2015/12/08 のログ
ご案内:「ティルヒア近隣の村落」にエウレリアさんが現れました。<補足:胸元の大きく開いた緋色のドレス/肩、胸、腰、両腕両脚を守る金色のライトプレート/華美な装飾の細剣>
エウレリア > 家屋に放たれた炎が篝火の如く夜の村落を照らし出していた。
悲鳴と怒号の響き渡るその場所で行われているのは、王国兵による略奪行為。
血と暴力に酔った兵士たちが無抵抗に逃げ惑う村民の背に槍先を突き立て、腰を抜かしてへたり込む農夫の頭部を手斧にて叩き割る。
着衣を引き裂かれた娘の身体が複数の兵士達に弄ばれ、火を掛けられた家畜が悲痛な鳴き声を響かて村道を駆けていく。
戦時においては日常的な光景であった。
そして今もまた、泣きじゃくる弟の手を引いて村から逃げようとする少女の背を、狂気的な哄笑とともに数名の兵士が追い立てていた。
馬上にある無法者に対し、10歳にも満たぬ姉弟の逃げ足は悲しくなるほどに遅い。
幼い少年が道端の石ころに躓いて転ぶ。
気付いた少女が慌てて駆け寄り、その小さすぎる体躯を庇うように覆いかぶさる。
獰悪な笑みを浮かべた兵の一人が、手槍の切っ先を獲物に向けて構えて―――。
「―――――ハ、これだから好きになれませんの、戦というやつは。 正直……見るに耐えませんわ。」
姉弟と追跡者のその間、家屋の影から無造作に姿を表したのは緋色のドレスを纏った一人の娘。
火の粉含みの夜風に靡く金髪の豪奢な風情といい、傲岸な笑みを浮かべて無法者達を睥睨する容姿の美しさといい、この場にはあまりに似合わぬ姿であった。
下劣な野盗が思わず追い足を止め、小さく蹲った姉弟が間の抜けた顔でその背を見上げてしまう程に。
エウレリア > 馬足を止めた追跡者達は、闖入者を取り囲みながら、怪訝そうな、しかし、下劣さの滲む視線で舐め回す様に娘の姿を観察する。
並の娘であれば怯えずにはいられぬであろう不躾な視線。
しかし当の貴族娘はまるで意に介した様子も見せず、肩越しの視線をうずくまる姉弟に向けて言葉を紡ぐ。
「ふふ、わたくしの美しさに思わず見惚れてしまうのは分かりますけど―――ほら、さっさとお行きなさいな。わたくし、別に貴方がたを助けに来たわけではなくてよ? 見苦しいこの男達の行いに少々頭に来たというだけの事。」
言葉の締めくくりに合わせて、切れ長の瞳を馬上の男達についと流す。
紅桜色の唇に浮かぶ艶やかな笑みはそのままに、優雅な動きで持ち上がった細腕が涼やかな鞘走りの音と共に銀剣を引き抜いていく。
細身の刀身の先端付近、夜空を照らす炎にも似た炎熱の色合いを灯す魔法剣の切っ先を地面に向けて、傾げる小首で金の髪束を揺らしつつ―――。
「どうなさいましたの? わたくしの身体にもたっぷりと乱暴狼藉を働きたいのでしょう? 似合わぬ我慢などなさっていないで、さっさとかかっていらっしゃいな。」
嫣然と双眸を細め、喉の奥にてククッと忍び笑いを漏らしつつの言葉。
場にそぐわぬ異様な雰囲気に呑まれていた無法者達が、その言葉をきっかけに一斉に動いた。
3本の手槍と2振りの手斧が同時に投擲される。
7人の兵の内、残った二人が長槍を構え、互いに交差する軌跡にて女剣士の細身を刺し貫こうとする。
エウレリア > ドカカカカッ!
緋色と金色の残像を貫いて地面に突き立つ槍と斧。
人とは思えぬ瞬発で跳んだ女剣士は、伸身の宙返りでドレススカートをはためかせつつピゥンと銀光を走らせた。
ライトプレートと剣鞘が立てる涼やかな着地音の背後、馬上槍を突き出した格好の2騎がその鎧姿をぐらりと傾がせる。
その首筋からしぶく血煙が、雨粒の様に鮮血を降り注がせた。
『――――ンなッ!?』
突然の出来事に双眸を見開いた兵士の脇腹を、斜め下方より突き上げられた銀閃が貫いた。
革鎧をあっさりと刺し抜き、肋の合間を縫うようにして心の臓を貫く一撃。
剣の引きぬかれた傷孔から吹き出す血流は、地を疾走るドレス姿を濡らす事さえ出来ない。
『くっそ……ッ!』『―――このアマッ!』
緋金の影が小回りの効かぬ騎兵の合間を縦横に駆けるたび、そこかしこで悲鳴が上がり、苦悶の声音がくぐもって響く。
戦いとも言えぬ一方的な殺戮が終わるまで、結局、幼い姉弟は蹲ったまま動く事さえ出来なかった。
細剣に付着した血脂をただの一振りで完全に拭い落としつつ、貴族娘は呆れた様な声を少年少女に向ける。
「―――貴方達、見た目通りに鈍臭いのね。そこでぼんやりしている暇があるのなら、せいぜい生き延びるために足掻いたほうがよろしいのではなくて? まぁ、わたくしには関係ありませんけど。」
一方的に言い捨てて、彼らに背を向けた女剣士が向かうのは村の奥。
未だ略奪を続ける王国兵を一人残らず鏖殺するつもりなのだ。
その瞳に浮かぶのは、他者の命を奪う歪んだ悦び。
無法者と化した兵士達と大差ない殺戮者の笑みだった―――。
ご案内:「ティルヒア近隣の村落」からエウレリアさんが去りました。<補足:胸元の大きく開いた緋色のドレス/肩、胸、腰、両腕両脚を守る金色のライトプレート/華美な装飾の細剣>