2015/11/25 のログ
魔王サタン > 既に包囲なり纏めて掛かって来るなりは準備は出来ているであろう兵士達の中、幾分か彼らよりは小柄と評してよい少女の姿を真紅の瞳は捉えた。
やれやれ、折角のサプライズも兼ねた殴りこみだというのに、告げられた言葉は男にとって少々面白みに欠けた。

「――…知っておるさ。
が、我としては今回、王国側の勝利に賭けておるのでな。
であれば、自らが賭けた者達の実力も一応は測っておきたいのだよ。
ティルヒアの軍にすら及ばぬ”弱兵ばかり”であれば、我としても考えねばならぬ故にな。」

無論王国が勝利して欲しい理由など告げるつもりは無い。
言葉に一部煽る色を見せながらも、少なくとも目の前の女の言葉に従うつもりは無いらしい。
煽る言葉を受けた兵士達がどのような反応を示すか、それも僅かながらの楽しみではあると言う様に、男はユルリ、辺りの兵士達を赤い瞳で見回した。

サロメ > 荒くれ揃いでもある第七師団
目の前の魔族の男が発する言葉にいきり立つものも少なくはない、だが…

「挑発に乗るな!!」

女性の発した裂帛の一言に、頭に血が昇りかけていた何名かの兵士は沈黙する

「魔族である貴君がどんな賭けに興じていようが我々には関係のないことだ。
 "我々の邪魔をしにきた"、"ティルヒアに加担している"、いずれかの理由がなければ見逃してやると言っているんだ。
 乗っておいたほうが無難だろうと思うがな」

氷のように冷静に、淡々と、しかし遜ることはなく
いかな強大で危険な毒虫であろうと飛んで火に入る夏の虫には違いはなく

その金色の双眼を魔族の男へと向ける

…今回艦隊でもって上陸した人数は多い
この駐屯地を指揮する人間が好戦的なオーギュスト将軍でなくてよかったと内心思っていた

魔王サタン > 周囲で一部殺気立つ気配も感じはしたが、女の一喝の前に沈黙する様子。
なるほど、この女が今現在この部隊においての最高位の指揮官かと判断するは十分。

「――…我と事を構える気は無いと言う事か。
聊かつまらぬ話であるな。」

もう少し好戦派な連中だと思って居ただけに聊か興が削がれた。
しかしまぁ手ぶらにて帰るのは面白くも無い。
なるほど、”ティルヒアに加担している”か”彼らの邪魔をしにきた”か。
まぁ、この騒乱さえなければ、彼らは男にとっては潰すべき敵でしかない。
金色の双眼が見据える男の表情は、ユルリと口許を邪悪に弧を描き笑みを浮かべた様映るだろう。

「――…では、貴様らの邪魔をすることとしようか。
なに、所詮お互い相容れることの無い存在であろうしなァ…!」

ドォン!と男の全身から赤い魔力の波動が周囲へと広まったのは語尾が強く発した際になるか。
完全な敵意を剥き出しにした魔族に対し、どう対応するのか。火の中飛び込んだ毒虫はただただ邪悪に笑った。

サロメ > 「……そうか。もう少し聡明な魔族の君であることを期待したが…」

第七師団は初戦とは編成を変えている
ティルヒアに魔族が組しているという報告があった為だ
こうして最前線に切って出てきているのもそれが大きく関係している
すなわち対魔族のスペシャリストとしての第七師団はこの場においても健在である

赤い波動に灰色の髪と副将の証である純白のマントを揺らす
その瞳は臆するという色は一切見せずに……

「高位魔族だ!陣形をとれ!」

声を張り上げて命令を下す
神聖魔法による大盾と短槍をもった者達が前で出る、
と同時にそれらの背後から神官達が神聖魔法による詠唱をはじめる
まずは戦闘による被害を抑えるのための先手、駐屯地に強力な保護結界が何重にも、次々に張られてゆくだろう

退治するサロメはその蒼鋼の長剣を抜き放つ

「吐いた唾を飲ませないほど私は厳しくはない、逃げを打つならば今のうちだが?」

魔王サタン > 「――…これでも我にしては随分と言葉を尽くしたつもりであるがな?」

問答無用で蹂躙せぬだけ理性を見せたつもりだったが、やはり男は自らの一面たる『暴力』をもって相対するほうが早いと結論付けた。
なるほど、魔王の覇気にすら怯まず恐れず、一糸乱れぬ動きで魔族を狩ろうとする様は対魔族部隊ならではかと、真紅の双眼はその動きを眺める。

さて、では此方もそろそろ暴力を振う事としよう。

波動は次第に収束し、並の神聖魔法であれば防ぐだけの厚さをもって男の身を赤い波動が包む。、
既に彼らにとっては男の処刑場のつもりだろうが、男にとってはここは決闘場であり、一対多数の絶対不利な状況。
口許は不気味さを示すように愉悦に歪んだ笑みを浮かべているだろう。

さて、目の前対峙し長剣抜き放つ女を相手とするか、後方にて神聖魔法にて男の身を焼こうとする術者にするか。
並の神聖魔法ならば相手にする必要もなし。
優れた術者は無論居るだろうが、こちらもそんじょそこらの魔族ではない。

「魔王たる我が逃げ帰っては全ての魔族に対し示しがつくまい?貴公らこそ、我をしかと楽しませるのだぞ?」

なかなかの使い手らしい女の方を獲物と、真紅の瞳は捉えたならば、男の脚は地を蹴り飛び出し、瞬間的に女の間合いへと飛び込んだ。
振うは右腕の拳。
物理法則も魔法理論も全て理不尽に打ち砕く悪魔の拳にてまずはその小柄な胴体目掛け、豪腕は振りぬかれた。

サロメ > 「貴君が我々を下に見ているうちは、我々の側から聡明な魔族殿である…などという印象はもてないだろう?」

蒼鋼の刀身が結露しはじめ、白い靄を発する

「………」

成程、自らを王と名乗る
相応の実力と勝算をもった上で此処へと現れたということ

そんなことは、第七師団の者なら新参でもわかってる

「高位結界を編め!複合詠唱、積層型の魔法陣を使用しろ!
 生半可な術式ではこの魔族を無力化はできないぞ!時間は…私が稼ぐ!」

振るわれる豪腕
見かけだけの威力と判断はしない

咄嗟に詠唱を破棄して発動させた斥力防御の力を纏わせたアイスブランドでそれを受け止める
あわよくばそのまま冷気を発露させその腕を凍てつかせる攻防一体の手だ

魔王サタン > なるほど。踏めば潰れる蟻のような存在であってもプライドはあるらしい。
女の指揮が直に魔王であると察して、魔術攻撃プランの変更を指揮する辺り、そこらの魔族は勿論、王たる我らへの備えも抜かりは無いか。それは重畳。
それ位の戦術は用意して貰わねば、少なくともかの都の女王を倒す事は難しかろう。
闘争に興じながらも、魔王はこの師団の実力を計る本来の目的は忘れてはいない。

蒼鋼の剣が発し宿す冷気の刃。
術式完成までの時間稼ぎをかって出た女へと振りぬく拳が刀身を強烈に撃ち、受け太刀の女の細腕へと膂力による衝撃が十分と伝えるだろう。残念ながら高位魔剣らしいかその刃砕くには至らぬが…
既に間合いは男の腕の届く超至近距離だ。

そして触れる刀身から読み取れる術式は、なるほど、この腕弾き飛ばす防御術式どころか、あわよくばこの腕凍て尽そうとの心算らしい。
見かけだけの威力ではない。その通りとでも言うように、男は無尽蔵に近い魔力を拳先より刀身へと放ち、その術式を理不尽に打ち砕いた。
物理も魔力も打ち砕く悪魔の腕。
その意味を十分に見せ付けるかのように。

「さて…貴様らは我を処刑する場作ったつもりだろうが。これはどうであろうな?」

突如、至近距離にて凌ぎ削る二人の周囲を、剛炎の牢獄が二人と後方にて術式を編みこむ神官達とを阻んだ。
魔王が作る炎の決戦場。はてさて、これをどう打ち砕くのか、魔王はただ興味があった。

サロメ > 「───!」

ただ腕を振り、拳を打ち付けるだけの一撃
しかしそれだけがまともな剣で受ければ打ち砕けてしまいそうな、
この身に受ければ一撃で絶命してしまいそうなほどの威力

横殴りの突風に吹き飛ばされるように地を転がり、跳びはねるように着地して大勢を整えた

「…成程、一対一に持ち込まれたということか」

衣服の裾をぱたぱたとはたく様は未だ冷静さを微塵も乱していない
身体能力。魔力の差は明らか、しかしそれでも眼の前の魔を制するという心持ちに変わりはなく

炎の外では神官達が術式をディスペルに変えて編み直しているところだろう
しかし魔王が創りだした炎、そう簡単にはいかず時間はかかるだろう

魔王サタン > 「――…ふむ。なるほど…良い剣であるな。
それに、貴様の身のこなしも悪くは無い。」

優秀な魔剣に瞬時に、放たれた凶悪な力の一撃を全身でもって受け流すだけの判断力。なるほど優秀な騎士のようだと評する。
振りぬいた拳を下ろせば、なるほど全ての術式を破壊仕切れなかったのか指先は微かに凍っている。
とはいえ、炎こそ得意とする魔王を凍て付かせるには余りにも足りない氷結であった。

「――…有象無象は興味が無いのでな。
『憤怒』の魔王サタンと一騎打ちなど、そうそう体験出来る物ではなかろう?
久しく我も興が乗ったのだ。貴公、名はなんという?」

決闘場を作り出した獄炎の牢獄。
解除するには魔王が創る炎に相対するだけの魔術をぶつけるか、この男を無力化するか。
初撃は自らが放った。
さて、では目の前の女は如何様にしてこの魔王に対し制する一撃を放つのか。
両腕はだらりと左右垂らしたまま、男は目の前対峙した。

サロメ > 「魔王のお褒めに預かって光栄…と言いたいところだがな」

ビリビリとした痺れが腕に残る
追撃がすぐさまこなかったのは相手の自信や慢心が齎すものか
それでも助かったというほかにはない

「(憤怒の魔王サタンだと…?
 ……随分とまた大物に目をつけられたものだな)」

ティルヒアに動員したのは精鋭揃いだ
しかしここでこんなものを相手にしては消耗も激しすぎる

じり…と距離を測り、手を出しあぐねているように

魔王サタン > 自らの名乗りに対する答えは無い。
なるほど、魔族の王如きには名乗るつもりもないと言う事か。それも良かろうと以外にも寛大であった。
元より彼らの力を調べに来たのが本来の目的だ。

なるほど、自らが作り出した炎の牢獄。
外部の術者達による術式解体の展開速度も、自らが予想していたよりは幾分か上回る様子、術式を編みこんでくる彼らの魔力の波動で感じ取る。

目の前の騎士は此方への有効打でも探しているのか、魔を屠る技が抜かれる様子が無い。
ただ間合いを測るかのように、続く一撃が来ない。
興が削がれた。もう少し血湧き肉躍る殺し合いになるかとも思ったが、まず殺してはまずい。

『今宵はこんなものか』と魔王は結論付けた。
突如として決戦場を作り上げていた炎は霧散し、ディスペルするに苦労していた術者達も戸惑うだろうか。

「――…まぁよかろう、氷結の騎士よ。
お主等の力の一端位は見させてもらった。
それに、貴様らにはかの都を落としてもらわねばならぬ故にな。今宵はここで、貴様らが言うとおり”逃げ帰る事”としよう。」

自らの足元に転移の魔方陣を展開すれば、広がる光に包まれて魔王は、対魔族の精鋭部隊が包囲する中、堂々とその姿を消した。

迷惑極まりない『憤怒』の魔王による台風は、気紛れに去っていった――

ご案内:「「ティルヒア動乱」オリアーブ島・野営地」から魔王サタンさんが去りました。<補足:銀髪のミディアムウルフ、紅瞳、がっしりと筋肉質な肉体/黒服、黒革靴>
サロメ > 「………」

魔王が消え失せる
痺れの残る腕を何度か振ると、大きく息をついた

つぅ、と幾筋も冷や汗が流れる

正直なところは、対峙するだけで生きた心地がしなかった
ほんの一撃を交わしただけ、それだけでも十分に伝わる力の差

「……オーギュスト将軍の駐屯地に伝令を送れ、
 今後魔王を名乗る者が現れても可能な限り交戦を避けるようにと」

言って聞いてくれるかどうかはわからないが

慌ただしく動き始める団員達
駐屯地に魔王が単独で現れるというほんの一幕は後々も第七師団の語り草となるのであった

サロメ > 「(今後、魔王と事を構えることもある筈…根本的な練り直しが必要か)」

マントを翻し、あたりの哨戒を部下に任せて、自信のテントへと戻っていった

ご案内:「「ティルヒア動乱」オリアーブ島・野営地」からサロメさんが去りました。<補足:氷の魔剣を携えた、灰髪金眼の女魔法剣士。第七師団副官>
ご案内:「オリアーブ海 王国側の船上」にエウレリアさんが現れました。<補足:胸元の大きく開いた緋色のドレス/両腕両脚を覆う金色のライトプレート/華美な装飾の施された細剣>
エウレリア > 「男、男、男、男、男男男男男……。全く、どこを見ても汚らしい男ばかりで、本当に気が滅入りますわ。」

オリアーブに着くまでは、この部屋で大人しくしていて欲しい。
船のオーナーからの懇願に従って、船長室を急遽改装して作られた専用船室にてじっとしていられたのは2日間だけだった。

「―――――……退屈ですわ。」

そんな呟きをきっかけに癇癪を起こした女貴族が甲板へと続く扉を勢い良く開け放ち、ぎょっとした表情の無数の注視を受けながら言い放ったのが先ほどの言葉であった。

甲板の上はマストの調整のために忙しく行き交う船員だけでなく、無数の傭兵の姿でむさ苦しく埋められている。
そんな場所に色鮮やかなドレス姿が、波打つ黄金の長髪を陽光に煌めかせながら現れて、よく通る高慢ちきな声音で小生意気な台詞を言い放ったのである。
『なんだって貴族の女が?』という驚きが、『にしてもやけにいい女じゃねぇか?』という色欲の色を滲ませて、『げへへ、世間知らずのお嬢様に大人の常識ってやつを教えてやろうか。』そんな結論に至るのに左程の時は必要無かった。

見張りとして船長室の入り口を固めていた二人の水兵が、慌ててお嬢様を船室に連れ戻そうとするものの、当然、そんな物言いを大人しく聞き入れる程素直ではない。

下劣な欲情にギラつく傭兵達の視線を一身に集めつつ、金属製の長靴の音も高らかに、貴族娘は船側面の縁を目指して歩を進める。
大胆に口を開いたドレスの襟元、そこから今にも零れ落ちそうになっている雪白の豊乳が歩みにあわせて重たげに揺れ、金の波打ち髪から漂う上品で甘い香りと共にゴロツキ共の色欲を煽る。

エウレリア > 舷縁に辿り着けば、己の胸元程の高さにある手摺を掴み、長い睫毛を閉ざした美貌を微かに持ち上げ、金髪を嬲る潮風を胸一杯に吸い込んだ。
ドレスの胸元をはち切れんばかりに膨らませる白乳が、更に大きく膨らんでから、ゆっくりと元に戻っていく。

「――――潮風………。これは悪くありませんわね。閉めきった船室の空気よりは余程にましですわ。少々ベタ付くのは不快ですけど。」

再び開かれた双眸が碧々と広がる水平線の彼方を見つめて呟いた。
緋色のドレススカートが風を孕んで大きく揺らめき、細脚を包み込むグリーヴの精緻な装飾だけでなく、柔らかそうな太腿の白までもを危うげに覗かせる。

『おぉ……っ』

その更に上、ドレス越しにも形よく引き締まっているのが分かる桃尻と、それを覆う下着を視姦しようと、甲板に座り込んだ傭兵たちの頭部が感嘆の声音と共にググッと下がる。
それを見越して焦らすように、ごく自然な動作でスカートを押さえつけ、貴族娘が振り返った。
抱きしめれば折れてしまいそうな程に華奢な腰周りで無骨な剣帯が揺れ、透き通った銀音が瀟洒な細剣の鞘内にて響く。

はためく金の髪束を、細身のガントレットに覆われた繊指が優美に掻き上げる。
周りからの注視、瑞々しい獲物に今にも飛びかからんばかりの肉食獣の視線を受け止める面立ちは、この状況に全く見合わぬ表情を浮かべていた。
酷薄な印象の強い双眸は挑発的に細められ、紅桜色の唇は妙に蠱惑的な薄笑みを浮かべている。

相手が見るからに高位貴族の娘であること。
それも理由の一つとして挙げられようが、男達がいつまでたっても彼女の刃圏に踏み込まぬのは、その異質なまでの余裕に不気味な何かを感じているからなのだろう。

山賊紛いのゴロツキの群れとは言えど、死を日常とする男達である。
濃密な死の気配を嗅ぎ分ける第六感は、街中のチンピラの比では無い。

ご案内:「オリアーブ海 王国側の船上」に魔王レヴィアタンさんが現れました。<補足:チューブトップのトップス、革のパンツ。ローブに身を包む。>
魔王レヴィアタン > 一人の女に下卑た眼差しが集中している、そんな最中。
潮風に吹かれながら甲板の端でそれを眺めている姿があった。

頭からローブを被り、顔を隠す。
素性をバラす気はない。ティルヒアの戦場に向かう輩がどのようなものなのか――
興味が湧いたから来たまでだ。
奥に光る瞳は、ただ面白そうにそれを観察する。
女が、男達が次にどのような行動に至るかを想像してもみる。

「―――面白いねぇ。面白い」

呟いた一言は風に掻き消えた。
無論、己が位置は彼女とごろつき共を見て取れるだけあって、両者の視界範囲内でもある。

エウレリア > 『――――なぁ、お嬢ちゃ………』

安酒の匂いをプンプンさせた、髭面の乱杭歯が下劣な笑顔と共に声を掛けてくる。
が、そのタイミングが悪すぎた。

ピゥンと引きぬかれた銀剣が陽光をギラリと反射しつつ閃いて、男の素っ首を刺し貫く――――直前でピタリと止まった。
戦慣れした傭兵達の目にも剣の軌道が確認できぬ程の抜き打ち。
にも関わらず、細剣の赤熱の色付きを見せる切っ先は微かな震えすら見せていない。

そして何より、貴族娘の双眸は、男の姿をまるで見ていなかった。
突如として猛禽の鋭さに見開かれた娘の紅瞳は、かなりの距離を隔てた船の先、船首楼に向けられていた。
刺し貫くは細身のローブ。

紙一重の死に背筋を撫でられ、一瞬にして酔を飛ばした乱杭歯が抜かした腰をドッと甲板に打ち付ける様すら一瞥せず、狂気の女貴族は紅色の瞳をじっとその相手に注いでいる。
整った容貌の木目細かな白頬を、一筋の冷や汗が伝い落ちていく。

(―――――何……ですの、アレは………魔族、……魔族だというの、アレが……? でも、魔族ってこんなに………っ??)

恐らくはそれまで完全に気配を殺していたのだろう。
己に対する興味がきっかけとなったのか、微かに漏れ出た濃密な覇気に、女剣士の研ぎ澄まされた感覚が反応したのだ。

魔王レヴィアタン > 酔っていることが遠目にもわかる男は哀れにも剣を向けられ、腰を抜かす羽目となったが。
抜き放つ娘の方に視線を戻せば、その刺すような眼差しが確かに此方に向いていることに気づいた。

「―――あら。気取られないようにしてたんだけどなぁ」
「ま、バレちまったんなら仕方ないね」

その研ぎ澄まされた鋭敏な感覚を彼女が持ちえているということに気づいたのは少し後。
ローブの下に隠れた唇が吊り上がった。
興味の対象となり得る相手を見つけた、と言わんばかりに。

隠れていた褐色の手が合間より現れる。
おいで、と言わんばかりに手招いた。幸い、此方には他に人の影も無し。
その誘いに乗るかどうかは彼女次第だが。

エウレリア > 当然の事ながら、エウレリアも魔族との戦いの経験を有している。
とは言え、貴族娘の立つメインステージはあくまでも決闘代行の場。

エウレリアに恨みを抱いた貴族からの暗殺依頼を受けた呪術師に召喚された魔族からの襲撃やら、娘の美貌に興味を抱いた野良魔族からのちょっかいやら、所詮はその程度の関わりでしかない。
もちろん、その程度の魔族に苦戦などしようはずもなく、人に対するのとは趣の異なる美しい死に様をプレゼントしてやった物だ。

――――が、今一瞬、エウレリアが感じ取った気配はまるで異質な物。
底のまるで見えぬ闇の深淵。
認めがたい、認めたくない物ではあるが、強者故に分かる力の隔たり。
―――――勝ち目が無い。

酔っ払った傭兵からの下劣な敵意に対して反射的に引きぬかれた剣の切っ先がゆるりと降りる。
ローブの合間より現れた意外にも細くしなやかな褐色の手招きに、本能は逃げろと告げる。

それに従わず、拍車の音も静かに歩み始めたのは、エウレリアという女剣士を構成する最も大きな要素――――己の剣業に対する矜持故か。
抜身の銀剣をぶら下げたまま、真っ直ぐにローブ姿を見つめて歩むエウレリアの緊迫に押され、甲板を埋める男達が蒼白な顔で後退って道を開ける。

完全に近付くまでに、まだ見ぬ美貌の魔王が元通りにその気配を収めるならば、単なる勘違いとして片付ける事も出来るだろう。
そうでは無いことを十分に知りつつも、それを認めたくは無いというエウレリアの本音が無理矢理にでもそれを納得させるはず。

貴族娘の歩みはあくまでも緩やかなものなれど、着実に近付く距離に合わせて張り詰める気配が高まっていく。

魔王レヴィアタン > 船に乗り込んだ時点で、此処に並居る荒くれ共や冒険者達は目に叶わぬことを知った。
しかし、今視線の先に立つ娘は男達とはまるで異なる。
己が微かな気配を感じ取っただけでなく、立ち居振る舞いからも実力者であることが窺い知れる。

此方へ歩み始めた姿を見、思いの外彼女の背が高いことを知る。
少し考えて、傍目にはわからぬ程度に変容する。身長が伸びた。
最も、此方を真っ直ぐに見据える瞳にはその様が映り込んでしまったかもしれない。
対峙する相手に背丈を合わせることは趣味なのだ。

気配は収めない。来るならば早く、と言わんばかりに微か、零し続けている。
彼女にしか気取られない程度に薄く。

エウレリア > 手を出せば負けるという、今や確信的なまでに膨れ上がった想い。
しかし、戦いもせぬ内にそれを認めて頭を垂れる事も、気付かぬフリで踵を返す事も出来るはずがない。
エウレリアがエウレリアであるためには、この気配を消す以外に方法が無いのだ。

シャンッ、カシャン…ッ。
甲板の木床を叩くグリーヴが、異様な静寂の中で拍車の音だけをやけに大きく響かせる。
船首楼の階段、女剣士が昇って行くその反対側を、死の気配を感じ取って慌てて逃げ去る男達が転げる様に降りて行く。

――――そして、陽光の下、色鮮やかな緋色のドレスが不意に掻き消えた。
魔王の漏らす"拍子"を外して床を蹴り込んだ踏み込みが、獣を超える瞬発で女剣士の肢体を細身のローブに肉薄させる。

「――――――シィィ……ッ!」

低い姿勢で、真正面から魔王に駆けた緋色の影が、残像を残して左方に回りこむ。
同時に放たれるのは、数限りない無数の閃き。
パパパパパパパパパッと連続して起こる瞬きは、エウレリアの放つ刺突の煌めき。
一撃一撃に"弾き"を込めたそれは、細身のローブに突き立つたびに爆ぜる様な衝撃をその体内で発生させて、女と思しきその体躯を無残な肉片としてバラバラに散り飛ばすはず、なのだが――――。

魔王レヴィアタン > 転げるように階段を降り、逃げ去る男達を視界の隅に留め置いて。
陽光の下、ローブは外さずに。
剣を片手に此方へ近づいてくるその姿を見据えた。

刹那、踏み込む彼女の姿が肉薄する。
残像。左方に回りこまれても、不思議な程に落ち着いている。

煌く程に激しく乱舞する刺突は、生半な魔族であればその姿を散らしていただろう。
しかし―――

「―――中々。こんな強者がいるとは」
「この船も捨てたものじゃないね。いやホント」

ローブは"ヴェール"製。どんな攻撃とて通しはしない。
一、二歩と剣圧に押された風に距離を取り、フードを取った。
褐色、年の頃は眼前の彼女とそう変わらないであろう女の顔が現れる。

エウレリア > エウレリアの剣才と、鍛錬、そして積み上げた屍の山は、人間としては間違いなく最強の一角にその名を連ねさせる物である。
剣技だけで言うならば、眼前の魔王でさえもエウレリアには歯が立つまい。

が、種の違いはそんな技の高みなど呆気無く踏み潰せるだけの圧倒的な隔たりを持っていた。
言うなれば、人が決して抗う事の出来ない災害レベルの自然現象。
天を突く大竜巻に、剣一本携えて立ち向かうような物なのだ。
太古の伝説に名を連ねる勇者や英雄、その中でもごく一部、人としての枠を完全に超えた様な存在であれば、剣の力で竜巻を掻き消す事も出来るのかも知れない。

しかし、己の才覚だけを頼りに、さしたる死線も潜ることなく、高々19年を生きただけの小娘が、その高みに至れるはずも無かった。

必殺の刺突が薄いローブに悉く弾き返される。
単純な武具の硬度による物等ではありえない。
物理現象を、空間その物を捻じ曲げる異界の力による完全防御。

「――――ハ、アハハハハハハハハ……ッッ!!」

思わず漏れたのは狂える哄笑だった。
"弾き"が通らぬのであれば、"徹し"にて、空間の防護膜の内側に破壊の力を通すのみ。主の殺意に反応し赤熱の輝きを強める魔法剣。
その切っ先はローブを通らぬままなれど、破壊の衝撃が刀身の少し先に生じて相手の体内をぐちゃぐちゃに撹拌する力となる。

「アァァァァアアアアア―――ッッ!!」

普段ならば、美しさを減じさせる裂帛の声音など上げはしない。
恐怖を押し殺すための無様な咆哮。
それでも、周囲の男達の腰を砕かせるには十分な代物。

じりじりとローブ姿を後退りさせつつも、欠片も優位に立っていない。
彼女の唇から聞こえてくる涼やかな声音を聞くまでも無く分かる。
フードを外され露出したその顔は、褐色の色合いも艶やかな美貌。
目の肥えたエウレリアにしても美しいと言わざるを得ない見事な物。
しかし、無呼吸のままの連続刺突は決して止まらず、力を変じた殺戮のファランクスにて褐色の娘を鏖殺しようと試みる。

魔王レヴィアタン > 恐らく剣の腕ならば、眼前の彼女に及ぶことはないだろう。
しかし、魔の国を治める己にとっては、剣技とはいわば「遊戯」の一環であり、対象を屈服させる為の手段だった。

だからこそこの戦いも、己にとっては遊戯の一つ。
得てして規格外の力を持つ人間との、ちょっとした戯れの類。

「―――なるほどね。部下じゃなくアタシが来て幸いだったかな。これじゃ敵わない」

そう呟けば、再度襲い来る紅き剣を交す、防ぐ。
切っ先に生じる破壊の力に瞳細めれば、とん、と甲板を蹴った。
数歩分後方に下がる。

「――強情なことだね。いい加減剣を収めたら?折角の潮風が台無しだ」

エウレリア > 小さな滝を断ち割ることくらいはエウレリアにも出来る。
が、どれほどに力を尽くそうとも襲い来る津波を剣力だけで消し去る事など出来はしない。
そんな無力感が、無呼吸のままに刺突を放ち続ける娘の肢体にじわじわと染みこんで力を奪っていく。

"弾き"を"徹し"に変じた刺突。
恐らくは気配の変化にでも気付いたのか、ローブの絶対防御に任せた無防備な動きが変わる。
刺突の射線から肢体をずらし、魔法剣の切っ先に置いた手指で"徹し"を殺す。

そして常人では気付く事すら出来ぬだろう、連続刺突の僅かな間に、軽やかさすら感じられる動きが距離を取った。

「―――――――……ッッハ! ァ……カハッ、ハッ、……ハァ……ッ、ハァ……ッ!」

パパパパパパパパァァン………ッ!
獲物の消えた空間内にて、高らかに響き渡ったのは刺突の余波が作った炸裂音。
鍛え上げられたしなやかな体躯の余剰酸素を使い切った女剣士の身体が、ぐらりと傾いで甲板の上に膝を落とした。

途端、娘の白色の頬が濃厚な朱の色に染まり、ドッと溢れだした珠の汗粒が流れ落ちる。
快晴とは言え真冬の海上。
膝を屈した女剣士の緋色の肢体が、オーラの如く白色の湯煙を立ち上らせた。

「――――ッハ、……ッハ、……ッハァ、……ッはぁ……はぁ……っ、はぁ……っ、な………何、ですの………貴女、は………?」

今にも意識を失いそうになる虚脱感の中、それでも刺し貫く様な覇気を残した紅瞳が問いかける。

魔王レヴィアタン > まるで爆竹の如き炸裂音が耳を打つ。
湯煙を身体より立ち昇らせる様を見、形の良い口端が持ち上がった。
有する酸素を使い切って見るからに疲労した彼女の元へゆっくり歩み寄る。

「……アタシ?そうだねぇ。ちょっとした海賊の船長かな」

傍らに膝をつき、改めて近くよりその顔立ちを眺める。
己が顔に一応自信はあるのだが、しかし目の前の容貌もまた美しい。

「―――ま、アタシにあそこまでついてこれたのは見事なもんだ」
「よければ名前を聞きたいかな。答えてくれる?」

エウレリア > 「――――クッ、ぅ……そんな、訳が……ッ。」

女の答えに、エウレリアは苦しげな双眸を歪ませた。
単なる海賊の船長などであるはずはない。
褐色肌を覆うそのローブ、アーティファクトというに相応しい伝説級の一品なれど、それを持ちあわせていること自体はまだ良しとしよう。
しかし、単なる人間が、"徹し"に気付いて、あの連続刺突を防ぎ切る事など出来るはずがない。

無造作に近付く相手を憎々しげに睨みつけながらも、今のエウレリアは握りしめた剣を取り落とさぬだけでも精一杯の有様だ。
横薙ぎの一閃にて彼女の細首を落とすどころか、腕を持ち上げる事さえ出来なかった。
対する相手は血の一筋、汗の一滴すら浮かべてはいない。
認めざるを得ない、完全なる敗北。

「――――――………エウ……レリア……。」

奥歯を噛み締め、初めての敗北に揺れる紅瞳を脇へと反らし、小さな声音でつぶやく己の名。
あまりに弱々しいその響きが情けなく、キッと眉尻を持ち上げた顔を改めて彼女に向けて言い放つ。

「わたくしの名はエウレリア! 忘れる事など決して許しませんわ。その魂の奥底に、死した後も永劫に刻みつけなさいっ!!」

無理矢理に吐き出した大声に余力を奪われ、ふらついた肢体がしゃがみ込んだ魔王の胸元に倒れ込む。

魔王レヴィアタン > 「……おやぁ。嘘は言ってないよ?」

嘘八百並び立てるのが趣味ではあるが、今の言葉は本当だ。
無論それだけではないのだが。
距離を詰めても剣が振るわれないことに気づき、漸く身に纏ったローブを脱ぎ捨てる。
褐色の肌、豊かな胸元。女性の姿が露わになる。

「―――エウレリア。覚えたよ。はて…アタシは少し、記憶に自信がないからねぇ」

なんてね、と言っていたところ、胸元に倒れ掛かってくる彼女の肢体を焦るでもなく抱きとめる。
肉付きの良い滑らかな肌が触れる。