2015/12/13 のログ
ご案内:「ティルヒア郊外 M伯爵邸」にキスカさんが現れました。<補足:白銀に黒のメッシュが入った長髪の色白娘。その身にまとう衣装は…。>
ご案内:「ティルヒア郊外 M伯爵邸」にルーキさんが現れました。<補足:華美なパーティードレス、雪のように白い肌>
キスカ > ――――ここはどこ。私は誰。
思考には薄ぼんやりとした靄がかかったまま。手足がまるで、自分の身体じゃないみたい。
「見当識の失調」なんて言い回し、知る由もないけれど、私は今それを味わっている。
薄暗い場所。後ろ暗い欲望の匂いがする、じめじめとして閉ざされた場所。色濃い影の中に私はいた。
くっきりと白い明かりの中には私と同じくらいのミレーが立っていて、仮面をつけたたくさんの顔に囲まれている。
衣装は肌も露わな薄絹の仕立て。首輪を付けられて、局部を隠す最小限の面積すらなく。
張りのある声が発せられ、重く垂れ込めた闇の帳を貫いた。
『この少女は――罪びとであります。主の死をこれ幸いと逃亡し、密航を企てたのです!』
『なんと大胆不敵。いえ、不敬と申せましょうか! 国難のときに陛下の聖断に背き、我先にと逃げ出したのですから』
『ですが皆様、ご安心を。天網恢恢粗にして漏らさず。この者にも報いが待っておりました―――』
『共謀したミレーどもはみな海峡の泡沫と消え、ただ一人永らえたのであります!』
『さて、これなる強運の少女。磨けばまずまず出色の容姿となりましょう』
『では、皆様――――おっと、そうでした。実は、これによく懐いている小娘がおるのですよ』
ルーキ > 表情を隠す仮面の下は、オッドアイの瞳が光る。
じめじめと薄暗い地下室に、貴婦人然として華美な衣装を身に付け佇む少女。
張り上げた声を耳にしながら、首輪をつけられたミレーを見遣る。
特別、口を開かずに。
しなやかな指先が己が顎を撫でる。吟味するかのような、演じ方。
キスカ > 仮面たちの前にもう一人、一回り小さなミレーが進み出ていく。
私のいる位置からだと、表情まではよくわからない。
『真実の姉妹ではありませんが、こちらもご覧の通りの容姿端麗。一緒にお付けいたしましょう』
『なに、無駄飯喰らいの犬畜生と思し召されるな! これもまた慈悲というもの。我ら貴き者の務めでありますれば―――』
『100,000ゴルドからはじめましょう!! ――160,000――――90,000!』
『95,000―――7,000――――おおっ、220,000! 他には? おられませんかな? ――――300,000! 310,000!!』
『―――む、25,000――――330,000!! 330,000ですぞ!』
『では――――――330,000! 二人まとめて330,000ゴルドにて落札と相成りました!』
木槌の音、高く響いて。二人の少女が舞台を降りて、暗がりに待つ新たな主人の元へと連れられていく。
ステージの光が強すぎて、客席の方はよく見えない。豪勢な仮面をつけて、着飾った人々。若い女の人もいる?
ルーキ > 最初に出て来た二人のミレー。
瞬く間に羅列される数字達。あっという間に主従の関係を結ばされた。
此方には手を上げない。気にならないといえば嘘にはなるが。
「―――…貴き者の務め、ねぇ」
誰にも聞こえない程の声で呟いた。
ステージを見返し、目当ての者を見つけた。笑みが深まる。
キスカ > そっか。これって―――オークション。みたいなもの。
人を売ったり買ったり、する。
ぼやけた頭で理解する間に、次の奴隷が舞台の正面へと進み出る。
豊かな金の長髪に、育ちの良さそうな凜とした顔立ちの。気品に満ちた立ち姿を、覆い隠すものもなく。
異常な光景だとは思わない。思えない。あの子もきっと考えがまとまらなくて、なすがままになっているんだ。
『ふふ、もよやこの様な日がこようとは。亡き父君もさぞ嘆かれましょうな』
『これなるは、私も幼い時分より見知った娘。名をエデと申します』
『何を隠そう、在りし日にはフラ=ニスの守護を任された総督殿の忘れ形見!』
ざわ、とどよめきが広がっていく。フラ=ニス総督の一人娘が、どうしてここに?
『嘆かわしくも、総督殿……いえ、元総督はフラ=ニスの都と兵たちを見捨て、敵前逃亡の大罪を犯された』
『兵たちの中には噂に惑わされる愚か者もおりましたが、陛下直々に誅されたことこそ何よりの証拠!』
『この私とて、これなる罪人の父子と縁ある身。心苦しくはありますが、さて』
ルーキ > 進み出た奴隷の姿を見つめる。顔立ちは凛として、姿も気にならぬ程に美しい。
腕組みをしながら、辺りに広がったざわめきをその身で感じ取った。
「…………なるほどね」
そういうワケか。次は誰が落札するのだろう、とじめつく室内を見渡す。
ひら、と片手で顔を扇いだ。
キスカ > 『―――エデ、話しても構わんよ』
エデと呼ばれた子が急に夢から醒めたみたいな顔をして、奴隷商の声に振り向く。
奴隷商はこの人の裏の顔。―――えっと、誰だっけ。この人は……。
「………ッ!! こ、この痴れ者っ!!! 皆様、お聞きくださいまし!」
「この男っ―――悪魔が、父を陥れたのですっ! 陛下の前で、臆面もなくいつわりの讒言を!!」
「恥を知りなさい…! 父は最期まで、あなたの不義を信じようとはしませんでした」
「その心を知ること、もはや叶いませんが…あの都と兵たちの命を売り渡したのは、父ではなく―――」
パン、と手を叩く音がして、そこでおしまい。
エデは元どおりに口をつぐんで、人形みたいに俯いてしまう。
『そこまでだ。はっはっは。何やら取り乱しておられる様だ』
『ま、ご令嬢が奴隷に身を落としたのです。にわかには信じられぬのも無理なからぬ話でしょう』
『なァに、この首輪があればこの通り。あなたの従順なしもべになります』
『では、気を取り直して。一山いくらのミレーとは比べ物にならぬ逸材。2,000,000ゴルドから始めましょう!』
さっきのミレーとは比べ物にならない勢いで値段がつり上がっていく。
人ひとりにこんな値段がつくなんて。声を発することすら許されず、私は身動ぎもせずに立ちつくすばかり。
ルーキ > その一部始終を見つめていた。
からくりは首輪だろうか。従順な僕に身を落とさせる為の手練。
さておき、奴隷商の本性がこれで知れた。
軽く頷き出番を待つ。逸材とはいえ、別段手に入れようとする素振りは無い。
かといってその場にいる誰もが目をつけるでもない。自然、溶け込んでいた。
キスカ > 仮面の中のだれかが落札して、エデがうつろな目のまま底知れぬ闇へと消えていく。
『それでは、長らくお待たせいたしました。本日の目玉商品と参りましょう!』
声のあるじに示された先。丸い明かりに照らされた場所へと進み出ていく。
手足が私の考えなんてお構いなしに動いてしまう。どこまでも従順に、まるで操り人形みたいに。
『この毛並みをご覧いただきたい! 白銀の体毛に黒班、丸みを帯びた耳。花のごとき香気の持ち主』
『ここまで申せばお気づきの方もおられるでしょう。遙かに遠き絶峰に潜む幻の獣―――』
『雪豹のミレーであります! 名はキスカ。産地は九頭竜。実力の程は請けあいますぞ!』
そう。そうだった。私の名はキスカ。ここは……どこだっけ。ぎりぎり思い出せない感じがもどかしい。
「馬鹿な、あれはとうに消え去ったはず…」とか何とか、ささやき交わす声が聞こえる。
滅びてたんだ? どおりで、似たような子に会わないわけだよね。でもそんな、一体いつの間に……。
ルーキ > 丸い明かりの下、目玉商品と題された彼女。
求めていた者が公の場に立たされる。従順に、操られるかのように。
「―――来た」
小さく呟いた。此処まで上げていなかった手を軽く振る。準備。
交わされる囁きを耳に、口端が淡く持ち上がった。
キスカ > 奴隷商―――伯爵の指図どおりに、教え込まれたとおりの仕草をしてみせる。
身体の柔らかさを強調するようなポーズ。まれびとには真似のできないしなやかさを淫靡に見せつける。
『何を隠そう、この私の護衛の者たちを一度に十四人まで屠ったのでありますからな』
『この華奢な娘が人のはらわたを喰らう悪鬼に変じるのです。くくく、さすがの私も一時は死を覚悟しました』
『ですが! この首輪ある限り、キスカはあなたの一命のもと喜んで死地に赴きましょう』
『さて、この世に最後の一体かもしれない稀少種のミレー。いくらの値がつきましょうか?』
仮面の奥の無数の瞳に欲望が伝染していく。あの目は、たくさんの目は私の何を見ているんだろう?
『――――5,000,000ゴルドで即決? いえいえ、ご冗談を。5,500,000―――600――6,200,000!!』
『次はありませんぞ。6,400,000―――7,000,000!! 710―――7,500,000!』
聞いたこともない様な数字が一人歩きを始める。その渦の真ん中で、私に手を振る人がいた。
怪訝な顔。ぎこちなく小首を傾げる。
ルーキ > 教え込まれた通りの仕草は、格好や美しいまでの色の白さもあって艶かしくもある。
欲望を露わにする仮面たちを傍目に、次々と吊り上がっていく数字を小耳に。
そろそろ出なくなった頃合―――ぱっ、と手を上げた。
「――――…」
恐らくは、この場の誰もが越えられないであろう額を告げる。
王族であった身、それくらいの予測は容易い。勿論払う心算は無いのだが。
さて、その場の出方や雰囲気を読もうと視線走らせた。
キスカ > ドレスの人の告げた金額にM―――Mからはじまるナントカ伯爵が喜悦の叫びをあげる。
思ってたよりずっと儲かりそうってことかな。
熾烈な争いをよそに、両手をそろえてうつ伏せ、高く上げたお尻を揺らして誰にともなくおねだりする。
『なんと、戯れでは済まされませんぞ? 他におられませんかな。では―――』
ステージから見て左側、お肉のたっぷりついた老人が秘書にひそひそとささやきかける。
木槌が振り下ろされる寸前、手が上がった。
『―――10,000,000ゴルド!! おお、一体どこまで上がるのか!』
『そちらのご婦人、いかがです?』
熱狂がさらなる熱狂を生む狂気の沙汰。仮面の視線が一点に集まる。
ルーキ > おや、読みが外れたか。
更に上がる金額に仮面の奥、オッドアイが瞬いた。
それならば―――
「――――12,000,000。」
凛とした声がそう告げる。
狂気の沙汰、そんな空気に一切染まらない確かな女性の声音。
キスカ > ドレスの人を張り合っていた富豪が苦しげなうめきを漏らす。
誰もが固唾を呑んで、水を打ったような静けさに包まれる。
しばしの沈黙のあと、老人は手を払いのけるような仕草をして、それを見届けた伯爵が木槌を打ち鳴らした。
『12,000,000ゴルド!! いやはや、信じられませんな。ですが、これは相応の価値を認められたということ』
『雪豹のキスカ、こちらのご婦人が落札されました!』
ステージを降りて、四つんばいのままドレスの人の元へと近づいていく。
暗闇に目が慣れるまであと少し。靴に口付けして、仮面に隠された顔を見上げる。
伯爵の支配が不意に途切れた。今日からはこの人が私のご主人さま。
緑色がかった髪。仮面の上からでもわかる、作り物みたいにきれいな顔たち。―――眼、左右で色が違うんだ―――。
『今宵もなかなかの大商いとなりました。愉しんでいただけましたかな?』
ルーキ > 決まったらしい。木槌の打ち鳴らす音が煩い程に響き渡る。
四つん這いのまま近づいてくる彼女の元にしゃがみ込んだ。
首輪に指をかけて、仮面を外す。
「……遅くなったな、キスカ。さぁ」
パチ、と音を立てて首輪を外す。自由を与える。
キスカ > 記憶の封印が解け、滞っていた情報が一気に流れ込んできた。
頭が処理しきれなくなって視界に白い光が瞬く。エデもこんな感覚を味わってたのかな。
「―――ん。大丈夫……」
ひなたぼっこ中の野良猫みたいに、ぐっと両手を伸ばして、伸びをして。
心細さを味わわされた分だけ力を込めて、ルーキの首に抱きついた。
『ご、ご婦人…?―――何をしておられるのか、危険ですぞ!! そのミレーは血に飢えた獣―――』
啄ばむような口付けをしながら、近づいてくる警備の人員の腰から刃を抜いて無造作に斬り捨てる。
「……ちょっと待っててくれる?」
暗闇に慣れた目を見開き、ご主人さまからそっと離れる。
瞬きひとつの合間に三人を斬り倒し、逃げる貴人の背に白刃を突きたてた。
ぬるい血潮が柄を汚して、斃れた兵の獲物に持ち替える。悲鳴の渦が広がっていく。
『殺せ!! おい! 何をしている、早く―――!!』
さっきのお金持ちの肩口に振り下ろした刃が、とっさに割り込んだ秘書の身体に阻まれる。
凍りついた瞳と眼があい、薄く笑って諸共に両断した。
「―――モルセール!! 逃がさないっ!」
投擲した短剣がM伯爵―――モルセール伯爵の太ももに突き立ち、野太い悲鳴をあげて倒れる。
ルーキ > 記憶が全て戻ったようなら、安堵するように微笑む。
抱きつかれ、啄むような口付けの後。
動き出す彼女に合わせて、自身もドレスを脱ぎ捨てた。下にはいつもと同じ動きやすい格好。
「………さて。わたしは……」
ボスは任せるとして、ざっと辺りを見渡した。
先程買われたミレーやエデの姿を探し―――その主を見つける。
腕を振れば飛び出す隠し刃が、瞬く間に首筋に突き刺さった。
首輪を取り外し、彼女達にも自由を与える。
あとは、襲い来る警備を斬り倒し、血に塗れるのも構わず―――決着がつくのをただ待ちながら。
キスカ > ―――どくん、どくん。と。
ひとりまたひとりと斬り倒すたび、どうしようもない程に血が騒いでいく。
感覚が研ぎ澄まされるほどに時間の流れが遅くなって、次の剣戟へと動作が最適化される。
その後は、返り血を避けて剣の舞を繰り返すだけ。
『エ、エデ。助けてくれ!! わっ、私をフェルナンと呼んでくれないか…? 昔みたいに―――』
傷口を押さえて這いつくばり、じりじりと後ずさる伯爵。
鮮血の海と骸に埋め尽くされた会場で、傷を負った男を悲しみに暮れる少女が追う。
乱闘中に斬り飛ばされて落ちていた剣を拾いあげ、一薙ぎしてその重みを確かめるエデ。
『わ、わかった! 聞いてくれっ、本当のことを話す!! 本当は、そ、その……お父上―――ぎゃっ!!』
モルセールの胸から長剣の柄が生え、血が溢れて赤黒い泡を吹き出す。
「―――ま、待って。君はここまで。最期は私に!!」
誰のものとも知れない短剣を逆手に抜き、数メートルの距離を一息に跳躍する。
手を汚すのは私ひとりだけでいい。……願わくば、安らかな眠りの訪れんことを。
――――。
「……はぁ……ん、っ…終わった……よ、ルーキ……。帰ろう…?」
ルーキ > 血の騒ぎを明確に覚えながら、剣を振る。
息が荒くなり、しかし早々体力は尽きず。何せその身は既に人を捨てたのだから。
伯爵の命乞いも甲斐なく、胸に突き立つ長剣を見遣る。
エデの傍に駆け寄り、その背を軽く押して出口へと促した。
やがて―――
「……は、っ…はぁ、……そう、だな。キスカ……」
鮮血の海。既にミレー二人やエデは逃げ失せ、今立っているのは自分達二人だけ。
流石に此方も息整わぬまま、彼女の傍へと歩み寄った。
キスカ > 「あとの始末は―――第一軍と、商会の人たちに。奴隷は私たちのほかにも………ん、っく…!」
「ルーキ……ルーキぃ…! にゃ、な、んか、ヘン……にゃ、ぅ…!」
そばに寄りそう人の匂いに頭が痺れて、ルーキの服、双剣を支えるベルトに指がかかる。
立っていられないほどの甘い疼きにガクガクをわななく。
しがみついたまま腰砕けになって、その場にへたり込んでしまいそうになる。
どくどくと胸の奥が暴れまわり、血のめぐりは最高潮まで励起されたまま。
身体じゅうが熱くてむずむずしていて、肌から熱が立ちのぼっていくのがわかるくらい。
唇を噛みながら吐息をとめて、熱に浮かされたまま涙目で見上げた。
「はぁぁっ…ルーキ……おカしく、なっ……る…!」
甘えたくて狂いそうなくらいだけど、こんな惨めな場所は嫌。ルーキの腕の中に潜りこんで、小さくなった。
ルーキ > 「―――…っ、キスカ……?どうしたんだ」
腰砕けになる彼女の身体を支え、身に纏っていたローブを肩にかける。
立ち昇る熱を間近に感じれば此方も、騒いでいた血が更に煽られるのを感じた。
涙目で見上げてくるその顔に胸が高鳴る。
「……わ、かった。早く、宿に……戻ろう。さ……」
肩を貸し、とりあえずその場を後にする。
足取りふらつきながらも、どうにか安心できる宿へ――――
ご案内:「ティルヒア郊外 M伯爵邸」からキスカさんが去りました。<補足:白銀に黒のメッシュが入った長髪の色白娘。その身にまとう衣装は…。>
ご案内:「ティルヒア郊外 M伯爵邸」からルーキさんが去りました。<補足:華美なパーティードレス、雪のように白い肌>