殿が建てられていた。
 宮殿は現在、魔王アスタルテが別荘として使用している。
 《煉獄の宮殿》のバルコニーに一人の幼女が佇む。
 彼女、魔王アスタルテは天を仰いでいた)
「空が……騒がしいね」
(無表情で、アスタルテはそう呟いてみせる。
 何かしらの前触れを《憂鬱》の魔王は予感していた)

魔王アスタルテ > (それからアスタルテは静かに、南海の方へと目を向ける。
 ここからだともちろん、遥か彼方にある海が直接見えるはずもない。
 見えるのは、眼下に広がる魔族都市とその周囲にある険しき山々のみ。
 本来はそのはずだった。

 だがアスタルテには確かに、南海が見えている。
 その紅の瞳に少しばかり魔力を注ぐ事で、千里をも見渡しているのだ)

(南海では現在、王国軍の艦隊とティルヒア軍の艦隊が激しい海戦を繰り広げていた。
 熾烈を極める戦いは、双方に甚大な被害を齎していく。
 直接敵船に乗り込んでの戦闘にも発展していた。

 そんな時だった……。
 南海の波が普段より荒くなり、空は暗雲に包まれ、雷鳴が轟き始める。
 その光景を見て、魔王は不敵な笑みを浮かべていた。
 魔王の紅き瞳が、邪悪に煌めく)
「ついに姿を現すんだね……創造神アイオーンのしもべ、神龍ティルヒア。
 その姿を見るのも、いと懐かしき事だね」

魔王アスタルテ > (旧き伝承を忘れし王国の者達は、もはや神龍の事など知り得ないだろう。
 “真なる神”の神話を持つミレー族ならば、かろうじて神龍の存在に気づけるのかもしれない。
 そしてアスタルテは、神話の時代を直接知る数少なき太古の魔族だ。
 懐かしき世界の草昧を魔王はゆっくりと思い返していた。

 やがて、暗雲より白き東洋龍が姿を現す。
 その体はあまりにも巨大な神なる龍。
 邪悪で禍々しき“魔王”と相反して、“神”はあまりに神々しき光を放っていた。
 その偉大なる“神”の一柱が、オリアーブに降臨したのだ)

(神龍は咆哮する。
 あまりにも大きな咆哮に、その衝撃は大地や海を揺るがす程だった。
 衝撃は、この魔族都市にも到達する程だ。
 眼下の魔族都市の住民達は、何事かと次々に外へと飛び出す。
 宮殿にいた魔族達も、次々に外へと集まりだしていた。
 だんだん、皆がざわつき始めている。
 この地域の空もだんだん、暗雲で隠れようとしていた。

 “神”が姿を現すと、海戦は大きく動いた。
 ティルヒア軍艦隊は、すぐに撤退を始めたのだ。
 そして神龍が暴れ狂い始める。
 炎、そして雷が次々と戦艦を沈めていく。
 “神の怒り”による天罰は敵、味方は問わない。王国軍だけではなく、それはティルヒア軍にも被害を及ぼした。
 戦場をめちゃくちゃにし、文字通り海上を跡形もなく消し飛ばす)

魔王アスタルテ > (その後、神龍はオリアーブ地方の各地に現れては、
 各所要塞に被害を与えたり、異国勢力や魔族勢力、はたまた味方であるはずのティルヒア軍に被害を与えていくわけだが、
 この規模が大きて大変目立つ魔王軍の魔族都市が見逃されるはずもなく、むしろ破壊の筆頭候補として真っ先に狙われてしまった。
 何せ、オリアーブ島南部を勝手にプチ魔族の国と化していたのだから、無理もない……。

 暗雲で埋め尽くす魔族都市の空より、その神々しき龍が姿を現す。
 この地域が難攻不落の理由となる周囲の険しき山々など、空から現れた龍には全く意味などない。
 あまりに大きな龍を目にし、街にいる中級以下の魔族達は死を悟り両膝をついたり、怯えたりしていた。
 魔族の子供なんかは、泣き叫ぶ者もいる。
 宮殿の園庭に集まる高位魔族であっても平然とはしてられず、焦りの表情が見え隠れする。
 天にあるのは、あまりにも強大な力……“神”)
 
(しかし、“魔王”アスタルテは“神”を眼前にしても全く動じる事はなく、冷静だった。
 こんな事でいちいち取り乱しているようでは、魔族の“王”は務まらない。
 そもそも魔王アスタルテは、神なる存在を手にかけた事もあり、一部では“神殺し”とも呼ばれているぐらいだ。
 いささか眼の前の神は、強大すぎではあるが……。

 アスタルテはバルコニーから足を放すと、翼を広げて空へと舞い上がる。
 魔王の右手に闇が収束し、それはやがて邪悪な大鎌を模る。
 そして天の神龍に近い位置に陣取った。
 龍があまりに巨大なため、それに比べれば並の人間よりもさらに小柄なアスタルテなど点ぐらいにしか見えないだろうか。
 だが、その幼き姿をした少女にもまた、魔王としての強大な力が秘められていた)

(魔王アスタルテは空に上がると、まず地上を見おろす。
 喉に手を当てて、魔術を発動。
 今、声を発すれば、この魔族都市全体に、アスタルテの声が響き渡る。
 魔王はカリスマを感じさせるよう地上の者達を眺め、凄まじき威厳を発する。
 体中から、禍々しき暗黒のオーラを発する。
 アスタルテは、地上の魔族達に告げた──)

魔王アスタルテ > 「者共、狼狽えるな!!

 天に見えるは、神聖を帯びし白き巨龍。
 
 されぞ、汝等にはあたしが……この魔王アスタルテがいる!!

 魔族としての誇りを忘れず、堂々と構えよ!!

 さすれば、この魔王アスタルテが汝等の未来を切り開こう!!」

魔王アスタルテ > (魔王のそんな一声に感化された魔族達は、徐々に落ち着きを取り戻していく。
 流れがだんだん変わっていき、魔族達は魔王を崇め初めていく。
 この街から、不安や恐怖といったものが取り除かれようとしていた)

『そうだ! アスタルテ様がきっと、俺達を守ってくださる!』

『俺達には魔王アスタルテ様がついている! 何も心配する事はねぇ!!

『『『アスタルテ様、万歳!! アスタルテ様、万歳!!』』』

(“王”なる者は一気に、怯える“民衆”を統率してみせたのだ)


(アスタルテは再び喉に触れると声を大きくする魔術を解除し、龍に向き直る。
 そして今度は、龍に向けて声を張り上げる。
 距離があるため、地上の魔族達には聞こえていないだろう)
「久しき、神龍ティルヒア!
 かつては《偽なる神》ヤルダバオートや数多の魔族達と奮戦し、多大な功績を神話として残した偉大なる“神”の一柱が、
 今や狂乱し、自国の民草を苦しめる暴君へと成り果て、味方をも己の怒りで塵と化す!
 神聖なる君がなんとも穢れ、地に落ちたものだね。
 哀れなり、ティルヒア。

 そんな堕ちた神が、魔族の治めるこの地に何用かな?」
(魔王は、神を一直線に見据える。
 それに対して神龍は特に何も告げる事はなく、容赦なしに“天罰”が始まった)

魔王アスタルテ > (無数の雷が、まるで雨の如く魔族都市全体に、それどころか周囲の山々にまで降り注ごうとしていた。
 天が雷光により埋め尽くされる程で、この世の終わりをも連想してしまう光景に、地上の魔族達には見えただろうか。
 それは先程まで消えかかっていた地上の魔族達の恐怖も、再び蘇らせる程だった。

 アスタルテは素早く、空に手をかざす。
 暗黒の魔力を瞬時にこめると、魔族都市……いや、魔物達が住みつく周囲の山々をも包み込むようにして、
 半円型の邪悪なる闇の障壁を出現させる。
 暗黒属性を帯びた、特大規模の障壁魔術。
 広範囲で尚且つ、絶対防御とも言える程に強固。故に、消費する魔力量も尋常ではない。
 無尽蔵なる魔力を持つアスタルテならではであり、並の魔王クラスであっても決して扱えるものじゃない)

「……っ!!」
(“神”の雷撃が一斉に、闇の障壁にぶつかる。
 その衝撃が、周辺の土地にまで影響を与えるだろうか。
 もし障壁が破られれば、都市に甚大なる被害を齎してしまう。
 そんな事、させるわけにはいかない!
 魔王として、地上の魔族達は絶対に守ってみせる!

 だが、相手は遥か神話時代の絶大なる“神”の一柱。
 いかなる高位の精霊や魔王をも凌駕するような力を秘めたれし者。
 いくら“生まれながらにして純粋なる魔王”たるアスタルテと言えど、少々厳しいものがあった。
 しばらくは持ちこたえれそうだったが、やがて闇の障壁に所々ヒビが見え始める)

魔王アスタルテ > (闇の障壁に守られ安心しそうになっていた魔族の民衆達だが、
 ヒビが目立ちだすと、またざわつき始める。
 今にも、障壁の一部が割れそうになっていた。
 アスタルテがしっかりみんなを守らなければ、魔族達を不安がらせてしまう……)

「もう少し……無理をするしかないね。
 なにせ相手は、アイオーンが生み出した“神”の一柱だもんね」
(この雷撃からして、神龍がこの都市と周囲の山々を跡形もなく消し飛ばそうとしている事は明確だった。
 そうするに十分すぎる威力が、神の雷撃にはあったのだ。
 魔王が闇の障壁を張らなければ、確実に都市が消滅した未来が見える。
 アスタルテは、さらに暗黒の魔力をこめる)
「ぅ……っ!」
(すると、障壁のヒビがだんだん修復されていく)

(闇の障壁と雷撃が激しくぶつかり合う。
 しまいには、神龍は炎をも都市に向かって吐いていた。
 無論、その炎は闇の障壁により阻まれるが、それだけアスタルテへと一点に負担がかかってしまう。
 熾烈を極めし“神”と“魔王”の大規模な攻防が、しばらく続く。
 それはまるで、“神話の戦い”の再現が如き光景。)
「ぐっ……!」
(アスタルテの額に、汗が滲み始める)

魔王アスタルテ > (やがて、長らく続いた神の雷撃はぴたりと止む。
 それとほぼ同時に、都市や周囲の山々全体を包み込んでいた特大規模の禍々しき闇の障壁も音を立てて割れた。
 “神”と“魔王”、両者、攻防の決着はついたようだ)

「はぁ……はぁ……」
(アスタルテは、荒れた息を整えていく。
 そして、再び紅の瞳で神龍を正面に見据える)
「神龍ティルヒア……まだ暴れ足りないかな?」
(次の神龍の攻撃に備え、アスタルテはまた暗黒の魔力を瞬時にこめていく。
 さらに魔王は、自らが反撃に転じようと、《魔王の大鎌》を強く握りしめる)

(神は、特に魔王に言葉を返さず、あっさりと引き返していく。
 その神は、あまりに強大であるはずだった。
 しかしおそらくは、他に襲うべき場所がいくつもあり、この一箇所で力を使いきるわけにはいかないという事なのだろう。
 去って行く神を見て、地上の住民達は一斉に安堵していた。
 次の瞬間、魔族達は歓喜の声を上げると共に、アスタルテを崇める)

『お、俺達は助かったのか……?』

『アスタルテ様が、俺達を加護してくださったのだ!』

『も、もう……この世の終焉だと思った……』

『アスタルテ様がいる限り、俺達は怯える事なんてないんだ!!』

(地上から、住民達の声が聞こえる。
 ともかくアスタルテは、この地の魔族達を守りきったのだ)

魔王アスタルテ > (アスタルテは、《煉獄の宮殿》の園庭に降り立つ。
 そこには魔王軍四天王諸君や数百を超える高位魔族、また先程まで宮殿内にいた数多の魔族が集まっていた。
 少々疲れた表情を見せる魔王に、まずは四天王の一角ロータスが声をかける)
『お疲れ様です、アスタルテ様!』
『『『お疲れ様です!!』』
(ロータスに続き、他の魔族達も一斉にアスタルテを労う)

『巨大な白き龍が現れ、一時はどうなるものかと思いましたが、さすがアスタルテ様。
 民衆を安心させただけではなく、見事この魔族都市を守ってくださいました。
 心より、お礼を申し上げます』
(そうアスタルテに深々と頭を下げるは、《煉獄の宮殿》に配置されたボスたる高位魔族。
 アスタルテはその者を真剣な視線で一瞥すると、一度頷く)
「まだ安心なんて出来ないよ。
 再び、あの龍が現れないとも限らないからね。
 それに──」

(アスタルテの右手に握る《魔王の大鎌》は、闇となり消えていった。
 そして瞳に魔力をこめて、龍が去って行った方を見つめる)
「あの白き龍は、各地で大暴れしているね。
 この地は守られたけれど、
 龍は、王国軍やティルヒア軍、異国軍、魔族軍問わず、大きな被害を与えている。
 ここ以外の、魔王軍オリアーブ支部の拠点も例外なく、襲われてるよ。
 すぐに、龍の被害に遭った魔族達の救援に向かわないと……だね」
(アスタルテは、配下達の方へと向き直る)
「これより、魔族救援・支援部隊をいくつか編成するね。
 各部隊、龍の被害に遭ってしまったオリアーブ地方の魔族達を救援、支援してほしい。
 今回の件で苦しんでいる人間やミレー族の姿を見ても、余裕があったらで構わないから見捨てずに救ってあげてほしいな。
 だけど、優先すべきはもちろん魔族だよ。
 あたしは……悪いけど、少し休ませてもらうよ……。
 さっきの防衛で、少し……疲れちゃったからね……ごめんね。
 総指揮は、ロータスに委ねるよ」
『アスタルテ様がそこまで疲労なさるとは珍しい……。
 承知いたしました!
 お任せください、アスタルテ様!』
(アスタルテは、緩慢な様子で宮殿へと入っていく。
 その様子を配下一同は見送るのだった)

ご案内:「オリアーブ島南部 煉獄の宮殿」から魔王アスタルテさんが去りました。<補足:外見10歳、身長130cm。黒いワンピースを着て、悪魔の翼を生やす魔王。>