2015/12/24 のログ
ご案内:「オリアーブ島南部 《煉獄の宮殿》及び魔族都市」に魔王アスタルテさんが現れました。<補足:外見10歳、身長130cm。黒いワンピースを着て、悪魔の翼を生やす魔王。>
魔王アスタルテ > (二人の“勇者”には、戦後処理やその他戦争の後の事は人間達の役目だと、アスタルテは告げた。
 だがアスタルテにも、魔族を束ねし魔王として戦後にしなければいけない事がある。

 “千年の女王の都”にて戦乱が混沌に包まれる前に、魔王アスタルテは自身の配下及び、それ以外にも数多の魔族を早期にオリアーブから魔族の国に避難させた。
 《魔王軍》の者達も立派に避難誘導をしてくれた事もあり、魔族の被害は最小限に済んだと思う。
 最後までオリアーブに残った魔族達はどう説得しても避難誘導に従わない者が多かったが、それでも魔王アスタルテは多くの魔族を救ったのだ)


(では、オリアーブに築いた魔族の拠点はどうなったか?
 無論、もぬけの殻である。
 それは、オリアーブ島南部に存在する《魔王軍オリアーブ支部》の本部たる《煉獄の宮殿》及び、その周囲に広がる大きな魔族都市とて例外ではない。
 今や、オリアーブ島南部のこの魔族都市はゴーストタウンと化していた。

 魔王アスタルテは、そんな誰もいなくなった魔族都市の風景を見渡すようにして大通りを歩く。
 そして“憂鬱なる魔王”は、悲しげに呟いた)
「つい最近まで賑わっていたこの魔族都市も、こうなっては寂しいものだね……」

(そして戦争を終えて以降も、この魔族都市は再び賑わう事はない。
 なぜなら、このオリアーブ島にはまたティルヒアによる強力な加護が宿ったからである。
 その加護は聖なる力で我々魔の者を蝕む。
 加護により、オリアーブ島における魔族の勢力は弱体化し、もぬけの殻となってしまったいくつもの拠点やダンジョンを破棄せざるを得ないのだ。
 なにせ、多くの魔族がこのオリアーブで暮らしていける環境ではなくなったのだから)

「神なる龍ティルヒアから守ったこの魔族都市を、自らの手で消滅させなければいけないとはね……」
(戦後、人間がやるべき事は多くあるだろう。
 だが少なくとも、オリアーブ島にて魔族が残した産物や傷跡などを処理するのは人間ではなく、魔族の役目だ。
 そしてアスタルテが下した決断は、この大きな魔族都市と周囲の禍々しき山々を跡形もなく消滅させるというもの)

魔王アスタルテ > (この都市を消滅させる前に、最後にアスタルテは見回っていた。
 戦時中は、《煉獄の宮殿》を別荘としても使っていた。
 魔族の民衆や臣下達が立派に働き、築き上げてきた魔族都市だ。
 そして、魔族達がここまで大きく発展させた、かつては多くの魔族達の住み心地の良い居場所だ。
 皆、様々な複雑な思いを持って、この地から離れた事だろう。
 いつかこの地に帰還できると信じて去った者もいる事だろう。
 そんな場所を跡形もなく消滅させる事に、“王”が何も想う事がないわけがない。

 しかし、この都市が魔族に与える恩恵が大きかったのも確か。
 この魔族都市があったからこそ、オリアーブ島で多くの魔族が活動しやすくなった。
 戦時中は、被害に遭った魔族の負傷者や難民なんかも受け入れる事ができた。
 さらに、戦争終盤の避難誘導を指揮する要としても使えたのである。
 魔族にとって、重要な拠点として使えたのである。
 それだけでも、この都市を築いた価値はあったのだと、アスタルテは思う)

(やがてアスタルテは、この都市の中心部《煉獄の宮殿》の門へとやってくる。
 もう誰も残ってはいないかつてアスタルテが別荘として使っていた巨大建造物。
 今、《煉獄の宮殿》の屋根に大きな穴が空いているが、この時のアスタルテはまだその原因を知らない。
 門を潜り、そしてその大きな扉を空ける。
 エントランスや廊下に飾られている多くの悪魔像がアスタルテを待ちうける。
 この悪魔像は、魔王軍領では多く見られるものである。

 魔王は、宮殿の奥へと突き進んでいく)

魔王アスタルテ > (宮殿を歩きながら、ある事を考えていた。
 ティルヒアが王国に宣戦布告した時、大罪魔王の間で『どちらが勝つか賭けをしよう』という旨の話があった。
 『憤怒』サタン、『色欲』アスモデウス、『酔狂』ハスター、『嫉妬』レヴィアタン等は王国側に賭け、
 『怠惰』ベルフェゴール、『暴食』ベルゼブル、『憂鬱』アスタルテ等はティルヒア側に賭けた)
「《大罪》の間で行われた賭け事には、見事に負けちゃったなぁ。
 薄々ね……ヤルダバオートに穢されてしまったティルヒアが王国に勝てない事は察していたよ。
 だけど実はね……ティルヒア陣営側に賭けた理由は、そっちの方が面白いという理由の他にもう一つあったんだよ。
 同じ時代を共に生きた“強敵(とも)”ティルヒアが、そう簡単には負けてほしくはなかった。
 だって……かつて神代では、幾度もあたしの前に大きく立ちはだかった強大な存在だったんだもんね」
(アスタルテは廊下を歩きながら、ティルヒアの姿を思い返して僅かに微笑んだ。

 いくつかの部屋を見て回り、やがて大広間付近にやってきた。
 そこでアスタルテはある違和感に気付く。
 それは、大広間に残る結界後の残滓である。
 大広間に結界を張る事はよくある事なのだが、
 アスタルテが感じ取った結界後の残滓から魔術的解析を即時行ったところ、
 その結界が破られたのは、終戦日なのである)
「おかしい……。
 終戦日にはとっくに皆が魔族の国に避難してるから、この宮殿に誰かが残っているはずなんてない……」

(アスタルテはいくつかの可能性を考える。
 誰かが大広間に結界を張ったまま、解かずに立ち去った?
 いや……結界は内部から張られたものであり、解かれるまで外に出たような痕跡など残っていない。
 さらにその結界は、アイオーンの力により突破されたものだ……)
「終戦日に結界解除……。その結界を破壊したのはアイオーンの力……。
 そして、その結界は内部から張られたもので、解除されるまで一切外部に出たような痕跡はない……」
(神妙な顔つきで、今の状況を口にする。
 そしてアスタルテは一つの答えを導きだし、はっと顔を上げる)

「まさか……!?」

(その答えとは、アスタルテにとって考えたくもない事だった。
 信じたくない……。外れていてほしい……。
 そう思いながらも、アスタルテの足取りは速くなり、大広間の扉へと駆け出す。

 そしてその大広間の扉を勢いよく開けた)

魔王アスタルテ > (大広間に広がる光景。
 それを見たアスタルテは、目を見開いた)

「そん……な…………」

(そこに広がっていたのは、死屍累々とした光景。
 多くの魔族の死体が、いくつも積み重なっていた。
 それもアスタルテにとってはただの魔族ではない。
 その全員が《魔王軍》に所属する者である。中には、忠臣と呼べる者達まで含まれていた。
 また、この魔族都市を築き上げてきた一部の民達の顔も見える)
「どうして……なの……」

(その答えは明白だ。
 終戦したあの日、白き龍が黒き龍にとどめを刺されようとした時、《千年の女王の都》上空に創造の光が現れた。
 聖なる光が、オリアーブの魔の者に光の矛を放ったのだ。
 そして、その光が大広間の結界を破り、ここにいる全員を貫いた。

 なら彼等はなぜここに残った?
 アスタルテは確かに、配下全員にオリアーブから脱して魔族の国に避難するよう命じた。
 四天王も含め、オリアーブにいる配下達全員がそれに従った……と思っていた。
 事実、ここに残っている極々一部の配下以外は、全員がアスタルテの指示によりオリアーブを後にした。
 だが今ここにいる彼等は、アスタルテの命に従わなかったという事になる)

(アスタルテは無意識的に、ここでの出来事を倫理的観点からあまり使う事のない過去視の魔術で確認していた)

(それは一週間以上前に遡るだろうか。
 戦争も終盤に入り、魔族達も混沌とした危険な予感がしていた。
 アスタルテの指示により、《魔王軍》の者達は次々にこのオリアーブを脱していた。
 また、《魔王軍》以外でも多くの魔族が避難誘導に従って、オリアーブを後にしていた。
 だが、この魔族都市にいる者達の間で、密かに二つの意見で別れていたのだ。
 一つは無論『アスタルテ様の強い思いを汲み取り、指示通りオリアーブから脱するべきだ。出来る限り多くの魔族が生きてこの島を脱してほしい……それこそが、アスタルテ様のご意思なのだから』という意見。
 そしてもう一つは『この魔族都市は重要な拠点であり、どんな事が起ころうともアスタルテ様ならまたこの場所を守ってくれる。それに、アスタルテ様一人だけこのオリアーブに残して自分達だけ立ち去るなど家臣のする事か? アスタルテ様を信じるというなら、残るべきだ』という意見。
 そんな意見の対立をアスタルテが見抜けなかったわけではない。
 だからこそ、配下にはオリアーブからの撤退を強制させたのだ。
 それに、大多数がアスタルテの指示に従って避難するという意見だった。
 そういった事もあり、少数派の意見を持つ魔族でもほとんどの者は強制的に魔族の国へと避難させられた。
 だがそれでも、こうやって一部の者が強い意志を持って残る事を選んだのだ。

 彼等は《煉獄の宮殿》の大広間に集まって大規模な結界を張って我が身を守り、そして魔王の命に背いてまで、アスタルテを信じてこの都市に残り続けた。
 彼等は紛れもなく、忠義心が強いアスタルテの立派な臣下であった)

魔王アスタルテ > (そんな真実を知ったアスタルテの瞳からは、涙が溢れ出る。
 その涙の滴は、頬をつたって地面へと落ちた)

「ばか……ばか…………ばかっ!!」

(そんな魔王の声は虚しく、大広間に響き渡る)
 
「あたし言ったよね……。
 あたしの力では、これから訪れるであろう出来事から君達を守れる保証なんてない。
 そう言った……よね………。
 なのにどうして…………っ!!」

(そんな時、アスタルテの脳裏にフラッシュバックする記憶がいくつかあった。
 それは、創造の光で消滅していく魔族の命。アスタルテはこの目で、《千年の女王の都》に降り注ぐ光が魔族達を貫いていく光景を見ていた。
 戦争の中盤で神龍が現れ、その雷撃により消滅する魔族。その時は、この魔族都市自体は守りきったのだが、他の地域では《魔王軍》に属す者も含め多くの魔族が犠牲になった。
 そしてその神龍、同じ時代を共に生きた“強敵(とも)”ティルヒアが消えていく光景を見届けた。
 
 それ等は戦争により、アスタルテが失ったものだったり、守れなかったりしたものだ。
 それ等が一気に、アスタルテの脳裏に次々と浮かんでくるのだ。
 そして今まさに、目の前にもその失ったものがあった)

(アスタルテは力が抜けたようにして、膝を地面につける。
 これまで張り詰めていたものが一気に弾けるかのように、優しき魔王の瞳からはさらに涙が溢れだしていた。

 たった一人しかいない魔族都市の中心部で、泣き叫ぶ無邪気で無垢な幼女の姿が、そこにあった)

魔王アスタルテ > (しばらくして、
 アスタルテは新たな覚悟を決めたかのようなような凛々しい顔つきで魔族都市の上空にて翼で広げる。
 そこにいるのは、魔族達を束ねるカリスマを備えた魔王であった。
 眼下に広がるは、無人の魔族都市。

 既に、亡骸達は大広間にはない。
 アスタルテによる空間保存魔術により、異空間と呼ぶべき場所に一時的に丁重に仕舞っている。
 魔族の国に帰れば、主君に忠義を示した彼等を手厚く弔わなければいけない)

「これで、この戦争におけるあたしの役目も終わりだね……」
(アスタルテは、右人差し指を天に掲げる。
 すると、暗黒の雲が天を覆い始める。
 やがて雲から、強大な暗黒の力が宿った漆黒の雷が魔族都市に降り注ぐ。

 アスタルテの漆黒の雷撃。
 ティルヒアの加護が及ぶこの地においても、それは余りある威力であり、魔族都市……さらには周囲の禍々しき山々まで消滅させた。
 後に、その地に残ったものは、ただの広大な更地だったという)

ご案内:「オリアーブ島南部 《煉獄の宮殿》及び魔族都市」から魔王アスタルテさんが去りました。<補足:外見10歳、身長130cm。黒いワンピースを着て、悪魔の翼を生やす魔王。>