2015/11/28 のログ
アノー > 「武器を向けられたら緊張しなくてはいけないのか? 鼻歌でも歌いたいほどの日常だ」

壁が消えていけば男は苦笑いを浮かべる。
まるで生まれたばかりの子犬のような警戒心の高さだ。
いや、戦場で生きるならばそれぐらいの警戒心はあったほうがいい。

「ああ、嘘じゃない。傭兵部隊長兼拠点防衛アドバイザーのジャックだ。テルヒア軍に照会してもらっても構わない。なんなら認識コードでも言おうか?」

潜入したといっても表から堂々と傭兵として志願したに他ならない。
ナナシ部隊に繋がるような装備品も持ってはきていない以上、言葉での応酬でしか証拠を掴めないだろう。

「今次大戦では王国が重要視するのは此処、ング=ラネク山だ。魔石。魔導石。魔道具やらそういったものが出土、採掘されるだろう? 王国だってテルヒア軍討伐に関してだって謀反を表向きの理由にするだろうが、本心ではこのング=ラネク山がほしいのはお前も知っているだろう? 採掘隊の遠征要請をことごとく却下されていたからな」

数歩の距離を置いて男は少女を安心させるように声を掛けようか。

「大丈夫だ。敵じゃない。現地視察を黙っていたのは悪かったが、部隊演習や工房に迷惑を掛けたくなかったんだ。今、この地で生産される武器を待っている兵が多くいる。彼らに迅速に、かつ安全で誰でも使える武器を供給することが今のテルヒア軍の責務だ。わかるだろ?」

リーゼロッテ > 「そんな日常…嫌です」

本当なら武器を誰かに向けたくなんてない。
鍛錬と違って人が死んでしまう、森での調査で致し方なく人以外を手にかけるのとは違うのだから。
壁を消しても彼は何もしない。
少しだけ安心しつつも、銃口は下ろした。

「ジャックさんですね、魔法銃遊撃隊 隊長をしてますリーゼロッテです」

この形だと中々信じてもらえないことが多いので、困ったように笑いながら 一応 と呟いてしまう。

「ん~…そういうのはわからないので、参謀さんに言ったげてください」

詳しい番号などは彼なら分かるだろうと思い、苦笑いで頭を振った。
この山について、魔導石、魔法銃、いろんな考察を聞きながら、造兵廠の方角へと帰路を進む。
しかし、少女には最近戦いにねじ込まれた新参者。
おまけについ最近まで、何となく戦争が始まるとしって怯えていたぐらい。
ぽかんとした様子で耳を傾けるが、何となくここが大切というのだけがわかり、頷くのが精一杯。

「…上の人は、安全なんて考えてないです。増幅装置を持たせようなんて、危ないだけです」

憂いを秘めた声で呟く少女の顔は不安に満ちる。
こつこつと進んでいくと、自然に作られた洞窟の奥にほのかな明かりで照らされた人工物の階段が見えてくるだろう

アノー > 「戦場にいればすぐ慣れる。慣れるのが嫌なら逃げてしまうほか無いな」

この少女の話を聞く限り、この子を尋問しても情報は得られないだろう。
ならばするべきじゃない。もっと多くを知ってそうなのは参謀さん、と呼ばれる男か。

「年齢は関係ない。優秀かどうかだ」

その優秀さは「どれだけ人を殺せるか」ということだがあえて口にせず黙っておく。
一緒の方角へと歩くのが決まれば上げていた両手を下ろすだろう。
ここで拘束していないのがこの少女の未熟さゆえだろう。拘束し歩かせ、拠点についてから拘束を解くのが兵士の基本姿勢だ。
ということは兵役としての兵士の基本教育も怪しいところか。
なるほど、『一番戦いたくない相手だ』。

「・・・魔法については詳しくないんだが、無理な火力を出そうとすれば銃身が分解爆発するぞ」

火薬式の銃器ならそうなる。

「上がどれだけ偉いか知らんが、戦地経験済みの傭兵の立場から助言することは出来る。力になることもできるが・・・」

人工物の階段が見えてきた辺りで、男は煙草を消して言った。

「だが、傭兵が情に流されては戦争生活者とは言えんな。なにか報酬があれば俺も協力するが?」

リーゼロッテ > 「……逃げれればいいんですけどね、逃げちゃうと困っちゃう人達が沢山いますから」

悲しげに目を伏せながら呟いた。
自分一人の話ならとっくに逃げている。
逃げたら、教会に残った子どもやミレー族の人達が路頭に迷う。
その想像が浮かぶと、振り払うように茶色の髪を揺らした。

「魔法銃については、一番優秀ですけど…戦争についてはダメダメですね。一番上手だからって、戦いも訓練も全部、私に押し付けて…」

魔法銃の技術を伝達し、引率する要の存在。
だからこそ隊長に抜擢されたという、重要かもしれない内容を愚痴ってしまう。
兵役としての訓練もろくすっぽ無く、付け焼き刃に押し付けられたのがありありと浮き出てしまった。

「えぇ…増幅装置は、熟練した魔法銃の使い手が練習を重ねて…やっと安定して使える危ない応用技の道具なんです。それなのに、数だけ作って持たせたって…皆、死んじゃったら嫌なのに」

暴発の危険性があるものを放り込んでまで戦う。
狂気の沙汰といった命令を愚痴りながら、顔色は曇るばかりだ。
ふと、助言という可能性が聞こえると、暗い顔が一気に明るくなり、素早く彼へと振り返る。

「ほ、本当ですかっ!? じゃあ、もうちょっと訓練とか、時間がないとダメだって、言って欲しいです!」

これで皆に危ない橋をわたらせずにすむと、安堵の笑みをこぼすも、彼が続けた言葉にキョトンとしてしまう。

「報酬、といいましても……」

お金はちょっとぐらい持っているが、そんなの大したものにならない。
自分が彼にできるもの、なんだろうかと思案顔でうつむきつつ、口元に手を当てる。
魔法銃の使い方を教えるとか、おいしい食事を振る舞うとか…それぐらいしか浮かばず、考え込みながら少女も足を止めた。

アノー > 「なるほど、人質か」

飾らず絹も着せずにそういった。
よくある話で、「兵士を辞めれば病床の両親が」という話しも聞くことは多い。
そうすることでしか食べれない、ということも多いが。

「そうか、その年でそいつを扱えるのは熟練している証拠か。だが、上役も結果がほしいか」

この場合、少女の言うような方法ではダメだろう。
上役は自分の望む要求に近いことか、それに近しい成果がほしいのだろう。

「1人死んで、敵兵を5人殺せれば満足なんだろ。さて、俺が提案するのはその銃の改良だ」

男は少女の銃を指差して言う。

「俺の友人にその手の魔導兵器に詳しい奴がいるからそいつに依頼することが出来る。試作品でもいいから一丁預けてもらえば改良することを頼もう」

さらに、と付け加える。

「現実的な技術かどうかはわからないが。威力を3割ほど落として全員が使えるようになれば問題ないんだろう? で、魔力を増幅する手段は人体の魔力という話しで間違いないか? それならば魔力の供給先を石にしてしまえば良い。一発、二発毎に再装填を行えるようにすれば誰でも使える。だが人体を通さない以上、それは固定のイメージしか使えないだろうが。そういった方法での改良ならば可能じゃないのか? 方法としてはエルフが矢尻に魔石を使い弓矢で魔法を撃つのと同じだ。それを銃器に転用する。」

無論、門外漢であるが兵器に関しては詳しい自信がある。

「報酬は・・・そうだな。リーゼロッテ。お前がほしい、と言ったらどうする?」

にやり、と男は笑ってそう言った。
無論、これは身体でという意味ではなく「魔術に精通した人物を部隊にほしい」という意味だが。

リーゼロッテ > 「そ、そんなのじゃないですよっ!? 私、教会の生まれで…教会にミレーの娘とか、両親をなくした子供とかがいて、その子たちを養うお金が国から貰えていたんですけど…戦争が始まって、お父さんが誰かに殺されちゃって…そしたらお金がいるなら…って」

父が死に、国の援助も失った拠り所はそのままでは滅ぶしかなかった。
残された彼女は助けたい一心で、こんな血生臭い場所へ来てしまったらしい。
それを例えるなら、人質というのかもしれないけれど、少女はそんな物騒なことじゃないと驚いていた。

「結果…?」

褒められたのもつかの間、予想外の理由と上の考えにゾワリと寒気を覚える。
まるで捨て駒だと、幼い少女でも理解が出来る。
慕ってくれる兵士達が使い捨てられるなんて、考えたくもない。
悲しげに視線を落とすと、提案の言葉に耳を傾ける。

「えっと、よくわからない…ですけど、増幅する力を抑えてしまうってことでしょうか? 3倍じゃなくて2倍、みたいな…」

あってるかなと言いたげに首をかしげる。
ただ、問題なのは銃を預けるということ。
それは…参謀さんにしっかりと彼が危なくないか調べてもらってからでいいかなと、自分では探りようがないので深くは考えないことにした。
報酬として、指名された自分の名前をきき、今度は反対に首を傾げたが…間を置いて理解に至る。
といっても、勘違いしてしまった答えの方だが、分かりやすいほどに頬が赤くなっていき、挙動不審に四方へと視線が散っていく。

「ぁ、あの…わ、私なんて…中身も、体も…子供、ですし…面白くない、ですよ…っ!?」

勘違いとは気づかずに、真っ赤になりながら彼の要求を満たせるものではないと謙遜してしまう。

アノー > 「ああ、教会か。それは大変だな。 ――それはそうだな、兵士になるぐらいの給与と保証がないと無理だな」

ふむ、と考える。
実のところナナシ部隊は戦災孤児がほとんどの部分を占めている。
いや、というより傭兵になるのがほとんど戦災孤児だという理由でもあるのだが。

「一人が生き、二人殺せれば問題ない。つまりだが――」

男は説明する。
魔力の供給源が人間で壊れてしまうなら、壊れてしまってもいい石に変える。
その為には杖としての役割ではなく魔導兵器としての役割を持たせるため魔導兵器に精通している人間が必要だ。
魔導兵器に精通している人間を知っている。その人に試作品を預けて改良してもらうのはどうか?
という話しだ。もっともそれはリーゼロッテが扱うものよりも数段落ちるものだが、普及させることはできるだろう。
まずはそこから慣らしていき、そこからリーゼロッテと同じような銃器を扱えるものを選出し、部隊を編成する。
という流れをジャックは提案する。
もっとも、それを参謀に提案するのは、

「提案するのは、お前だからな? それと、問題があるなら精通している人間を此方へ呼び寄せることも可能だ」

ぽっと出の傭兵隊長にお株を取られたのでは隊の士気に関わる。
上役の評価も違う方向に上がってしまう。
もっとも、裏の思考としてはング=ラネク山の重要性を高め戦時意気が高まった辺りでフォンローク家の力を借り降伏を提案。銃弾の配給を止め無血降伏を狙う腹積もりである。
その為にも、リーゼロッテと参謀の信頼は得たいし、子供を戦場から遠ざけたいつもりでもある。

「? 大丈夫だ。子供かそうかが重要じゃない。リーゼロッテ、お前だからだ」

そう、部隊に必要なのは能力の高い存在。そしてリーダーシップを発揮できる人間である。
今、この大戦でリーゼロッテが部隊運営を覚え指揮能力や戦闘能力を磨いていけば、リーゼロッテを得ることはそのままナナシ部隊に魔導部隊が加入することを意味する。
それは今後のために重要な案件である。
という勧誘のつもりだったのだが、なんで顔を真っ赤にしているのだろうか。
言葉が足りない男は首を捻る。もっともナナシ部隊の名前は出せないが。

「それとも、俺(上役が)だと嫌か?」

リーゼロッテ > 今までの保証が欲しければ血を捧げる。
仕方にとは言え、少女もその言葉に頷くしかない。
魔法銃の技術を、道具主体に切り替えていく提案を耳にし、何となく彼の言わんとしていることが理解できて来たらしい。

「ぇ、わ、私…ですか?」

こんな難しいことを綺麗に伝えられるだろうか?
いつもの作戦会議ですら、技術の提案こそすれば、細かな後詰めは参謀任せで、順序だった説明がうまく浮かばずに悩み顔をしてしまう。
しかし、やらねばならぬならと思えば、頑張ってみますと、自信なさげだが、頷くようだ。

「ぅ、ぁ……わ、私だからって言われましても、さっきそこであったばかりで」

子供っぽいし、体は未発達だし、すぐ失くし、臆病だしとマイナスな言葉ばかり頭の中で渦巻く。
ついそこで出会って、少し喋ったばかりの彼が自分に何を見出したのか?
わからぬまま、頬の赤さは抜けず視線をそらすように下へと落とし。

「い、いやといいますか……だって、はいどうぞって、あげられるものじゃないです、よ?」

好意を向けられ、嫌な思いはしないが急展開過ぎる。
否定しきれず、困ったように苦笑いを浮かべれば、どうしようと心の中で迷っていく。
そのまま数分ほど無言になり…。

「…本当に、それで…助けてくれるん、ですよね? 本当に」

初夜も終わってしまった。
あの夜を胸に焼き付け、忘れないようにと抱えた。
自分が汚されることで、助けられるならと…最後の確認を紡ぐ。
彼が肯定するなら、少女は赤いままに頷くだろう。

アノー > 「必要なら補足する。その参謀さん、という奴を紹介してくれれば俺と裏であわせてもいい」

参謀さん、というと司令官ではないのか。
いや、違う。司令官はこの娘なのだった。
となれば、その参謀殿も有能な人物なのか。苦労人だろうとは思うが。

「ああ、だがリーゼロッテがどういう人物なのかはよくわかった」

それで合わなければ独立したっていい。
一番怖いのは子供が何のためか分からず戦い、何のために命を無くすのか知らぬまま逝くことだ。

「そうだな。難しい話だ。リーゼロッテの人生を決めるかもしれない話だな」

所属を変える、という話はそういう話だ。
もっとも今は魔導部隊と傭兵部隊の併合という形になるだろうが。

「こういうのは相性が大切だ。フィーリングと言ってもいい」

そして、少女の再確認に男は頷いた。

「俺に出来ることは魔導兵器に長けた知人を紹介することだ。恐らくできるだろう。魔石の採掘や加工に関してアドバイスすることもできる」

やや遠くを見るようにして言う。
その知人こそがナナシ部隊の技術開発を担う隊長殿であるが。
年も近いし友達になれるんじゃないんだろうか。
それはそれでいい刺激になるだろう。なんて、勘違い会話は進んでいく。

「そうか。ならリーゼロッテよろしくな」

と、そういって男は少女の頭にぽん、と手を乗せようか。

「今日は遅いだろう。別の日にするか?」

無論、これも話を詰めるための時間である。
参謀や上役に対して話すことだが別の意味に取れるわけで。
そこは貴方の時間がどれだけあるか、だが。部隊長ともなれば夜になれば忙しい。早めに寝たいと言えば男は快諾するだろう。

リーゼロッテ > 「出来れば…といいますか、是非。私だとうまく伝えられないと思いますから」

そのほうがいいと直ぐ様頷いていた。
勝ち目のない戦争に率直な意見をいい、僻地ともいえる部隊に飛ばされ、挙句に子守である。
部隊一の苦労人が誰かといえば、どの兵士も彼女の参謀を指差すだろう。

「ほ、本当ですか?」

そんな短期間で分かることなのだろうか?
不思議そうに見上げていれば、予想外に展開の早い内容に一歩後ずさる。
確かにあげれないとはいったが、そこまでいくの!?と顔に浮かべて驚き、困惑した表情で彼を見つめる。
真面目なのか、冗談なのか……淡々と語る様子に少女は、頬に冷や汗が伝う心地だ。

「…はい、私で…満足いただけるなら」

まるで体を売るかのような気分、自ら選んだとはいえ、とても胸が苦しい。
嫌悪感というよりは、悲しい気持ちがズキズキと棘のように食い込んで胸を締め付ける。
震えそうになるのを堪えながら、頭に手を載せられ、顔を上げるとどうにか苦笑いを見せるのが精一杯だった。

「そう、ですね…戻らないとですし、ジャックさんと…その一緒に部屋にいくの見られたら、困ると思いますし」

色々とタイミングが悪いと、勘違いのまま答えていく。
戻りましょうかと苦笑いを浮かべれば、苦しみを紛らわすように足早に階段を登るだろう。
……後日、違う意味と知れば、少女は色んな意味合いで感情を爆発させ子供っぽく彼を突っつくのだろうけれど。

アノー > 「わかった」

やれやれ、という風に男は手を広げた。
とはいえ、こうして戦場で戦力UPを測れることは傭兵にとって強みだろう。
苦労人である参謀も少しは肩の荷が下りるといいのだが。

「なんだ。そんなに驚くことなのか? 驚いたり哀しそうな顔をしたり照れたり忙しい奴だな」

男は「きっとこれから大切な話を参謀とするから緊張しているのだろう」と勘違いし少女の頭を優しく撫でようか。

「安心しろ、と言っても難しいがな。だがお前のことは(仲間として)大切にする。
一緒になれば、俺達はもう家族も同然だ」

ま、昨日今日の話で所属の話がでるのも急な話しなのだが。
とはいえ、戦力UPも行え、ング=ラネク山を簡単に手にすることが出来るようにことを運べば自然とナナシ部隊にとっても旨みが出てくる。
フォンローク家の思惑とも合致するだろう。この子にしても前線からナナシの後方部隊に回れば平穏な生活が送れるはずだ。
いささか此方本意ではあるが、戦後のことを考えればこのままテルヒア軍のまま捕虜となり奴隷となる未来が待ってるよりはいいはずだ。
もっとも、何かの拍子に王国が負けるようなことがあれば話は別だが。

「・・・? そうだな。まずは参謀に紹介してくれると助かる。此方の部隊も呼び寄せないといけないしな」

勘違いのまま話は進んでいく。男は少女から一歩離れた距離を保ってついていこうか。無事、テルヒア軍内部に組み込めそうだ。
とはいえ・・・後日。そのまま男が突っつく側になるかもしれないがそれはまた別のお話。

ご案内:「ング=ラネク山 ティルヒア魔法造兵廠」からアノーさんが去りました。<補足:革鎧にロングソード。カンテラ。王都よりテルヒア軍へ間諜として送り込まれた傭兵。>
ご案内:「ング=ラネク山 ティルヒア魔法造兵廠」からリーゼロッテさんが去りました。<補足:毛先の辺りに緩やかなウェーブが入った薄茶色のロングヘア、青い丸い瞳の童顔。幼児体型に、可愛らしい軍服。>
ご案内:「オリアーブ島西岸 王国軍港湾基地」にオーギュストさんが現れました。<補足:大剣を持った将軍。黒髪を後ろで縛っている>
オーギュスト > 「ったく、派手にやられたな」

所々まだ煙の上る建物を見ながらオーギュストは呟く。
外殻の壁部分、兵舎などは大分被害を受けたようだ。
特に壁面の損傷が激しい。早急に修理が必要になる。

「――とはいえ、まぁこんなもんか」

地上からの侵攻ゆえ、もっとも重要な港湾設備は無傷で残った。
港湾を基地として改造した甲斐があったものだ。
兵舎、壁面などは修理も簡単だ。再稼動に時間はかからないだろう。

「で、敵の自爆攻撃ねぇ……第九の報告通りか」

報告書に目を通しながらオーギュストが呟く。

オーギュスト > 「警戒線は海だけじゃぁなく、陸にも必要だな。
今後は敵の本格的襲撃にも備える必要がある。
――もっとも、なるべくはやく片付けるがな」

修復の指示を出しつつ、オーギュストは積み上げられた物資の山を見上げる。
ようやく制海権の一部が戻った事で、恒常的な補給が届くようになった。
湾岸への魔導砲の設置もはじまり、本格的に兵員輸送が可能になる。

「と、なると……」

そろそろ戦後の事を考える時期に来ている。
ティルヒアの魔導鉱山、あれをどうするかだ。

ご案内:「オリアーブ島西岸 王国軍港湾基地」にマリーさんが現れました。<補足:雷光を操るバウンティハンター>
マリー > オーギュストがそんな事を考えていた時。
その思考を打ち破る様に女性の声が響いた。

「あー、いた!お前、やっと見つけたぞ!」

つかつか、と歩み寄って行く。表情は……好意的とはいいがたい。なんだか怒っているような雰囲気である。

オーギュスト > 「あん?」

外で積み上げている物資を見上げていると、どっかで聞いたような声。
振り向いてみれば、女が一人。
確かこいつは……

「……おぉ、生きてたのか」

そうだ、確か例の件で協力した賞金稼ぎだ。
なんか高位魔族にとっ捕まってたから、死んだものと思っていた。

マリー > 「生きてたよ、使いたくない切り札使って逃げてきたんだよ!」

つかつかつか。怒りの表情のまま目の前まで歩いていき、何かを渡せと言わんばかりに手を突き出す。

「ほら、生きて戻ったよ!言ってた通り、協力分の報酬、なんか渡せよな!」

バウンティハンターは金に煩い。金が主目的ではないマリーであっても、やはり報酬関係には煩いものだ。報酬関係を雑にするバウンティハンターなど、安く買いたたかれるのがオチなのだから。
そして、そんなマリーは当然「生きて戻ったら報酬を渡す」と言う言葉をしっかりと覚えていた。それを要求しているのである。

オーギュスト > 「――おぉ、そうだったな」

そうだ、報酬。
そういえば渡してなかった。そりゃ怒るよな。

「わーったわーった、今持ってこさせるからちっと待て」

そう言うとオーギュストは、近くの参謀に何事かを命じる。
しばらくして、参謀はひとつの勲章をオーギュストに手渡した。

「……お前、名前なんだっけ?」

マリー > 「おっまえなぁ……」

溜息をつく。まあ、こういう立場にいれば、一時的に協力しただけの一賞金稼ぎの名前なんて忘れていてもおかしくない、と言うか当然なのだろうが……それでも、一応命懸けの戦いで共闘した相手の名前を忘れているというのはどうなんだ。
むすっとしつつも名を名乗る。

「マリー。ボクの名前はマリーだ、覚えといてよね」

ちなみに、マリーはオーギュストの名前を憶えていた。どちらかと言えば、自分を見捨てた&報酬の約束がある相手として、ではあるのだが。

オーギュスト > 「いちいち死んだ奴の名前なんざ覚えてねぇよ。お前は死んでなかったけどな」

戦友の名前など覚えていられない。
この男は、日々100の戦友を得て1000の戦友を喪っているのだから。
とはいえ、名前を聞くと参謀は頷き、持ってきたもの――勲章に、マリーの名を刻む。

「マリー。その功績を鑑みて、王国軍第七師団長オーギュスト・ゴダンより第二級竜鱗勲章を賜る」

オーギュストはやる気のなさそうに形式通りの文句を言うと、マリーに箱に入った勲章を差し出す。
その鈍い輝きは、見る者が見れば竜の鱗を使ったものだと分かるだろうか。

マリー > 「……軍人と賞金稼ぎの違い、なんだろーね。仕方ないか」

小さく溜息。
この男は軍人、しかも将軍だ。共に戦う戦士の数は桁が違う。
成程、いちいち覚えていられないなどと言うのは道理だ。

「えーっと、何だって?第二級竜鱗勲章?なにそれ?」

言いながら箱を受け取り、そしてその中身の勲章をじっと見る。
蜥蜴、じゃない。名前の通りならば、竜の鱗を使った勲章。これだけでもかなりの値段が付くものだ。
だが、勲章の本質は、そこに含まれる名誉にある。名誉を視覚化したものが勲章なのだから。
が……バウンティハンターであるマリーに、この勲章の持つ価値はいまいちわかっていなかった。なので、取り敢えず聞き返す事にしたのだ。

オーギュスト > 「竜鱗勲章は、戦場で味方を救った者に与えられる勲章だ。
俺の名前が後ろに刻んである。まぁ、王都の酒場あたりで見せりゃ、それなりの待遇がしてもらえるだろうよ」

戦場で仲間の命を救う事は、敵兵100人を殺す事より価値あるとされている。
なので、勲章の中でも最高級の「竜」の名を冠する栄誉を与えられているのだ。
なお、第一級竜鱗勲章は戦場で総司令官の命を救う為に命を落とした者のみが受勲できるという決まりがある為、生者が持つ竜鱗勲章でもっとも価値があるのが、この第二級竜鱗勲章である。

「いらなけりゃ売り払え。一年は遊んで暮らせるだろうよ」

マリー > 「へぇ……ま、ありがたく貰っとくよ。売りもしない」

言いながら、そのまま勲章を身に付ける。
……マリーにとって、重要なのは名声。もっと言えばそれによって名が広まる事。
ならば、この勲章はベストと言っていい。なんせ「第七師団隊長の命を救った女」と言う証明は、名を広めるのに大いに役立つだろうから。
大層な、とも思わない。あの場でオーギュストを救ったのは間違いなくマリーであるし、手柄になったであろうロザリア=Ⅳ=キルフリートの捕獲も、マリーの天雷一鳴あってこそだったであろうから。
そう言う意味では、非常に適切な報酬であると言える。

「……そー言えばさ、ここの副官さん、サロメに会ったよ。あの人結構気を張ってるから、たまには息抜きさせたげたら?」

ついでにそんな事を口にする。
この第七師団においては恐らく異端ともいえるであろう、清廉で真面目な気質を持つサロメ。
そんな彼女を慰労してやるのも団長の仕事だろう?と言わんばかりである。

オーギュスト > 「サロメ? あぁ、あいつは先遣隊だったか」

そういえば、あの副官は何処に行ったのか。
この騒ぎである。どこかに居る事は間違いが無いのだが……

「慰労か……まぁ、今度また抱いてやるか」

この男にとっては、それが一番の慰労方法である。
非常に原始的発想だが、お互い気持ち良いのだしそれが一番ではないか。あとはヤったあとぐっすり寝て、朝起きて風呂に入り飯を食えば完璧だ。

マリー > 「一応、傭兵としてボクもそっちで戦ったからさ。その時にね」

まあ、何と言うか話せば話すほど、あんまり反りが合わないんじゃないかなあ、と思う。そのズレもまた必要なのだ、とサロメは語ってはいたが。

「抱く、ってお前さぁ……サロメってそう言うタイプに見えなかったんだけど?」

サロメと話して受けた印象は「真面目一徹」である。
好き好んでセックスなどをしたがるようなタイプには思えない。まあ、真面目一徹型は実は……なんてこともよくある話ではあるので、ああ見えて裏では好色なのかもしれないが。
とは言え、反りが合わない感じの相手に抱かれて、それは慰労になるのだろうか。気持ちよければやっぱりOKなのだろうか。
未だ生娘のマリーには、よくわからない事であった。

オーギュスト > 「傭兵ね。まぁ、しっかり稼ぐんだな」

この戦いも、もうそんな長くは無い、という言葉は飲み込む。
戦場で、何もかもうまくいく事は無い。まだ一幕、残っているかもしれないのだ。

「そうでもないぞ。最初は嫌がってたが、最後はあいつも悦んでたしな」

まぁ、無理矢理何度もシた結果ではあるのだが。
そういうデリカシーは、この男に一切無い。

マリー > 「ま、それなりには頑張るよ。正直集団戦はやり辛いけどね」

マリーの能力は雷光、電気を操る魔術だ。
そして、基本的に高速で移動し、ヒット&アウェイで敵を狩る事を得手にしているマリーにとって、想像以上に集団戦、混戦と言うのはやり辛いものだった。
とは言え、遊撃と言う形をとる事で何とかそれなりの戦果を挙げてはいるのだが。

「へぇ……溜まってた、って奴なのかな。ボクにはよくわかんないけど」

今度会った時は、その話で少しイジってやろうかな、などと考える。
生娘のマリーが言っても単なる耳年増ネタにしかならないのだが、あの副官はそこら辺、イジり返す余裕を持てないタイプと見た。

オーギュスト > 「おう――って、そろそろだな」

参謀が次の輸送船の到着を告げる。
オーギュストはマリーにひらひらと手を振ると、そのまま港湾へ向かった。

ご案内:「オリアーブ島西岸 王国軍港湾基地」からオーギュストさんが去りました。<補足:大剣を持った将軍。黒髪を後ろで縛っている>
マリー > 「あいよ、そんじゃあね」

ぐーっと伸びをしつつその場を去る。
さて、この後はどうしようか……パートナーでも誘って、そのままどっかで飲もうかな。
そんな事を考えていた。

ご案内:「オリアーブ島西岸 王国軍港湾基地」からマリーさんが去りました。<補足:雷光を操るバウンティハンター>